「特変」結成編1-10「森(3)」

あらすじ

「手、差し伸べてくれたろ?」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」1章10節その3。冨士登山中の岩雪崩アクシデントに見舞われ、その影響で断崖に立っていた美甘ちゃんが梺の深い森へと落下、それを助けようとして失敗した謙一くんと志穂ちゃんも一緒に、生還率ごく僅かな暗闇の世界を歩き始める。その時間の中で……謙一くんは再び、美甘ちゃんの声を、聞くのでした――。

↓物語開始↓

flashback



Face_noname

【???】

うるせえよ、ほっとけよッ!! どいつもこいつもッ、……!!!


Face_noname

【???】

もう、やめてくれ……


Face_noname

【???】

――目障めざわり。目障り


首絞める


Face_noname

【???】

お、お母さん!?


Face_noname

【???】

ッ!? 何やってんだババア!! それは幾ら何でもやり過ぎだろうが――!!?


Face_noname

【???】

目…障りッ……残骸――ッ!!


Face_noname

【???】

やめろ、やめろホントに――!!


Face_noname

【???】

美甘、美甘――!? しっかり、美甘!!


灰个の言葉


Face_kirina

【桐奈】

…………


彫刻刀



Face_noname

【???】

……お前が、殺した


Face_noname

【???】

その女を……自分の唯一の味方であった筈の、きずなであった筈の女を


Face_noname

【???】

その裏切りの故に、殺したのだ


Mikan

……………………


Face_noname

【???】

そして、今此処に…みにくく残ってしまった女の亡骸なきがらを、未だ知られぬ森林帯の中に埋めに来た


Face_noname

【???】

証拠隠滅といったところか


Mikan

……………………


Face_noname

【???】

……どうして、お前が報われないか


Face_noname

【???】

それはお前には見当はついているのか


Face_noname

【???】

抑もお前から、絶望へと足を突っ込んでいるからに他ならない


Face_noname

【???】

――まぁ、存分に悩むといい


Face_noname

【???】

その為の切欠を、特別に俺から与えようじゃないか


Face_noname

【???】

――この世に生きるお前の為に、孤独という絶望の錯覚を与えよう


灰个の糸




Mikan

ウチを救ってくれるものは、内には無かった。
外にも無かった。


Mikan

誰も、ウチを見てくれない。


Mikan

こんなに辛いのに。こんなに必死なのに。


Mikan

顔を歪ませ楽しそうなクラスメイト。
気怠けだるそうに教室に入る先生。


Mikan

こんなに沢山の人が居るのに……誰の目も、ウチを受け入れようとしなかった。


Mikan

……ズルい。


Mikan

少しくらい、分けてくれてもいいじゃないか。
同じ年に生まれた、同じ文化を共有する、ウチはお前たちみたいに笑っちゃいけないのか。


Mikan

先生、聖書の授業で先生は分け与える素晴らしさを説いていた筈だ。
なのに、どうして先生もウチに、何も分けてくれないんだ。


Face_noname

【???】

――そうだ、孤独は絶望などではない


Face_noname

【???】

これが俺の示す……お前に対する救いだ


灰个の糸


Mikan

……そうだ。


Mikan

ウチは、孤独でなければならない。


Mikan

だから、闘った。


Mikan

救いを――求めて――


Mikan

誰も、近付けないように――




Mikan

――そして。


Mikan

ウチは出会った。


Face_kenichi

【謙一】

フンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ――!!!


Mikan

出会ってしまった。


Mikan

最も出会ってはいけない、相手に――




Face_kenichi

【謙一】

美甘。お前さ――


Face_kenichi

【謙一】

揺らいでる、よな?



flashback_return



Face_mikan

【美甘】

ん――


Face_mikan

【美甘】

あ……れ……


Face_kenichi

【謙一】

ん?


Kenichi

後方から、というか首元からうめき声が聞こえた。


Kenichi

どうやらお目覚めになったらしい。


Face_kenichi

【謙一】

よ、気が付いたか


Face_mikan

【美甘】

…………


Face_mikan

【美甘】

…………え?


Kenichi

時間差のリアクション。
きっと今、どういう状況に置かれているのか、一生懸命把握はあくしているのだろう。


Kenichi

焦燥しょうそうと呼ぶにも地味な焦燥。
パニックになる方法も忘れてる、より根源的なパニック。
そんな状態が、息遣いから分かってくる。


Kenichi

不謹慎ふきんしんながら、ちょっとだけ面白い。


Face_mikan

【美甘】

……――!?


Kenichi

どうやら一段階、把握が進んだらしい。


Face_mikan

【美甘】

な、何して……!?


Face_kenichi

【謙一】

あー、あんま動くなよ。お前多分、足を痛めてると思うから


Kenichi

いや、痛めてるのは確定だが。
倒れてた時、変な方向に足が曲がってたから、取りあえず力業で直してから、持ってた包帯やら木刀やらで関節を固定した。
キャンプ感覚で備えておいて正解だった。いや、できれば応急措置の知識をもう少し深めておくべきだったかな。その辺の心許こころもとなさは隣の不機嫌少女にカバーしてもらった。


Face_shiho

【志穂】

ま、応急措置だけさせてもらった。ってか何でこんな道具持ってたんだ


Face_kenichi

【謙一】

真理学園はやんちゃだからな。こういう備えをしておいて損は無いと思って


Face_shiho

【志穂】

見事に役に立ったから、文句は云えない


Face_mikan

【美甘】

……………………


Kenichi

……だいぶ、把握が進んできたらしい。意味不明という慌ただしさが、消失していく。



Stage: 冨士 森



Kenichi

そう、俺たちは落下した。


Kenichi

冨士の、ちょい危ない断崖エリアで土砂や岩の崩れに巻き込まれた。その衝撃で、断崖の一部が崩れた。
……その一部に、美甘は立っていた。
だから俺は、美甘を助けようと――
何だかんだで志穂を巻き込んで、一緒に落下したのだ。


Kenichi

予測はできたとしても、結果を変えられなきゃただただダサいな……


Face_mikan

【美甘】

……して……


Face_kenichi

【謙一】

ん?


Kenichi

ボソッと。
深い闇の森の中。不気味なほど静かな世界で、その音は響いた。
この場所だからこそ、隣を歩く志穂にギリギリ届いた、それくらいにボソッとした声。


Face_mikan

【美甘】

どう……して……


Face_kenichi

【謙一】

…………


Kenichi

できれば、また声を聞ける時は……
元気な声が良かった。
これは俺の未熟が招いた、その時、だった。
理想とはかけ離れた、細々とした声だった。


Face_mikan

【美甘】

どうして……ウチ、なんかを……


Face_kenichi

【謙一】

…………


Kenichi

どこか、似ていた。
似てないところだらけだとは思うが、それでも何か、根底のところで似てるところがあったのだろう。


Kenichi

懐かしい。


Kenichi

人は言葉で変わる生物だと、思い知らされるその瞬間が、再び訪れたのだと直感した。


Face_shiho

【志穂】

…………


Kenichi

いまいち曖昧な疑問文。
言葉とは、適切に使わなければどこまでも誤解していける世界だ。
だから、しっかり言葉にしてもらわなきゃ困る。事実、俺は何度も何度も、困ってきた。
ちゃんと文章を組み立てた筈なのに。
ちゃんと強調もした筈なのに。
伝わらないものなのだ。何が適切なのか、適切とはどういうことなのか、言葉の意義とは……
どこまでも、自己を崩壊させる力に溢れた世界だ。


Kenichi

言葉とは、刃だ。


Face_kenichi

【謙一】

んー……いや、だってさ


Kenichi

だから――
俺の“機能”は、とても、恐ろしいほどに恵まれたものだと思うしかなかった。


KenichiKino


Face_kenichi

【謙一】

手、差し伸べてくれたろ?


Face_mikan

【美甘】

え……?


Face_kenichi

【謙一】

落ちるのが分かった時、俺たちに手を差し伸ばしてくれたじゃないか


Face_kenichi

【謙一】

だから「それ」を日々望んでいた俺が、ここで応えないでいつ応えるんだよ、って思った


Face_kenichi

【謙一】

至極単純、それだけだよ


Face_mikan

【美甘】

…………


Face_shiho

【志穂】

……因みに私は、このハゲに巻き添えにされただけだ


Face_kenichi

【謙一】

まだ怒ってるのか? 怒るとしわが増え――できるぞ?


Face_shiho

【志穂】

云い直すならもっと根本から云い直せやゴラ


Face_kenichi

【謙一】

蹴るな蹴るな! こっちには怪我人が居るんだからな!!


Face_shiho

【志穂】

はぁ……ま、そういうわけだから、特に美甘に対して何か考えた訳ではない。寧ろ……


Face_shiho

【志穂】

コレは間に合わない、って思って私は崖で踏み止まった


Face_shiho

【志穂】

そういう意味では、私は…美甘を見捨てた……


Face_kenichi

【謙一】

薄情はくじょうな女だよなー。マジ見損なったわー


Face_shiho

【志穂】

……それは、今回に限っては、否定できねー


Shiho

……そう、今回に限っては、だ。


Shiho

次は……次こそは。
いや、そもそも無いのが一番だけど、もしあったなら――


Shiho

絶対に見捨てるものか。
私はそういう人間ではダメなのだから。


Face_shiho

【志穂】

だから……ごめん、美甘


Face_mikan

【美甘】

ッ――


Face_kenichi

【謙一】

…………


Kenichi

志穂の謝罪が……美甘に、通じている。肌越しに分かる。


Kenichi

ドン引き、に限りなく近い……衝撃。


Kenichi

手から伝わる美甘の温度。気のせいか、急激に上昇したように感じた。


Kenichi

一方、森は涼しかった。
風が吹いている。何となくお化け屋敷で取り入れたい性質の涼しさだった。


Face_kenichi

【謙一】

しっかし、これからどうなるかね


Face_shiho

【志穂】

アルスもやっぱ繋がんない。うえでは普通に電波飛んでたが


Face_kenichi

【謙一】

この森、変な磁場流れてるんじゃねえか? 冗談で云われても信じるレベルで不気味だぞここ


Face_shiho

【志穂】

冨士の梺の森といえば、遭難して帰還する率が登山よりも低いので有名だな


Face_kenichi

【謙一】

何か、真理学園の森もこんな感じの雰囲気出してるよな。譜已ちゃん曰く未知領域ってのがあるらしいし


Face_shiho

【志穂】

いつでも遭難できるな


Face_kenichi

【謙一】

嬉しくない特典だなー


Kenichi

緊張感の無い駄弁だべりが続くが、事態は矢張り重い。


Kenichi

山となれば、遭難した時にはまず上を目指すのが定石だろう。
しかしこの森、何故か高度を感じない。
これは俺の身体が故障してるだけだと思いたいが、左右どころか上下の感覚すら怪しくなってくる。


Kenichi

真っ直ぐ進んでいるのか。
後退しているのか。
進んでいるのか、止まっているのか。
視覚だけじゃない……
ここまで目先真っ暗ってのを体感できる機会は滅多に無いと思う。無いに越したことはないだろう。


Kenichi

……けど。
こういう時、どうしたらいいか――俺なりの解答は、既に持っていた。


Kenichi

歩む意思だけは、歩む言葉だけは忘れないこと。


Face_kenichi

【謙一】

……怖いか?


Face_mikan

【美甘】

ッ……


Kenichi

後ろに背負う美甘に、言葉をかける。
凄いな俺、どうしてこんな穏やかな気分でいられるんだろう。バカだからか?


Face_kenichi

【謙一】

ま、そんな心配すんなって。何とかなるさ、この井澤謙一がいるんだから


Kenichi

それとも、もしかしたら、美甘が居るから、だろうか。


Face_shiho

【志穂】

……それが?


Face_kenichi

【謙一】

冷静に突っ込んでくるなよ!


Face_shiho

【志穂】

はいはい謙一様がいれば例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中あの子のスカートの中でも一安心――


Face_shiho

【志穂】

――まさかおめー美甘のスカートん中のぞくつもりじゃねーだろーな!


Face_kenichi

【謙一】

何でそうなるんだよ!?


Face_kenichi

【謙一】

ていうかこの状態でどうやって覗けばどさくさ紛れられるんだよ、不穏さ隠せねえよ


Face_shiho

【志穂】

安心しろ美甘、お前のスカートの中は私が護る。あ、でもスパッツだからそんな問題無いか


Face_kenichi

【謙一】

まず公然とお前が覗いてんじゃねえか


Kenichi

コイツも大概たいがい平和な頭してるよなー……


Kenichi

けど、何でか志穂がいると……何とかなるよなって気になるんだよな。
美甘も居ることだし、尚更この森に、負ける気がしない。
……森に負けるってどういう意味なんだろ。自分で考えてて意味不明だ。


Face_kenichi

【謙一】

ま、大丈夫大丈夫、こんなの日頃のお前らのビッグフットぶりに比べたらどうってことないわ


Face_shiho

【志穂】

へーい失敬野郎そのフットで蹴ってやろうかゴラ(←回し蹴り)


Face_kenichi

【謙一】

もう蹴ってるじゃねえか! だから怪我人背負ってるからやめろっての!!


Face_mikan

【美甘】

……………………


kenichiJudge


Face_mikan

【美甘】

……ウチは


Face_shiho

【志穂】

――!


Face_mikan

【美甘】

独りが、良いって……ずっと、云ってるのに……


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