「特変」結成編1-10「森(1)」

あらすじ

「確かに、需要は一定数確保できている。だけども淘汰の対象とみられることを、最早逃れる術は無い。自ら断ち切ったんだから」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」1章10節その1。真理合宿2日目に突入、再びダルいことこの上ない「全体講義」にて真理学園史を学びます。今回は特に真理学園の婆娑羅録・雷晃政権に焦点を当てて、如何に不人気な真理学園が生き残ってきたかを知ってください! ※とは云いますが矢張りダルいものはダルいので、読み飛ばして全然大丈夫です。

↓物語開始↓

290428

Stage: 合宿場 大講堂


AM9 15



【啓史】「昨日の話を軽く復習してみよう。

 

学園史2

 

灘殿を中心として、黎明期の学園は当時を生き残ってきた。学園にとっては不利な状況が続いたが、建学の精神を見失わないよう細心の注意を払いながら、小さく、落ち着いて、M教に帰す人材を育てることを至上としたんだ。灘殿、読村殿、真田殿、二宮殿の政権下で最低限の地盤を固め、そこから矢張り小さな進化を追い求め彷徨っていたわけだ。

 

しかし、この世は常に淘汰が機能している。生物次元において淘汰の基準となるのはたいてい、需要のないものから、だな。ぶっちゃけ灘殿の政権時から気付かれていたことではあるが、当時の人々からはあまり評価されない学園だったのさ。いや、それは今も変わんないな、あっはっは」


Face_kenichi

笑い事じゃないなぁ


Face_so

いつだったかなぁ、クローズの関係で余所よその人と話してて、「真理学園でーす」って云った瞬間の反応……


Face_so

お互い触れはしなかったけど、アレ絶対見下されてたなぁ……


Face_fui

有名には、なってるかな……真理学園……


Face_kenichi

俺全然聞いたことなかったけど……そういや母校で受験校咄嗟とっさにここに切り替えた時――


Face_kenichi

「正気か!?」って職員室で合唱されたことあったっけなぁ


Face_so

ソレは謙一パイセンの学力ポテンシャルと割に合ってなかったからじゃないすかね……


Face_kenichi

あ、なるほどそっちか


Face_kenichi

……ていうか、パイセンも要らないぞ?


Face_so

んー……謙一くん……うーん……


Face_so

なーんか、上手くまらないんですよねー……


Face_so

譜已ちゃんも昨日、徹夜する勢いでベッドの中で――


Face_so

「謙一くん謙一くん謙一くん謙一くん謙一くん謙一くん謙一くん謙一くん謙一くん謙一くん――」


Face_so

ってずっと練習してたんですよパイセン、その努力に気付いてあげてください


Face_kenichi

たった今お前がネタバレしたお陰で気付けたわ、ありがとう奏


Face_fui

あ、あわわわわわ――!!?(←赤面)


Face_kenichi

にしても譜已ちゃんの可愛さと健気さ、ホント一体どうなってんだ?


Face_kenichi

実行する気は更々無いけど、譜已ちゃんを報道してたら真理学園不人気問題だいぶ解決されると思うんだ


Face_so

同じく実行する気は微塵みじんも無いですけど、全くもって同意ですー


 

学園史3

 

【啓史】「学園は常に、暗闇を彷徨さまようことを強いられていた。建学の精神……いわば灘刻丸の魂が真理学園の核である時点で、それはもう運命付けられた回路だったのさ。

 

しばらく真理学園は、低迷し続けた。二宮殿が召天されてからは特に、どうすべきか分からなかっただろう。黎明期を創ってきた4人全員が居なくなり、学園は本当の意味で魂を護る試練と立ち会った。

 

だが、当時不治の病に冒されながらも踏み留まらせた栗田五代目学園長殿は、ある若者を教師採用した。それから約3年で……その若者を真理学園長として立てることを決断した」


Face_kenichi

え?


Kenichi

3年で……いきなり学園長に?



【啓史】「その英断直後、栗田殿は召天されたが、彼の功績はひとえにこれだろう。

 

「風来坊」の貴堂雷晃きどうらいこうが、学園のトップに就き……そこから真理学園は豹変ひょうへんした。覚醒したと云ってもいいかもしれないな。灘殿の意思を汲み取り、できる限り権力は分散させていたのを、彼は自分のもとに一点に集めた。理事長もABC学校長も務め、全ての政治に直接手を下した。悪名高き雷晃政権の黎明だ」


Face_kenichi

昨日沙綾が云ってた雷晃様ってのがようやく出てきたか……


Face_fui

この学園で、有名な人を挙げようと思ったら……


Face_fui

多分、灘先生か雷晃先生で、めるんだと思います……


Face_saya

学園ネットで非公式に票集められたことあるけど、その時は雷晃様の圧勝だったわねー


Face_saya

不良の多いここでは、その婆娑羅ばさらっぷりは憧憬しょうけいに値するのかもね


Face_kenichi

婆娑羅て



【啓史】「まぁ5年くらいはまだ大人しかったんだが、駁沼日和まぬまひよりが更に就任してきてからは一番熾烈しれつになった。3年間だ。そこから3年の間に、雷晃政権の全ては産み出されたと云っていい。

 

実は駁沼さんと俺は同期なわけだが、いきなり雑用で奔りまくったなぁ……あのスタートダッシュが無けりゃ俺はもうちょっと楽な人生を送れていたのかもしれん。ただただ運が悪かったなぁ」


Face_kenichi

駁沼さんって?


Face_fui

駁沼日和先生は、雷晃先生と一緒に真理学園を、その……盛り上げた? 先生です……


Face_saya

何か、ひかりの雷晃、やみの日和、とか云われてるわね


Face_kenichi

何その表裏関係かっけえ


Face_fui

駁沼先生のことは、よく分からないみたいです……自分を出さない人、だったらしくて


Kenichi

だからこそ陰と云われ……しかし確実に雷晃政権を引っ張った偉人の一人ってことになるのか。
んで……
気になってるのは、その政権の内容だな……



【啓史】「そんな感じで3年かけてパワー溜めたら、そっからは凄かったよ、怒濤どとうだ怒濤。

 

優海町から他の学校施設を逆に追い出したし、優海町との信頼関係を表面化して、領土を貰って。更に人を集める……いや、人を巻き込む為に森林化を始めた。

 

皆の知ってる、この自然豊か過ぎる街の姿になっていくんだ」


Face_kenichi

翠さんみたいだな……


Kenichi

いや、きっとあの人よりも過激に推し進めた人だったのだろう。
灘政権が大切にしてたらしい静けさが、そこにはもう見当たらなかった。
殆ど真理学園は、別物となっていった。



【啓史】「そして皆もお世話になってる、今の一般棟が建築されたタイミングで、病死した。間違いなくアレは夭折ようせつだったなぁ。奔り回されていた俺らからすれば、ラッキーだったのかもしれない。

 

何故かあの人が死んだのとほぼ同じタイミングで、駁沼さんも行方をくらませた。結構捜索もしたんだけども……色々あってすぐに打ち切り、結局あの人の姿は二度と見られなくなっている。不思議とその現実を、当時を知る俺らは受け容れられた」


Face_kenichi

…………


Kenichi

まさに、陽と陰、か。


Kenichi

そんな文学的な事件実際に起こされても残される側は迷惑でしかないが、なかなか鋭さを持ったストーリーだな。


Face_kenichi

でも、それじゃまた暗黒時代に陥ったんじゃないか? いきなり学園を照らしてた中央集権たる光が消えたんだから


Face_fui

それが……


Face_so

そうは、ならなかったんだよねぇ……



【啓史】「雷晃政権が終わって……まぁ、すぐに次の政権が始まったわけだ。
皆にとっては、こっからが具体的に大事なことになってくるんだろうなぁ。ま、B等部の頃イヤって程思い知らされてきたとは思うんだけども……

 

それが――銘乃政権


Face_kenichi

ふぁっ!?


Kenichi

い、いきなり――


Kenichi

いきなり翠さん入ってきたーーー!?!?


Face_midori

すやぁ


Kenichi

しかし当の本人は今日もシリアスに耐えれずすみっこの敷き布団で熟眠中だ!!


学園史4

 

【啓史】「銘乃政権は現在進行中だから過去形のように扱えないんだけども……少なくともこれまで作ってきた功績は全て、雷晃政権で草案のまま溜め込まれていた政策だ。いわば後片付けをしてきた、と云うべきか。

 

図書館を作り、空中歩廊棟を作り、職員棟が一般棟に組み込まれ、昨年度にはGACが地域共有の形を保ちながら完成された。クローズ・ガクを経験した皆さんには協力大変感謝してるよ。ああいう騒がしいことを、学園はずっとずーっと繰り返しながら、発展していったんだよ」


Face_kenichi

あの翠さんが後処理担当と云われるのか……事実なんだろうけど、何かしっくりこないな


Kenichi

あの人自身が傍若無人なもんだから、凄く主体的に感じるんだけども。


Face_saya

でも、あの学園長が作ってきた業績って、いわば雷晃様のお零れみたいなものよね


Face_saya

そう考えたら、随分楽に汁を頂いてるだけって感じもしてくるわねー


Face_kenichi

それを娘の前で堂々と口にするお前に俺は戦慄せんりつを覚えざるをえないよ


Face_fui

あ、あはは……その、大丈夫です……


Face_fui

慣れてる、から……


Face_so

雷晃政権に負けず劣らず、翠さんもディスられてきてるからねー……


Face_so

謙一パイセン知ってますー? 真理学園ってものすごくお外から嫌われてるんですよー


Face_kenichi

そもそも真理学園知らなかった俺が知ってるわけないだろ


Face_kenichi

まぁ、信じられない、なんてことは全然無いけどな


Kenichi

世間から評価されていない、という淘汰の要因は変わっていないわけだ。
雷晃政権は、その状態を改善するのではなく、その淘汰を跳ね返す為の巨城を築き上げることに集中した。
だから、優海町と真理学園は不可分となった。
けれど外部からは益々嫌われた。MSB内部でも嫌われてるっていうんだから相当な孤独感だ。
……だったら。


Face_kenichi

どうやって在校生を確保してるんだって話になるよな


Face_keji

それは灘殿の時代から、解決している問題だよ管理職殿


壇上から住吉啓史は降りてきていた。
気付けば講義は終了していたのだった。


Face_kenichi

やっべ、また怒られるパタンだぞ……


Face_so

啓史さん、こんにちはー!!


Face_keji

相変わらず元気だねぇ君も。いや元気なのは君ら全員か


Face_keji

今日もずっと喋り通してたねぇ。流石銘乃政権チルドレン


Face_kenichi

変な枠作ってくくらんといてください


Face_kenichi

……それで、解決してるってどういうことですか?


Face_keji

寮制度さ。灘殿が作り上げた、最古にして最大の“布”概念


Face_keji

家なき子っていうのは世界中何処にでも居るものだが、兎に角拾える範囲に居る子は見境無く拾ってね


Face_keji

寮を……真理学園を家としたのさ


Face_kenichi

――それって


Face_keji

真理学園は、赤字続きだ


Face_keji

それもジェットコースターの下り坂みたいに真っ赤だ


Face_keji

だけど、クローズを推し進めているうちに、灘殿の意図したことかは兎も角として……


Face_keji

優海町との繋がりができた。雷晃政権はそこに着目して、優海町唯一無二の学園、そして政治場の座を確立させた


Face_keji

だから優海町は真理学園を助けてくれる。一次寮生の最低限の生活費を作り、彼らはそれ故にクローズに徹する


Face_keji

一次寮生に地域性は不可欠であり、地域も彼らを地元民と認識して、この先卒業しても生きていけるよう支援する


Face_keji

結果、家無き子も卒業し優海町を出て、何処かで生活を作れるようになる


Face_keji

灘殿の意図かが分からない結果物を、雷晃さんと駁沼さんは一滴残らずすくい取ったわけさ


Face_keji

歴史って多分こうやって創られていくんだなぁと思わされたよ


Face_so

めちゃ画期的ですけど、まぁ強烈なんでブーイングも凄いですよー


Face_so

しかも灘政権から始めてることなんで、根も深いです


Face_fui

もう完全に地域一体のことだから、今更撤廃てっぱいもできないだろうし……


Face_keji

確かに、需要は一定数確保できている


Face_keji

だけども淘汰の対象とみられることを、最早逃れる術は無い。自ら断ち切ったんだから


Face_keji

学園が保てなくなる時は、灘殿が恐らく思い浮かべていたであろう平和――


Face_keji

家なき子の居ない世界になった時、だろうな


Face_kenichi

凄え良いまとめ方に持って行きましたね、涙出そうですよホント


Kenichi

問題は山積みだろうけどな!!!


Face_keji

ま、過去なんて関係無いわな。今を生きる若者に大事なのはやっぱり今


Face_keji

大切なものがあるなら、それを大切にしてればいい


Face_keji

……君らの場合は、かなり政治的に立たされることにもなるだろうが


Face_keji

ソレも含めて、楽しい青春の思い出としてくれや


住吉啓史は去って行った。


その向かう先……未だグッスリ眠っている学園長の方角を、謙一は眺めていた。


Face_kenichi

…………


Kenichi

俺たちは……


Kenichi

この真理学園において、何者、なんだろうな――


最初から抱いてきた疑念。
それは依然真っ暗闇なものであるものの――


確実に、謙一の中で大きく硬く、付きまとう質へと変化する。


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