「特変」結成編4-1「笑わぬ花(1)」
あらすじ
「期末試験、お疲れ様でした~記念お茶会を開催しまーす♪」☆「「特変」結成編」4章1節その1。テスト関係無いところで怒濤だった期末試験期間を乗り越えた謙一くんは、はた迷惑な図書館のヌシさんにまたアレお呼ばれされたのでした。図書館ではマナー良く。
↓物語開始↓
Stage: 真理学園 図書館棟

【美玲】
それでは……

【美玲】
期末試験、お疲れ様でした~記念お茶会を開催しまーす♪

【謙一】
あ、はい……
Kenichi
クラッカーを鳴らすようなジェスチャーをしながら美玲さんが開催を宣言した。
当然、その舞台は静かな図書館である。
Kenichi
片道十数分かかる此処に来る度、毎度思う。
「別に教室でよくね?」と……。

【美玲】
井澤くんは、期末試験どうでしたー? お姉さんはバッチリでしたー👍

【謙一】
抑も俺、問題作る側ですし

【美玲】
……………………
Kenichi
美玲さんの眼が死んだ。
それは案外この人と連むようになってから頻繁に見る光景ではある。

【謙一】
何がショックなんですか……?

【美玲】
お姉さん、井澤くんに分からないところ、教えてあげよっかなって張り切ってたのに……お姉さんだから……

【謙一】
どんだけアンタお姉さん気取りたいんですか……
Kenichi
よほど日頃自分のクラスで満足にお姉さんできてないのだろう。

【謙一】
俺らは特Bよりも教師と関わり薄いですからね。いわゆる5教科ってやつ? あいつら全部俺が仕切ってますし

【美玲】
訓舘先生……お願いだから、仕事してよ私勉強教えてあげられないよ……

【謙一】
ちょっと論理おかしくなってません?

【美玲】
ってことは何? 井澤くんは自分の成績自分で付けちゃうんだー! 不良さんだー! お姉さんがしっかり躾けてあげないとー!

【謙一】
あれやこれやと!!
Kenichi
何この人、ぶっちゃけもう帰りてえッ!!
開幕からふて腐れ始めたお姉さん擬きを宥めつつお茶会を進める。
今日のおやつはシュークリームでなく、多量のマシュマロとアッツアツのチョコソースプール。つまりはチョコレートフォンデュである。
繰り返すようだが、此処は図書館である。

【美玲】
希望を出しておいてなんだけど、よくこんなの用意できたよね井澤くん――おいひ~💕

【謙一】
まあおやつ作りは常に全力を出せというのが家訓ですので

【美玲】
何そのお姉さん的には諸手で拍手な家訓~💕
Kenichi
亜弥が興味を示したのは、寧ろお菓子の方だったからなぁ。
今でこそ完全食丼シリーズを二人で模索してはいるが、本格的に俺が腕を磨き始めた最初の分野はスイーツだったのだ。
Kenichi
にしてもチョコソースでアッツアツになったマシュマロを苦戦しながらも頬張る美玲さんの姿を見ると、何と云うか……もう妹にしか見えないんだよなぁ。
そんな事云ったらまたヘソ曲げるんだろうなぁ。ほんとこの人めんど――ユニークだよなぁ……

【謙一】
ふぁ~あ……

【美玲】
あれ、井澤くんねむねむなのかな? お姉さんが膝枕してあげよっかー

【謙一】
美玲さん他人の頭を膝に乗せれるほど体力無いでしょー(←欠伸混じり)

【美玲】
お姉さんのこと何だと思ってるのかな……

【謙一】
単純に疲れてるんですよ。この一週間は壮絶だったもんですから

【美玲】
うーん、それはそうだよね~……井澤くん、間違いなくこの一週間は真理学園で一番疲れた人だもんね~……

【謙一】
俺よりヤベえ怪我人はめっちゃいますけどね。小松はもう出てきてるんでしょ? 大丈夫でしたアイツ?

【美玲】
普通に水曜日にも登校してたよ? 具合悪そうだったけど……

【謙一】
アイっツ……
Kenichi
特変権力使って強制的に寝かしつけようかな……。
学業ごとには徹底してる奴なのは石黒先輩の時に発覚してるが、彼処のリーダーと共にもうちょっと柔軟に生活しろと説教かましてやりたい気分だ。
Kenichi
……まあ、感謝してるからそれも云いにくいんですけどね。

【美玲】
井澤くん、今週は凄い権力者っぽかったねー。お姉さん的には格好良く見えてたよ。えらいえらい(←手を伸ばすが手が届かない)

【謙一】
普段の俺なら絶対やらない横暴でしたけどね。一年生全員、期末試験免除だなんて……
Kenichi
俺個人はそこまで悪くない筈なのだが、やっぱりあの日は、吹っ切ってない部分の俺も居たようで……。
体育委員も会場をお片付けするのに大変だろうから、罪悪感潰しがてら、期末試験真っ只中だった1年生の試験をなくしてしまった。あの様子じゃ、皆調子を出せないだろうし、培った実力を測る為のイベントをやったって無意味といっていいだろう。
Kenichi
その代わり、成績は中間試験を含めたこれまでの成績にある程度加点して、それを1学期の成績とすることにした。あの即席のユルユルシステムを考えたら、多分赤点の人間は居ないということになる。何て生優しいの俺。
Kenichi
ただ、それは日頃からしっかり成績管理をしている先生がたが居ればこそ成り立つ対策だったのであり、俺らや美玲さんたちには適用ができなかった。正直後回しにするのもめんどかったから、特進クラスは火曜日の分も上手く配分して、水木金で期末試験を終わらせてしまった。水曜日の奏の無言の断末魔顔は今でも鮮明に思い出せる。俺を無理矢理打ち上げに拉致った腹いせはどうやら上手くいったようだぜ!
Kenichi
ってことでとんでもないイレギュラーは起こったものの、無事俺たちは期末試験期間を突破したのであった……あとは夏休み一直線だぜ! 頼むからそうであって!!

【美玲】
傷は、もうだいぶ治ったの?

【謙一】
ええ。びっくりするほど元通りですね……鮭沢の握り寿司かな……凄えなアイツ

【謙一】
ていうか、俺よりも小松を筆頭に、もっと怪我してる連中が居ますからね。拝田もちょっと打ち上げの時具合悪そうでしたし
Kenichi
小松といい拝田といい、何でそんな打ち上げ行きたかったんだよ……。
いや、肉と寿司は美味かったけどさ。

【謙一】
俺としては、敵方の方が心配ですね……相楽ちゃんとか……
Kenichi
春日山から聞いた話では、一命は取り留めたらしい。
真上からドデカい照明機が落下してきて……普通に考えれば一溜まりもない。真死んだっておかしくない。
だが相楽ちゃんは何と、反射的だったのか、万気相硬体を巻きまくっていて、ダメージを最小限に留めていたらしい。それでも立ち上がることなどできないトドメの1発だったのは揺るぎようがなく、彼女は倒れて――
Kenichi
――いなかった。
戦闘不能ではある。意識も無くなっている。だが、重量のある照明機の下で、何と膝を着かず踏ん張っている姿勢のまま身体が停止していたとのことだ。
Kenichi
不意に、最後のあの眼を思い出す。
革命を謳った者たちとも、それになあなあな気持ちのまま同調していた者たちとも、全く違うあの少女。
Kenichi
アレは一体、何だったのだろうか……。

【美玲】
……井澤くん?

【謙一】
すいません、ちょっと考え事をしてました。えっと……負傷者の話でしたよね

【謙一】
沼谷とか鳬端とか、俺が加減せずやっちゃった奴らは暫く安静にしなきゃダメでしたが、爆発に巻き込まれた奴らはその日のうちに回復できたらしいですね。医療班マジ凄えわ。怒田先輩も相楽同様に潰された人だったけど、相当身体丈夫だったんでしょうね、そこまででもないと

【謙一】
だから、革命が動いてた3日間で、一番ヤバかったのは……やっぱり藤間だったんでしょう

【美玲】
藤間くん……まだ、意識戻らないんだよね?

【謙一】
ええ。ただ、美千村主任が附きっきりになってくれて、それで一命は取り留めたっぽいです
Kenichi
あれほど血を失い衰弱しきっていた藤間を目の前で見て触れた俺からすれば、奇跡の業だった。
まだ全然関わったことはないが、今度お礼の品でも渡してみようか。日頃から特変は迷惑かけてるようなものだしな……。

【美玲】
そっか、もう大丈夫なんだ……よかったぁ……

【美玲】
温ちゃんも、無事だって判明したし……
Kenichi
……そう。
藤間温は、無事だった。
Kenichi
光雨の生体反応スキャンは温に対しても行われたが、反応を捉えることはできなかった。
それは、優海町より外の何処かに脱出しているか、それとももう生きてないか、のどっちかを表す。
Kenichi
……真実は、不幸中の幸い、前者だった。
藤間は俺への決意通り、妹を護りきってみせた、ということだ。
Kenichi
ただ、ソレと同時に……妹との約束を破ってしまったということでもある。

【温】
なんで――なんで、こんなこと……っ

【温】
約束、したばっかじゃん……! 一緒に居てって――私が、私だけが、無事でも……

【温】
意味無いよ……お兄ちゃん――!!
Kenichi
特変破り終了後、冨士美町で必死に身を潜めていた藤間温を、俺の指示で自由に動いてた光雨のスキャンが発見し、即座にGSが保護した。
怪我というよりは栄養不足で少々弱ってはいたが、元気だったとは云える。
そう、眠り続けてる兄に比べたら……。

【温】
起きてよ……

【温】
絶対……起きなきゃ、絶交だから……お兄ちゃん……――
Kenichi
その翌日、病み上がりではあるが解放された温は、優海総合病院に移され眠っている兄の病室を訪れた。
場所を弁えていた。だから叫ぶようなことは、最後までしていなかった。
けれども、その一言一言は……どうしようもなく、叫びだったと云えよう。
Kenichi
最大の被害者の兄妹。
彼らの平穏が、今度こそ戻ってくることを祈ることしか、もうやり尽くした俺にはできない。

【美玲】
平賀くんも、結構重体だったんだよね……?

【謙一】
ええ。なんせ、万気相も使ってない状態で速度を出してた車に轢かれたんですから……
Kenichi
今回の革命で、死者はいない。
ヤバかった藤間や相楽ちゃん、平賀も何とか命を確保している。
Kenichi
取りあえず、一つ心配事が解消されたからこそ、こうして俺は何とかお茶会にも付き合える余裕ができている。

【美玲】
……これから、ここは、どうなっていくのかなぁ

【謙一】
どうでしょうね。翠ちゃんの思い描いていたものへと行くのか……抑もそれが何なのかもあんま分かってないですけど

【美玲】
ぷぷぷぷ。翠ちゃん(笑)。ぷぷぷぷー

【謙一】
アンタもちゃん付けで呼んでやろうか

【美玲】
お姉ちゃん以外赦しませんー
Kenichi
……俺は、俺たちは、一人残らず模索していかねばならない。
真理学園で、一体何を成し遂げるのか。何を手に入れるのか。止まることは赦されない。
Kenichi
だが、時に休息は必要なものだ。何事も、急いては事をし損じる。詰めすぎても効率は下がるばかり。俺はどっちかというと苦手な方だが、リズム良く生きろってことだ。
だから、俺たちにとって今は、休息期間。お互い傷付いた。その傷を、別のことに目を向けながら癒やすのだって悪いことじゃないだろ?

【美玲】
あっふあっふ……!

【謙一】
冷ましてから食べましょうよ

【美玲】
分かってるけど、ついノーブレスで挑戦したくなっちゃうお姉さんの気持ち、井澤くんなら分かってくれるって信じてる

【謙一】
そんなクソどうでもいいこと信じられましても
Kenichi
三重を見倣って、少しは純粋に楽しいと思える時間を発掘するとしましょうかね。