「特変」結成編4-2「冷却の日々(2)」
あらすじ
「へ、へるぅぅぅぅぅぅぅぷ……!?」☆「「特変」結成編」4章2節その2。修学旅行調査の道すがら拾った第三保健室のヌシ・盛谷美結ちゃんがぶっ倒れた! そして保健室にてまた厄介なものに出くわす謙一くんでした。日常と云いつつちょっぴりシリアスかも?
↓物語開始↓
Stage: 第三保健室

【謙一】
……第三保健室、か
Kenichi
鍵が開いてたので、そのまま失礼させてもらった。中には誰も居なかった……普通は担当の女医やら医療班やらが居るもんだと思うが。
取りあえず近くの待機ベンチに女子を座らせて、見渡す。
Kenichi
多少の応急措置スキルは身につけてはいるものの、抑もの症状がよく分かってないし診断方法も分からないから、こっからは手詰まりだ。
Kenichi
だからこそ、医療班という存在が頼もしいのだが――

【謙一】
ってお前も確か医療班だよな……?

【実夢】
五月蠅いやーい……
Kenichi
……医療班の女の子は立ち上がり、フラフラしながらも近くのベッドへ勝手に倒れ込み……そして、ゴロゴロし始めた。
依然体調は悪そうだが、その様子をみてると何か、死にはしなさそうだし大丈夫なのかな、という気にさせる。

【実夢】
あー……だいぶマシになってきたぁ……

【謙一】
ほんとかよ……

【実夢】
ありがとねー特変さん……えっと、井澤くん、だったっけ

【謙一】
ああ、井澤だ。んで、お前は?

【実夢】
……あんまり名乗りたくは、なかったんだけどなー……特変だし

【謙一】
別に名乗らなくてもいいけど、俺全員覚えるつもりだからどっちにしてもお前のことは覚えるよ

【実夢】
……盛谷実夢。知っての通り医療班で――

【実夢】
ここ、第三保健室のヌシでーす

【謙一】
……ヌシ?
Kenichi
何だろうな。図書館のヌシといい調理場のヌシといい。
この学園それぞれヌシ作り過ぎじゃない?

【実夢】
一般棟には3部屋保健室があってね。そのうち一番設備が良くて広い第一保健室は杏子主任がヌシやってるんだけど……

【実夢】
第二と第三は、医療班の中で優秀な学生がヌシする文化なんだよねー。お陰で全然暇作れなくて辛い

【謙一】
所長みたいなもんか……まあ、美玲さんよりはずっとマシな文化だが――

【謙一】
ってお前優秀だったの!?

【実夢】
どう思われてたかがしっかり分かって腹痛悪化ー……

【謙一】
いや、だってまず率先してお前が体調悪そうだし……
Kenichi
大丈夫なのかな、この第三保健室ちゃんと機能してたのかな、特変破りで賑やかだったろうこの場所は……。

【実夢】
実夢ちょっと持病持ちでねー……よくお腹痛くなるんよー……

【実夢】
特変破りでもやって実夢専用のお薬開発してもらおうかなー……

【謙一】
残念ながら封印中です

【実夢】
あーそうだったか……面倒臭くなったわけ? いちいち雑魚なうえに大っ嫌いな実夢たち相手してるのが。メリット無いもんねー特変様に……

【謙一】
まあ色んな意味でもうちょっとマトモになってから挑んで来いとは思ったのは確かだけどな
Kenichi
どっちかといえば、挑戦してこない奴らこそマトモであってほしいから、こんな微妙な空気に至ったんだけどな。
……そいつらの教室をこのタイミングで覗きに来てたんだから、俺も結構勇者なもんさ。

【謙一】
そうだ、話を大きく戻す感じだが、ちょっと訊きたいことあってな

【実夢】
んー……? なにー?

【謙一】
今って修学旅行の最終調整とかで、どっかで1年話し合ってたりする?

【実夢】
……何で、そんなこと?

【謙一】
これは容赦無く笑ってもらっていいんだけど、実はさ――
失態を解説。

【実夢】
ぎゃっはははははははざまあぁああああみろおぉおおおおおおおおおお!!!

【実夢】
……………………

【実夢】
痛いのぶり返した~~……((泣))
Kenichi
コイツも相当な莫迦だなぁ。というかコイツに任せて本当にこの保健室大丈夫なのかな。

【謙一】
まあそういうことだから皆様のミーティングから情報を集めようとね

【実夢】
残念ながら、もう何処もお開きしてるねー。特別授業実質無かったもん

【謙一】
しっかり準備して、さぞ翌週が楽しみで仕方無いんだろうなぁ畜生め

【実夢】
いや、そうでもないんじゃないかなー……

【謙一】
え?
こんこん。
第三保健室がノックされた。

【実夢】
うわ、お客さんだ、ちょっとそこのベッドの下にでも隠れて!!

【謙一】
は? 何で?

【実夢】
特変と仲良いとか思われたらボコられるかもしんないじゃん!!

【謙一】
まあ、まだそういう恐れもあるわな……
Kenichi
そういう意味不明な公式が生きている限り、俺は多分此処を好きにはなれないんだろうな。
しかし盛谷がこれだけの為に日常不都合に見舞われるのもよろしくないので、ここは大人しくしたがっておこう。
謙一は云われた通り、実夢が休んでたベッドの下に入り込む。
その直後扉は開かれた。

【女子】
失礼しまーす……
三人組の女子学生。
腹痛を引き摺りつつも医療班優等生である実夢がテキパキと3人を案内していく。

【謙一】
流石に顔は見えねーな……
Kenichi
生足しかみえない。気まずい。
いや、そもそも覗き見る意味だってないし――

【実夢】
……修学旅行寸前なんだから、しっかり休んでた方がいいんじゃない? 本番に、ソレ引き摺りたくないでしょ?

【謙一】
……俺たちと同じ1年、か
Kenichi
修学旅行というワードが出てきて、意味が多少出てきた。
悪い気もするが……ちょっと、聞き耳立たせてもらおう……。

【松浦】
…………

【実夢】
ぶっちぎって松浦ちゃんが顔色悪いけど……付き添いの二人もちょっと浮かない感じ出てるね。どったの?

【石川】
え? あー……うん

【石川】
ちょっと、ね。心配事

【萩布】
特変絡みだから、どうしようもないの……ぶっちゃけ松浦ちゃんもそういうことなんだけど、せめて医療班的な観点で少しでも元気出せないかなって……

【実夢】
うーん鬱っぽい状況なんだよね。そういうときはご飯をしっかり食べてバランス良く栄養とると改善できるって杏子先生云ってたけど……二日で改善はどうだろうなぁ

【実夢】
やってみて損はないと思う……けど、そういうことじゃないんだよね。ま、いっか、じゃ済まないの?

【松浦】
…………もし……修学旅行に……同じコースに……

【松浦】
特変が、居たらって思うと……こ、怖くて……夢に出て、目の前で私、井澤さんに怒られて……

【松浦】
……眠れ、なくて……

【実夢】
あぁこれ重症かも……正直第二第一行った方が良かったんじゃないかなってレベル……

【実夢】
心理カウンセラーとか全っ然できないんだけど実夢……

【萩布】
そんなの求めてないって。ホントに、此処来たのは取りあえず松浦ちゃんを休ませてほしかったからで……でも、寝れないんじゃ、ね……

【実夢】
ごめんね、力になれなくて……

【石川】
……盛谷さんは。怖く、ないの?

【石川】
その……特変と、一緒になったらって……結構確率はあると思うんだけど……

【実夢】
え? あー、うーん……そーねー……

【実夢】
特変って権力使って無理矢理班の中に入ることもできるから、それで顔合わせる羽目になったら嫌だねー……絶対お腹痛くなる

【松浦】
ッ――

【謙一】
おいおいおいおいおい……
Kenichi
不安煽ってどうすんだよ……!
そして俺たちそれ現実にしようとしてる……!!

【実夢】
え、えっと! まぁやっぱり嫌だよねー特変なんて極悪な連中が一緒に居るとか、それだけで折角のトラベル行事、楽しめるもんも楽しめなくなるっていうかさ! マジ死んでほしーよねあのハゲ野郎
Kenichi
そうそう、そんな感じだ……取りあえず同情して、味方のいる安心感で一旦体調を整えさせるんだ……!
Kenichi
でもハゲてねえ。

【石川】
…………

【萩布】
…………

【実夢】
……って、あれ……? どったの……?

【実夢】
何か……実夢、変な事、云っちゃった……?

【石川】
いや、そういうわけじゃ……ただ……

【石川】
松浦ちゃんは……ちょっとだけ、別の理由で……落ち込んでる、感じなのかなって

【実夢】
え?

【松浦】
…………悪い、のは……

【松浦】
私、だから……

【謙一】
……………………
Kenichi
悪いのは、私……?
それは――

【松浦】
私の方が……悪くて……最低、で……

【実夢】
ちょ、ちょちょ!? 益々落ち込――泣いてる!? 泣かしちゃった系!? ぎゃー腹痛くなってきたあぁあああぁぁぁ……

【松浦】
井澤さん、の、云ってた事、全部正しくてぇ……!! 革命、なんて……するつもり、私、無かったのにぃ……!

【松浦】
どうすればいいのか、分かんなくてッ……井澤さん、凄く怒ってて……黒田くん達が酷い目に遭って……藤間くんに至っては――

【松浦】
――私、人を……殺そうと、して――
Miu
む、無理無理無理無理無理無理無理!? これは、実夢じゃ絶対手に負えない!!
どうし、どうしたらッ……!!

【実夢】
へ、へるぅぅぅぅぅぅぅぷ……!?

【謙一】
(え、こっち!? もしかして俺に向かって云ってるの!? 無理に決まってんだろ俺出た瞬間フィニッシュだよ……!!)
Kenichi
だが――俺が怒ってる、ていうのは……間違いなく、あの日の最後の、俺のぶちまけた言葉、だろう。
衝動のままに叫んだ兇刃たち。
この、松浦って女子には、随分と深く刺さってしまったらしいな……。“機能”は発動していなかった筈だが……それだけ、元々言葉はそういうものだということ。
Kenichi
それでも構わないと思っていたが……矢張りこう実際の結果を目の当たりにすると……抉られる気分を覚える。

【萩布】
べ、別に松浦ちゃんが、藤間くんを襲ったわけじゃないでしょ! 私たちだって……実際やったのは3年生の先輩たちで……

【萩布】
……だけど……手を差し出せなかった、もんね……そういう意味で、責められるんだったら、それは松浦ちゃんだけじゃないよ

【萩布】
私、だって、人殺しなんだよ松浦ちゃん……

【実夢】
ちょ、ちょっと待って、これ以上ここで震えないで!? 実夢じゃどうしようもないから別の保健室――っていうかちょっとカウンセラー探そうか!! ね!?

【石川】
う、うぅぅぅぅ……ごめんな、さい……ごめんなさい藤間くん……井澤くん――

【石川】
ゆ、る、して……怖かったの……赦して……

【実夢】
此処懺悔室じゃないんだよね!? シスター呼ぼうか? ね!?
Kenichi
自分の言葉が、自分の予想内を逸脱し、他者の生活を狂わせる。
それは実際珍しいことじゃない。よく語られるのは、落ち込んだ時にかけられた言葉……それによって救われた、というエピソード。
Kenichi
俺の言葉が、そのような救いの力を持ったことは……今まであったのだろうか。

【謙一】
…………美甘の時も……泣かせたしな
Kenichi
その過程は、必ず刃だった。俺の言葉は薬になっても、荒療治。ソレが行き過ぎれば……救いの前に、朽ちる。
ソレが嫌だった。だから、本当なら人と喋りたくはなかった。誰とも関わらなければ……そんなことは無理だと分かってはいたが、願った時もあったし、今もそういう気持ちはないわけじゃない。
Kenichi
けど、同時に、そうであってはいけないことも、分かっていた。亜弥には、俺しか居なかったのだから。
Kenichi
萩布は。石川は。
松浦は。
もう、朽ちてしまったのだろうか――?

【実夢】
あーよしよし、チョコ、食べる? 暑さでちょっと溶けちゃってるけど――うごおぉおおおおおおおおお腹がッ、限界――(←バタリ)

【石川】
ちょ、盛谷ちゃん!? しっかりして、盛谷ちゃーん!?

【萩布】
取りあえず、ベッドに寝かせ付けよ……松浦ちゃん、ごめん、そっちの足持って貰える――?

【松浦】
ぁ……

【松浦】
うん……

【謙一】
(医療班として終わってるなコイツ……)
Kenichi
俺は、そうではないんじゃないかって思う。
一つの事に囚われて、絶望して、打ち拉がれても……現実は、動き続けている。その現実に、自分も乗っている。
そして現実で出会うのは間違いなく、一つなんかじゃない、視界には過多なほどに沢山の問題が姿を現すのだ。
Kenichi
だから、立ち止まれやしない。立ち止まってなんかいられない。
だから……
俺は今まで戦って来れた、のかもしれない。

【実夢】
うぇぇぇぇぇぇ……

【石川】
だ、大丈夫……盛谷ちゃん……? 誰か、呼んだ方がいい……?

【実夢】
ぅ、うーん……ダイジョブ……だけど、ちょっと、キツいから診断、できないかもッ……役に立てずでごめんね……

【石川】
そ、そっか……じゃあ、お大事にってことで……

【石川】
私たちは、帰ろうかな……松浦ちゃんは、どうする――? やっぱり暫くここで、休んでる? 眠って、みる――?

【松浦】
ぁ……ぅ……わ、私……

【松浦】
居たい……皆と……

【萩布】
……じゃ、今日はお泊まり会でも、しよっか――
……結局何も解決することができず。
3人は帰っていった。
……………………。

【謙一】
お前ホントに此処任せられてるの……?
謙一、ベッドの下から這い出て第一声。

【実夢】
うっさいなー……あーぎづい……今日は人生で5本の指に入るくらいぎぢー……

【謙一】
はぁ……ま、最後のその捨て身の腹痛は、ファインプレーだったかもしれないけど

【実夢】
いでで……はぁ――?

【謙一】
……気を逸らすことだって、時には必要だよな
Kenichi
俺たちは敵さえ来ないなら、いつでもソレができる。
だが敵にとってはそうじゃない。
Kenichi
より、絶対的な安心の時間を、置かなきゃいけないんだ。
Kenichi
その為に――発生する、11番目の選択肢は――