「特変」結成編4-7「地上世界(1)」

あらすじ

「そして……亜弥が見たがっていたものを、見に行こう」☆「「特変」結成編」4章7節その1。井澤兄妹、壮大な一発勝負に乗り出します。日常章の最終節が始まりました。あとⅠヶ月ほどお付き合いくださいませ。

↓物語開始↓

290730



Kenichi

 この俺、井澤謙一にとって、思い出の月日というのはどうでもいい傾向にある。


Kenichi

 余計な容量。もう変えようのない過去よりも、未来を勝ち取ることに全力を尽くしたいから。


Kenichi

 ……それでも、過去の月日に。
 価値を見出すことがあるとしたら。


Kenichi

 それは――


Face_kenichi

【謙一】

亜弥、行こうか


Face_ami

【亜弥】

……え……?


「行こうか」。


 井澤亜弥が、井澤謙一にそれを云われたことは恐らく初めてであると、少なくとも謙一は認識していた。


 彼女の手を取り、立たせ、服を着せる。
 そして、玄関にて、靴を履かせる。


Face_ami

【亜弥】

……兄さん、本当に……


Face_kenichi

【謙一】

大丈夫。またこの家に戻ってくる。だけど……


Face_kenichi

【謙一】

その時は、もう今の俺たちとは、違う……覚悟を決めておけ。あとめっちゃ疲れる


Face_ami

【亜弥】

……………………


Face_ami

【亜弥】

はい――兄さんが、居てくださるなら……


Face_kenichi

【謙一】

ハハッ……案の定の答えだな。ちょっと尊敬語出てるぜ


 2人で、扉を開き――


 運命の夜が幕を開ける。



PM11 00


Face_kenichi

【謙一】

……亜弥、ちょっと暫く、俺喋れないと思う


Face_ami

【亜弥】

兄さん――?


Face_kenichi

【謙一】

追っ手の気配に、集中する


Face_ami

【亜弥】

……はい。附いて行きます


Kenichi

 南湘エリアは自然豊かだからか、夏でも夜は冷え込むとすら思うこともある。
 心地良い空気を、いっぱい取り込み……


Kenichi

 ゆっくり吐き出すと共に――スイッチを入れる。


Face_kenichi

【謙一】

――よし、行こう


Kenichi

 奴らの気配はしない。
 沼谷と徳川の時には油断をとったが、奴らならば、俺の肌が過剰反応する。


Kenichi

 まあ、居ない筈だからこの日を選んだんだがな。それも確実ではないから、彼女のもとへ辿り着くまでは、しっかりゆっくり、警戒していかねばならない。


Kenichi

 あの怪物姉貴が出てくるとなると話はまた変わってくるが……今回は、強い味方も居るわけだしな。


Face_kenichi

【謙一】

光雨、スキャンの調子は


Face_ku

【光雨】

お腹空いたのー疲れる遠足なのー……


Face_kenichi

【謙一】

お菓子はめっちゃくちゃ持ってきてるぜ(←ポテチ投げる)


Face_ku

【光雨】

充填したのー頑張るのー!(←スカイキャッチ&イート)


Kenichi

 常に光雨が、周囲の生命反応をスキャンし続ける状態。
 特定の人物を探す場合、指紋ぐらいの本人要素を光雨に登録しなければならないが、その生命がヒトかどうかぐらいは今でも判別できるらしい。


Face_ku

【光雨】

シスターも、食べるのー?


Face_ami

【亜弥】

私は、大丈夫ですよ光雨ちゃん。それよりも……


Face_ami

【亜弥】

今、私、外を歩いてるんですね……


Face_ku

【光雨】

シスター、不思議なこと云うのー。それ、当たり前のことなのー


Face_ku

【光雨】

でも、こんな暗いお外を歩くのはちょっと珍しいのー


Face_ami

【亜弥】

夜、ですからね。光雨ちゃんが灯りになってて、とても頼もしいです


Face_ku

【光雨】

ふふーん、他ならぬシスターの為なのー。クーも張り切っちゃうのー


Face_kenichi

【謙一】

お前の所持主マスター俺だけどな


Kenichi

 だが、俺には懐かなくても亜弥に懐いてて本当によかったと思う。
 今こそ志穂に最大級の感謝を捧げなければならないだろう。いや、今じゃなくてもいいか。兎に角今は……


Face_kenichi

【謙一】

亜弥、酔い止めの薬ちゃんと飲んだよな


Face_ami

【亜弥】

はい……でも、つまり今から私は何か乗り物に?


Face_kenichi

【謙一】

ああ。それ使って、優海町まで行く


Face_ami

【亜弥】

でも確か、コクローさんは今修理中なんですよね?


Face_kenichi

【謙一】

まことに悲しい限りだ……しかし不幸中の幸い、代車が用意できた


Face_kenichi

【謙一】

それに運転手付きだ


 2人、闇夜を歩く。
 ……遠くで、光と音を感じる。二つの祭り。


 謙一もまた、それにつられるように、心が躍動していた。
 その笑みを、亜弥は知っているようで、知らなかった。


Face_ami

【亜弥】

……兄さん……楽しい、ですか?


Face_kenichi

【謙一】

ん?


Face_ami

【亜弥】

その、笑ってらっしゃるので……


Face_kenichi

【謙一】

マジか。俺結構真剣なフェーズに臨んでるつもりだったんだが……


Kenichi

 ……色んな意味で、最高潮、だからかな。
 賽が投げられれば、もうそいつは笑うしかできない。
 何度もこの感覚は知ってきた。この3ヶ月で経験してきた修羅が、思い出されるようだ。


Kenichi

 つまり、何もかもがぶっつけ本番なんじゃない。
 特変破りと同じ……真理学園の生活と同じなのだ。


Face_kenichi

【謙一】

亜弥は、どうだ?


Face_kenichi

【謙一】

ちょっとぐらい、ワクワクはしてないか?


Face_ami

【亜弥】

……正直いえば……不安しかないです……真っ暗ですし。今まで兄さん、ずっと私が外に出ることを躊躇ってきたというのに、突然外に出ようだなんて……


Face_kenichi

【謙一】

マジごめん


Face_ami

【亜弥】

でも、兄さんは共に居てくださいますから……


Face_ami

【亜弥】

それならば、私は、大丈夫です


Face_ku

【光雨】

クーも一緒に居てあげるのー。メイドの嗜みなのー


Face_ami

【亜弥】

ありがとうございます、光雨ちゃん


Face_kenichi

【謙一】

……ああ。亜弥は、独りじゃない


Face_kenichi

【謙一】

同じく何処に進めば正解なのか、今イチ分かっていないダメな兄貴が一緒だ


Face_kenichi

【謙一】

そして此処は、そういう人間ばっかりの世界だ。だから、分からないことは、分からなくたっていいんだ


Face_kenichi

【謙一】

それでも、進むんだ。それが俺たち、人間の社会


Face_kenichi

【謙一】

俺たちのやり方だ


Face_ami

【亜弥】

とても……


Face_ami

【亜弥】

とても、広いのですね。天井が、全然分からないです。壁は、何処にあるんでしょう


Face_ami

【亜弥】

知識は、あるはずなのに……何もかもが、新しく、思います


Face_kenichi

【謙一】

天井も、壁も、兄さんは見たことがないよ。だから、もっと歩こう


Face_kenichi

【謙一】

そして……亜弥が見たがっていたものを、見に行こう


Kenichi

 あの写真の光景を見るには昼に訪れなければいけない。だがソレはあまりに危険。というか今の時間帯だって普通に危険ではある。が、昼は遙かにマズい……。


Kenichi

 では、あれを見ることができる時間帯、そして最大限に楽しめる場所が何処かと考えれば……もう、アレしかない。


Kenichi

 道のりは決して楽じゃないが……


Kenichi

 上等。
 俺たちは、いつだって不鮮明な道を進む。


Kenichi

 なればこそ――


Face_kenichi

【謙一】

刃を持て――


Face_kenichi

【謙一】

ぶっ壊す


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