「特変」結成編3-2「人生字を識るは憂患の始め(3)」
あらすじ
「ここまで分かってるんだから、教えてよ君の“機能”~。そんでもって君の本当の護真術ー」☆「「特変」結成編」3章2節その3。同窓会の続きです。何故か全然関係ない筈の千栄ちゃんまで乱入して、お勉強会を開くことになったとさ。
↓物語開始↓

【千栄】
勉強教えて~~
同窓会は熱気と血の香りが依然として蔓延していた。

【廿栗木】
(グッタリ)
Kenichi
譜已ちゃんだけじゃなく、徳川と店長まで体調悪くなるなんて……更にその介抱に尽力した為に廿栗木は疲労に倒れたし。
Kenichi
特変って存在は人を体調悪くさせるんだな……そんな悲しい事実を再確認した同窓会の最中。
Kenichi
何故か俺は魚介料理の隣にノートを開いた同級生たちに教鞭を振るうことになっていた。

【謙一】
何でこんなことになってるの? 何で拝田がこんなとこにいるの?

【奏】
ケンパイがツッコミを放棄してるうちにこんな感じになりましたー

【謙一】
文脈って確かに存在するんだな
Kenichi
マジ生き物みたいですわ。

【奏】
そもそも私と譜已ちゃんは、どっかカフェかレストランで一緒にお昼しながら勉強会開こうとしてたんだー

【譜已】
そこで、偶然謙一先輩の姿を発見してしまって……

【謙一】
そういや明日から期末試験だもんな……

【ビアス】
は? マジかよ、お前何でこんなとこに来てんの?
Kenichi
「精一杯生きろよ👍」と笑みと共に言葉を残して運ばれていった店長の為に俺はこの湧き上がる殺意を捨ててやろうと思う。

【謙一】
で、お前もこの二人と同じ流れで入ってきたの?

【千栄】
ううん、私は駅で君を見かけたから、こっそり跡をつけてたー
Kenichi
駅ビルに入る前から厄日が確定してたんだな俺……。

【謙一】
え、それじゃあ今に至るまで結局何処に居たんだよ?

【千栄】
店内。机の下に隠れてたー

【女子】
私らは結構早く気付いたけど、「しーっ」って云われたから黙ってました☆

【謙一】
俺ほんとB等部の頃から周りに恵まれてなかったんだなぁ……
Kenichi
二度とこいつらと同窓会はやらないと誓った。

【謙一】
はぁ……まーいーや、でもお前も勉強教えてってことはヤバいのか?

【千栄】
まぁ人並みに
Kenichi
真理学園生の人並みって表現はぶっちゃけ信用できないなぁ。

【謙一】
しゃーねえな、“物匣”
謙一は“物匣”からB5サイズのクリアファイルを取り出した。
数枚の紙を、ようやく椅子に座れてリラックスした千栄の前へと突き出す。

【謙一】
コレやってみろ

【千栄】
え、何これ? 問題集?

【謙一】
今回の期末試験を範囲対象としたチェック問題だ。奏や譜已ちゃん、あと美甘のために、暗記事項を中心にどれだけ習得してるかを簡易的に測れる

【奏】
2週間ぐらい前には全然できなかったけど、今は3割取れるようになりました☆

【謙一】
つまり赤点すれすれじゃねえか! 明日からだぞ本番!?

【千栄】
ふっ……取りあえず相手してあげるよ――
拝田千栄、学力を披露する。
100点満点で換算すれば5点だった。

【謙一】
2週間前の奏より酷えじゃねえか!?

【千栄】
うぁ~~全然分かんない~~(泣)

【奏】
やばいシンパシーが溢れて止まないよ譜已ちゃん

【譜已】
奏ちゃん、それだと明日は乗り越えられないよ……
バカが一人増えたのが判明しただけだった。

【ビアス】
どれどれ、特進クラスの問題はっと……ん?

【ビアス】
何か、俺の受けたテストとあんまり変わらないな難易度

【謙一】
そりゃ俺が世間の学校のテスト範囲調査して作ったからな
Kenichi
抑も特変の授業の大半はアンチペダコジーな形式を取っているので、そのテストの傾向もユニークにならざるをえない。しかもこの3ヶ月やってきた授業を考えると、訓舘先生や山田先生が担当してる科目は特に「自由論説」の比重が大きくなる。それはそれで良いんだが、あろうことか採点者は俺だったりする。アイツらの価値観がずっしり詰め込まれた答案を正確に採点する自信は皆無なので、普段の授業にプラスで俺は全員に「宿題」を課しているのだ。
Kenichi
それが、一般的に扱われてる教科書や問題集を使った、それこそ世間の想像できる授業の内容を、自学で習得してくること。これは公立の教師がやったら即座に弾劾されるだろうし俺も鬼畜だと思うので、義務にはしてない。一応どこまでやってるか、抑もやってんのかの確認はしてるが、提出の必要も全く無いし責めもしない。
但し、定期テストの出題範囲である、ということは4月の時点で告知している。最低限の勉学を形として示すべきという意味と、採点者として楽したい、という意味が混合してこうなったわけだが、結局鬼畜になってんなとは思ってる。

【ビアス】
授業もテストも自分たちで作るってか……とことんユニーク極まってんなぁ。じゃ、成績盛り放題ってか?

【謙一】
それは俺が責任持ってる以上赦さない

【ビアス】
だろーなー。井澤は勉学についてはドン引きするほどストイックだったもんなぁ

【ビアス】
テスト当日にカンニングペーパー仕込んでるとこはスルーするくせに、授業で教科書一式忘れてきた奴は先生より先に徹底的に糾弾かましてたもんなぁ

【謙一】
人の世渡りに文句を云うつもりはないけどな。学びの場では少しでも学ぶ姿勢を持つべきだろ
Kenichi
それも俺が文句の云うべきことではないのかもしれないが、ぶっちゃけあんな贅沢を眼前でかまされたら我慢ならなかった。

【奏】
あれ、じゃあ明日もカンニングペーパーさえ仕込めば……

【謙一】
別にそれ自体は止めはしないけど、俺の作るテストが付け焼き刃のメモで太刀打ちできるようにはなってないのは中間テストの時に思い知ってる筈だが

【奏】
そうだった、抑も持ち込みOKの形式だった……それでも私ギリギリだった……

【ビアス】
教科書一式持ち込みOKでもノーベンのやつ赤点すれすれになるテストってどんだけお前問題作るの上手いんだよ……将来は教師かー?

【謙一】
そんな精神的に重い職に就きたくない
Kenichi
勉学に対して変な妥協はしたくなかった一方で、ガチで赤点出されても俺が困るという悩み。ぶっちゃけ他の連中は簡単に点数稼げるから考慮は全然してなくて、実質俺を悩ませたのは奏と美甘だけだ。
Kenichi
だから持ち込みOKにする代わりに問題は簡単なようで難しい……乃乃とかは「奥深い」と評価してくれたわけだが、そんな形式を採用することで、単なる知識問題によって奏と美甘も赤点から逃れられるようほぼ確実な救済まで施した。
Kenichi
そういや沙綾は「コレ予備校に販売したらガチで一儲けできるわよ!」とテンション上げて提案してきてたが、そういうフリーランスを志すのもいいかもしれない。直接何かを教えるわけじゃないから、丁度いいかも――

【謙一】
って、将来のことはまだいい、それよりも拝田の現在が心配だ

【千栄】
テヘッ☆
Kenichi
真理学園の一般クラスの中間テストの問題を参考までに見せてもらったことがあるが、あれはまぁ、簡単ではあった。
が、粗忽ながらも暗記事項が中心であったから、勉強しなければ分かるはずもない。他クラスは持ち込み不可が基本なんだから。
Kenichi
テスト期間突入の前日にして、拝田千栄はそのレベルの問題にぶち当たっていたのだ。

【千栄】
でもまあ、そういうの気にするタイプじゃないし私ー。そんなことより、特変っていう私たちの王様が実際どんだけの実力を持ってるのか、その方が断然気になるし

【謙一】
ほう……?

【千栄】
衒火情くんと二邑牙奏ちゃんはもう既にこれまでの行事の中で、護真術を学園中に知らしめてる。二人ともまだ本気は出してないんだろうけどさ

【千栄】
それから堀田美甘ちゃん、銘乃譜已ちゃんも目立ってはないけど実力者なのが判明してる。秋山志穂ちゃんもだいぶ有名になりつつあるかな

【千栄】
有名さでいえば遠嶋沙綾ちゃんも烏丸凪ちゃんも、あと佐伯乃乃先輩も。じゃあ……

【千栄】
君は、どうなのかな……?

【謙一】
……………………

【千栄】
猛者しかいない、あのクラスで……彼らの頂点に立っている君は、どんな力を秘めているのかな?

【千栄】
君の護真術って、何なのかな――?

【謙一】
お前、あんなミステリアスな雰囲気醸し出して登場しておきながらその学力はどうなんだ……? どうでもいいことではあるんだけど、正直お前のギャップに俺すごく残念な気持ちになってるんだけど

【千栄】
だってつまんないんだもん
(´・ω・`)
Kenichi
華の学生、魂からの呟きが炸裂した。

【千栄】
私はフィーリングで生きてるから、学力とか要らないのー☆

【謙一】
ないと困ることもあるだろ。一応現代社会では学歴があった方が経済的に有利になれるんだぞ?

【千栄】
その経済的に有利な人のお嫁さんになるから、ノーマンタイ!!
Kenichi
ダメだコイツ。

【千栄】
あ、そーだ、誰かこの人の護真術知ってる人いないー?

【謙一】
またその話かよ……
Kenichi
コイツほんと自由だな。ちょっと特変寄りかもしれん。

【譜已】
また……?

【謙一】
ちょっと前に出会ったばかりだが、その時からコイツ俺の護真術に興味あるみたいでさ

【奏】
あっ、ソレ私も気になるー。結局昴くんの時ケンパイぼっこぼこにやられてたんでしょ? 終わって合流した時めっちゃボロボロで軽く噴き出したもん

【謙一】
そんなお前を締め上げるぐらいの体力は残ってたが、まあヤバかったわな

【ビアス】
井澤の護真術? そういや、見たことねーなー。抑も平和な学校だったし

【女子】
でも、訓練の授業は何か井澤くん、いっつもいなかったよねー。あれって万気相が使えなかったからだっけ?

【謙一】
まあ、な

【譜已】
万気相が……てことは、マナも……?

【謙一】
コントロールとか全然できない。まあそれでも世渡りの為の体術は身に着けてるつもりだったから、先生説得して訓練授業は特別扱いしてもらってた

【奏】
だから非戦闘員の割には結構動きが機敏だったんだー……ミカパイ助けるときとか、あんなの鍛えてない人が即座にできるもんじゃないし

【譜已】
鍛えてても普通、やれないと思う……

【謙一】
あの時は迷惑をかけました

【女子】
ってことだから、強いて云うならその苦し紛れの体術が、井澤くんの護真術ってことになるんじゃないかなー。ごめんねあんまり知らなくて

【千栄】
ほんとだよー……もっとしっかり見てれば分かったかも知れないのにー

【千栄】
井澤くんの“機能”使ってるとことかさ

【謙一】
――は?
突然、千栄が云ったことに謙一は少なからず動揺をみせた。

【千栄】
藤間くん戦でも、使ってたでしょ? 最後らへん

【謙一】
……………………

【千栄】
何でって顔してるねー。だから、云ってるじゃん

【千栄】
――私はフィーリングで生きてるって
さきほど100点満点換算で5点を叩き出した女子とは思えないほどに、理知的で蠱惑的なものを宿した一言であった。
彼女のフィーリングは、確かに何かにおいて卓越しているのだろう。
そう理解した謙一は、これ以上誤魔化すのも無意味とし諦めた。

【謙一】
まさか、見破るやつがいるなんてな……

【千栄】
別にそういうわけじゃないよ。見てたけど、一体どういう内容なのかは全っ然分かんなかった。ていうかそれが分かったら、私じゃなくてももっと大勢が見破れてたと思うし

【謙一】
まあ、そうだわな
Kenichi
実際、確かに俺の“機能”は一度発動している。
だが、それによって何か戦況に変化が生じたかといえば、そういうわけではなかったろう。俺もそういうものだと心得ている。
Kenichi
……だから、表面的には何も見えない筈のものに、拝田が気付いたというのは少なからずビックリさせられた。流石、あの試合を最初から「俺を測るため」に楽しみにしてただけはある、それくらいの洞察力だ。

【奏】
え、なに、ケンパイが“機能”使ったの? そんなこと、マフパイたち誰も云ってなかったけど

【譜已】
気付いて、なかったのかも……だって観客の誰も気付いてなかったなら、そういうのもあり得るから

【譜已】
でも……万気相は使えないのに、“機能”は使えるんですか……?

【謙一】
不思議だよな。俺もだ
Kenichi
万気相。義務教育課程において必ず習得しなければならない、世界の一根源要素マナの干渉・操作体系。護真術は人それぞれでも、この万気相なるスキルは必ず人の基本技術として身についている筈だ。
だが中には、生来の問題なのか、マナを扱えない人も存在している。ほんとごく僅かだと聞いているが、俺もその一人――と一括りにしてはいけない、ということだ。だって、俺は“機能”を持っているのだから。
Kenichi
“機能”だって、マナを操作して“宣言”を起こさねば発動することはできない。俺はマナを扱えるってわけだ……これも矢張り生来なのか、分からなくて、故に改善のしようもない。
Kenichi
……しかも、もっと特異な事情があったりする。

【譜已】
…………?
Kenichi
その点では、譜已ちゃんに可成り親近感を持つし……その辛さも、他の人間よりは理解できると思っている。

【千栄】
ねーいいでしょーここまで分かってるんだから、教えてよ君の“機能”~。そんでもって君の本当の護真術ー

【謙一】
自分のクラスでもない奴に安売りできるわけないだろそんなの。あとお前甚だ不審だし

【謙一】
そしてお前は俺の護真術の前に明日のテストへと目を向けねばならない

【千栄】
(遠い目)

【謙一】
逃がさん
Kenichi
……それからは拝田と奏にこの1週間を乗り切る為の鞭を、海鮮料理が台無しにならない程度に振るいまくった。
Kenichi
……………………。
Kenichi
ありきたりな云い方だが、この時の俺には知るよしも無かったと云えよう。
Kenichi
誰よりも、今週という壁が高かったのは……
Kenichi
他でもない、俺自身だったということを――