「特変」結成編4-7「地上世界(5)」

あらすじ

「兄さん――止まらな、私、止まらなくて――」☆「「特変」結成編」4章7節その5。井澤兄妹、その一瞬に辿り着く。2年ぐらいかかった「特変」結成編が遂に終了です。次から創世前夜編のお話になりますが、例の如くお時間をください。

↓物語開始↓

290731



AM4 15


Face_kenichi

【謙一】

天気は……悪くないはずだ


Kenichi

 まだ暗い空を見る。
 雲は……あるような、ないような……よく分からない。


Kenichi

 調べた天気の予報によれば、今日は雨の様子は考えられないとしていた。だけど、外れることなんてザラにある。2時間もあれば様子なんて十分に変わり得る。


Face_kenichi

【謙一】

……神様、ねえ


Kenichi

 俺にしては珍しいことを呟いたものだと思った。
 別に信じてないわけじゃない。というか信じる信じない以前に、あまり考えたことがなかった、というのが一番正しい答えだ。
 神様に頼っている暇があったら、自分が動け……そんな感じに生きてきたんだろう。


Kenichi

 これも、真理学園の影響だろうか。俺は一体どれだけ、あの場所に掻き乱され……
 そして何処に進んだのだろうか。


Kenichi

 あのシスターのように、何を唱えればいいのかはすらすらと出てくる気配はないけども。
 何だか、思ったのだ。


Kenichi

 どうか、俺たちの努力を、認めてくださいと。


Kenichi

 こんなに可愛くて良い子だから、是非、この地上に足を着けることを赦してくださいと。


Face_ami

【亜弥】

……兄さん?


Face_kenichi

【謙一】

この先だ


 謙一は美甘と同じ視線先へと、指を差す。


Face_kenichi

【謙一】

この先を、見続けてて。今はまだ何も見えないけど


Face_kenichi

【謙一】

凄いもんが見れるから


Face_ami

【亜弥】

……? はい――


Kenichi

 俺の見る世界は、決して優しくなんかない。


Kenichi

 何を見ればいいのかすら自分で決めていかねば溺れ彷徨う、混沌とした社会だ。
 無傷ではありえない。何かしらの苦しみを必ず抱き、それでも歩み続ける――十字架を背負わずとも、俺たちは呻き、茨の道を歩く。


Kenichi

 ……それでも、亜弥。
 他でもないお前がそれでも、この愚かな兄の道を知り、歩みたいというなら……俺のやることは、矢張り変わらない。


Kenichi

 亜弥の幸せの可能性を、これまで通り俺の総てを懸けて、守り抜く。


Kenichi

 お前はそれを快くは思わないだろうが……
 やっぱり、兄さん思うんだよ。


Face_mikan

【美甘】

……! 来る――!


Face_akitsu

【秋都】

夜明け――


Kenichi

 兄さんの人生は妹だったんだから。


Kenichi

 俺は兎に角、亜弥が笑ってくれたら、きっと幸せだよ。


Face_ami

【亜弥】

え――


 感覚にして刹那。
 夜明けのベルの代わりというべきか、何処か遠くで小鳥の囀りが聞こえたかもしれない。
 それが定かかはどうでもよくて、大事なのはソレが合図だったということ。


Face_kenichi

【謙一】

――そういえば


Kenichi

 コレ、俺初めて見るんだったなぁ――



 闇が、溶けていく姿。
 輝き始める地形。


 露わになる、地上。


Face_ami

【亜弥】

あ――


 冨士美草原、その場所で最も美しいとされる光景は、光り輝く冨士ではない。


 冨士を中心とし、闇から突然姿を現す地上世界。
 「朝」、なのである。


Face_kenichi

【謙一】

――凄え、なぁ――


Kenichi

 ずっと見逃してきた瞬間モノだった。
 それを、今度は俺も見ることができた。


Kenichi

 ただ、まぁ……何がどうなったのか、なんて正直分からなかった。当然だ、一瞬といえるものだったのだから、認識は追い付けない。


Kenichi

 だから、なんてつまんない感想なんだろう、結局初めての時と同じ言葉しか吐くことのできない俺だった。


Face_akitsu

【秋都】

……こんなの……見慣れる時が、来るのかな……


Face_mikan

【美甘】

ウチは、まだ、コレが見たくて何度も来るよ。見慣れたことなんてない……いつだって、強烈で、新鮮なんだ……


Face_mikan

【美甘】

こんな姿を持つ世界に、ウチは立ってるんだって――


Kenichi

 そう、この景色は、他でもなく……


Kenichi

 「地上」、なのだ。


Face_ami

【亜弥】

――――


Face_kenichi

【謙一】

……亜弥?


Kenichi

 気になって、横の亜弥を見る。


Face_kenichi

【謙一】

――――


Kenichi

 すぐ、気付いた。


Face_ami

【亜弥】

――――


Kenichi

 ずっと、見たかった真実ものだった。


Kenichi

 俺はこの時の為に、今まで本当に、頑張ってきたんだ。


Face_mikan

【美甘】

亜弥ちゃん……?


Face_akitsu

【秋都】

…………


Kenichi

 眩しい景色を、ずっと、見詰めている。
 乱反射し荘厳に大きく輝く冨士と、碧く焼け染まる空を。
 空より差し振る半透明な光柱と、微かに映る町並みを。


Kenichi

 これまで、知ることのできなかったモノを、今の総てを使い目一杯に回収しようと。


Face_ami

【亜弥】

――あ、れ――私…泣い、て――?


Face_ami

【亜弥】

どうして――? 私、気付かなくて――


Face_ami

【亜弥】

兄さん――止まらな、私、止まらなくて――


Kenichi

 その彼女の姿もまた、一瞬だったのだろう。


Kenichi

 俺も、知らなかった。


Face_ami

【亜弥】

――ぁ――ぁぁ――


Kenichi

 こんなに綺麗な人を、美しい涙を、俺は知らなかったんだ。


Face_kenichi

【謙一】

……どうして、なんだろうな


Kenichi

 それは俺もよくは分からないし、分からなくてもいい気がする。
 それよりも、妹を、抱きしめたかった。


Face_ami

【亜弥】

ぁ――


Kenichi

 そして、ずっと、この言葉を云いたかった。


Kenichi

 絶対、タイミングを間違ってはならないもの。
 だけどこれはもう間違いようがない。今をなくしていつ云うのだ。


Kenichi

 確信を以て、俺にもまた溢れ来つつある激情の雫を全力で堪えつつ、だけど……結局はみ出してるのを感じながらも――


Kenichi

 ようこそ。


Face_kenichi

【謙一】

誕生……おめでとう……


Kenichi

 この俺、井澤謙一にとって、思い出の月日というのはどうでもいい傾向にある。


Kenichi

 余計な容量。もう変えようのない過去よりも、未来を勝ち取ることに全力を尽くしたいから。


Kenichi

 ……それでも、過去の月日に。
 価値を見出すことがあるとしたら。


Kenichi

 それは――


Face_ami

【亜弥】

にい…さん……


Face_kenichi

【謙一】

……どうした?


Face_ami

【亜弥】

兄さん――兄さん、兄さん…兄さん兄さん兄さん……!!


Face_kenichi

【謙一】

ははっ……何だよ……


Face_ami

【亜弥】

兄さんっ――!!!


Kenichi

 平保29年7月31日。


Kenichi

 俺はこの日付、この瞬間だけは、絶対忘れない。


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