「特変」結成編3-4「革命と革命(1)」

あらすじ

「全部を、ひっくり返してほしいの。あの人が云っていた事に偽りがないなら、それは「真理」の奪還」☆「「特変」結成編」3章4節その1。勝てるわけのない特変破りが確定。かつてないほど巨大な危機のなか、管理職謙一くんが学園長室で翠さんとガチ会話する回。

↓物語開始↓

timeskip

Stage: 学園長室


Face_midori

【翠】

……………………


Face_kenichi

【謙一】

……………………


Kenichi

 ……この場所で、こんなに重苦しい空気を感じるのは初めてだった。


Face_midori

【翠】

……ねえ、謙一くん~?


Face_kenichi

【謙一】

はい


Kenichi

 いつも、ニコニコして揺るぎの無い学園長が……
 今日は、比喩とかじゃなくて、本当に笑ってない。


Kenichi

 それだけ、今の事態というのは深刻なのだということ。
 それは俺自身が一番分かっていなければいけなかったが、この人のこういう表情を見て、改めてソレを思い知らされる。


Face_midori

【翠】

コレ……勝てる?


申請完了用紙(平賀)


Kenichi

 コレというのは、学園長が手に持っている特変破り申請完了用紙……リセットステージ、俺たちが配られたものとは別のもの。コピーだろう。
 なお、3時限目になって俺はいきなり住吉先生から直接ここへ呼ばれて来た。


Face_kenichi

【謙一】

できるコメントは、正直限られてます。ただ客観的に考えれば――


Face_kenichi

【謙一】

絶対に勝てません


Kenichi

 舞台は藤間戦の時と同じ、GAC101会場。
 しかし唯一の特変参加者である俺以外の面子は、GACに立ち寄ることは赦されず、職員室でモニター越しに見守ることとなる。物理的な介入は絶対不可能ということであり、本当に俺一人。
 対して、挑戦者側は大将平賀利家が当日本番まで自由に決めてよく、上限は400人。今頃その誉れある舞台に立てる者たちを募り、選抜しているのだろう。
どちらかの大将が戦闘不能状態になるまでの合戦形式、と書いてあるが、どう考えても度の越えた集団リンチの間違いである。
 反革命派はどうやらGACの特定のスペースで監視されながらの観戦になるようだ。自分たちが良しと思っていた特変が死ぬ瞬間を、しっかりその場でみせてやろうという平賀の心遣いを感じる。


Kenichi

 ということで、藤間一人相手でさえボコボコになってたこの俺が、真理学園選りすぐりの400人……恐らく3年生メインで構成される平賀利家の牙城を崩せるわけはないのである。


Face_midori

【翠】

はぁ~~~……藤間くん、貴方にとってそんなに価値のある人間だったの?


Face_kenichi

【謙一】

貴方からすれば藤間より平賀の方が好印象なんでしょうけど、俺は絶対アイツを見捨てないって決めてたばかりなんですよ。アイツの行く末を、これからも一緒に歩みながら見れる……そういうことを俺は期待してた


Face_kenichi

【謙一】

それを――平賀は見抜いていた


Face_midori

【翠】

ふふっ、元々凄く優秀な男の子だったのよ。でも、だからこそ周りの大人に利用される日々を幼少に送ったらしくてね、それに対する強い反抗心が、そのまま今の彼を形成した


Face_midori

【翠】

これだけ優秀な自分が、何で人に就かなきゃいけないんだってね~


Face_kenichi

【謙一】

それを叱る人間は居なかったんですね


Face_midori

【翠】

当然よ~。だって彼は他の人の誰よりも優秀だったのだから、何か云う資格があると思うの? だから、利家くんは止まらなかったのよ。春日山淑久くんと似てるけど決定的に異なるのは、彼は強者になってしまったってところ


Face_midori

【翠】

私は気に入ってるけど、いずれ一回は挫折を味わっておいた方が良いとは前々から思ってたわ。だけど、私がソレをやっても意味が無い。あそこまでプライドを高く持ってしまった彼が格下と思わない誰かは、彼と同年代の少年少女から出なきゃいけなかったのよ


Face_midori

【翠】

……だから、折角だから謙一くん達の誰かに、あの子を倒してほしいとは思ってたのだけど……


Face_kenichi

【謙一】

マジ素晴らしいタイミングで最悪の敵として立ちはだかっちゃってるんですけど


Kenichi

 申し訳ないって気持ちは、正直そこまでない。
 だって俺は藤間を選んだことに微塵も後悔してないのだから。


Kenichi

 あと、基本的に諸悪の根源は総て、この人なのだから。
 その人が全く悪びれてないのだから、俺が畏まる気もなくなっていた。ヤケになってるとも云う。


Face_midori

【翠】

これから、どうするの? 明日の9時までに、策は?


Face_kenichi

【謙一】

珍しく色々訊いてきますね。取りあえず教室戻って作戦会議ですけど


Face_midori

【翠】

…………


Kenichi

 その容姿を持っているのに、子どもらしいアタフタした姿は今まで見たことがない。そして今も、そんな様子を見せないのだから驚きだ。経験豊富な学園長の貫禄ってやつなのだろうか。
 ただ、何となくだが、感じる。今、この人は余裕が無いのだと。確実に学園長は今、自らの生への焦眉に包まれているのだと。


Face_midori

【翠】

……特変は……私の、夢なの


Face_midori

【翠】

この学園を卒業した時にはもう、貴方たちを待ってたのよ。私たちの夢の為には……あの人の、求める“真理”にはね、貴方が必要だったの


Face_midori

【翠】

……あと少しだと、思ってたのよね~。きっと私は焦ってたんだわ。必要以上に……だから、特変を結成して、すぐにヘイトを貴方たちに向けるよう、全力を出したわ


Kenichi

 それはすなわち、学園長自身にも、学内だけでなく周りの社会から赤信号のヘイトが向くことも意味する。
 それは、決して軽率ではない……覚悟を据えた決断の数々。


Face_midori

【翠】

一回、譜已ちゃんにも怒られたのよねー。何で特変破りなんて作ったのーって。皆傷付いて、悲しんでるって


Face_kenichi

【謙一】

譜已ちゃんが……それに対して、何て云ったんですか母親は?


Face_midori

【翠】

壊さなきゃいけないものもあるって、感じかしらね


Kenichi

 目を、細めて……徐にこの部屋の壁を侵食している植物たちを眺めだす。


Face_midori

【翠】

真理学園は、私たちの真理学園は……その名の通り、“真理”を追究するの。それを手に入れることに己の総てを懸けるのが、この学園なの


Face_midori

【翠】

傷付くから? 悲しむから? それは確かに辛いこと、だけどソレで歩みを止める者は、この学園には相応しくないわ


Kenichi

 普段の調子からは想像できない程に、厳しい言葉を云う学園長の顔は、依然細さを感じさせて……
 いっそ、儚かった。


Face_midori

【翠】

まだ3ヶ月の貴方にはちょっと現実感無いでしょうけど、この学園ってね。昔から死者数多いのよね


Face_kenichi

【謙一】

え――?


Face_midori

【翠】

前身は林間学校……ていうか実質的にはもう病院だったけど、その存在意義は、急激に発達した工業文明の空気汚染で満足に身体を動かせなくなった人たちを潮風で癒やせる環境の整備


Face_midori

【翠】

あの時代はまだ今みたいに緑も作ってなかったから、当時の人々はただこの町は海の印象ばかり抱いていたの。癒やしの海……だから、「優海町」


Face_midori

【翠】

灘さんは元々身体が強くなかったから、そういう人たちの気持ちを誰よりも大切にしたかったのかしらね。だから、後世にも医療の力を継承したかった。その意味では、医療班は最古の学園文化の一つね


Face_midori

【翠】

雷晃政権……当の本人がまた身体強くなかったからか、それを尊重してね。じゃあ緑も一杯にしちまえと、今みたいな雰囲気になったの。優海町は……あんまり世間一般には知られてないけれど、大輪大陸屈指の、健康町なのよ


Face_kenichi

【謙一】

そうだったん、ですか……そういや確かに、町の人たちえらく元気だし、いつぞや会ったお婆ちゃんはバイクに乗ってる俺に追い付いてくるし……


Face_midori

【翠】

だけど、それでもこの町を求めて住み着いてくる人たちの病を完治できるケースは、少ない。マシにはなっても完治せず、やがてその穴は拡がり人々は朽ちていくの


Face_midori

【翠】

この世には、どうしても考えても無駄なものがあるってことなの。だったら、その無駄なものに対する思慮は諦めて、別の価値あるものを探し求めるべきなのよ


Face_midori

【翠】

本当にこの学園に……この町に来た人にやってほしいことは、ソッチなのよ。私たちは、そんな人たちの探し求める為の延命措置をしてるだけで、それ以上のことはできない


Face_midori

【翠】

少年少女といえども、時間は無いのよ? だから、貴方たちは幸せ者。特変という巨大な悪の前に、自らの現在を奪われた弱者たちはこれまでこの町で生きてきた人たちよりもずっと幸せ者なのよ……


Kenichi

 正直なところ、何を云っているのか、半分も理解できない。
 貴方が一体ソレを、どんな経験の果てに導いてきたのかなんて、もっと理解できない。


Kenichi

 一体どんな人生を歩み、喜んだなら、悲しんだなら、傷付いたなら、そんな発想に至るのかが分からない。分かるべき立場に居る俺は、矢張りこの銘乃翠という人を、特変の価値を、いまいち理解できないでいる……。


Face_kenichi

【謙一】

特変を作った理由は……ソレ、なんですか……?


Face_midori

【翠】

半分正解。半分不正解


Face_midori

【翠】

貴方は、まだ答えを知らなくていいの。貴方はまだ、私の傀儡のままで居てくれればいい。だけど、いつか貴方たちが私でも手に負えない存在へと成り果てた時にはね――


Face_midori

【翠】

全部を、ひっくり返してほしいの。あの人が云っていた事に偽りがないなら、それは「真理」の奪還


Face_kenichi

【謙一】

ひっくり…返す……? 真理の奪還……?


Face_midori

【翠】

分からなくていいってば。私も、その領域について明確に答える力を持ってない


Midori

 だから、この場に貴方が、貴方たちがいるのだから――


Face_midori

【翠】

……長話しちゃったわね。ごめんなさい、それどころじゃないのに


Face_kenichi

【謙一】

……いえ、その。聞けてよかったと思います。今までより、少しは深く、俺たちの立ち位置について学園長が喋ってくれた


Face_kenichi

【謙一】

学園長の仰る通り、俺にはあんまり、貴方の云ったことは理解できてない。だけど、決して俺たちに定められている意味は、小さいものじゃない


Face_midori

【翠】

私の人生総てを懸けてるわよ~


Face_kenichi

【謙一】

……そこまで云われるとプレッシャーでしかないですが、スッカラカンよりはまぁマシだ、とでも思ってます



Kenichi

 ……ただ、俺は一つ。この文脈下では結構どうでもいいことを、無視できていなくて。
 結局、無視できなくて。


Kenichi

 ……それを拾わなければ、いけないと思った。


Face_kenichi

【謙一】

学園長――


Face_midori

【翠】

何~?


Face_kenichi

【謙一】

俺は、傀儡ですか?


Face_midori

【翠】

……………………


Kenichi

 亜弥は、指摘した。
 この人は、俺の行動を束縛はしていない。傀儡として扱ってはいないと。


Kenichi

 ソコをハッキリさせる意義は確かに存在し、それを為すタイミングは今以上に良い時はないだろう。


Face_midori

【翠】

変なところを、気にするのね? ……というより、気になっていた、のかしら?


Face_kenichi

【謙一】

多分気にはなってたんでしょうけど、実際俺自身が気付いたのは昨日です


Face_kenichi

【謙一】

俺は、貴方に多額の生活援助を戴いてる。それに対して、何よりも感謝してる。だから俺は、特変の管理職を続けてきた。それが総てです


Face_kenichi

【謙一】

だが……この学園において、俺はそれだけでいいのかって、思ったんです


Face_midori

【翠】

自由が、欲しいの?


Face_kenichi

【謙一】

分かりません。昨日気付いたくらいですから


Kenichi

 だけど、これは無視してはいけない問題なんだ。
 俺はどうにでもなる。この先全然楽しめなかったとしても、そりゃ不満には思うことはあっても、俺の当初の目的は達成されるのだから。
 だが――


Face_kenichi

【謙一】

俺がこのままでは……困る人が発覚してしまいまして


Face_kenichi

【謙一】

俺はどうやら、この学園の生活を楽しみたいらしいんです。既に400人に袋だたきに遭う未来が確定してるっていうのに


Face_kenichi

【謙一】

だからその為に、俺はまず、どうすればいいのか? 今の俺を束縛してるのは何なのか? 志穂たちとは、何が違うのか?


Face_kenichi

【謙一】

……もしかしたら



Face_kenichi

【謙一】

ソレを今回の特変破りで模索することに、なるかもしれません


Face_midori

【翠】

ッ――


Kenichi

 翠さんが……驚いた顔をしてる。
 すっげえ、すっっっっげえ珍しい姿。


Face_kenichi

【謙一】

ただ、それはつまり、美甘みたいに……試してみる、って感じになると思うんです


Face_kenichi

【謙一】

正直、俺がやるかもしれないことは現時点で成果無いと思ってます。俺は、答えを得ることはできないと


Face_kenichi

【謙一】

だけど、俺は何かをやらなきゃいけない……今までやってこなかったことを。やろうとも、思わなかったことを……


Face_kenichi

【謙一】

それによって今まで築いてきた特変という一クラスが、俺の特変管理職という慣れ始めたポジションが、乱れるかもしれない。それは、スポンサーである貴方を裏切る姿なのかもしれない……


Face_kenichi

【謙一】

貴方が今、語ってくれたものを……翠さんの大切にしてきたモノを、下手したら壊してしまうかもしれない。ネガティブな可能性を挙げていたらキリがない――


Face_kenichi

【謙一】

そんなことを、俺は、明日、やるかもしれません


Face_midori

【翠】

謙一、くん……


Face_kenichi

【謙一】

俺は、特変、だから……貴方が俺を奴らの頂点に置いたのだから


Face_kenichi

【謙一】

そろそろ俺も、この学園に――


Face_kenichi

【謙一】

貴方に迷惑をかけていいですか


 云うべきものを、総て出し切った。
 故に謙一は、大して意味の無い時を待つ。


 ………………軈て。


 彼女は、口を開けた。


Face_midori

【翠】

……似てる……


 それが、第一声。
 ついでに笑みを……そして雫を零した銘乃翠の返答だった。


Face_kenichi

【謙一】

え――? って、翠さん!? ちょ、何で泣いて――俺そんなヤバいこと云いました!? 止めてくれって感じですか!?


Face_midori

【翠】

そこは、似てないわねー……すぐ他の人のことを優先しようとする。特変の頂点に思いやりなんて要らないわ


Face_midori

【翠】

そうね……私個人は、貴方には傀儡であってほしい。それはつまらないけど、私たちの目的を第一にするなら、最も安全な方法。だけどね――


Face_midori

【翠】

もっと根底で……私は、そんな貴方だから、2次試験の時に……迷い無く確信したんだって、分かっちゃったの


Face_midori

【翠】

貴方は、誰よりも……特変でなければならない――


Face_midori

【翠】

私を置いてけぼりにして、遙か先に到達する破壊者に……貴方を置いて他になれる者なんて、居るわけがないの――!


Face_kenichi

【謙一】

え……えっと……


Kenichi

 学園長が今までにないくらい主観で喋りまくってて、何を返答すればいいのか全然分からない。
 だけど……本気で、この人は涙を流していた。


Kenichi

 俺が――流させたのだ――


Face_midori

【翠】

……だから……私も、覚悟を決めなきゃいけないのね――


Kenichi

 が――そんな姿は一瞬のみで、エプロンで涙を拭い……顔を上げた。


Face_midori

【翠】

私もまた、まだ立ち止まることの赦されない人間なのね……いいわ、元々コレに殉う覚悟だったもの


Face_midori

【翠】

貴方と、もっと、もっともっと、もおぉぉぉぉぉっっと!! 全力でぶつかってあげる――!


Face_kenichi

【謙一】

……学園長……


Face_midori

【翠】

そんな他人行儀な呼び方、もう赦さないわ謙一くん! 貴方は本気で関わると決めた相手は名前呼びするんでしょ? ならば、私のことも翠ちゃんと呼びなさい、じゃないと怒るわよ!!


Face_kenichi

【謙一】

え!? いや、そんないきなり――ってかちゃん付けはヤバくないですか!? 娘の手前で母親をちゃん付けしろと!?


Face_midori

【翠】

その程度の気概も無いのにこの銘乃翠に刃向かうなんて譜已ちゃんの髪の毛並みに甘いわよ!! 井澤謙一くん!!


Face_midori

【翠】

貴方には、お金だけじゃないわ、私のこれまでとこれからの、全存在を懸けることに決めたのだから!!


Face_kenichi

【謙一】

マジですか!? 俺一体学園長の何に火を点けちゃったんですか!? 俺ただ自分のやるかもしれないこと曖昧に喋っただけですよね!?



Face_midori

【翠】

だーかーら~――


 この後、部屋の植物たちがげんなりするレベルでテンション跳ね上がった銘乃翠と進展のない問答をして――


 井澤謙一がようやっと学園長室から解放されたとき、既に放課後になっていた……。


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