「特変」結成編4-7「地上世界(2)」
あらすじ
「ごめんね、ちょっとだけ、お仕事を横入れしちゃいます――!」☆「「特変」結成編」4章7節その2。井澤兄妹、悲惨な体験に意識をドリフトしまくります。安全第一、皆の交通は皆で守りましょう!
↓物語開始↓
その代車が予定通り停まっていた場所まで辿り着く一行。
亜弥は軽く肩を上下させている。

【亜弥】
はぁ……はぁ……歩くって、こんなに、大変だったんですね……!

【謙一】
そりゃ何年ぶりってレベルだからなぁ……徳川、お待たせ!

【秋都】
こんばんは、井澤くん。それじゃ、後部座席に乗って
側面になにやら超絶硬そうなシールド的なものが取り付けられていること以外はいたって普通のコンパクトな軽自動車「TOKUGAWA – VORTEX1080B」に乗り込む。
そして、亜弥、ひっさびさに謙一以外の人間と出会う。

【秋都】
貴方が……

【亜弥】
あ、あの……初めまして……井澤亜弥と、申します……

【亜弥】
私、今から何処へ向かうのかも分かっていない不肖者ですが、よろしくお願いいたします……

【秋都】
えっと……徳川、秋都です……シートベルト、分かる? この車ちょっと色々普通じゃないところあるから、しっかり締めておかないと怪我しちゃうから

【亜弥】
は、はい。兄さんより知識は……って、あれ、何だか写真で見たものと違う……

【謙一】
……………………
Kenichi
普通に会話できてる。
流石我が妹、優秀だぜ……!!

【光雨】
何で泣いてるのマスター?

【謙一】
何でもねえよぉ……ってホントだ、どうなってんのこのシートベルト、×印じゃん……

【秋都】
今日はコレで行った方がいいかなって……
Kenichi
何やら考えがあるらしい……。
ここは素直に、徳川の機転を信用しよう。
ちょっと四苦八苦しながら、何とか後部座席の兄妹はシートベルトを着用完了する。ダメイドは謙一の胸ポケットにすっぽり入って準備完了である。

【秋都】
じゃあ、優海町まで……飛ばします
MT車が動き出す。
そして瞬く間にギアが4速に達する。

【謙一】
えっ、ちょ、徳川さん……!? 規定速度軽くオーバーしてない!?

【秋都】
警察は今、ファイアフライの取り締まりに忙しいから大丈夫!!
Kenichi
全然大丈夫じゃない気がするな!?

【亜弥】
は、はわわわわわ……!?
徒歩ですら新鮮な感覚を覚えていたばかりの亜弥は突然の時速40km超えに動揺しっぱなしであった。
そして大公道に出る。ここからが、徳川秋都の勝負であった。

【秋都】
……2人とも、よく聞いて。さっき下見に行ったけど、もうファイアフライがこの道を暴れ回ってる
優海町へと向かう道の、闇の空には刹那の花が咲き乱れていた。

【亜弥】
アレって……もしかして、花火――

【謙一】
花火大会は、夜更けまで続くって云ってたな……今は、ちょうど最盛のタイミングか

【秋都】
うん。つまり、ファイアフライにとっても大一番。この公道は占拠されてるに等しい

【秋都】
それを今から、突き破ります

【謙一】
なるほどな……

【謙一】
……………………

【謙一】
……突き破る?
オーバートップに入った。

【亜弥】
!?!?!?

【謙一】
徳川さん!? ここ高速道路じゃないんだけど!

【秋都】
ごめんね、ちょっとだけ、お仕事を横入れしちゃいます――!
Kenichi
お仕事を、横入れ……?
冨士美と優海の境にまで到着する。
すると――
問題の連中が、見えてきた。

【亜弥】
な、何の音でしょうか……?

【光雨】
むむっ、正面に沢山、人の反応あるのー!

【謙一】
ファイアフライか――!
Kenichi
完全に花火を邪魔してるじゃねえか……!!

【光雨】
……横一列、並んでるのー

【謙一】
は? 横一列??

【秋都】
警察さんに邪魔されないように、バリケード役の族員がいるんだよ……!! 突っ込みます!!

【謙一】
え!?!?
………………。

【暴走族】
おらおらおら、今日はハメを外していい日だろうが、サツさんよぉ!!

【暴走族】
ここは通さねえぜ! 俺たちファイアフライは、皆の笑顔を後押しするんだからな!!

【暴走族】
……なあ、沼上

【暴走族】
なんだ、重森

【暴走族】
此処は、良い土地だな。自然がのびのびと生きてるのが、俺には分かる

【暴走族】
良いんだぜ重森、故郷に帰ってもよぉ。元々お前は俺たちとちょっと性が合ってないだろ

【暴走族】
戯けを云うんじゃねえよ沼上! 天辺に立つって決めてんだ俺は。そして、皆を笑顔にしてみせる……

【暴走族】
だからよ、沼上

【暴走族】
なんだ、重森

【暴走族】
来年は、俺たちで優海町を、盛り上げてやろうぜ!!

【暴走族】
……ヘッ……

【暴走族】
たりめーだ、親友――!!

【暴走族】
「「うおぉおおおおお、ここは死守す――」」

【井澤兄妹】
「「ぎゃあぁあああああああああああああああ!!!?」」

【暴走族】
「「ぎゃあぁあああああああああ!?!?」」
バリケードを文字通り突破した。
ここからの海沿いの大道は、今ファイアフライの巣窟である!

【謙一】
徳川さぁああああん!?!? コレ、暴走族より先に俺たちが捕まるんじゃないですかね!?

【秋都】
多分大丈夫だよ! それより、舌を噛まないように、気をつけてね……!

【亜弥】
あ、あわわわわ……外の世界、とても刺激的です……!

【光雨】
怖いのー速いのー……!! 賠償請求してやるのー!!

【謙一】
俺に云われましても!!
Kenichi
って、囲まれてる……!!
暴走族たちにとって、もっと暴走してる車の乱入は想定外であった。
しかし彼らとて、遊びで走っているわけではない。そんな謎の要素によって自分たちの夢を砕かれてはたまらない。
生存本能とでも云うべき力が彼らを即座に突き動かし、秋都の操作するVORTEXを連携して取り囲む。時速80km台の駆け引きが始まる!

【暴走族】
何者だテメエら!!(←メガホン)

【亜弥】
ま、また新しい御方です、自己紹介しないと――

【謙一】
いやしなくていい、覚えなくていいからあの怖いおじちゃん!

【暴走族】
おじちゃんじゃねえ、儂はまだ20代じゃごらあぁあ!!(←メガホン)

【謙一】
何で窓閉めてる車内の会話聞こえてんだよ!?

【暴走族】
だが名乗るのは自分から、良い心がけだぜお嬢ちゃん……!! ん、お嬢ちゃんか? 坊ちゃんか? 兎に角人と話すなら帽子取りやがれ! いいか、俺が自己紹介済ませるまでにはしっかり身だしなみ整えろ、いいなごらあぁあ!!

【亜弥】
は、はい……あ、でも今シートベルトしてて手が動かせない……

【謙一】
いいから! あんな無精髭の口だけヤケに礼儀いい人に自己紹介しなくていいから

【秋都】
……井澤くん、亜弥さん、口を閉じておいた方がいいよ。今からちょっとドリフトするから

【謙一】
――え?

【暴走族】
唸る潮騒!! 松の馥郁を纏いし髑髏!! ファイアフライが誇るイヤートゥザグラウンド、松髭とはこの俺様のこと――
「潮騒どっからきたの」「随分香ばしい髑髏ですね」「普通に地獄耳でよくない?」などのツッコミをする暇もなく、井澤謙一の意識は突然の遠心力に蹂躙される。
秋都がハンドルを思いっ切り左に切った。その途端VORTEXは左に曲がる。
否、回る。
回転する!!

【暴走族】
「「「ぎゃあぁあああああああああ!?!?」」」
暗闇の道路で、紅の光の軌跡が渦を巻く。
その光を宿した鉄の側面の装甲が、周囲を走っていた騒音バイクたちを薙ぎ払っていく!
道を外れることなく、3回転――秋都は何事もなかったかのように静かにハンドルを捌いて、速度を大して落とすこともなく普通に直線走行を再開した。

【謙一】
と、とととと徳川さん死ぬ!! 俺たちもだけどあの人たち死んじゃうって!! あと俺の知ってるドリフトとちょっと違った!! ほんとに免許取得したんだよね、安全講習受けた!?

【秋都】
危険要素を早めに取り除くのが安全に繋がるから大丈夫だよ

【謙一】
取り除き方が物理的過ぎる!!?
Kenichi
って、そうだ亜弥は――!?

【亜弥】
~~~――

【秋都】
気を失ってるかな……? でも、意識を失ってる方が良いと思う。まだ何度か、やると思うから

【謙一】
さっきのドリフトまだやるの!?
Kenichi
って正面から何か大群が来てる……!!

【暴走族】
松髭えぇえええええ!!! お前の敵は俺たちがとるうぅうううううう!!!

【暴走族】
ファイアフライのバラード主任、小波河原、参る!!

【暴走族】
エレクトリカル主任、尾利河原、覚悟しろよおぉおお笑顔を曇らすヤンキー共おぉおおお!!

【暴走族】
童謡主任、酢賦河原、遊んでやるよおぉおおおおおおお!!!

【謙一】
全員河原で共通してんのに何か個性満載じゃねえか、流石にキャラ濃いな暴走族――!!

【秋都】
殺ります

【謙一】
徳川さん、今ちょっと漢字おかしくなかったです――
ぎゅいいぃいいいいいいいいいいいいん!!!

【謙一】
かあぁああああああああああ!?!?

【暴走族】
な、速度と方向を変えないまま回転だとおぉおお!? ぎゃあぁあああああ!?!?

【暴走族】
これがっ、本当の、暴走族――!? 格が違う――一体、何担当なんだ!? ロックなのかやっぱりいぃいいいい!?!?

【暴走族】
何河原か知らねえが――負けるかうおぉおおおおおぐはあぁああああああ!?
圧倒的速度と備え付けられた側面の装甲を前に、真っ向から相対してしまったバイクたちは為す術もなく吹き飛ばされ、大破されていく。
速度は変わらない。走行は乱れない。
徳川秋都の表情は、矢張り変わらない。

【謙一】
……………………(←ぐったり)

【光雨】
ぐるぐる……するの……賠償、請求、なの……(←ぐったり)

【秋都】
……ふふっ
Akitsu
ちょっとだけ、仕返しの気分かな。そんなつもりはなかったけど、どうかな、ちょっとは私のこと、見たかな。
Akitsu
貴方にも、貴方の妹にも、私はやっぱり、怒りを持っていたのだろう。
だから――これは本当に、私の勝手な発散。
Akitsu
貴方たちを助けるついでに、貴方たちを軽く虐める、丁度良くて滅多に無い機会。
Akitsu
我が儘な時間はあっという間。もうすぐそこで、終わる。

【秋都】
最後の1発、いきます
Akitsu
さあ、回って。

【亜弥】
~~~……
Akitsu
さあ、苦しんで。

【謙一】
ぎゃあああああああああ……!!!?
Akitsu
そして、

【暴走族】
「「「いやあぁああああああああああ――!?!?」」」
Akitsu
願わくば――

【秋都】
…………

【秋都】
……願わくば……何だろうな