「特変」結成編1-1「親睦(2)」
あらすじ
「俺たちがすっげえ、仲悪いってことだ……」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」1章1節その2。新学期のお馴染みイベント筆頭、親睦を深める一日。しかし謙一くんにとってはただひたすらに心労パーリィな時間になるのです。その具体例として、早速教室で些細な習慣で議論というか喧嘩が展開されるのでした。 ※無駄に刺激的な絵があったりなかったりするので留意されよ。
↓物語開始↓
Kenichi
……出来れば、俺の今感じてる、ミッションの難易度。ざっくり云い換えれば嫌な予感。
Kenichi
夢であってほしいなぁと、思いながら顔についたパイを佐伯から渡されたスプーンで掬い取るばかりだった……

【クロウス】
なるほど、これが特変の面子か

【謙一】
……ええ、そうですね
Kenichi
しかし残念、やっぱり現実でした!!!!!
Kenichi
ということを外部者な先生がメンバー確認してきたことで自ずと俺は落とし込まざるを得なかった。
Kenichi
てか喫煙しながら教室入ってきたんだけど。受動喫煙で訴えようかな。

【クロウス】
取りあえず1回見ておきたかっただけだ。すぐ出る

【謙一】
別にずっと居てくれてもいいですけど……主に俺の身代わりで居てくれるなら……

【クロウス】
給料も上がらねえのに、んなことするわけねえだろ

【謙一】
アンタほんとに教員か? ていうか誰っすか?

【クロウス】
山田クロウス。一応、このクラスの教科担任も少し持ってる

【クロウス】
隣のクラスも一応任されてるから、6Fにはよく足を運ぶことになる。まぁ俺に面倒を運ばない程度によろしく頼む

【謙一】
どうも……
Kenichi
案の定、特変は先生にも良く思われていないみたいだ。

【クロウス】
じゃあな。あんま風紀乱すなよー

【謙一】
風紀をスモークしてやがる先生に云われたくもないですが
Kenichi
……さて。

【謙一】
どうやら俺がこの場を取り仕切らなきゃいけない雰囲気だが……

【奏】
待ってましたー! 引っ込め引っ込めー!

【謙一】
どっちだよ
Kenichi
4月4日。
Kenichi
入学式が金曜日だったから、その次の登校が本日月曜日。
Kenichi
まだ9人集まってから二日目なのである。
Kenichi
当然、他のクラスもまだ授業には入らない。色々決め事や確認事項とかもあるんだが、それよりも前にやらなきゃいけないことがある。
Kenichi
すなわち……

【謙一】
本日は皆さんの親睦を深める日です!
Kenichi
これだけで本日のスケジュール終了!

【志穂】
うぅぅわメンドー……

【情】
生温い関係なんざすぐに灼け切れる。くだらねえ時間の無駄だ

【凪】
本との親睦でも深めてるわ

【奏】
うっわー根暗~本しか友達居ないんだー!!

【凪】
貴方はあらゆる方面で友達居ないでしょう

【奏】
へへーん残念でしたー、私には譜已ちゃんが居ますー!! 大☆親☆友!!

【譜已】
えと、その……わ、私、烏丸先輩も……友達だと、思ってますから……

【凪】
ありがとう。嬉しいわ

【譜已】
(嬉しそうには見えない……)

【奏】
……………………

【凪】
さて、譜已という要素は除外するとして、他に何かあるのかしら、貴方に

【奏】
………………お、お風呂とか

【凪】
人のこと云えるのかしら

【奏】
んがーーーーーー!!!!! ああ云えばこう云いやがってーーー!! 表出ろーーーー!!!

【沙綾】
未だに返信も返ってこないしコールも繋がらない……

【沙綾】
かーくん……まさか、正課内ではしてる!? チャラ男じゃないわよ、チョイ悪宣言どこに行ったのよ……!

【乃乃】
美甘さん美甘さん、親睦を深めましょう、ケツ出してください

【美甘】
(プイッ)

【乃乃】
志穂さんどうしましょう、美甘さんが一向に距離を詰めてくれません

【志穂】
これ以上溝拡げてどーすんだアホ弾頭

【謙一】
……………………
……。
…………。
……………………。
Stage: 6F廊下

【雪南】
はーいおじゃま――

【秋都】
し、失礼しま――
秋都が見たのは教室前の小さいカフェスペースで喫煙教師クロウスと共に休んでる謙一の姿だった。
とても新学期突入したばっかのフレッシュな1年生の姿とは思えなかった。

【謙一】
…………………………

【雪南】
おーい謙一、大丈夫ー?

【秋都】
い、井澤くん……?

【謙一】
……ん……
Kenichi
何か……声が聞こえた。
Kenichi
誰だろう……

【謙一】
って、ああ……キザと徳川か……

【雪南】
雪南って呼んでほしいなぁ

【秋都】
す、凄く消耗してるように見えるんだけど……!? 大丈夫なの、井澤くん……!?

【謙一】
いや、まぁ……ちょっと疲れてな……
深く説明する気力もなかった謙一は、力を振り絞って親指で教室を指し示す。

【秋都】
…………

【雪南】
…………
二人見合わせ、ちょっと教室を覗いてみる――

【情】
俺の所属する共同体にテメエは要らねえ……今ここで潰してやるよ……

【奏】
それはコッチの台詞だよ……衒火パイセンとは一生分かり合えない、だったら消すしかないよね譜已ちゃん!

【譜已】
いや、それはどうかなって……か、烏丸先輩~……!

【凪】
放っておけばいいと思うの。どちらか消えてくれれば私的には好都合

【奏】
云っとくけどパイセンも抹消対象だからね裏切り者――!!

【凪】
個人的には、貴方が消えてくれた方が私は平穏でいられるのかしら、衒火

【情】
テメエの事情なんざ知るかよ。邪魔になるならテメエも潰す、それだけだ

【乃乃】
ふむ……コレは中々エキサイティングな展開になってきましたね

【乃乃】
じゃあ負けた方には罰ゲームとして勝者のやり方で以て自ら実践していただきましょう

【沙綾】
あーソレ中々良いかもねー

【沙綾】
……あれ? もしかして派閥単位で? 私たちも罰ゲーム対象になっちゃうわけ?

【乃乃】
蚊帳の外を作るのは私の趣味ではありませんから👍

【沙綾】
うーんその親指へし折りたくなったわ👍

【志穂】
ぐおぉおおおおおおおおおお(-_-)zzz

【美甘】
(コイツずっと寝てるな……)

【秋都】
…………

【雪南】
…………
二人、謙一のところに戻ってくる。

【クロウス】
凄かったろ。少人数だろうが簡単に喧嘩の火蓋が切られることが最速で証明された

【謙一】
人数以前にアイツら個々が問題なんすよ先生……

【雪南】
謙一、アレ一体何があったの?

【謙一】
いや、話の文脈とか追い切れなくて俺もよく分からなかったんだが、最終的にはよくある個人の習慣の話題に移ってな

【雪南】
何ソレ

【謙一】
ほら、例えば主食は最初に口にする派、とか、風呂の時に何から脱ぐか、とか、そういう習慣って適度に派閥分かれるだろ

【雪南】
俺は風呂の時はズボンから脱ぐよ。最後に靴下

【謙一】
10秒で俺の記憶から抹消すべき情報だな

【謙一】
まぁそんな感じで、行き着いたのが「みたらし団子をどう食べるか」っていう議論で

【クロウス】
つまり、串を口の中に入れながら団子を串から外すか、口の中に入れず外すか。俺はそもそも喰ったことがない

【謙一】
何て表現すべきか分からんが、前者を縦喰い派……

【謙一】
後者を横喰い派と名付けとく

【謙一】
兎に角コレで分かれてな、今に至る

【秋都】
え……て、ていうことは、お団子の食べ方の違いで戦争が起きようとしてるの……?

【謙一】
アイツら一歩も退かないんだよなぁ……取りあえずここは放置して行く末を見守ってみようと

【雪南】
ここで寛いでる時点で、力尽きて投げ出したって表現が正しいね

【謙一】
否定できない

【秋都】
…………
秋都はまた、ちょっとだけ教室を覗いてみた……

【奏】
ねえ、堀田パイセンも何か云ってよ! 一緒に闘おうよ、同じ縦喰い派でしょ!!?

【美甘】
(う、ウチを巻き込むなよ――!!)

【沙綾】
仕方ないわねぇ、様式に則って取りあえず横喰い派同盟、作っておく衒火くん?

【情】
邪魔だ

【沙綾】
だったら別にいいけど、負けないでよねー? 私縦喰いなんて嫌よ? 喉に串突き刺してるようなものじゃない

【乃乃】
下手したらゲロりますよね

【美甘】
……!?
Mikan
女子が、今、ナチュラルにゲロるって云ったか……!?

【情】
……テメエは、どうするんだ

【凪】
興味無いわ。貴方たちがどのように食べていようが、関係無い

【凪】
つまり衒火の基本方針と同じ。そこのゆでだこがしつこいようなら、対策を考える

【奏】
ゆでだこゆーなー!!

【奏】
大体、お箸で串から団子を外して、それからお箸で食べるなんてあり得ないでしょ! 串団子侮辱してるでしょ!

【凪】
私、食べ物の文化とか風習とか興味無いの。それよりも手が汚れて本を読むのに支障を来すことの方が遙かに問題

【奏】
こ、この冷血淡泊眼鏡ぇ~……!!

【沙綾】
大体、さっき佐伯さんが云ってたけど、気持ち悪くならないの? 口蓋垂までいきそうじゃない

【奏】
口蓋垂? 何ソレ?

【乃乃】
俗称でいうと、のどち〇ぽですね

【奏】
ああ、なるほど! いやぁ、でもそれがさぁ、病みつきになるんじゃないの……!

【奏】
細いもの咥えてるとさぁ、何か、こう……フワフワしてくるよね! 譜已ちゃん!

【譜已】
いや、その……私その感覚は分からないかも……

【沙綾】
意外にも二邑牙さん、ソッチ系なのねぇ。認識改めるわ

【奏】
ソッチ系がどっち系なのかよく分からないけど、兎に角そういうことなんだよ! 縦喰いが正義!!

【沙綾】
でもさぁ、ソッチ系な二邑牙さんに一つイメージしてみてほしいんだけど……

【沙綾】
横喰いすると、口周りに餡が付きやすいわよね

【奏】
……? うん、そうだね……咥えてないもん、ペロペロしてるだけー

【沙綾】
じゃあ、その餡をぉ……最後に、ゆっくりと、一周で、ペロリって掬い舐めるの……

【奏】
……………………

【沙綾】
……どう?

【奏】
……――フワフワするかも!!

【譜已】
えぇえええッ!!??

【情】
話にならねえ

【凪】
いっつもこんな感じよ。相手にするだけ利益は無い

【美甘】
(てゆーかこの話題もう止めろよ! )
Mikan
何か……小っ恥ずかしいじゃねーかー……!!!

【奏】
ぐ、ぐぐぐ、でも――!! ……そ、そうだ、秋山パイセン!!

【志穂】
ぐぉおおおおおおおおおお

【奏】
秋山パイセン起きてよ! ぺしぺし!! がこんがこん!!

【志穂】
んー……何だよー、いってえなぁ……寝不足なんだよー……

【奏】
みたらし団子どうやって食べるか教えて! 縦だよね、やっぱり縦でフワフワいく派だよね!

【乃乃】
援軍候補に手を伸ばしましたか。中々上等な判断だったかと

【沙綾】
でも、やっぱり横でしょー? 横でべっとり、ねっとり、フワフワする派でしょー?

【乃乃】
もしくはお箸でそもそも串団子というジャンルを破壊するドSプレイ派ですかね

【志穂】
何でんなややこしくねじ曲がった派閥で戦争してんだよてめーら

【志穂】
しっかし、そーだなー……私ぁ……

【奏】
うんうん!

【沙綾】
どれどれ?

【凪】
…………

【志穂】
――手で取って全部口に詰める派だなー

【奏】
ッ――!?

【情】
なに――!?

【凪】
な――

【沙綾】
……………………

【乃乃】
……………………

【譜已】
……………………

【美甘】
(だ――)
Mikan
第四の派閥出てきたーーー!!!??

【乃乃】
……なるほど、これはとんでもない新勢力が出てきましたよ皆さん!

【奏】
ど、どういうこと!?

【乃乃】
志穂さんの食べ方はつまり……凪さんが箸でやることを、素手でやってしまいます

【乃乃】
これではとても本など手に持つことできません。手洗い必須です!!

【凪】
あり得ないわ……

【乃乃】
そして、皿に一旦盛らずに直接口に全て入れてしまいます

【乃乃】
このギュウギュウ詰め感は、奏さんの欲する要素に繋がりますが、そこに串はありません!!

【奏】
う、うーん……微妙に違う気がするけど……でも、これはこれでフワフワしそう――!

【乃乃】
指は当然、餡に塗れているでしょう

【乃乃】
これを直接舐めるなり口周りに塗りたぐるなりすることで、沙綾さんらが提示したもう一つのフワフワまでも手に入れることができます!

【志穂】
いや、何で口周りにわざわざ塗りたぐる必要あるし

【情】
チッ――

【沙綾】
目から鱗だわ……

【乃乃】
したがって、志穂さんは凪さんの箸派をある程度継承しながら……

【乃乃】
もう二方の主張を呑み込んでしまったということになります……この包括力、認めざるを得ません……

【志穂】
いや、何が?

【乃乃】
志穂さん……あなたの、一人勝ちです……👏

【志穂】
いやだから、何が?

【乃乃】
ということで、罰ゲームを実行しましょうか……

【凪】
……貴方は、ゆでだこ以上の危険因子ということね、秋山志穂……

【志穂】
何で団子の食い方答えただけなのに殺意向けられてんだ私ぁ……

【秋都】
……………………
秋都、カフェスペースに帰ってきた。

【謙一】
どうなってた徳川?

【秋都】
えっと……最終的に、皆お団子を手で串から外して一気食い、かな……

【秋都】
それから、えっと、最後に口周りに指の餡を塗って、それを舌で掬い取って舐めてたよ……

【雪南】
どんな議論の展開を介したらそういう結論に達するんだろうね

【謙一】
徳川、大丈夫か……? 頭痛くないか? 座っとけ……

【秋都】
う、うん……ありがとう井澤くん……
秋都も眺めてるだけで可成りのエネルギーを持ってかれたようだった。

【謙一】
やっぱり人は他者と交わると得体の知れないエネルギー出すんだな。ソレが空気中伝わって俺らを攻撃してるんだと思うんだ……

【秋都】
い、井澤くん……これ、毎日頑張るの……?

【謙一】
まあな……
Kenichi
今回の親睦会は、学生同士が関係を作っていくイベント。
担任は極端に孤立化しそうな学生に対して働きかける以外はあんま口出さず、そのまま学校出てどっか遊びに行ってもいいらしい。本来ならそういう楽しいイベントなのだ。
Kenichi
だが、コイツらは楽しむ気が無い。
何かよくわかんないが、協調性みたいのが無いんだ。普通の学校生活を送ろうという意思も、恐らく持ってない。
Kenichi
……アイツらの目的は何なのだろうか。
Kenichi
どんな意思を以て、特変でいるのだろうか。
Kenichi
それを突くに値する能力を、きっと俺は持っていない。
学園長が何と云おうとも、その一線は絶対に越えられない。
Kenichi
極めつけに、特変には担任が存在しない。管理者として俺をサポートする存在は用意されていない。
俺達は、どこまでも最高権力を徹底されている。云い換えれば、どこまでも孤独。
Kenichi
それでも、俺たちはこの学園で、不敗でなければいけない……
それが学園長の作り出した「特変」なる理念。
Kenichi
あの人の本当の野望とやらは、まだ話してもらえない。

【謙一】
そういや徳川って何組?

【秋都】
あ……お隣、だよ。特Bっていうらしいけど……

【謙一】
特B?

【雪南】
今は、自分のクラスのことだけ考えてればいいと思うよ。現にそれで手一杯でしょ

【謙一】
……ああ
Kenichi
どこまでも、全貌が見えない。
Kenichi
それでも分かったことは、何重にもかけて納得したことは……
Kenichi
俺たちがすっげえ、仲悪いってことだ……