「特変」結成編1-9「9つのルール(3)」
あらすじ
「だが、帰れない。今の俺にとって、最優先事項は堀田美甘だ。」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」1章9節その3。クラスアクションで特変がルールを定める中、謙一くんが最も問題視するのは堀田美甘ちゃんでした。次のレク企画へが始まる一方で、謙一くんと志穂ちゃんはそんな美甘ちゃんに近づきます――。
↓物語開始↓

【啓史】
ずっとくっちゃべってくれちゃってもう

【謙一】
すんません

【啓史】
まぁ全然怒ってないからいいけど

【謙一】
それはそれでどうなんだろう
Kenichi
じゃあ何で俺呼ばれたの……

【啓史】
おっと、特変管理職さんは忙しい身だったね。手早く済ませないと

【啓史】
知ってるかどうかは分かんないけど、俺は住吉啓史。銘乃翠の補佐役だ

【謙一】
さっき聞きました。大変ですねそんな役職

【啓史】
ほんとだよ、人使いが荒いことこの上ない

【啓史】
GACプロジェクトが落ち着いてやっと銘乃政権も落ち着いてくれるようになったかな、と思ったら……

【謙一】
俺たちですか……

【啓史】
君らの、まぁ……外部政治的立場とでも表現しておこうか。真理学園を護る城壁といった方がいいかな

【啓史】
それを固める作業に追われたよ、GACの時よりも忙しかった……

【啓史】
ま、外交とかはコッチに任して、君らはまず学校内で落ち着くことを目指すといい

【謙一】
よく分からない領域で迷惑かけてるみたいっすね……ありがとうございます

【啓史】
……落ち着いてるもんだ。歓迎祭の時とはまるで別人だな

【謙一】
心構え作ってきてるんで。人生懸けてますし

【謙一】
何とか特変に、最低限の枠を確立させる……この二泊三日のイベントはその時に相応しい

【謙一】
どうせ学園長もそう期待してるでしょうし

【啓史】
そこまで見通してるのか。やっぱり恐れ入るな、あの人は……
Kenichi
啓史さんが、未だお布団でグッスリすやぁな学園長へ視線を送る。

【啓史】
あの人の目は、原石を見定める力だけは確かに持ってる。いや、あの人の場合は……

【啓史】
どの種が、華々しく芽吹く生命を内に宿しているかを見定める経験、と云った方がいい

【謙一】
は、はぁ……

【啓史】
真理学園は、あの景観から分かるように、銘乃翠の“森”だ

【啓史】
銘乃翠が、野望の為に作り、育ててきた空間なんだよ

【啓史】
しかし、特変の、最も大事な管理職に選定したのはその空間の外からやってきた受験生だった

【啓史】
だからこそ、この苦笑したくなる偶然には全てを懸ける意味がある

【謙一】
…………

【翠】
すやぁ

【啓史】
特変に、二度目は無い……だから、悔いの残らない青春を送ってくれたまえ

【啓史】
銘乃翠学園長はあらゆる意味で、それを願っているよ――
Stage: 合宿場 林道

【謙一】
……感謝してくれよ

【謙一】
わざわざ話題を振らなかったんだからさ

【謙一】
あいつらが何を思ったかは流石に分からないけど、結果としてあの時間は生き残った

【謙一】
しかし、明日は分からない。恐らく情あたりが許さない

【謙一】
だから――お前にも、必ず云ってもらう

【謙一】
お前の譲れないものを――お前の口でな

【美甘】
…………

【謙一】
美甘
クラスアクションが終わり、レクリエーションなるイベントが始まる直前の時間。
建物を出て、300m離れた森林。
独りで、歩くわけでもなく、戻るわけでもなく。
ただ立ち止まっているばかりの女子を、二人は見逃さなかった。

【志穂】
確かに、良い空気かもしれないけどなー

【志穂】
戻ろうぜー。次のイベントが始まる。レクリエーションだったっけか

【謙一】
イヤな予感しかしないよな。学園長もいることだし

【謙一】
そういうわけでお迎えに上がったんだが、どうだろうか

【美甘】
…………
Kenichi
……振り返り俺を見たその目は、一体俺に何を求めてるのか。
そもそも何も求めていないと考えるのも有りだし、まずソレが普通なんだろう。
Kenichi
……だが、どうにも俺は、そうは思えないようだった。

【謙一】
敵意、かな

【謙一】
俺たちはお前の敵なのかな

【志穂】
同じクラスメイトなのに?

【謙一】
枠は枠でしかない。俺たちの思想や心情は支配されない

【謙一】
少なくとも、俺はそういう枠でいこうと思ってる。皆もソレが良いと思ってる

【謙一】
情は誰も味方とは思ってないだろうし、沙綾も奏も、場合によっては俺らを敵と見なすのを躊躇わない

【謙一】
俺たちは別に仲間になろうとしているわけじゃない。だから、コレでいいと俺も思ってる

【謙一】
各々譲れないものがあって、それのためにぶつかり合うなら……それ自体を否定はしねえよ

【謙一】
だけど、否定も肯定も、判断してくにはキチンと表してくれなきゃ困るんだ。管理職として甚だ困るんだ

【謙一】
つまり、まだ表明すらしてくれてないお前が、俺にとって一番困る相手なんだよ現状

【美甘】
…………

【謙一】
敵かどうかも、分からない。俺は察し良い方だけど、確定と呼べなきゃ全部分からないの一言だ

【謙一】
お前のスタンスが、分からないんだ

【美甘】
…………
Kenichi
……遠くで、アナウンスが聞こえてる。
時間だ。恐らく今、集合場所のグラウンドでレクリエーション内容が発表されているのだろう。この声は、学園長か……。
どうせまた、特変を中心に置いた無茶振り企画なんだろう。
Kenichi
だが、帰れない。
今の俺にとって、最優先事項は堀田美甘だ。
俺も志穂もソレを理解してるから、時間で焦る気持ちを持たない。
Kenichi
逃がさない。

【美甘】
…………

【志穂】
……いつまでだんまり決め込んでるんだよおめーは
志穂が一歩、前に出た。

【美甘】
…………
それに対し、美甘は――
構えた。
その様子を、謙一は黙って見ていた。

【謙一】
…………
十数秒して、謙一も動く。

【謙一】
志穂、あんまり無理に動かそうとすんなよ

【志穂】
こんなのはパパッと切り込んじまえばいーだろ。私は心理戦とか嫌いなんだ

【謙一】
おいおい……
Kenichi
志穂が二、三歩……
どんどん歩いて、距離を詰めていく。
草の潰れる音が短く鳴るたびに……

【美甘】
……!
Kenichi
美甘の警戒が、強まっていく。
Kenichi
…………いや。
Kenichi
アレは、警戒じゃなくて……
寧ろ――

【美甘】
――!!

【謙一】
おい志穂!

【志穂】
正直、アッチも心配なんだー。また歓迎祭の時みたいにアイツらが暴れすぎないか、なー

【志穂】
だから手早く済ませる。ごり押しってやつだ

【謙一】
いや、この戦闘の流れに一体何の意味が――
謙一の疑問の声も次の瞬間、

【美甘】
ッ――!!

【志穂】
お前の防衛手段を――ねじ伏せてやる
二カ所で大きく弾けた草の音と、手と足の激突音で掻き消された――

【noname】
【1年】「「「くたばれ特へえぇええええええええええええん!!!!」」」

【奏】
懲りないなぁ同級生先輩の諸君!! まーた蜂の巣にしてあげるよ!!

【譜已】
じ、情先輩には、今度は当てちゃダメだからね……?

【情】
うるせえ蠅共が……消し炭にしてやるよ

【沙綾】
火も無いのにどうやって消し炭にするのかしらねー

【乃乃】
そもそも蠅を灰にしてもあんまり見分けつかないのでは

【凪】
更にそもそもな話、管理職さんは一体何処に行ったのかしら

【凪】
あの二人の暴走を止めるのはあの人の役割でしょうに

【沙綾】
早速職務放棄かしらリーダー。ていうか秋山さんも居ないじゃない。あ、間違えた、志穂だった

【情】
くたばるのは――

【奏】
てめえぇええらだあぁあああああああああああ!!!

【翠】
うふふ~、この活気ならマイフレンドも満足してくれるんじゃないかしら~

【啓史】
あの人も貴方みたいに祭好きですからね

【啓史】
血湧き肉躍る、狂気と云い換えても差し支えないほどの活気を

【翠】
でも、肝心の謙一くんが見当たらないわね~……

【翠】
是非ともこの前の歓迎祭のリベンジをしてほしかったのだけど……それは期待できそうにないわね~

【啓史】
まぁ、一日目ですから。きっと今頃、“山場”と向かい合ってるんだと

【翠】
大丈夫よ~。私の見込んだ謙一くんなのだから

【翠】
美甘ちゃんを虜にするのも、時間の問題だわ~

【啓史】
何を期待しとるんすか。彼の代わりにツッコんどきますよ

【啓史】
しかし……学園長は、彼女の事情か何かをどこまで知ってるんですか?

【啓史】
珍しく俺は全くといっていいほど探りを入れてないですけど

【啓史】
より正確に云えば、彼女に限らず特変面子について、俺は殆ど知らないし、調べることもしてない

【啓史】
アンタが指示しなかったからだ。アンタのことだ、そこにも意図があるんでしょう?

【翠】
ソレをやるとしたら、啓史さんじゃなくて謙一くんでしょうから

【啓史】
……アンタの娘の事情だけは知ってるが、知ってたところでどうしようもないのが現実

【啓史】
勘が云ってますよ。あの7人、全員そのレベルだ

【啓史】
いや――8人って云わなきゃダメか

【啓史】
兎も角、彼にいきなりソレを背負わせるってのは幾らなんでもハイリスク過ぎませんか?

【啓史】
どうせ何も変わらないんでしょうから、無駄と思いながら質問させてもらってますけどね

【翠】
……特変を、創るのは彼ら

【翠】
私たちはそれに携わっちゃダメよ。私たちの手には無いもの

【翠】
無いものから、有るものは生まれない

【翠】
だからずっと、ずっと待ち続ける羽目になったのだから……

【啓史】
…………

【啓史】
話を、戻しましょう

【翠】
私が、美甘ちゃんをどこまで知ってるかってとこね

【啓史】
他の子は知りませんが、少なくとも彼女については色々知ってるでしょう?

【啓史】
なんせ、真理学園で起きた事件なのだから

【翠】
……………………

【啓史】
今は萌池さんにC学校長の座を譲って、具体的なC等教育の場からは退いてるが……

【啓史】
あの事件の時はまだ、アンタが校長だったでしょう

【翠】
……私が対処できなかった、謎の多い事件

【翠】
来ヶ谷桐奈ちゃんを殺したのは自分だと当時の彼女は云ってたけど、それは捜査結果からしてあり得ない

【翠】
桐奈ちゃんの書き置き。桐奈ちゃんの身体的死因。当時の美甘ちゃんの居場所と精神状況。何より……

【翠】
あの時期の、C学棟はとても自然な空気ではなかった

【啓史】
……ええ

【啓史】
まぁ十中八九、灰个くんが関わってたでしょうね

【啓史】
クロウス先生が告発をして、そこから何があったのかは俺も目で追い切れませんでしたが……

【啓史】
今でも彼は生きてるんでしょうかね

【翠】
それは、どうでもいいこと

【翠】
大事なのは今。今の、美甘ちゃん

【翠】
美甘ちゃんに……謙一くんが、どう踏み込んでいくのかが、大事なこと

【翠】
私に分かるのは、これくらい。結局あの時期のことは、啓史さんの方が詳しいわ

【翠】
本当に……ありがとうね、啓史さん

【啓史】
……何も、解決してないですけどね
Midori
そう。
何も解決していない。できなかった。
Midori
つまりその領域に、私たちじゃ踏み込めない。私たちには、無いのだから。
Midori
そして、その無いものを――
矢張りあなたは、持っているのだから

【翠】
しっかりね……謙一くん

【謙一】
…………

【美甘】
…………

【謙一】
…………

【美甘】
…………

【謙一】
…………

【美甘】
…………
Kenichi
……さて。
Kenichi
そろそろ起きるか。
Kenichi
取りあえず……

【謙一】
何で俺まで蹴ってんだよ!!!
もう既に見えない背中に向かって叫ぶ謙一。
遠くからは祭りの音が聞こえてくる。
その一方で、二人の空間は不思議な静けさに包まれていた。

【謙一】
……大丈夫か、美甘

【美甘】
…………
Kenichi
相変わらずの無反応。
まぁ、無事みたいで何よりだ……

【謙一】
ホントアイツ、容赦無いよな……

【謙一】
いや、容赦無いっていうか大雑把過ぎるんだよな
Kenichi
美甘に喧嘩仕掛けたってところまでは、まぁ百歩譲って理解するとしよう。
美甘が自慢の筋力をコミュニケーションの障壁として立てているなら、その障壁を突破してやれば状況が動く……恐らくはそういう理論。
Kenichi
そして見事に現実としてアイツは美甘を突破した。なかなかに見応えのある戦闘だった。
二人が相当な護真術を持ってるのは入学式の時に判明してたわけだが、そんな二人が激突するんだ、そりゃ火花の散り方も違う。
だが、美甘が草に倒れてることから分かるように、志穂の方が一枚……いや二枚か三枚は上手だった。何より速度が段違いだった。美甘の攻撃は掠りもせず……もうズバッと云ってしまうなら、志穂のワンサイドゲームだったのだ。
確かに、障壁は破壊されたのだろう。圧倒的な筋力を、しかしもっと圧倒的な暴力で以て無効化し……
開戦前に云っていたように「アッチが心配だから」ってことで志穂はレクリエーションの場所へと向かった。不覚にも去り方がカッコいいな、とか思ったのも認めよう。
Kenichi
ただ一つ、やっぱり分からないのはどうして俺まで地に伏されてんだってところだ。もうソレがアイツへの評価全部台無しにしてる。怒り心頭である。
ということで謙一は溜まりに溜まった志穂への文句をぼやき始めた。

【謙一】
ていうかだ。アイツいつまでマフラーしてんだよ。もう春だぞ。冬はとっくに過ぎてんぞ

【謙一】
いや、冬もアイツはおかしかった。逆にマフラーだけってどういうことだよって

【謙一】
まぁ? マフラー姿は正直黙って立ってればクールに見えてカッコいいかもしれないけどさ

【謙一】
実際見る姿は机に突っ伏して惰眠貪ってるのばっかだよ。何なのアイツ。意味不明だよアイツ

【謙一】
あともう一つ意味不明なところ挙げるなら、アイツの科学観だよ。色々面白いの持ってるみたいだけどさ

【謙一】
特に凄えなって思った妖精のれぼちゃん、誤ってカレーと一緒に煮込んで壊したとか云ってんだぞ

【謙一】
あんな存在感放ってるキャラ、普通そんな殺し方するか? 普通これからもっと活躍するだろ?

【謙一】
小さい相棒的な、さ。でんきねずみ的な? 仮面の精霊的な? 喋り達者なイタチ的な?

【謙一】
そんな愛されるべき相棒枠をカレーで煮込んで殺すってあるか? しかもアイツそんな反省してねえぞ!

【謙一】
殺したとか思ってねえんだよアイツ! 物壊しただけで、必要になったらその時直せばいいとか云ってんだよ!

【謙一】
直す技術があること自体にも驚きだけど、取りあえずアイツの価値観とは簡単に相容れないんだろうなと――
更にぼやきは続く。
志穂に限らず、彼にストレスを毎日振り掛けるクラスメイツに対する溜め込んだコメントをぼやき続ける。

【謙一】
情もなっかなかに寝まくってるよな。別に寝ること自体は良いんだ。けど静かに寝てほしいんだ

【謙一】
それで起きたかと思えばいきなり眼光効かせやがってよ。怖いんだよないちいち

【謙一】
見られるたびに「今日家に帰れるのかな」とか思わされるんだよ。勘弁してほしいよ全く――

【美甘】
…………

【謙一】
凪も、ぶっちゃけ情に匹敵するレベルで話しづらいんだよな。静かだけど、それがまた怖いんだよな

【謙一】
それで口を開けたかと思えば吐くのは毒ばっかりなんだよ。基本他人を助ける言葉じゃないんだよ

【謙一】
平穏、平穏、平穏って……良い性格してると思うよホントに。隣の譜已ちゃんが可哀想だ――

【美甘】
…………

【謙一】
奏は兎に角転びすぎだってーの。ルール上それをバカにはしないけどさ……いきなり隣でダイブされたら流石に驚くわ

【謙一】
んでもってバカだし、喧嘩は簡単に売り買いするし、騒がしいし。隣の譜已ちゃんが可哀想だ――

【美甘】
…………

【謙一】
譜已ちゃん、良い子なんだけどなぁ……もうちょっと自分の欲を出してもいいと思うんだよな

【謙一】
残念ながら特変の一員なんだから、あの子にもしっかり主張してほしいとは思うんだ俺

【謙一】
じゃないと周りの主張に押し潰されるんじゃないか……なんて

【謙一】
その反動が、もしかしたら“機能”発動してからの暴れっぷりなんじゃって

【謙一】
ぶっちゃけ譜已ちゃんの殺戮姿なんて見たくないんだよなぁ――

【美甘】
…………

【謙一】
沙綾はもう、何というか、清々しい程に自己中だよな。そんなの面子全員そうだろって感じだが、アイツは露骨だ

【謙一】
場をテキトウに掻き乱したかと思えば本人は高みの見物してたりさ。黒猫だよ。髪は水色だけど

【謙一】
あと、かーくんの事とかいい加減詳細教えてほしいんだよな。俺知らないって云ってんのに、仕方無いのに

【謙一】
その話題出るたびに俺が知らないってことでアイツ勝手に不機嫌になってさ――

【美甘】
…………

【謙一】
乃乃の嫌がらせって、何か一般人の思いつくそれとは次元が違う気がするんだよなー

【謙一】
色々リアクションとかコメントが湧き出てくるんだよ。でも地味なの多めだなー

【謙一】
結果としてテレビ映えするのかしないのかよく分からん、絶妙なものを毎度毎度……

【謙一】
よくもまぁ用意できるよなって最早感服するレベルだわ。てかアイツ基本いっつもジト目だな――

【美甘】
…………
ずっと、ずっとぼやき続ける。
溜まりに溜まったものを、この時間ずっと、放出し続ける。
最早謙一に、レクリエーション合流しよう、とかいう考えは無かった。

【謙一】
――はぁ……めっちゃ喋ったな俺
Kenichi
ワンサイドゲームなノリでずっと喋り倒してたな俺。
Kenichi
……こういうことをやったのは久し振りだ。文句も不満も、やっぱり溜め込むものじゃない。だから……

【謙一】
サンキューな、美甘

【美甘】
……?
突然のお礼。
美甘には全く理解できない、奇襲に近い言葉だった。

【謙一】
悪かったな、いきなり喋りまくって

【謙一】
こんなのは会話じゃない、ただ俺が暴言吐いて……いわばお前を捌け口みたいにして、勝手に発散してさ

【謙一】
けど、それもできたのは、お前が相手だったからだ

【謙一】
お前は、特変では珍しい傾向の……優しい奴だからさ

【美甘】
――――
Mikan
――今。
Mikan
お前は……何を、云った……?

【謙一】
譜已ちゃんが云ってたよ

【謙一】
堀田先輩が助けてくれたってな……
Kenichi
詳しくは聞いてないけど、恐らく沙綾とか乃乃あたりの魔の手を、さりげなく退けてくれてたんだろう。
譜已ちゃんはそういう防衛手段も、他の人のことを考えて控えてしまう傾向があるから……そうやって譜已ちゃん同様に周りの人が気を配ってくれることが、譜已ちゃんには大切なことだ。
Kenichi
凪や奏がそのポジションなんだろうが……あの二人は少々、いやかなり模範の人格から遠い人間のように思える。やっぱりこのクラスに所属するのは自分のことに従順というか精一杯というか……そんな奴ばっかなのだ。
Kenichi
だから、周りを見ている美甘は、恐らく特変の中では良識を持っているのだと、云っていいんじゃないだろうか。

【謙一】
それに……俺の話、最後まで聞いてくれてたらしいからさ

【謙一】
俺のぼやきに限らず、クラスアクションの時だって、全く発言はしてないけど話は聴いてた

【謙一】
今日に限らず、大事な話は全部聴いてた。授業の時にソレは発揮されないみたいだが……

【謙一】
一生懸命に俺の話を聴いてくれるお前だから、俺は話をするんだ

【謙一】
お前が優しいのを知ってるから、俺は諦められないんだ

【美甘】
…………
Mikan
何で――
Mikan
何でそんなこと、分かるんだ。

【謙一】
……俺の勝手な予定だと、近いうちにお前にもルールを定めてもらいたいわけだ

【謙一】
つまりお前の言葉を聴くつもりだ。その為にこんな感じで、行き当たりばったりで接触してる
Mikan
ウチは何も言葉にしていないのに。

【謙一】
ただ、焦っても仕方無いのは分かってるつもり。お前のペースとでも云うべきか、それも無視はしないよ
Mikan
ウチは視線も合わさないのに。

【謙一】
……その上で、一つ、本当に勝手なことを云うんだけどさ

【謙一】
指摘というか、予想というか……的外れだったら俺がハズいだけだし、スルーしてくれていいけどさ
Mikan
誰も、近付けていないのに……いなかったのに――

【謙一】
美甘。お前――
Mikan
どうして、お前の言葉は、こうも――

【謙一】
――揺らいでる、よな?
Mikan
ウチの領域に、入ってくるんだ――