「特変」結成編4-2「冷却の日々(1)」
あらすじ
「ええ……? うぅ……何で、美結が特変なんかとコミュニケーションを――」☆「「特変」結成編」4章2節その1。夏休み目前で唐突の一大イベントに謙一くんがガチで焦ります。何事も計画的に時間に余裕を持ちたいものです。
↓物語開始↓
Stage: 特変教室

【キャロ】
井澤くん、今日のお菓子は~?

【謙一】
さも恒例みたいな訊き方しないでほしいんすけど。何で来てんだシスター

【謙一】
まあ、一応選り好み贅沢ジャムに付けて楽しむスコーンが丁度此処に用意されておりますけれども

【乃乃】
美味です

【美甘】
普通に美味い

【譜已】
幸せ~……

【キャロ】
もっすもっすもっす……(←参戦)

【謙一】
奏、突然参加のシスターのせいでまたお前の分のスコーンが

【奏】
人のモノを盗ったらドロボー!!
Kenichi
何か美玲さんみたいな人がいっぱいいる気がしてきたなぁこの学園……。
ていうか改めて思う。
お茶会はやっぱり教室でいいんじゃないか??

【謙一】
本にコーヒーがぶっかかる心配もないしなぁ――

【奏】
ごめんケンパイ、転けた拍子にコーヒーがケンパイのバッグに……

【謙一】
本じゃなくて俺の身の回りが浸る危険に早変わりだと!?
Kenichi
そうだった、此処にはこの問題児たちが居るから静かに過ごせるわけがなかった……。

【謙一】
あーあ……折角さっき貰ってきたスーツが着てもないのに早速汚れちゃったよ……

【奏】
え、スーツ貰ったの? 何で? もう持ってるじゃん白いの

【謙一】
今はもう真っ赤だけどな

【謙一】
ほら、俺なんというかあんな感じの護真術だからさ……白いスーツとか何か嫌じゃん? それならもう最初から赤いやつなら目立たないぞと

【奏】
ああ、なるほ……あ、ホントだ、トマトレッド。ケチャップ色
Kenichi
譜已ちゃんの居る手前、ダイレクトな表現は避ける、そこだけは器用な奏だった。

【光雨】
ぱくぱくぱく……

【キャロ】
光雨ちゃんはよく食べるねー。きっとすぐ大きくなれるよー

【志穂】
なるわけねーだろうが。いや、未知だから或いはそんなはた迷惑な事態も或いは……?

【光雨】
クー的には今のままでいーのー。寛げる場所がいっぱいあるから今の方がいいのー

【謙一】
俺も、まだ被害がこの程度のままであってほしい……
Kenichi
一体何度我が家がコイツの不始末で荒れたことやら……。
亜弥は普段汚れないところが汚れて、仕事が増えたと張り切ってたが、俺はこのダメイドを最近アルスというよりも汚物か何かとみている節がある。
Kenichi
兎に角、コイツが人間サイズになったら我が家の耐震度では太刀打ちできなくなるかもしれない。
Kenichi
ていうかそうか、そういやもう授業なくて夏休み突入していくからコイツずっと家に居ることになるのか……とんでもない気苦労が今から……

【謙一】
志穂、光雨預かってくんない夏休みの間

【志穂】
アルスも研究もアップデート更新予定ないのにどうしてそんな家汚すだけのメイド家に入れなきゃいけねーんだ

【謙一】
おいメイドさん、散々な云われ方してるぞ。少しは名誉挽回してやろうとか、そういう意気込みは無いの?

【光雨】
美味しいの~ぱくぱく

【謙一】
……………………
Kenichi
譜已ちゃんの手前メイドを殴る行為は慎んだ。

【奏】
でも、そっかーもう夏休み来るんだー……

【奏】
何て云うか、よくもったよねー1学期分私たちー。合唱祭あたりからいつ負けるか結構ビクビクしてたんだけどさー

【謙一】
だなー。それ考えたら、ほんと余計な事してくれやがってとか思ったなぁ特B……実質小松だが

【美甘】
小松さん、今大丈夫なのかな……立場とか

【謙一】
それを云うなら徳川もだが、小松はまず身体を完治させないとなぁ……試験期間は無理矢理出てきて何とか乗り越えたっぽいけど、その直後またぶっ倒れたらしい。リーダーと一緒に

【沙綾】
この学園で命懸けて受験勉強するクラスなのねーお隣。そんな進学クラスの鑑の学力を余裕で上回る私たち(笑)

【謙一】
お隣さんどころか全國の進学クラスに殺されかねない自慢げなオーラよ

【沙綾】
私全然勉強してないのにねー。宝の持ち腐れだったかしらこの才能。まぁ有効利用はしてるけどねー主にビジネスで☆
Kenichi
真っ黒だ……。

【キャロ】
……ていうか、皆もう夏休み気分なんだねー

【謙一】
まあ、期末試験終わりましたからね。つまり学期終わりなわけですし無理ないですよ
Kenichi
授業も無いし、特変破りは今封印状態。
あの革命事件並みに派手なイベントが近々起こるとは思えないから、こうして俺らは安心して平和ボケしていられるのだ――

【キャロ】
まだ修学旅行あるのに?
Kenichi
――――――――
Kenichi
……………………。
Kenichi
…………――?

【謙一】
え?

【キャロ】
え?
……………………。
……………………。
……………………。

【特変】
「「「ゑ?」」」

【キャロ】
……あっれー……? も、し、か、し、て……??

【キャロ】
知らなかった???

【謙一】
……………………
……………………
……………………
謙一、クラスメイト達を見る。

【情】
ごがー

【凪】
ぐぅ
居眠りをかましてる人以外、大体謙一と同じ顔をしていた。

【沙綾】
あ、あー……そういえば……

【沙綾】
1年はこの時期だったのねー……道理でちょっと期末試験早いと思った……

【美甘】
旅行イベントなんて学園で参加したことないから、完全に油断してた……

【譜已】
色々、心配事があったから……全然、目を向けてませんでした……

【奏】
特に理由もなく普通に忘れてました……

【乃乃】
覚えてましたけど進言するのを忘れてました

【謙一】
取りあえずお前はギルティーなクソ弾頭
Kenichi
マジかよ!?
修学旅行控えてるの俺たち!?

【謙一】
いや、待てよ、普通修学旅行って2年のイベントじゃねえのか……? それもこの学園の特長なのか?

【乃乃】
謙一さん、実はA等部に進学すると1年に1回修学旅行の期間があるんですよ

【謙一】
1年に1回!?

【沙綾】
それに加えて、毎年真理合宿があるからねー

【沙綾】
譜已ママよりも以前の代から、旅行イベント豊富なのよ此処

【謙一】
何ソレ、そこだけはめっちゃ魅力的じゃないの真理学園!! ん、でもそうなると出費が……(←腹痛)

【志穂】
んげえ(←腹痛)

【沙綾】
貧乏組には結局嫌がらせみたいなイベントなわけだけど、実際貴方たちは心配しなくていーでしょー。だって特変なんだもの

【沙綾】
私たちの出費、全部学園に負担させればいいのよ
Kenichi
市政だったら即行で失脚のナイスアイデアだった。

【志穂】
んにしても修学旅行かー……めんどいな……抑も日程は?

【キャロ】
来週月曜日から金曜日

【謙一】
明後日から!?
Kenichi
それ間違いなく俺ら知って準備してなきゃおかしいじゃん!? 一体どうなって――

【謙一】
――そうか……そういう、ことか……

【美甘】
謙一……?

【謙一】
そりゃそうだ、俺ら担任持ってないから、誰も学校行事とか伝えに来る大人居ないんだ……訓舘先生も、授業主任でしかないし……
Kenichi
だから、俺たちがしっかり学園のスケジュールを把握していないと、その準備に乗り遅れる場合がざらに生まれうる。そして実質、このクラスで担任の代わりに日常を管理するのは、特変管理職たる俺ということになる。
度重なる特変破り、藤間戦、そして革命事件で目一杯だった俺は、修学旅行というドデカいイベントの影に全く気が付かなかった……。

【謙一】
取りあえず一時的にでも学園に費用を負担してもらうってことにすれば、まあ日曜日使って準備はできる、か……?

【謙一】
1年の行き先は何処なんだ? 俺的には冨士美町がいいんだけど

【美甘】
真理合宿と同じ場所じゃねえか、てか隣町じゃねえか……

【奏】
うーん……確か、コース選択だったような、1年は

【謙一】
コース――?

【沙綾】
1年だけでどんだけ人口あると思ってるのー。だから幾つかコースを設けて、丁度良い人数に分けちゃうのよ。その方が私たちも興味あるところ選べるわけだし

【沙綾】
ただ、コースを選ぶにあたってそれぞれちゃんと下調べした上で選択して、其処で何をやるのかも計画立てないとダメなのよね

【謙一】
え……じゃあ――

【乃乃】
私たち、終わってますね……
Kenichi
規定通りならば、俺たち修学旅行に参加できないのが発覚した。

【沙綾】
といっても私たち特変だからねぇ、権力使えばどうとでもなるわよー。取りあえずどっかのコースに附いていくことはできる筈

【沙綾】
ただ、そのコースが本当に私の身に合ってるのかはやっぱ、多少調べないと分からないでしょうから、ここは責任持ってリーダーが今すぐ調べてきてー

【謙一】
軽くお前平賀みたいだよな
サラッと井澤謙一は急なミッションを賜ってしまった。

【キャロ】
確か、1年生の修学旅行コースは全部で10個ぐらいあったかなあ。今のこの時間、特別授業と見せかけてそれぞれグループで集まって最終確認とかしてるだろうから、偵察するなら今が最後のチャンスだねー

【謙一】
動揺してる場合じゃないってことか……しゃーねーな、んじゃちょっくら行ってくるからお前ら絶対帰るなよ

【沙綾】
え、何で? ティーボ使えばいいじゃない――

【謙一】
か え る な よ ?
井澤謙一、出陣。
Stage: 一般棟 3F

【謙一】
……つっても、何処で集まってるんだ……?
Kenichi
取りあえず1年のクラス教室が集まってる3Fに来てはみたが……
正直このフロア初めて来たかも知れないってレベルでちょっと新鮮。そりゃそうだ、普段めっちゃ嫌われてるし襲われるのだから、態々近付く理由が無い。
Kenichi
……ただ、ちょっと思ってた以上に静かだな。まるで授業中なんじゃと思うぐらいの。

【謙一】
人の気配はするんだが……
一先ず虱潰しに、しかし気付かれないように教室を覗いてみることにした謙一だった。
しかし、その静けさ通り、このフロアの教室には全然人が居なかった。

【謙一】
そりゃまあ、もう特別授業の時間は終わってて放課後だから居なくてもおかしくはないんだけどな……
Kenichi
シスターほんと役に立たねえ。

【noname】
【???】「……あれ? え、何で――」

【謙一】
んお……?
早くもヤル気が全滅しかけてた謙一は背後から近付いていた人の気配には一歩遅れて気付いた。
というか動揺している声で気付いて振り返ったので、完全に見つかってしまっている。

【実夢】
特変のリーダーが、このフロアに……?
顔色の悪そうな女子である。
その目は謙一を捉えて、軽く震えていた。

【謙一】
あー待て、別にお前らに何か弾圧かましてやろうとかそんなわけじゃ――
Kenichi
ってあれ……?
この女子、どっかで――

【謙一】
あ、医療班の

【謙一】
って、ん!?

【謙一】
何だ、増援か!?

【実夢】
あー、違う違う、実夢たち医療班だから! 皆さん回収しに来てるだけだから!!

【実夢】
えーっと……ソッチは何か、比較的無事っぽいね! じゃあ次行こっと……

【謙一】
……医療班?

【謙一】
名前は、えっと……ダメだ、まだ覚えてない

【実夢】
え? いや、抑も名乗った覚えも無いんだけど……

【謙一】
ああ、まあ確かにそうなんだけど、俺はちょっと名簿と顔写真職員室から借りて全員覚えようチャレンジしてるんだよな

【謙一】
えっと……このフロアの、この教室に入ろうとしてたってことは、1年?

【実夢】
そ、そうだけど……
Kenichi
うーむ……ちょっと警戒されてる気がするな。いや、されてないほうが不自然なんだけどさ。

【謙一】
取りあえず、ちょっと訊きたいことがあるんだけどいいか?

【実夢】
ええ……? うぅ……何で、実夢が特変なんかとコミュニケーションを――
ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。

【実夢】
うえぇええええええ……

【謙一】
え? な、なに?
Kenichi
何今の音。何今の声。
目の前の、平均よりは小柄といえるだろう、女の子から女の子じゃない効果音が……。

【謙一】
どうした――? ていうかさっきから、ちょっとばかし顔色悪い気がするんだが……

【実夢】
ソレ、気付いてて足止めとか、やっぱ極悪じゃん特変~……

【謙一】
そんなつもりは断じて――っておい!?
少女は膝を着きお腹を抱え蹲る。
どう見ても調子の悪いポーズである。

【謙一】
取りあえず保健室か――! えっと、保健室は……

【実夢】
第三、保健室に……

【謙一】
え、第三……? 第三って確か一つ下のフロアだろ? ここだって第二保健室が――

【実夢】
実夢は、其処でいいのぉぉぉ……

【謙一】
……議論してる時間が勿体ないな、担ぐぞ!
お腹を抱えて固まった少女の体勢をなるべく固定し変えないまま抱えて、謙一は近くの階段を駆け下りていった。