「特変」結成編3-3「智戴(2)」

あらすじ

「総てのクラスはその者から事前説明を受けていたんだろう……見せしめの意味を。」☆「「特変」結成編」3章3節その2。瀕死状態の昴くんを第一保健室に連れてきた謙一くんは、特変破り常連の目羅ちゃんから今回の敵を教えてもらいます。

↓物語開始↓

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Stage: 第一保健室


Kenichi

 真理学園一般棟には、3つの保健室が存在する。
 元々野蛮な奴が多かったってのもあるし、抑も前身は病院の性格がとても強かったというのもある。林間学校だったっけか。それに、医療班という有望な技術者を育てる組織が本格的に機能するようになって、必然的に保健室の数は増やされた形だ。


Kenichi

 そのうち、第一保健室は一般棟の1Fに可成りの大きさで存在しており、その役割は「重篤人の医療管理」。学生では荷が重すぎるほどの傷や病に倒れた者がここに「幽閉」され、医療班主任美千村杏子先生の手にかかるのだという。
 この町には優海総合病院という大きい病院も存在するが、この美千村医師はそこに所属する誰よりも医療技術に長けているらしく、そんな彼女のテリトリーの此処の医療は、施設規模以外は大学病院に引けを取らないとか。


Kenichi

 つまり、藤間を医療するのに此処以上に適した場所はない……ただ、その美千村医師が出張中なのが痛手過ぎるが。


Face_kenichi

……何でお前までいるの?


Face_shiho

お前が連絡してきたからだろーが


 第一保健室には、直後に秋山志穂も入ってきていた。


Face_kenichi

確かに美千村先生がいないことと第一保健室に行くことはティーボで伝えたけど、来いとまでは云ってないだろ


Face_kenichi

何より、俺が九条や小松と一緒に居て、第一保健室に入るのを誰かに見られるのがヤバかったんだが――


Face_shiho

その処理はやっておいた


Face_kenichi

え? 何ソレ、どうやって?


Face_shiho

いい加減光雨の存在に慣れろ。あるか分からないが、監視カメラを全部ジャミングした。そしてこの私は誰にも見つからないよう行動するのに慣れてる


Face_shiho

ま、大丈夫だろーよ。私の気を張り巡らした限りでは、目撃はされてない


Face_kenichi

……そっか


Face_mera

……お待たせ。取りあえず、出来ることはやった


 第一保健室の「奥」に入っていた目羅と柚子癒が帰ってきた。


Face_kenichi

藤間は?


Face_yuzuyu

……大丈夫、とはとても云えない状態……何より出血量が多すぎる。機械に繋いだから、幾分危険度はマシになるとは思うけど……


Face_yuzuyu

あとは、美千村先生が帰ってくるのを待つしか……こんなことなら、もっと此処のこと教えてもらってれば良かった……!


Face_mera

……此処は別称「幽閉室」。美千村先生は患者に勝手に動かれるのも、患者に誰かが接触してくるのも非常に嫌う性格だからね、関係者であってもよっぽどのことが無い限りは立ち入りできないようになってるんだよ


Face_mera

故に、何か内緒話をする時には、此処は真理学園屈指の適当場所と云えるわけだ


Kenichi

 ……確かに、他の教室とは違ってこの場所の扉の施錠は、厳重とかいうレベルじゃなかった。ほんと、入らせる気が無いだろって数のセキュリティロックをアルスから色々操作して解除しなければならなかった。


Kenichi

 その解除コードを総て、九条が知っていたというのが奇跡に近いだろう。


Face_yuzuyu

……………………


 一通りの応急措置をこなした柚子癒は、近くの丸椅子に近付くこともなく床にへばりこんだ。


Face_shiho

……随分疲弊してんな


Face_mera

…………


Face_kenichi

…………


Kenichi

 俺も小松も、あの場所に居たから分かる。九条が一体何に打ち拉がれたのかを。


Kenichi

 それに対しかけるべき言葉が何なのかは分からない。罵倒ならば幾らでも思いつくしソレを向ける衝動も当然ある。医療班として、コイツがやったことは最低だからだ。


Kenichi

 ……だがそれを態々言及するまでも、ないだろう。朝の時間ぐらいだが、俺も九条の為人は何となく分かってるつもりだ。何だかんだいって優等生、自分で勝手に理解し、反省し、後悔していればいい。


Kenichi

 そんなことよりも、俺は云うよりも、聞かねばならないのだ。


Face_kenichi

小松――お前も、グルなんだな?


Face_mera

……返答に困るが、形式的にはその通りだ井澤氏


Kenichi

 そう云うが、実際こうして俺と同じ場所に居る時点で、その形式も壊れてきている。
 「平賀殿にまで誹られる」とさっきコイツは云ったからだ。つまり、本来あってはならない背信行為を、小松は今やっていることになる。


Face_kenichi

平賀ってのは、誰だ?


Face_mera

平賀利家――3年生の先輩だよ。私たちの学年ではそこまで知名度のない……だが2年では知らない人はいない


Face_mera

君たち特変が発足されるまでは、組織的には真理学園で最も高い地位を築いていたと云える学生。智戴の平賀、と懼れられてる


Kenichi

 それが……俺たちの、敵の名前。
 矢張り、3年だったか。


Face_mera

はっきり云おう。井澤氏――君が即行で特変破り申請用紙に合意したのは、結果的に最善だったと私は考えてる


Face_shiho

は? 特変破り?


Face_kenichi

……九条に応急措置させるために、受け入れた。元々その為だけに藤間を貼り付けたんだろうからな


Face_mera

藤間氏だけではない


Face_kenichi

――なに?


Face_mera

……気付かなかったかい? 今日、特Bはやけに人が少なかっただろう?


Kenichi

 そういや、今日はリーダー殿だけでなく、朧荼や美玲さん、徳川も居なくて――


Face_kenichi

ッまさか!?


Face_mera

日曜日から、今にかけて……一体この学園の水面下で何が起きていたのかを、話そう――



Mera

 ――それは、唐突に起きた運動だった。


Mera

 私たち一般学生はまず、それを各々のレゾンアカウントへのダイレクトメールで知った。2年生は結構見慣れているようだが、我々にはとても新鮮で、異様な文面だった。
 一言でいえば、3年生からのお達し。
 内容は――「派閥分け」。


Mera

 すなわち、「あなたは特変を倒しますか?」「あなたは特変を倒しませんか?」この二択だ。これは、どうやら一般学生全員に送信されたものらしく、そして返信必須のメールだった。
 私は、勝負する側の人間だ。すなわち、特変を倒すことを志していると、云って良い。だから、私は「倒す」と返信することになる。
 だけど、美玲さんとかであれば「倒さない」と返信するだろう。彼女の場合は、井澤氏を筆頭に特変の一部の面子と親交を持つために、彼らに矛先を向ける理由を持たない。というか元々彼女は非戦闘員だしね。
 他にも、そもそも勝てるわけがないと諦めている者も、そういう意味で「倒さない」と答えるかもしれない。興味の無い人間だって。


Mera

 ……だが、これは決して軽はずみに答えていいものではなかった。その返答は、この先の真理学園生活を大きく分かつ。何故なら、このアンケートを企画した3年……平賀利家は既に「革命」を実行していたからだ。これは、その活動を肯定し3年に附く者たち……いや、数を考えてその逆――革命に参加せず自分たちの確立する国の民にならないつもりの者を割り出す作業だったんだ。


Mera

 その真意を、学生全員が掴めるわけがない。だから、必ずこのメールには、繰り返しの返答をさせてでも真剣に答えてもらう必要があった。その為に、行われたのが……今朝の、藤間昴を使った見せしめ。
 反革命の人間の結末を実際にみせて、それから改めてNOを答えた者たちに、考えの改正ふくじゅうを迫るんだ。


Mera

 色々嗅ぎ回っていたから私は、朝の時点で全学園生の雰囲気がおかしいのに気付いた。特変破りもすっかり浸透していたから、何か3年生がそれ関連で動くのだと大半が勘付いていたからだ。だが、それだけじゃない。
 元々平賀派というべき人間が、各クラスに必ず一人は居た。だから恐らく、総てのクラスはその者から事前説明を受けていたんだろう……見せしめの意味を。


Mera

 3年生は――平賀利家は、勝つためならば躊躇をしない。たとえそれで、人命が危うくなろうとも、彼にとってそれは革命に消費される捨て駒なのだから。それが、今朝あの場の全員に、思い知らされたんだ。



Face_shiho

……何だよ……そりゃ……


Face_shiho

無関係の人間を、そんだけの為に殺しにかかったってのか? 何でそんな奴がこの学園で、3年になるまでのうのうと居られたんだ?


Face_mera

さあ? 学園長は、そういう人間も好きなんじゃないかな


Face_mera

私は、平賀殿を焚き付けたそうな学園長の姿を容易に想像できるけど


Face_kenichi

……他の、奴らは……?


Face_kenichi

藤間以外にも、居るってことだろ? 純然たる反革命派って見なされた奴は――


Face_mera

違うよ……藤間氏については、革命の意思は関係無かったんだよ井澤氏


Face_mera

その辺は、井澤氏のほうが、あの時しっかりと理解していたろう? 特変破りを受け入れた時点で


Face_kenichi

……………………


Face_shiho

どういうことだ?


Face_kenichi

藤間は、二重の意味で利用されたってことだよ


Face_kenichi

小松が今云った、学園全体へ向けた告知。そして、俺に特変破りを受け入れさせるための人質


Face_kenichi

俺は、アイツとの特変破りの時に、結果的に藤間兄妹を助ける形を作った。それを、平賀は観てたんだ。理解してたんだ


Face_kenichi

「あの兄妹を使えば、俺をおびき出せる」って……藤間で動かなきゃ、今度は藤間妹を……そしてソレでもダメなら、俺と近しい関係だとメールで疑われた美玲さん達から、順番に……見せしめていく


Face_kenichi

特変の中で、俺は明らかに良識を持っていると平賀は認識して、ソレを狙ったんだ


Face_shiho

……………………


Face_mera

今朝から、美玲さんも、朧荼氏も、徳川くんも姿を見せていない。リーダーはどうせ病院に括り付けられてるだけだろうけど……


Face_mera

私の予想では、多分春日山氏や三重くんも、平賀派に囚われている可能性が高い


Face_shiho

ッ――おいハゲ、早く学園長に――ッ


Face_kenichi

……特変破りは、もう成立してる


Face_shiho

ッ……


Face_kenichi

ここまで、用意周到に、完璧なタイミングで仕掛けてきた相手だ。特変制度を無視して俺たちや学園長が動く事態への対策も、揃えてきてると想定すべきだ


Kenichi

 そしてそんな事態に陥った場合……囚われている反革命派の、ただでさえ今の時点で危ぶまれている身は、もう助けられないだろう。そこも、俺の良識を衝いて狙った平賀の牽制。


Face_mera

……最近、朧荼氏は優海町周りの不穏な空気を感じ取っていたようだ。具体的には、「MSB」の気配がすると


Face_shiho

MSB? 何だそれ


Face_mera

合宿の時に学ばなかったかい? MessiahSchoolBand……M教主義学校同盟、といったところか。M教はしっかりとした世界最大級の組織とも云えるからね、その一員として真理学園も登録されている以上、我々は迂闊にM教を莫迦にできない


Face_mera

だが、雷晃政権時からこの学園はおかしかった。だからMSBには相当嫌われていて……今、ソレは最高潮に達しているといえる。君たちの存在によって学園内は混乱の極みに陥ったからだ。これ以上暴走させては、世界のM教に対する認識が一変するような事件を引き起こすかもしれない。赤信号だ


Face_mera

その辺の朧荼氏の調査結果を今考えると……平賀殿ほどの視野の広さなら、ソレすら利用する可能性が捨てきれない


Face_shiho

私らが制度を無視したら、騒ぎまくってMSBを触発して私ら集中砲火させるってか。どこまでも他人の力だな!!


Face_mera

……君も、そのように激昂する性格だったんだね。それも、平賀殿は利用するんだろうね


Face_mera

兎に角、井澤氏が即特変破りを認めたことで、他の人質の人命は一先ずキープされたわけだ。平賀殿は必要以上の行動はしない性格だ。特変破りを成立させたのだから、これ以上井澤氏を刺激するような真似に意味は無い


Face_kenichi

だが、後々何かに使うってことはあるだろうな。そして、特変が解体され革命が成功した時には、反革命派とされた用済みの人質たちは……


Face_mera

処分されるだろうね。あの人は、反分子を見過ごすようなお人好しでは断じてない。自分を王と認めなかった者たちを赦すわけがないんだ


Face_shiho

小松……お前は、そんな屑野郎の側に附いてるってのか


Face_mera

……そうだ。まさか、これほどまで濁った空気になるとは覚悟できていなかったけどね


Face_mera

私は、特Bの人間だ。その場所の本質は、反特変。だから彼ら側に居るのは全く不自然ではない。これまでも、君たちに刃を向けてきたしね


Face_mera

今朝、石黒殿から直接誘われたよ。というか、「期待してる」と既に私の立場には疑いも持ってなかったようだ


Face_mera

こんなに喋ってしまっていて、申し訳なさを感じるね


Face_yuzuyu

……小松さん、そんなに喋って、本当に大丈夫なの……?


Face_yuzuyu

私は、元々沼谷が安全保障してるっぽいからまだ何とかなるかもしれないけど、アンタが今やってることは完全に……消されるわよ――!?


Face_mera

それほど重罪でも無いとは思うけどね。だって、もう過ぎたことなのだから。井澤氏が特変破りを合意した時点で、もう平賀殿は勝利を疑っていない


Face_mera

沼谷氏はフリクションと口走っていたから、恐らく勝負内容は藤間氏の時と同じだろう。だが、間違いなく……君の今回の相手は、一人じゃない。十人でもないだろう


Face_mera

GACを貸し切るに相応しい、それだけの規模になるはずだ。君は――負ける


Face_kenichi

……………………


Face_mera

せめて、君にトドメを刺す人間が、沼谷氏ではなく私であることを祈るから……その時は、


Face_mera

私を好きなだけ、恨んでくれ



Kenichi

 ――そして、教室に戻り、リセットステージの時間帯に、特変破り申請完了用紙はやってきた。


Kenichi

 総て、小松の推定通り。
 希望など何処にも無く、俺たちは――


申請完了用紙(平賀)


Kenichi

 死が確定したようなもの。
 それを全学園生は目撃する。あっという間に訪れる決定的瞬間を。自分たちを苦しめてきた者が、何の抵抗もすることかなわず傷付き衰弱していくさまを。


Kenichi

 まさに、磔刑の如き、地獄の確定――


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