「特変」結成編3-2「人生字を識るは憂患の始め(1)」

あらすじ

「……亜弥は、どう育っていくべきなのか」☆「「特変」結成編」3章2節その1。井澤兄妹の日課・お勉強にて謙一くんと亜弥ちゃんが日常会話するだけの回。にも関わらず意味不明かもしれませんが、困ったときはスルーです。

↓物語開始↓


Face_ami

【亜弥】

お願い…します……!


Face_ami

【亜弥】

捨て…ないで……ください……!


Face_ami

【亜弥】

何でも、しますから……もっと、もっと勉学に励みますから……


Face_ami

【亜弥】

たくさん…関心を持ちますから……


Face_ami

【亜弥】

ずっと……収納に入ってますから……だから……だから――


Face_ami

【亜弥】

――私を……捨てないで……


Stage: 謙一の家


Face_kenichi

【謙一】

……………………


Face_ami

【亜弥】

――兄さん?


Face_kenichi

【謙一】

ん――あ、ああ。どうした?


Face_ami

【亜弥】

ずっと、呼んでましたよ……? お勉強を、教えてほしいなって……


Face_ami

【亜弥】

……私、邪魔・・になってたでしょうか……


Face_kenichi

【謙一】

断じてそんなことはないよ。ただ単に俺がボーッとしてただけ。ごめんな(なでなで)


Face_ami

【亜弥】

はふ~~……♨


Kenichi

 いっけねえ、今は家に居るんだった……。てか久々に土曜日休みだから亜弥と一緒にまったりしてようって決めたのに……何でこんな時に。


Face_kenichi

【謙一】

…………


Kenichi

 まあ……あんなものを、見たわけだしな。


flashback


Face_nodoka

【温】

昴……じゃなくて……お兄ちゃん……


Face_nodoka

【温】

もう、やめて!! お兄ちゃん、私……――


Face_nodoka

【温】

指輪、もう要らないから――!!


Face_subaru

【昴】

……………………


Face_subaru

【昴】

え……?


Face_nodoka

【温】

そりゃ、大事だよ!! 手放したくない!! だから、取り返そうとしてくれたのは、本当に、嬉しかった……いつも、そうだよね……文句色々云う癖に、頼む前に動いてくれて……


Face_nodoka

【温】

それに、昴にとっても……指輪は、私たちの繋がり、だから……絶対に失っちゃいけないって気持ち、あったんだよね?


Face_nodoka

【温】

でも、でもね……私は昴と違って頭良いからね、分かるんだよ!


Face_nodoka

【温】

指輪がなくたってお母さんは見てくれてる! お父さんだって絶対に! 私は分かるんだよ!


Face_nodoka

【温】

だから私も、お母さんとの約束を、守らなきゃいけないの! 守りたいの!!


Face_nodoka

【温】

昴を――お兄ちゃんを護りたいの!!


Face_subaru

【昴】

……の…ど……か……


Face_nodoka

【温】

お願いだから……勝手に傷付かないでよ……!! 私、嬉しかったけど、頼んでないよ……!! それで昴が傷付いてたら、私お母さんとの約束守れないよ!!


Face_nodoka

【温】

一緒に居てよ……! 家族なんだから……今までみたいに、無理に頼りにならなくてもいいから、勝手に妹の前から居なくならないでよ!!


Face_nodoka

【温】

お兄ちゃん――!!


Face_subaru

【昴】

…………何だよ……


Face_subaru

【昴】

いつも、そうだったろ……お前、不満云って全部俺がそれを何とかしてきたのに……


Face_subaru

【昴】

どうして……よりにもよって、このタイミングで、そんなこと云うんだよ……


Face_subaru

【昴】

お前だってそんな…頭良くないだろ……


Face_subaru

【昴】

……………………


Face_subaru

【昴】

いつの間に……ちょっとだけ、立派になってたんだろ……


flashback_return


Face_kenichi

【謙一】

……何を教えてほしいんだ?


Face_ami

【亜弥】

えっとですね……よいしょ……


 そこそこ年季の入った絨毯の上に胡座を掻いた謙一のその上に亜弥が腰を下ろして教科書を開ける。


Face_ami

【亜弥】

えへへ……えっと、ですね……にへらにへら……


Face_kenichi

【謙一】

亜弥ちゃん、座りたかっただけじゃね?


 それは、全く以て珍しくもない、休日の姿。
 二人の時間だった。


Face_kenichi

【謙一】

今日も亜弥はことわざ辞典と睨めっこしてるのか


Face_ami

【亜弥】

はい。最近はお昼ずっと眺めています


Face_ami

【亜弥】

一つ一つ、見ている度に……私の知らない世界が広がっているような、気がして


Kenichi

 正直言葉に興味を持つところは似ないでほしかったんだが……云わんとしてることは、分かる。


Face_kenichi

【謙一】

故事・諺は昔の人たちが生きていく中で勝手に形作られた結晶だからな。その結晶を眺めれば、その人たちの人生の一部が映し見られるかもしれないな


Kenichi

 それを、たいして俺はファンタジーとは思っていない。
 元々文字というのは他者に、正確に伝達する為の設計を持つ。隣の人間に伝える為に設えられたものは、発展し、不特定多数の見知らぬ人間だけでなく、後世の者達にまで伝達できる機能を備えた。


Kenichi

 言葉は、使いようで、どこまでも写実的に主体の心を映し出す。逆に使いようによっては誤解しか生まないメッセージに仕上がることだって勿論ある。


Kenichi

 だから、この辞典にのめり込むのは……正直、良い気持ちがしなかった。だけど亜弥の行動をこれ以上束縛する気にも毛頭なれなかった。


Face_ami

【亜弥】

何だか、難しい字も沢山あって……まだ私の読解力と語彙力では、すべてを把握できかねますけど……


Face_ami

【亜弥】

読破できたら、いつか兄さんの役に、立てるでしょうか?


Kenichi

 俺は、言葉に敏感すぎる。この前美玲さんを怯えさせ、美甘に意味不明と一蹴されちゃった、俺の変な性格。


Kenichi

 それは今も、主張激しく音を鳴らしていた。今の時間……俺は、亜弥を恐れているのかもしれない。


Face_kenichi

【謙一】

さあな。ただ、正直そこに乗ってる諺……9割もコミュニケーションでは使われてないと思う


Face_kenichi

【謙一】

だから知ったって、教養としての経験にしかならないんじゃないかな。それが悪いとは云わないけど


Face_kenichi

【謙一】

文学だけじゃないよ、俺たちの暮らしているこの土地は


Face_ami

【亜弥】

は、はい……申し訳、ありませんでした……


Face_kenichi

【謙一】

謝ることでもないし、謙譲語出てるよ亜弥


Face_ami

【亜弥】

あ――


Face_kenichi

【謙一】

……ま、そんなに気にすることじゃないから、読みたいなら読めばいい。亜弥が関心の持ったものに取り組む、それが兄さんの一番やってほしいことなんだから


Face_kenichi

【謙一】

ごめんな、また脱線しちゃって


Kenichi

 頭を撫でる。


Face_ami

【亜弥】

兄さん……今日も、優しいです……


Face_kenichi

【謙一】

いつも頑張ってくれてる優秀な妹に、厳しくする意味が見つからないからな


Kenichi

 ……その手は、明らかに寒気か何かで震えていた。


Kenichi

 それもまた、珍しくもないこと。いい加減慣れろと唾を吐く思いで、手の感覚が麻痺しているのだと無理矢理錯覚させる。
 ただ、優しく、これまでしてきたように撫でること。何も難しいことじゃない。それさえやれば、多少は回復する――亜弥がじゃない、俺がだ。


Face_ami

【亜弥】

にへらにへら……あ、そうだ――兄さん、こちらなんですけど


 亜弥は、優しく辞書を捲る。
 既に何度も何度も開かれたページたちは、一瞬目に入るだけでもマーカーやボールペンで彩られた彼女の勉学が分かる。
 そして、とあるページにて、亜弥の手は止まった。


Face_ami

【亜弥】

」――ちょっと他の言葉とは、雰囲気が違うなって感じたんです


Face_kenichi

【謙一】

……………………


Kenichi

 たまに兄さんに容赦の無いダイレクトアタックをしてくる意欲軒昂の亜弥ちゃんである。



Face_kenichi

【謙一】

どうしてそう感じたか、考えて分かった?


Face_ami

【亜弥】

解説の論理は、理解できる……かもしれません。でも、何だか実感が、なくて……それはこの言葉に限ったことではないのですが……


Face_ami

【亜弥】

故事には、訓戒のメッセージが多いように思いました。無学であることは愚かで、より知り、より賢く生きることを、叫ぶ言葉たちが


Face_ami

【亜弥】

だけど、中にはこのような……逆方向の訓戒が籠められた言葉も存在して……少し、混乱しちゃいました


Face_kenichi

【謙一】

なるほどな。俺が教えてることと真逆のこと云っててビックリしたのか


Kenichi

 ……なかなか、グサッとくる名言だと感じた。


Kenichi

 若輩者なのは承知だが、それでも共感を覚える詩だ。


Face_kenichi

【謙一】

一つ、亜弥にコレを少しでも納得させる一例は思いついた


Face_ami

【亜弥】

是非、教えてください


Face_kenichi

【謙一】

仮に、もし仮にだが、俺が3日後に亜弥の前から姿を消すのが確定だったとしよう


 亜弥は辞書を手放し、背中の兄の裾を両手でギュッと掴んだ。


Face_ami

【亜弥】

消えないで、ください――


Face_kenichi

【謙一】

仮! 仮の話だから!! 大丈夫だからそんなこと絶対ないから!!


Face_kenichi

【謙一】

だけど、今亜弥が抱いた感情をまだ捨てずに持っててほしい。その状態で、この3日間は楽しく過ごせる?


Face_ami

【亜弥】

そ、それどころではないです……兄さんと離ればなれだなんて……その事態で、頭がいっぱいで……


Face_kenichi

【謙一】

だろ? それは今俺によって3日後の俺の消失を知ったからだ。知らなかったなら、3日後に俺が消えるとしても、それまではきっと今日のように楽しく辞書を眺めていたことだろう


Face_kenichi

【謙一】

知った途端、人の心が他の色に染まることは、俺たちの世界では珍しいことじゃないんだよ


Face_kenichi

【謙一】

知人や家族の見えなかった一面、所属していた組織が隠し抱えていたスキャンダル、自分自身の狭隘でも確かに存在する可能性――


Face_kenichi

【謙一】

真実を知れて良かったと思う人も居るし、知らなければもっとマシな時間を遅れたと嘆く人も居る。どう受け取るかは自分次第。だが、一度知ってしまえば無かったことにはできない、それは確かだ。無変化は有り得ない


Kenichi

 俺は亜弥を愛している。大切な妹だ。


Kenichi

 だが、それは言葉でしかない。言葉は間違いなく、真実以上の虚実を腹に宿す。では、そう俺が云ったところで、どうしてそれが「真実」だと断言できるだろうか。


Kenichi

 文字を知り、真実か否かを、宙を見詰めながら分析する術を身に着けた人は誰でも、その愛の囁きを疑う力を持っている。


Kenichi

 では、疑った人間は、如何にしてその命題に決着をつける?
 「本当に愛しているの?」と問うのか。
 寄り添い、愛撫し、お互いの体温を交換し合うのか。
 同棲するのか。結婚するのか。役所に届け出するのか。


Kenichi

 ――そのいずれも、文字という世界の感情は納得しないだろう。


Kenichi

 永遠の真実など、ありはしない。
 あるとしても、何処にあるのか分からない。
 そんな自分は、正しい存在なのか? 間違っているのか? 自分を修正する必要があるのかどうかも分かっていないまま、また夜を迎え朝を待つことは赦されるのか?


Kenichi

 そこから先は、洪水みたいな暴力だ。
 俺たちに勝ち目はない――


Face_kenichi

【謙一】

……亜弥は、どう育っていくべきなのか


Face_ami

【亜弥】

――!


Face_kenichi

【謙一】

もう決めてることではある。俺は亜弥を、地上に出すと約束したからな。だから今まで、色んなことをみせてきたし、話してきたし、教えてきたし、まず最初に……“私”を教えた


Face_kenichi

【謙一】

だが、その先は……分からない。まずその先に辿り着けるのかというのに俺は全力でぶつかっていかなきゃいけないから、そこまで考えてこなかった。そもそも俺も分からないことだしな


Face_kenichi

【謙一】

だから、亜弥は……亜弥なりの答えを出さなきゃならない


Face_ami

【亜弥】

……兄さん……


Face_kenichi

【謙一】

ごめんな、そんなこと云われても分かんないだろうに。こんな環境じゃ――


Face_ami

【亜弥】

――見たいんです


 時間を懸けず、亜弥は、言葉を紡いだ。


Face_ami

【亜弥】

私は……関心を、持っています。烏滸がましいですが、私は……その、地上に――


Face_ami

【亜弥】

兄さんが見ている世界に、一番、関心が向いているんです。この辞書の言葉たちの、何にも勝って、兄さんが語ってきた、兄さんが解釈してきたものを、私も見てみたい――


Face_ami

【亜弥】

――それが、今の……私の、一番落ち着いている答えです……


Face_kenichi

【謙一】

………………


Face_kenichi

【謙一】

そっか


Kenichi

 改めて思う……俺は憂患に飲み込まれている側の人間だと。
 虚実だろうが真実だろうが、何もかも恐れている小心な人間だと。


Face_ami

【亜弥】

兄さん……


Face_kenichi

【謙一】

どうした?


Face_ami

【亜弥】

どこにも、行かないでください……私を…連れていってください……


Face_ami

【亜弥】

置いていかないで、ください……


Face_kenichi

【謙一】

置いてかないよ。あの日、亜弥に約束した通りだ


Kenichi

 憂患。


Face_ami

【亜弥】

……それならば、私は……これからも、学ぶことが、できる気が、するんです


Face_kenichi

【謙一】

これまた壮大な自信だな


Kenichi

 憂患。


Face_ami

【亜弥】

兄さん……


Kenichi

 憂患。


Face_kenichi

【謙一】

どうした? その仕草は……何かおねだりしてるのか


Kenichi

 憂患。


Face_ami

【亜弥】

兄さんのお話を、聴きたいです……


Kenichi

 憂患。


Face_ami

【亜弥】

真理学園のお話を――


Kenichi

 憂患。


Face_kenichi

【謙一】

ああ……けど、あんまり目新しい話は無いぞ。例の如く酷い青春をだな――


Kenichi

 憂患。


Face_kenichi

【謙一】

ああ、そうだ。ちょっと面白い――


Kenichi

 憂患。


Face_kenichi

【謙一】

――いや、俺たちに匹敵するかもしれない、仲の良い兄妹とちょっと仲良くなってな


Kenichi

 憂患。


Face_ami

【亜弥】

!!!!(←キラキラな眼差し)


Face_kenichi

【謙一】

……聞く?


Face_ami

【亜弥】

是非とも……!



Kenichi

 止まることは赦されない。


Kenichi

 亜弥の幸せを願うなら、破裂したって脳を回転させろ。己の弱さなど、かなぐり捨てて前を向け。


Kenichi

 実際、俺は幸せ者だ。
 その為のやいばが、俺にはある――


Kenichi

 俺が本当に亜弥の幸せを願っているなら、必ず俺の“機能”は亜弥を傷付けないのだから――


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