「特変」結成編3-9「強さの理由(1)」

あらすじ

「力があるから、特変に居るんじゃねえんだよ! お前との決闘も、革命うんちゃらもぶっちゃけどうでもいいんだよ!!」☆「「特変」結成編」3章9節その1。力に至上価値を置く嘉祥くんと、力は無力だったとする謙一くん。価値観が見事に対照的な2人の死闘も、遂に決着へ――!!

↓物語開始↓


Face_mera

カハッ……ゴフッ……


Face_noname

【周り】「「「ええっ!?」」」


 いきなり自分たちの座っていたところに人が落ちてきて、生死を心配していたところ、即座にその人間は起き上がった。当然周りはビックリである。


Face_mera

ガハッ――こ、れは……キツいな……


blood3


Mera

 盛大に、血を吐く。
 ああ、死ぬかもしれないって、可成り本気で思ったな……。


Mera

 こんなものを見せられたら、それは冥王とかあだ名を付けたくなっても仕方無いというものだ。


Face_mera

……だが……まだ……死ねない、な


Mera

 志半ばで、というのは誰もが望まないことだ。
 私も……ただ選んだだけでは、ない。
 選んだ先の、光景を……見たいんだ。


Mera

 私が死ぬべきは、今じゃない……!


Face_unknown

小松さん――!!


Face_mera

…………


 よろめきながら、観客席から再び会場へと飛び降りようとする無謀な挑戦者を、呼び止める観客が現れる。


Face_yuzuyu

はぁ……はぁ……はぁ……この――


Face_yuzuyu

大莫迦、死ぬつもりかー……!!


Mera

 ……どうやら、走ってここまで来たようだ。
 何をしたいのか。
 それを……クラスメイトとしてはまだ関係は薄い筈なのだが、まるで熟年のカップルのように私は確信していた。


Face_mera

……ダメだよ、私は、試合中なんだ……観客でしかない君の手にかかるわけには、いかない


Face_yuzuyu

自分の怪我具合くらい分かるでしょ!? これ以上、あの冥王とやり合ったら――


Face_yuzuyu

勝ち目無いのよ! 井澤くんならまだ分からないけど、アンタのあの護真術じゃあまりにも相性悪すぎる……冥王は絶対容赦しないし、そしたらこの革命がどう転んだとしても……


Face_yuzuyu

アンタは……


Face_mera

私は何だか、君を泣かせてばかりな気がするなぁ……


Mera

 場違いなのは分かっているが、それでも思わず笑ってしまう。
 抑も私のことなんかもう知らないんじゃなかったのかな。勝手にどこにでも行けと昨日云ってたばかりじゃなかったのかな。


Mera

 ……そんな君が、医療班を抜けるだなんてことを云った。
 だから今、私はこうして有り得ない道を選んだのかもしれない。


Face_mera

……君を苦しめているのは、平賀殿か、それとも私か。両方かな。どっちにしても――


Face_mera

こんな日は、もう懲り懲りだな……


Mera

 歩き出す。
 九条くんの制止にこれ以上耳を傾けることなく、私は……全力の今を、歩むのだ。


Face_mera

苦しいなぁ……辛いなぁ……


Mera

 ソレが――私の罪であり、罰であるならば、喜んで。


Mera

 ……その一方で。


Mera

 明日、私と九条くんはどんな顔をしながら会話をするのだろうと……
 そんな、不可思議な色をした想像が、胸に溢れ出していて、私は独り苦笑するのだった。


……………………。


break


Face_suzuko

ッ――! コイツは――


Suzuko

 照明が、落ちてきた……?
 爆発の衝撃で? オレの本気で……?


 珠洲子は間一髪、突然落下してきた物騒な照明機に巻き込まれずに済んだ。
 ……そんな彼女を上から双眼鏡で確認する女子が一人。


Face_chihae

おっしい……!


Chihae

 小松さんやられたっぽいから、柱をちょっとばかし爆破して特におっきな照明を真上から落としてみたんだけど……ほんとあの冥王様すごくよく動くよね……。


Chihae

 ってか私バレてないよね? ジェット噴射させて冥王こっち飛んできたらどうしよう。


Chihae

 ……兎も角、井澤くん早くして! 沼谷くんやっつけて!
 じゃないと、コッチも相楽さん押さえてるの限界来てるから――!!


 千栄の危惧は杞憂で終わっており、珠洲子は天井に一人裏切り者が張り付いているとは発想できていない。
 ……それよりも、無視できない相手が彼女の眼前に現れていた。


Face_suzuko

ッ……テメエ!!


Face_mera

とぅあぁあらあぁあああああ……!!


 残る力を振り絞り、走り寄ってきた小松目羅!!
 幾多の敵を完璧に排除してきた彼女の必殺をまともに受けてなお、彼女は意識を保ち、剰えこうして走り縋ってきたのである!


Face_suzuko

しっつけえんだよ――!!


珠洲子打撃


 素早い打撃が身体にめり込む……が、些細なダメージなどもう気にしても居られない目羅は、ヤケクソに近かったであろう、攻撃を選択する。


Face_suzuko

がっ――!


 頭脳プレーでも何でもない頭突きが、珠洲子にヒットする。
 ダメージを与えた。だが決定的ではない。次はどう動くか、追撃して彼女を倒せるか? いや倒せない――
 そういった日頃より培ってきた思考力が再び点灯したことで、目羅は冷静をも取り戻し、最善策を導き出す。


Face_mera

ッ――御免ね……!!


 顔面にダイレクトアタックしてきた頭突きは思いの外珠洲子の意識を刹那ながらに奪った。
 その隙を見て、自分の身体に叩き込まれていたトンファを目羅は両手で掴み、全力で引っ張った。


 そして片手分の、冥王の武器を奪い取ることに成功する。


Face_suzuko

ッ――! テメエ――!


Face_mera

……片手だけじゃ、お得意のジェットトンファ術は使えないだろう? 何せ、バランスが悪い……!


Suzuko

 コイツ――あの1発を喰らって、まだそんな思考を……どんだけタフなんだよ!
 だが、見たところもう殆ど戦闘力は残ってない。それならば、考えるまでもなく――


Face_suzuko

ぶっ倒して、奪え返せばいいだけだろ……!!


……………………。


謙一斬撃


Face_kasyo

――!?


blood2


 沼谷嘉祥の脚撃を――
 初めて謙一は、受け止めた。


 その意味を刹那にして回収し、取り零すことなく実行に移す。


 その光景は、観客からすれば一瞬のことであったろうし、実際不意を突かれ決定的なダメージを受けてしまった嘉祥にも対処不可の短時間だった。


 「紙一重」の最大の弱点。
 それはただの回避でしかないことだった。


Face_kasyo

ッ――がぁああ――!!?


Face_kenichi

…………


 跳んできた左脚撃。それを敢えて受ける……決して軽くはないダメージ。万気相すら使われていないのが救いだったといえるだろう。
 その対処に今まで追われていた謙一は、それを捨てたことで別の行動に移れるようになる。それは、彼への攻撃だった。


 彼が回避する時ではなく、彼が攻撃する時へ仕掛けた攻撃。その具体的な目標部位は、今まさに放たれた左脚。


 躊躇の無い左脚は、この時ただただ攻撃の意思しか装填されていなかった。だからこその沼谷嘉祥の強力な一撃たりうるのだが、それを謙一は逆手に取った。この性格こそが、彼に確実に攻撃を命中させる隙になりうると。


 当然、強者である嘉祥は己の弱点など把握済みではある。どんな時に自分の護真術の核とも云える「紙一重」が見破られるか。すり抜けることなく自分の身体に接触されるか。それは考えるまでもないことで、自分の脚撃が相手にヒットしている瞬間である。
 この瞬間において嘉祥は回避ではなく攻撃をしているので、絶対にすり抜けるなどという現象は起こらない。彼は回避をしていないのだから。
 実際に攻撃に使われている脚は尚更であり、この脚には必ず接触することが可能。つまり、最も狙われやすい部位となる。


 だから嘉祥は、そこを油断していない。しかし攻撃する以上その回避不可の瞬間を避けることだけはかなわない。どうあっても、それは生まれてしまう隙。
 井澤謙一は、嘉祥がどうすることもできないその隙の発生時間内に、総てをやることにしたのである。


 嘉祥に対処される迄にやり遂げるのは普通に考えて困難。といってもやることは多くない。困難だが、無理ではない。だから絶対勝利の意思を以て彼は遂行した。
 まず嘉祥の左脚を、右腕でホールドし彼の身体を捕まえる。それから、左手に持っていた例のバットを左脚太ももに刺し込み、そのまま下ろした・・・・


 もう一方の脚による脚撃がすぐさま飛び、その衝撃で謙一は吹き飛ばされ、嘉祥も解放される。
 ……が、手遅れであった。


Face_kasyo

グ――お、前――


Face_kenichi

はぁ……はぁ……これで……


Face_kenichi

お前の日常は、保たれねえだろ……!


Kenichi

 片方の腱さえ切ってしまえば、もう二足歩行はできなくなる。沼谷は、というか普通の人間はそうなのだが、二足で歩く。一足しか使えなくても移動の手段は作ろうと思えば作れるが、それはもう二足が普通の日常とは別物の動き。


Kenichi

 仮にまだ、あんな卓越した回避ができるとしても、それは最初の一回のみ。連撃に入れば、二発目以降は避けきれない。接近戦となれば尚更のこと。
 反撃に出るなら、そのお得意の脚撃を、右脚で行わなければならない。そうなれば当然バランスを崩し、大きな隙を生む。


Kenichi

 そう、どう足掻いても、このサシの対決において沼谷は詰んだのだ。


Face_kasyo

井澤……それほどの……


Face_kasyo

それほどの修羅の慣れを持っていて、尚さっきの言葉を吐くのか!


Face_kasyo

お前は、相当の強者だろう! あの特変の誰にも負けず劣らない力を持っている! だというのに、何故それを行使しない! お前の強さを、どうしてお前自身が肯定しない!?


Face_kasyo

そんな無駄な贅沢を、俺の前でしてくれるな!!


Face_kenichi

俺からすれば、どうして力なんかに飢えなきゃいけないんだって感覚だよ。そんなのあったって、不穏な空気ばっか作るじゃねえか。少なくとも――


Kenichi

 ――亜弥は、笑ってくれない。
 俺はお前が云うように力を持っている筈なのに、俺たちは幸せになれない。


Kenichi

 事情は知らないが、きっとお前は力が不足していた為に、何か苦しい経験をしたのだろう。
 その一方で俺は、お前とは逆だったんだろう。


Kenichi

 どうしようもなく、俺たちは互いに報われていないようだった。
 それさえ分かれば、もうこれ以上お前との時間に意味は無いだろう。だから――


Face_kenichi

決着だ、沼谷


Kenichi

 あ――
 この、感覚は――


KenichiKino


 謙一が、もはや対抗する術を持たない沼谷へ、走る。


Face_kasyo

……!


 迫る謙一。
 その身体は――気付けばマナに覆われていることに、嘉祥も気付いた。


Face_kenichi

俺はッ、お前みたいに闘う為だけに生きてんじゃねえんだよ!!


kenichiJudge


Kenichi

 来る。
 絶好――かどうかはよく分からないが、良かったな沼谷。


Face_kenichi

力があるから、特変に居るんじゃねえんだよ! お前との決闘も、革命うんちゃらもぶっちゃけどうでもいいんだよ!!


Kenichi

 どうでもいいとは云われたが。
 お前に“機能”を見せてやれそうだ。


Face_kenichi

そんな俺に――


乃乃靴べら


Face_kenichi

一回負けてみろよ沼谷ぁああああああああ――!!!


 炸裂。


 当然すり抜けることのない、渾身の1発が。


 沼谷嘉祥の顎を打ち砕き、上空へ飛ばした。


Face_kasyo

――――


謙一ジャッジ2


Kasyo

 ……受けた瞬間、悟った。分からないわけがない。
 この一撃は、素の拳では、断じて有り得ないのだ。


Kasyo

 膨大な、情報量。
 直接俺の中に流れ込んでくる、熱く、冷たく、柔らで……鋭い。
 俺は今、一体何の体験をしているのか分からない。だが――これが、奴の“機能”であり……


Face_kasyo

…………言葉……


Kasyo

 そう、か。言葉だ……。
 コレらは、総て井澤謙一の、言葉であり……


Kasyo

 他者でしかない俺の到底理解することのできないらしい、井澤の世界、なのだろう――


Face_kasyo

…………


 重力のままに、地面へと叩きつけられても、嘉祥は力無く倒れたままだった。
 その目は天井を見てはいるものの開かれているのであり、意識はまだある。


 だが、そこに起き上がろうという意思は、微塵も感じられないのだった。


Face_kasyo

……参ったな……


Face_kenichi

……云っとくけど、今の偶然だからな


Face_kasyo

……ならば、俺は幸運なのか、不幸なのか……どうしたものかな……


Face_kasyo

完敗、してしまったのか……俺は、よりにもよって、お前みたいな奴に……


Face_kenichi

完全にお前の自業自得だっつーの……


Face_kasyo

そうだな……これだけのことをやって……挙げ句俺は何一つ、得られなかったというのか……


Face_kasyo

……お前でさえも……幸福にはなれないと、いうのか……


Kenichi

 相変わらずの余裕めいた薄ら笑い。
 だがその裏には隠しきれないほどの……哀しみ、なのだろうか。


Kenichi

 沼谷嘉祥という人間の悲壮が垣間見えた気がして――


Face_kenichi

ほんと、変な方向に莫迦な奴だよお前は……


Kenichi

 俺も笑った。
 お互いの救いよう無さに、笑い合った、気がしたのだった。


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