「特変」結成編3-9「強さの理由(2)」
あらすじ
「自分の人生に、過敏なんだよここの連中は! そいつらにとっては……特変は、刺激が強すぎた!」☆「「特変」結成編」3章9節その2。廿栗木磨美ちゃんの仕掛けた爆風が吹き荒れる中、3年のリーダー格・怒田先輩がもう一人の暗躍していた裏切り者に接近します。革命章いよいよ終盤です。
↓物語開始↓

【怒田】
……おい、そこの奴。止まれ

【秋都】
…………
Ikarida
……もう会場は酷い有り様だった。
正体不明の爆撃の連続で軍勢の大半は戦闘不能、まだ元気な奴も戦意喪失している。まさかこんなことになるだなんて、井澤一人をリンチすると決めた時には誰も想像できなかっただろう。それ故に、泥沼化への覚悟がなってなかった。それも、どうせ狙ったことなのだろう。

【秋都】
……うん……お願いします……
Ikarida
……もう、どっちに転んでもおかしくない。俺たちが勝つ保障は既に焼け消えている。
ならば、俺は最期まで足掻いてやる。これでも……アイツの駒だからな。

【怒田】
お前か? こんなに会場を、皆を荒らしてくれた井澤の協力者は
Ikarida
パーカーを着て、フードを被っている。その後ろ姿からは容姿が確認できず、スカートによって性別を見分けられるぐらい。
だが、爆破が集中している舞台の周辺部をわざわざ歩き回っている時点で、あまりにも不審。間違いなく、コイツは井澤との関係者――!

【怒田】
顔を見せろや。先輩の云うことは聞いた方がいい。それとも俺と同じ、最上級生か?

【怒田】
並川が裏切ったんだからな。その可能性もあるだろうが――

【秋都】
――――
秋都は振り向き、フードを脱いだ。
ようやく顔を確認した怒田は驚く。

【怒田】
お前――確か、特Bの

【秋都】
…………
Ikarida
小松と同じ、対特変性のクラスとして組織された特Bの徳川秋都か……!

【怒田】
どういうことだ……お前は俺の記憶じゃ、名簿には――

【秋都】
名簿を管理していたのは、並川先輩でしたよね。何と云うか、警戒の無い人でした。きっとそういう人柄だったのだと思います

【秋都】
まあ、この革命自体時間を懸けてなさ過ぎて、周りの学生たちが同調するのに間に合ってなかったというのが主因でしょうけど

【秋都】
400人をたった二日間で精密に選ぶなんて、できるわけないですよね。だから、私も参加できたんです

【怒田】
ッ……俺や平賀の把握後にも、400人の名簿が変更されていたのか……!
Ikarida
平賀ならば、或いは気付けたかも知れない不穏は、結果として平賀の城に侵入してしまった……。
それが、今のこの状況に繋がってしまっている――

【怒田】
たった3人で……俺たちを、ここまで追い込んだだと……

【秋都】
先輩がたが勝手に追い込まれただけだと思います。あと――

【秋都】
3人じゃないですよ

【怒田】
……!?
Ikarida
今の、爆破の方向は――
平賀の、神輿――
Ikarida
神輿が破壊された……!?
莫迦な、俺は何度も周辺を確認したし、警備の奴らにも誰も近付けるなと云った筈だ!
そして徳川は此処に居て、小松も井澤も中央部にいるというのに――!?

【秋都】
平賀先輩の監督ぶりは、正味穴だらけですよね。あと観客の人たちも、理解に苦しみます

【秋都】
自由って、一番になるのって、そんなに大事なのことなのでしょうか。銘乃学園長がそれを煽っている、というのもあるでしょうが……皆、負けることに怯えている

【秋都】
平賀先輩は特に、そのように見えます。だから負けないように、皆を支配しようとしている。この、マンモス校ではあるけれど、所詮は一つの町の中に在る一つの学園で、負けないようにする努力に終始している

【秋都】
……新規組には、その感性はきっと、理解できないんでしょう

【怒田】
…………
Ikarida
……この町は、開かれてはいる一方で、どこか閉鎖的なところがある。それこそ、歴代の学園政権の方針が大きく関わっており、今なら銘乃学園長がそれを担っている。
どこかおかしい学園……だが、訳ありでこの学園に入ってこざるをえなかった奴らにとって、そんな学園が全てであり、この町が基準だった。
Ikarida
だから、俺たちはこの場所で、生き残らないといけない……平賀だってその一人だった。
そんな奴らばかりだから、平賀は自分のことのように、学園生をどう心理的に支配すればいいかが分かっていた。
Ikarida
……だが、当然数千人も居るこの学園で、全員その通りに支配できるわけがない。今回だって、平賀の思い通りにいかず、拘束されるに至った連中が一部存在しており……
抑も平賀の把握を超えて活動している奴も居た。それが……学園に囚われぬ「新規組」。
Ikarida
その一人に――

【怒田】
井澤が、居るのか……

【秋都】
どうして分からなかったんでしょう。観客の人たち全員で平賀先輩にかかれば、たとえ隣に並川先輩や怒田先輩が居たとしても、普通に拉致できると思いますよ。それこそ井澤くんに仕掛けたような数の力と全く同じです

【秋都】
不満があるなら、その解消の為に考えればよかったのに。そんなこともしないで沢山の人が、それほど楽しそうな様子もなく試合開始を眺めてた

【秋都】
どうして特変は、ふっかけられた勝負じゃなければ私たちに危害を加えていないのに関わらず、こんなに恨まれてるんでしょうか。献上制度もありますけど

【秋都】
それよりも今、自分の生活を大きく脅かそうとしている平賀先輩に対して危機を抱く方が自然じゃないのでしょうか。特変だってやってない見せしめを簡単にやる……特変よりも過激で兇悪なことを突然やり始めた集団に、どうして抗うことをしなかったのでしょうか

【秋都】
支配されていない人間の方が珍しいのに、その中で将来の夢を考えて毎日勉強して運動して友達と遊んで……そういう生活が寧ろ一般的であるのに、どうしてそれじゃ此処の人たちは満足できないのでしょうか

【怒田】
……分かんねえだろうよ

【怒田】
ああ、分かんねえだろうさ新規組には! 俺も元は新規だったが、確かに最初は違和感たっぷりだったよ! お前の云いたいことはよく分かるぞ徳川!! この町は、この学園の人間はどこかおかしい!!

【怒田】
だがそれも当然だろ、お前の云う一般を知らないんだからな! そんな雰囲気でしかないモノなんか、この学園では何の役にも立たねえ! 俺たちは、ただ俺たちを探していくしかねえんだ! 生きていくのに真剣で、そんな甘ったるい世間に耳傾けてる暇なんかねえんだよ!!

【怒田】
自分の人生に、過敏なんだよここの連中は! そいつらにとっては……特変は、刺激が強すぎた!

【怒田】
平賀のような奴は寧ろ日常。しかし特変は異常。それがそいつらの感覚なんだよ、実に面白いことだが、お前らとは全然違うんだ、同年代だってのにな!

【秋都】
少し察してはいましたけど……怒田先輩の価値観は、私たち寄りだったんですね

【怒田】
ああ! だが、俺はこの町が好きだ。学園も、それなりに気に入ってる。3年の奴らとは一生切れない絆を感じてる。新規組ではあったが、俺も無事この学園の一員として、胸を張れそうだ。だから――

【怒田】
たとえこの革命が、学園生にとって本意じゃないまま成し遂げられたとしても、俺はそいつらを引っ張っていく先輩として闘い続ける! それが俺――真理学園A等部3年、怒田中の選んだ道だ

【秋都】
……もう、平賀先輩の陣は爆破されてしまいましたけど

【怒田】
平賀は存外、しぶとい……その間に、俺と相楽が井澤を仕留めればいい……!

【秋都】
そうですか。でも、すみません怒田先輩

【秋都】
フィニッシュです

【怒田】
――? 何をい――
ライトが落下してきた。
その巨大で重い設備に、怒田は哀れにも巻き込まれた。

【秋都】
……き、緊張したー……
Akitsu
年上の先輩とあんなに長く会話したことなんてなかったから……でも、時間稼げて良かったな。

【秋都】
ありがとう、助かりました拝田さん
Akitsu
クラスインしたままの無線で拝田さんにお礼を云う。

【千栄】
すっごい喋ってたよねー徳川さん。アレ全部アドリブ? 深い疑問めっちゃくちゃ投げてたけど

【秋都】
うん……ポンポンとよく出てきたなーって

【廿栗木】
徳川マジ怖ぇな……
Akitsu
BOXを参考した特殊なアプリだからか、この無線の機能はひとえにグループ通話。
だからこの会話は当然クラスインしているメンバー全員に聞こえてることになる。つまり皆の無事を確認する手段にもなってる。まあ5人だけだから、あんまり意味は無いんだけど。

【千栄】
あ、廿栗木さん無事~? 何か神輿まで爆発してたけど、もしかして直接ボムりにいったの?

【廿栗木】
まあ端的に云えば? 怒田とかいう先輩離れてたから、今ならいけるかと

【秋都】
え、じゃあ平賀先輩は?

【廿栗木】
居た、筈なんだが……爆破してからはちょっと姿見えないし、あんま近付くと疑われるからもう仕事したくない寝る

【千栄】
家帰ってから寝なよー

【廿栗木】
疲れたんだよ~……あたしどう考えても功労者だろ、てか平賀の城爆破した時点でもう仕事ねえよ……

【秋都】
お疲れ様、廿栗木さん。それじゃ、そのまま周りの人みたいに死人のふりをしててね。それで多分バレずに済むから

【廿栗木】
時々お前ホント毒吐くよな……

【千栄】
それじゃあ、後は……ちょこまかと動き回って、私じゃどうしようもない――

【秋都】
――相楽さん、だね
Stage: 職員室

【奏】
もうめっちゃくちゃだけど、取りあえず沼谷パイセン倒したねケンパイひゃっほう!

【クロウス】
ほんと、よく倒せたもんだな。というか見破るの早い

【訓舘】
……………………

【美甘】
これで……残る脅威は――

【志穂】
相楽だけだ。平賀の神輿は……何か気付いたら爆破されてたが、どうせどっかで死んだふりでもしてるんだろう

【志穂】
それを見つけるのに大きな苦労は無いが、それをやるにしても相楽が邪魔だ。アイツを潰す必要がある

【乃乃】
見たところ、もう目羅さんも限界です……もうすぐに……

【乃乃】
謙一さんと珠洲子さんの一騎打ちが、始まります――!
Stage: GAC 101会場

【廿栗木】
あ~……床が思いのほか冷て~……
やることがなくなっていた磨美はスタミナ完全に尽きて床に転がっていた。死んだふりである。
Mami
今夏だし暑いのは当たり前だが、それに加えて何十発も爆破したからなー……熱気がヤバい。この辺ちゃんと考えて水でも持ってくるんだったかな。
ていうかもうあたし此処に居る意味なくね……? 自販機でも探してようかな、あーでも動きたくねえ……
Mami
このまま床と一体化してたいとか願望持ち始めたら人間を辞めてるレベルなのは分かってるが、それでも思わずにはいられない流石の自堕落っぷりである。
楽な生活するために懸命に働くのって何か矛盾してね? とか突然悟りを開きそうになるな――
どんどんダメな姿になっていく廿栗木磨美に軽めの鉄槌。
死んだふりの背中に突然重たいものが降ってきた。

【廿栗木】
ゴブッ……!!
その正体の一部が、眼前に転がってくる。
Mami
これは……トンファ――
ってことは今乗っかってんのは……!

【廿栗木】
おい、小松か……!?
死んだふりを解かずに、こっそり小声で背中に呼びかける。

【目羅】
――――
Mami
ッ……この背中越しに伝わる、短く、小さく金切りに近い呼吸――
明らかに異常。明らかにもう、意識が正常じゃない……!

【廿栗木】
――!
足音。声を殺し、限りなく視界を閉じ……それでも目の前のトンファを見詰める磨美……。
軈てソレがゆっくりと回収されていくのを知覚した。

【珠洲子】
……手間、かけさせんじゃ、ねーよ……

【廿栗木】
…………
Mami
もう小松は完全にダメだ――折角奪ったトンファも奪い返された……つまり。
Mami
時間稼ぎは、もうできない――!

【珠洲子】
へヘッ……何だよ、平賀の奴、いねーじゃねえか……くたばったか……? アナウンスは何もねえから、まだどっかで隠れてるか……?

【珠洲子】
爆発も止んでるし……そのままでいろや……オレが、さっさと潰してやるからよ――
Mami
相楽が、歩いて行く。
どうせその方向には――

【廿栗木】
……おい、井澤。気をつけろ

【謙一】
はぁ…はぁ……あ?

【廿栗木】
相楽がソッチ行くぞ――!
その無線によって、嘉祥から珠洲子へ意識を全てシフトさせる謙一。
しかし彼も、なかなか限界が来ている状態であった。

【謙一】
はぁ……はぁ……マジか、小松やられちまったか……
Kenichi
とはいえ、よくここまで持たせてくれたと云うべきだ……結局沼谷と長期戦やっちまったよ畜生。
それで、今度は相楽ちゃんか……見たところあんまりダメージ喰らってる様子もないし、動きは落ち着いている。まだまだスタミナは残ってるということだ。
Kenichi
流石に……キツいなぁ。

【謙一】
なんて事は、云ってられないんだがな
Kenichi
取りあえず武器を……って、あの思いの外便利なバット、何処に行ったっけ。沼谷ぶん殴る時に勢いで捨てちまったからなぁ……。
ああ、彼処に――って違う、あれ純然たるバットじゃん。普通に試合で使える金属製だ。
Kenichi
いやもう、アレでいい――

【謙一】
――え?
謙一が、こんな時にあることへと呆然としかけている時――

【珠洲子】
井澤あぁああああああ……!!!
珠洲子が両の手のトンファをジェット噴射させて、一気にターゲットめがけてぶっ飛んでくる!!