「特変」結成編1-6「迫害!」
あらすじ
「あぁ……恐れていた最悪の展開に……」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」1章6節。毎年恒例の新入生歓迎祭とかいう名前のけんか祭りが今年も開催されることになりました。それに何を思ったか翠学園長が賞金を出すとか云い出して、お小遣いを稼ぎたい学生さん達のヤる気は頂点に! 同様に気合い充分な特変面子に何か最高に嫌な予感を抱きつつ、謙一くんは1年の部の舞台に立つ羽目になったのでした…… ※今回はやっとと云うべきか、戦闘要素が濃いと思います。「護真術」「機能表示」「概説」などの、物語的に超重要な戦闘用語はいつか補講でもまとめます。
↓物語開始↓
歓迎祭は過去最高の盛り上がりをみせていた。
一石二鳥!! 億万長者!!
金の魔力は何かしらの箍を破壊し、人々はどす黒い欲望の色を躊躇無く曝け出していた。
そんな恐怖の図のド真ん中、もとい競技スペースを中央に流れで特変は立たされた。
因みにいつもの癖(=ストーキング)で無関係者徳川秋都も真ん中に立ってしまっていた。

【秋都】
――はっ!!?
Akitsu
し、しまったあぁあああ!!!
私、自ら生命の危機にぃいいいいい……!!??

【謙一】
ちょ、徳川何で此処にいるの!?

【秋都】
ご、ごごごごごめんなさい!!? 成り行きの静かな暴走というか何というか!?

【奏】
アレ、知らない人が居るー

【謙一】
別クラスの徳川だ。お前らマジで粗相の無いようにな! 迷惑かけんなよ!

【乃乃】
私そこまでス〇トロな趣味ありませんが

【謙一】
具体的にはそういう話題を引っ提げてくんなっつってんの!!

【沙綾】
私遠嶋沙綾ー、テキトウによろしくどうぞー

【奏】
二邑牙奏っていいますー徳川パイセンー。こちらの根暗眼鏡が烏丸凪でーすよろしく

【凪】
よろしくするつもりもなかったのだけれど

【情】
賞金狩りの邪魔になるならテメエの首も狩る

【乃乃】
粗相のできない私など最早私ではない故、自己紹介できませぬ

【秋都】
ひぃいいい……!!?
更に成り行きで特変式自己紹介に襲われる秋都。それと同時期……
確実に場内の熱気、及び殺意は中心たる特変に向けられていた。

【謙一】
オイオイオイ、この数は流石にヤバくないすかね!!!

【謙一】
徳川虐めてないでお前らホント協力して切り抜けるよ!?
Kenichi
こうなった以上、もう勝ち抜けるしかない!
幸いにも場内には同学年だけ……それなら一応入学式にも経験した規模。今回はほぼ「全員」来そうだが……
冷静に……戦況を、支配するんだ。
という管理職井澤謙一の精神統一を二邑牙奏が壊しにかかる。
表示した拳銃で天井を撃ち、開戦を挑発するという謎の行為によって!

【謙一】
は!? 何してんの勝手に!?

【奏】
いやぁ、一度こういうの憧れてたんですよね! 何かカッコいいでしょ!

【奏】
ほらほらほらー! いつでも掛かってきんしゃーい!

【奏】
私を倒さなきゃ、プレフォウは手に入らないぞーう!!
ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!
意味の無い空中への発砲。
誰を撃つわけでもない、その音は……

【男子】
上等だごらぁ……

【男子】
こちとらベテランの貧乏寮生じゃわれえぇええええ!!
奏の思惑通り、獣たちの最後の檻を破壊するようだった!
それを見逃すアトラクション脳学園長ではなかった。

【翠】
― 皆もう我慢できないみたいね~! それじゃあ…… ―

【翠】
― 開戦~~~!!! ―
予定時刻より早く、ホイッスルが鳴る!
しかし会場全体に響くその音は一瞬にして――

【学生】
「「「うおぉおおおおおおおおお!!!!!」」」
弾け飛ぶ学生たちの怒号によって掻き消される!!

【秋都】
きゃあぁあああああああ!?!?

【謙一】
おいぃいいい何してくれてんだお前えぇええ!!
早速冷静さも掻き消された謙一が主犯に目をやる。
そして目撃したのは、二邑牙奏の跳躍だった。
正確には、一番乗りで突っ込んできた獣共を迎撃し、その倒れゆく背中を踏み台に跳躍し、

【男子】
がうっ――
“機能”によって大跳躍し空中奇襲を企てていたのだろう獣共も撃ち落とし、落下する背中も更に踏み台にし――

【奏】
背中失礼しまーす!!

【男子】
グァッ――!!
まるでレトロゲームでよく見る場面。
滝を、定速で落下してくる丸太らしき足場を次々ジャンプで乗り換えて登る姿。
……二邑牙奏は、30m以上の高度に辿り着いた。

【奏】
…………
その目は、地上を。
正確には自分より下の高度に居る、旺盛な人間たちを映していた。
大勢の人間、ではない。
317人の人間。
そう二邑牙奏は認識していた。

【凪】
……来る

【謙一】
え?

【凪】
あの子の“概説”が来る。無闇に動かないのが身のため
Kenichi
……高度の二邑牙奏を眺めた。
Kenichi
ああ……アイツ――

【奏】
…………
Kenichi
最悪だ。笑ってる。
Kenichi
そんなイタズラな笑みを確認した次の瞬間には――

【奏】
――『生き攫いの流星雨』”!!
Kenichi
――雨が、降った。

【学生】
「「「ぎゃあぁあああああああああああああ――!!?!?」」」
Kenichi
銃弾の雨が、地上総ての人間に降りかかった!!

【謙一】
嘘だろ……
Kenichi
弾倉交換でなく、銃そのものを交換するのが幹接続のアイツのスタイル。
二邑牙の周りに、沢山の拳銃が舞っている。
全て、あの瞬間に捨てられたのだろう。
1弾倉が20発と仮定した場合、舞った拳銃はざっと30程度――
Kenichi
600発。
この雨は、約600発。

【謙一】
アイツ……まさか……
Kenichi
それよりも驚くべき事態が、一つある。

【謙一】
そんなこと、あるのか……?

【凪】
…………
Kenichi
烏丸、それにクラスメイトたちを見回す。全員俺の周りに居た。
Kenichi
全員無事だった。
烏丸に至っては読書していた。何も焦る必要は無いと云わんばかりの姿。
Kenichi
俺たちには当たらない、それが分かっているかのように――

【謙一】
……当たらないのか
Kenichi
違う。分かっているんだ。俺たちには当たらない。
その理由は、大地を見れば分かる。
人間の身体というのは、自動車のドア以上に遮蔽物として優秀だ。
当然銃種にもよるが、銃撃された時、銃弾のエネルギーの殆どは人体で消費される。つまり貫通しない場合が多い。
Kenichi
……この雨の割に、ステージが全く殆ど穴だらけになっていないということは――
全く殆ど、人体に命中しているということ。
そして俺らに当たっていない。
Kenichi
したがって、これは――乱射じゃない。
Kenichi
精密射撃――!!

【学生】
「「「ぎゃあぁあああああああああああああああああああ!!」」」
一瞬の地獄絵図。
金に滾っていた獣たちの8割以上が、この瞬間に強制沈静させられた。

【奏】
パイセーーン!

【謙一】
!!

【奏】
キャッチしてーーーー!!

【謙一】
いきなり!? いきなりかよぉおおお!!?
30m上からノープランな奏が落下してくる。
失敗は洒落にならないのは明らか。謙一はアドリブで抱きとめた。
結果腕を痛めた。

【謙一】
ぐおぉおおおおおお……

【奏】
ふぅ……さて、一気に参加者が減っちゃったわけだけどぉ――
痛みでゴロゴロのたうち回ってる管理職をガン無視して奏は再び、空に銃を撃つ。
ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!
その視線は、水辺線でなく、より上を――
観客スペースへ向けられていた。

【奏】
――もっと、盛り上がらなきゃねぇ!

【謙一】
お……おま……まさか……――
マイクも無しに叫んだところで、アリーナの広さ故にその声自体は届かない。
だが――
ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!

【奏】
いっそさ、他の学年の人たちもぉ、来てくれていーんですよー!!
ダンッ――!
……………………。
……………………。
……………………。
――人間、空気と文脈を通して何となく伝わるものである。

【学生】
「「「上等おぉおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

【謙一】
ぎゃあぁああああああ炊きついたあぁああああ!?!?

【奏】
大丈夫ですよパイセン、ちょっとぐらい羽目外したって「お祭りだからつい」で許されますって!

【奏】
何といっても裁判官は翠さんですから!

【謙一】
そういう問題じゃないよね!? 外さなくてもいい領域わざわざ外したよね!?

【奏】
考えてみてくださいよパイセン、他学年も全滅させちゃえば、それだけ賞金アップですよきっと!

【奏】
こんな富豪チャンス……見す見す逃すわけないっしょ――

【謙一】
!!?
突如空より拳が降ってきた。地面が大いに割れて、破片が付近にいた謙一にもぶつかった。
落下位置に立っていた奏は直前で察し、跳び回避し……攻撃主を確認する。

【情】
おいゆでだこ野郎……

【奏】
野郎じゃないんすけど私。てか何してるんすか衒火パイセン、私クラスメイトなんですけど?

【情】
なるほど、確かにそうだ……だが、それなら――

【情】
何で俺の身体に二、三発弾がめり込んでんだ――?

【謙一】
……………………
Kenichi
俺は自分の目から程よく生気が失われる感覚を理解した。
程よく生気失うって何だろうな、とか色々疑問はあるけど、それ一つとて追及する精神的余力が無いのも理解した。

【奏】
あー。ごめんなさーい? えっとぉ、乱射だったからぁ、衒火パイセンに当たるのもまぁ有り得たかなぁって

【情】
……良いこと教えてやるよ

【情】
もっと賞金が上がる方法だ

【奏】
ほーう……それは耳寄りな情報ですね。是非是非

【情】
難しい話じゃねえよ。つまりだ――

【情】
クラスより細けえ単位で全員ぶっ飛ばせば独り占めできるってことだあああ――!!!

【奏】
あっは!! 天才っすねパイセン!! んじゃあ、まずパイセン沈んでくださいよー!!

【奏】
私、丁度今欲しいコートがあってーー!!!

【情】
冬は去った! 今要らねえだろ、テメエが潰れろぉ――!!!

【謙一】
あぁ……恐れていた最悪の展開に……
Kenichi
お金ってやっぱり凄い魔力あるよねー……

【沙綾】
ちょっとちょっとー! こんなとこで仲間割れとかよしてよー!!

【乃乃】
全くです、たった今他学年を着火させたばかりなのに。状況を考えてください二人とも

【志穂】
あれ、お前らマトモな意見云ってんな

【沙綾】
だって一人勝ちとかそんな極小単位だと私勝ち目薄いもん

【乃乃】
そういうことです。プレフォウ一台分でいいですから、兎に角お金が欲しいんです

【志穂】
今日はなんて利己主義が燦然と輝く日なんだろうなー

【凪】
というか、埃たてないでくれる? 段落を見失って――
Nagi
……あれ。
Nagi
しまった、隣に居たはずの譜已まで見失ってしまったわ。
そして仲間割れ発生で混乱する戦場に、他学年(ほぼ上級生)の者たちが押し寄せる!

【翠】
うふふ~。やっぱりお祭りはこうでなくちゃね~
優雅に抹茶を飲む学園長。ということで教師陣はノータッチを貫く。

【謙一】
衒火ーー!! 二邑牙ーー!! ストップ! ストーーップ! 来てる、上級生来てるーー!!

【秋都】
あははははは……(←思考停止)

【謙一】
クッ……徳川と譜已ちゃんはせめて護らねば――
Kenichi
って、アレ……?

【謙一】
譜已ちゃんは!?
Kenichi
しまった、衒火と二邑牙の喧嘩で物理的に場が混乱してる間に離れちゃったのか!!
見渡してみると、偶然にも譜已の姿を発見した。
ただし、今まさに上級生の棍棒が振り落とされんとする姿であった。

【譜已】
あ――

【凪】
チッ――

【謙一】
譜已ちゃあぁああああああん――!!?
……………………。

【学生】
ッ――!?
雷鳴が、迸った。

【謙一】
……え?
刹那、視界に地獄が噴く。
祭りの気も失せるほどに、美しい鮮血の図。
何より、フレッシュ。勢いがあった。
その雷撃に巻き込まれた者たちの液体が、割と離れていた筈の謙一の顔に付着した。

【謙一】
え
Kenichi
え――
そうして切り開かれた障害。
雷撃の正体が、逃れようもなく謙一の視界に映された。

【譜已】
――”
Kenichi
えぇええええええええ!?!?

【謙一】
ふ、譜已ちゃん――!?!?
Kenichi
う、ううう嘘だろ? 嘘だろ!?
その手に、持ってるのは――
チェーンソー!? しかも成人男性でも重そうなぐらいデカいし!?
Kenichi
振り回されたチェーンソーに巻き込まれた奴らの、結末は……云うまでもない……
そして奴らの返り血を、俺とは比べものにならない量を、譜已ちゃんは被っていて――

【譜已】
……………………
Kenichi
な、何だコレは……俺は夢でも見てるんじゃないか!? だとしたら考えるまでもなく悪夢!?
どうして譜已ちゃんがこんな事に――!?

【謙一】
ふ、譜已ちゃん、落ち着くんだ! 武器を捨てる――のはちょっと危なそうだからそのままで居るんだ……!
完全パニックな謙一が譜已に接近しようとした、その時――

【譜已】
…………
譜已の眼が、謙一を見た。

【謙一】
あ――
Kenichi
この眼は――ダメだ
謙一に“電気”が奔った。
Kenichi
逃げ――逃げないと――

【譜已】
――!
Kenichi
殺される――!?

【謙一】
うおぉおおおおっ!!?

【凪】
バカ――! 自殺願望でもあるのかしら貴方
Nagi
……今、どうやって避けたのかしら。
謙一は、まさに間一髪、躊躇いなく振り回された鎖鋸に巻き込まれずに済んだ。
大きく距離を取った謙一の顔は冷たい汗でびっしょりだった。

【秋都】
い、井澤くん――!? い、いいい今――!? 大丈夫だった!?

【謙一】
あ……ああ……頭、割れてない……? 俺無傷なの……?

【秋都】
う、うん……見た感じは……

【志穂】
おいおい、何でおめーが攻撃されてんの!?
譜已がやらかしてきた事に戸惑いを覚える無知組の一方で――

【奏】
ッ……! しまった、譜已ちゃんのスイッチが入った……!! パイセン!!

【情】
チッ――

【沙綾】
あーあ……下手すれば賞金云々が有耶無耶で終わりそうな流れね……

【乃乃】
折角降りてきてくださった上級生の皆さんには申し訳ありませんが、そ~っと退散ですね
譜已の“機能”発動を知った特変の大半は乱闘会場をこっそり脱出した。

【凪】
貴方たち
凪はその前に無知組のところに来た。

【謙一】
か、烏丸! コレはどうなってるんだ! 譜已ちゃんに何が――

【凪】
あの子は“機能”が発動すると自我が飛ぶの

【凪】
敵味方の区別が無い状態よ。見える動物、全部切り裂きにかかるから

【志穂】
何だその萌えないギャップ!

【凪】
少なくとも近くに動くものが無くなるまではずっとあの調子。私達にできることは逃げるぐらいよ

【凪】
元に戻って、何を切ったのか、理解して一番苦しむのはあの子本人。貴方、二度と近付かないようしなさい

【凪】
悲しいことに、貴方は譜已に慕われているのだから

【謙一】
無知って怖いな……
ということで謙一らも脱走した。

【譜已】
――!!

【学生】
「「「ひぃぃああぁぁぁぁ――!?」」」
その後数分、アリーナは断末魔一色だった。

【翠】
…………

【啓史】
アンタの娘さんの一人勝ちになりそうですね

【啓史】
ポケットマネーの賞金が、全部帰ってきそうだ

【翠】
はぁ……本当に、帰ってきそうね~

【翠】
譜已ちゃん絶対受け取らないもの~。私なんてそんな資格ないって――

【翠】
謙一くん達には、もっと譜已ちゃんに気遣ってほしいわね~

【啓史】
だったら先に話しときゃよかったじゃないすか

【翠】
沈黙だって、教育者の姿よ~

【翠】
お母さんの目を除いたって、譜已ちゃんが“逸材”なのは確か。私たちの願いの為には――

【翠】
譜已ちゃんも謙一くんも、特変全員がもっと輝いてもらわないと

【翠】
私が仕組んだこととはいえ、前途多難ね~……

【啓史】
……この舞台では、アンタの見たいものは見れなかった。彼の管理が上手く機能していない状態だ

【啓史】
次期待できるのは……合唱コン辺りですかなぁ

【翠】
……その前に、一つおっきいのがあるでしょ、啓史さん?

【啓史】
翠さん、それ4日後ですがな。幾らなんでも間が無さ過ぎでしょう

【翠】
私が見込んだ謙一くんなら……4日もあれば、充分動きを作れると思うわ

【啓史】
…………

【翠】
価値あるものには、それだけ支払うわ謙一くん。だから――

【翠】
貴方に支払う私の人生を……無駄にしないでね――?
もう完全に真っ赤でグチャグチャな祭の痕を、観客席から母は見下ろしていた。

【譜已】
――…………あれ?

【翠】
またクリーニング出さないとね、譜已ちゃん……?

【啓史】
捨てた方がいいと思いますけどね
悲劇のど真ん中にポツンと立つ、真っ赤に染まった娘を……その瞳は虚しく映していた。