「特変」結成編4-7「地上世界(1)」
あらすじ
「そして……亜弥が見たがっていたものを、見に行こう」☆「「特変」結成編」4章7節その1。井澤兄妹、壮大な一発勝負に乗り出します。日常章の最終節が始まりました。あとⅠヶ月ほどお付き合いくださいませ。
↓物語開始↓
Kenichi
この俺、井澤謙一にとって、思い出の月日というのはどうでもいい傾向にある。
Kenichi
余計な容量。もう変えようのない過去よりも、未来を勝ち取ることに全力を尽くしたいから。
Kenichi
……それでも、過去の月日に。
価値を見出すことがあるとしたら。
Kenichi
それは――

【謙一】
亜弥、行こうか

【亜弥】
……え……?
「行こうか」。
井澤亜弥が、井澤謙一にそれを云われたことは恐らく初めてであると、少なくとも謙一は認識していた。
彼女の手を取り、立たせ、服を着せる。
そして、玄関にて、靴を履かせる。

【亜弥】
……兄さん、本当に……

【謙一】
大丈夫。またこの家に戻ってくる。だけど……

【謙一】
その時は、もう今の俺たちとは、違う……覚悟を決めておけ。あとめっちゃ疲れる

【亜弥】
……………………

【亜弥】
はい――兄さんが、居てくださるなら……

【謙一】
ハハッ……案の定の答えだな。ちょっと尊敬語出てるぜ
2人で、扉を開き――
運命の夜が幕を開ける。

【謙一】
……亜弥、ちょっと暫く、俺喋れないと思う

【亜弥】
兄さん――?

【謙一】
追っ手の気配に、集中する

【亜弥】
……はい。附いて行きます
Kenichi
南湘エリアは自然豊かだからか、夏でも夜は冷え込むとすら思うこともある。
心地良い空気を、いっぱい取り込み……
Kenichi
ゆっくり吐き出すと共に――スイッチを入れる。

【謙一】
――よし、行こう
Kenichi
奴らの気配はしない。
沼谷と徳川の時には油断をとったが、奴らならば、俺の肌が過剰反応する。
Kenichi
まあ、居ない筈だからこの日を選んだんだがな。それも確実ではないから、彼女のもとへ辿り着くまでは、しっかりゆっくり、警戒していかねばならない。
Kenichi
あの怪物姉貴が出てくるとなると話はまた変わってくるが……今回は、強い味方も居るわけだしな。

【謙一】
光雨、スキャンの調子は

【光雨】
お腹空いたのー疲れる遠足なのー……

【謙一】
お菓子はめっちゃくちゃ持ってきてるぜ(←ポテチ投げる)

【光雨】
充填したのー頑張るのー!(←スカイキャッチ&イート)
Kenichi
常に光雨が、周囲の生命反応をスキャンし続ける状態。
特定の人物を探す場合、指紋ぐらいの本人要素を光雨に登録しなければならないが、その生命がヒトかどうかぐらいは今でも判別できるらしい。

【光雨】
シスターも、食べるのー?

【亜弥】
私は、大丈夫ですよ光雨ちゃん。それよりも……

【亜弥】
今、私、外を歩いてるんですね……

【光雨】
シスター、不思議なこと云うのー。それ、当たり前のことなのー

【光雨】
でも、こんな暗いお外を歩くのはちょっと珍しいのー

【亜弥】
夜、ですからね。光雨ちゃんが灯りになってて、とても頼もしいです

【光雨】
ふふーん、他ならぬシスターの為なのー。クーも張り切っちゃうのー

【謙一】
お前の所持主俺だけどな
Kenichi
だが、俺には懐かなくても亜弥に懐いてて本当によかったと思う。
今こそ志穂に最大級の感謝を捧げなければならないだろう。いや、今じゃなくてもいいか。兎に角今は……

【謙一】
亜弥、酔い止めの薬ちゃんと飲んだよな

【亜弥】
はい……でも、つまり今から私は何か乗り物に?

【謙一】
ああ。それ使って、優海町まで行く

【亜弥】
でも確か、コクローさんは今修理中なんですよね?

【謙一】
まことに悲しい限りだ……しかし不幸中の幸い、代車が用意できた

【謙一】
それに運転手付きだ
2人、闇夜を歩く。
……遠くで、光と音を感じる。二つの祭り。
謙一もまた、それにつられるように、心が躍動していた。
その笑みを、亜弥は知っているようで、知らなかった。

【亜弥】
……兄さん……楽しい、ですか?

【謙一】
ん?

【亜弥】
その、笑ってらっしゃるので……

【謙一】
マジか。俺結構真剣なフェーズに臨んでるつもりだったんだが……
Kenichi
……色んな意味で、最高潮、だからかな。
賽が投げられれば、もうそいつは笑うしかできない。
何度もこの感覚は知ってきた。この3ヶ月で経験してきた修羅が、思い出されるようだ。
Kenichi
つまり、何もかもがぶっつけ本番なんじゃない。
特変破りと同じ……真理学園の生活と同じなのだ。

【謙一】
亜弥は、どうだ?

【謙一】
ちょっとぐらい、ワクワクはしてないか?

【亜弥】
……正直いえば……不安しかないです……真っ暗ですし。今まで兄さん、ずっと私が外に出ることを躊躇ってきたというのに、突然外に出ようだなんて……

【謙一】
マジごめん

【亜弥】
でも、兄さんは共に居てくださいますから……

【亜弥】
それならば、私は、大丈夫です

【光雨】
クーも一緒に居てあげるのー。メイドの嗜みなのー

【亜弥】
ありがとうございます、光雨ちゃん

【謙一】
……ああ。亜弥は、独りじゃない

【謙一】
同じく何処に進めば正解なのか、今イチ分かっていないダメな兄貴が一緒だ

【謙一】
そして此処は、そういう人間ばっかりの世界だ。だから、分からないことは、分からなくたっていいんだ

【謙一】
それでも、進むんだ。それが俺たち、人間の社会

【謙一】
俺たちのやり方だ

【亜弥】
とても……

【亜弥】
とても、広いのですね。天井が、全然分からないです。壁は、何処にあるんでしょう

【亜弥】
知識は、あるはずなのに……何もかもが、新しく、思います

【謙一】
天井も、壁も、兄さんは見たことがないよ。だから、もっと歩こう

【謙一】
そして……亜弥が見たがっていたものを、見に行こう
Kenichi
あの写真の光景を見るには昼に訪れなければいけない。だがソレはあまりに危険。というか今の時間帯だって普通に危険ではある。が、昼は遙かにマズい……。
Kenichi
では、あれを見ることができる時間帯、そして最大限に楽しめる場所が何処かと考えれば……もう、アレしかない。
Kenichi
道のりは決して楽じゃないが……
Kenichi
上等。
俺たちは、いつだって不鮮明な道を進む。
Kenichi
なればこそ――

【謙一】
刃を持て――

【謙一】
ぶっ壊す