「特変」結成編3-6「罅(1)」
あらすじ
「あぁ気持ち悪い……血の臭い、やっぱ慣れねえなぁ。こんな時ぐらい感覚麻痺してくれてもいいのになぁ。」☆「「特変」結成編」3章6節その1。変態だらけの物語の主人公が変態じゃないわけがないのです。そんな謙一くんの一面が曝け出される楽しい回です。※今回に限らず、グロテスク描写が唐突に現れますのでご注意を。
↓物語開始↓

【謙一】
来いよ、折角の時間だ。全力で遊べや――

【謙一】
首がねじ曲がって四肢が跳んでも、ヒトは踊れるんだからな
血潮が四方八方へと噴水の如く拡がる。
ヒトの身体が不自然なほどに曲がる。
400人のうち6人がそうして、彼の足下に転がったのを目撃し――場は、噎ぶように鎮まる。

【珠洲子】
……………………

【怒田】
何だ――今のは、井澤の本当の護真術か……!?

【嘉祥】
いや、違うな
Kasyo
あくまで一部。何かを隠している……実際、マナが全く使われていない。藤間戦の時に殆どの観客はアイツを、万気相すら使えない非戦闘組と見なしたようだが、ごく僅か……一瞬アイツがマナに覆われたときがあった。
Kasyo
まだまだ謎に満ち溢れたスペック……果たしてソレを、ただ3年生というだけの弱者が、引き出すに至るのか。もう少し様子見させてもらおう。

【安田】
ッ――! もっと、徹底的に袋叩きしろ!! 中途半端に数を減らすな!!

【此村】
後ろだ! 後ろを狙え!!
リーダー格の指示で、次々と学生たちが謙一へと迫る。
一刻も早く、この男を潰さなければ――先までとは違う危険を胸に抱き、“機能”が各々展開される。

【男子】
ッとらあああああ!!

【謙一】
……
Kenichi
前方からバッドを大振りする先輩さん。普通に考えてコレめっちゃ怖いが、もっと気をつけるべきは背後から忍んで来ている槍持ちの男子だ。
恐らく前方のバッドに俺が何か対処の動きを見せようとしたところで一突きしてくるのだろう。つまり、確実に前方が先に俺に到着する。
Kenichi
なら――

【謙一】
悪く思わないでくださいよ

【男子】
ッ――!?
謙一はバッドの隙を発見した途端、彼の間合いへと自ら急接近し、

【男子】
(グッ、今だ――!)
背後の槍男子を、誘い出す。

【謙一】
今回に限っては、悪いの十中八九ソッチだから――
Kenichi
今日は俺も好き放題に、やらせてもらう。

【男子】
グガッ――
完全に攻撃の間合いを乱されたバット男子の首を掴み、体重を掛けたと同時――
後方へ、投げた。

【男子】
!?

【女子】
きゃあぁあああああ……!?
迫っていた槍は井澤謙一でなく、味方である男子の頭を綺麗に突き刺した。
即リタイアさせられた男子のバットは、既に彼の手元にはなく――

【謙一】
俺、前の学校ではさ――
謙一の手元に、既に構えの中に存在していた。

【男子】
ブォ――

【謙一】
野球部殺しのハゲって云われてたんだよ。ハゲてねえのに
そしてフルスイング。
見事完全に集中力を乱されていた槍男子の顔面に命中し、惨く砕かれながら力無く宙を舞い地面に転がった。
意識はあるようだが、視界も破壊され実質的にリタイアである。

【女子】
ヒッ――!?

【謙一】
別に習ってはなかったけど、野球部より球飛ばすからさ――

【男子】
ッ――!
更に、フルスイングに掛かった遠心力に逆らうことなく身体を回転させ、背後から迫っていたカイザーナックル持ちの男子の攻撃を余裕満面の間一髪で受け流し、

【謙一】
練習試合にも呼ばれたんだよ、意味不明だよ、なっ!

その遠心力のままに再びスイング。
顔面を横から粉砕し、また一人リタイアを余儀なくさせる。

【謙一】
なあ、おかしいだろ? 俺部員じゃないんだから試合に出ても野球部の何のメリットにもならねえよな?
だが、吹っ飛びかけたその男子の胸ぐらをすぐ掴み、壊れた顔と意識に唾を飛ばし話しかける。
その一方で、すぐ十数名の敵が、また近付いてきているのも視界がしっかり捉えていた。

【謙一】
何か云ってみろってオイ! こっちは話しかけてるんだぜ!! 人の話はちゃんと聞こうぜ?

【女子】
ッ――安村を、離しなさい……!!

【男子】
このッ、クソ外道があぁあああ――!!

【謙一】
外道じゃないんだけどなぁ……ってことで――
謙一は、割れて傷の開いた男子の頭に右腕を乱暴に突っ込み――

【謙一】
素直に離してやるよ!!
その前方に、投げた。
掻き乱された、色々丸見えの頭を先頭とし、既に戦闘不能の男子を動揺隠しきれない敵達へ!!

【女子】
ひ――!? いやぁ!?

【男子】
ぎゃあぁあ何か出てるッ――!?

【謙一】
オイオイ安村くん心配してたんじゃねえのか? 折角返してやったんだから受け止めてやれよ――
今まで味わったことのない経験と臭いが、彼らの視界と意識を蹂躙するようである。
少なくともこの時、井澤謙一に対し向けられるべき注意が、男子の頭蓋に割かれたのは間違いなく、この隙に謙一は付近に転がっていた、先ほどの槍が頭に刺さった先輩男子から――

【謙一】
酷い連中だな、オイ
槍を同じように乱暴に引き抜いて――

【謙一】
アンタらは、どう思うよ!?
鋒に若干付着してきたナカミを、そのまま振るい飛ばし後方から迫っていた数名の注意を破壊する!

【学生】
「「「ひあぁあああ!?」」」

【謙一】
ってかよ――
その彼らにはまだ見向きもせず、謙一は前方へと地面を蹴り進む。

【学生】
「「「――!?」」」
同級生の頭蓋に動揺していた彼らは、この突進に対処しようと考えを巡らせるのが完全に遅れた。

【謙一】
いちいち悲鳴出してんじゃねえよ
決して一瞬ではなかったのに、対処できなかった彼らからすれば一瞬に見えたであろうゲームオーバー。
流麗な動きで頸を切り捨てられ、十数人がドサドサと倒れていく。

【謙一】
お前らさ、革命やってんだろ?
敵は地上から接近するとは限らない。
特に頭を上げるまでもなく、謙一は上空から3人が迫るのを意識した。

【男子】
ッてめええええええ!!

【謙一】
無血じゃない、最終的にはこんな武断な革命だ。だったらよ
彼らのピークの一撃を半歩後退り回避していき、ナイフと長爪と槍で囲まれつつも、矢張りそれを半歩の距離を上手く使い綺麗に回避していく。

【男子】
な――何であたらねえ……?

【謙一】
もっと覚悟をしてから今日迎えろよ。人を殺すってんだから、清潔なままでいられるわけねえだろうが
それなりのフォーメーション。しかし囲んだところで対象があわててくれないのでは、無力化には程遠い。
故に落ち着いたままの謙一はすぐさま反撃の隙を開く。

【男子】
ッ!?

【男子】
させるかあ――!

【男子】
今すぐ、その頸切り落としてや――

【謙一】
遅い。躊躇したな
槍を持った男子の足を踏み、それに反応し一斉攻撃を判断した男子二人よりも一段早く、彼らに全く見向きもしないまま謙一は手に持っていた既に真っ赤な槍を目の前の男子の喉仏にぶっ刺し――

【男子】
グアッ――!

【男子】
ッ何……!?
まだ持っていたバットを両手で持ち、後方へ身体を回すと同時にフルスイング!
一方の男子の爪を砕き、一方の男子の腕を巻き込みナイフが吹っ飛ぶ。

【男子】
に――逃げ――

【謙一】
逃がさねえよ
武器をなくした彼らに対抗手段はなく、敵前逃亡は余儀なくされた正しい判断といってもいいだろう。
だが、それを赦す心境を井澤謙一は持ち合わせない。

【男子】
――!!
足下に転がったばかりの槍を拾いすぐ一人の喉を突き刺し、

【男子】
助け――ッゴ……!?
槍の範囲から脱していた男子の後頭部へは、バットを全力投球でプレゼント。

【謙一】
……まだまだ居るなぁ
Kenichi
あぁ気持ち悪い……血の臭い、やっぱ慣れねえなぁ。こんな時ぐらい感覚麻痺してくれてもいいのになぁ。
Kenichi
扨――あと何人だ? 今何人やった?
できればこんな感じで皆リタイアしてくれればいいんだが――

【平賀】
オイ――怒田! どうなってる!! 話が違うじゃないか!!
神輿の上から400対1の光景を見物していた平賀利家は、声を荒げる。
全く予期していなかったわけじゃないにしても、都合が良いわけない展開に先ほどまでの笑みも無くなっている。

【怒田】
俺たちに云われても仕方ねえことだろうが平賀! ただ、アイツが今まで……藤間にボコボコにされても隠し続けていた! それだけの簡単な事実だ

【怒田】
そして、依然俺たちが数の力で以てアイツを圧倒している状況も事実だ。お前は何か指示を考えてればいい、大将なんだからな!

【平賀】
何なんだ――マナを使わずして、どうしてあそこまで……? そんな人間、僕は聞いたことがないぞ――

【平賀】
並川!! お前も早く出ろ!! 小手先の反撃なんか、お前の馬鹿でかい鎧で無力化させてしまえ!!

【凪】
……………………

【奏】
お、おぉう……

【譜已】
あの、美甘先輩……? 私、さっきから何も見えないんですが……

【美甘】
あー……うん、何となく、さ……?(←譜已の両目を手で覆う)

【沙綾】
ちょっとちょっとちょっと! あの人案外戦闘イケるんじゃない! 藤間くんの時のあのダメージ一体何だったのよ!

【情】
……俺とサシでやり合っても、そこそこ時間稼ぎにはなるって程か
Joe
いや、抑もアイツはまだ手を隠してるんだろう。能ある鷹は爪を隠す、その爪は一つとは限らず、それを長く悟られないよう過ごすことが護真術の質を風化させないコツでもある。
Joe
……万気相を使えないのは恐らくフェイクでなく事実の体質。だが、万気相が使えないというだけで、マナが一切使えないと結論づけるのは早計。
アイツは、恐らく……“機能”という爪も、まだ隠しているんだろう。

【情】
フッ……楽しませろやハゲ

【乃乃】
……謙一さんが思った以上に足掻くから多少雰囲気は混乱していますが、依然数の力が脅威ですね。実際、状況はあまり変わってないです……

【乃乃】
見ている側は、いつゲームオーバーになるかドキドキしっぱなしですよ謙一さん……
Nono
……できれば、ですが。
無事に、帰ってきてほしいですね。

【沙綾】
あ……並川先輩出てきた

【奏】
えっ、誰あの人? ってデカい!! 超巨体!!

【沙綾】
並川羽生、身長は4mを、体重は150kgを越えてて間違いなく3年生トップの巨体重量を誇る女性ね

【沙綾】
確か女子柔道部のキャプテンで、得意分野は自分の遠心力のままにグルグル振り回す棍棒ジャングルジム

【美甘】
ソレ柔道じゃなくね……?

【志穂】
……何にしてもヤバい相手ってわけか。今までみたいにはいかない――

【情】
ん――?
テレビ越しの会場に、一瞬だがパープルの光が舞台をジグザグに疾走したのが情の目には映った。

【情】
…………

【謙一】
――!!

【並川】
…………
地響きすら立てる存在感で、アリーナの中央――囲まれた井澤謙一に近付いてくる女子。
敵はたった一人、まるで蟻を踏み潰すような、簡単な筈の仕事。
焦る必要の無い相手――そんなことを思っていただろう学園最強の「蠅叩き」、並川羽生は一瞬光に包まれて、しかし特に変わった様子もなく、井澤謙一を見下ろす。
Kenichi
……すげえな、何食べたらこんなおっきくなるんだろう。将来の旦那さんは苦労しそうだ、主に住宅探しに。
Kenichi
いや、そんなことよりも……今、俺に一瞬だけ映った光景。
悪寒のままに、迫る並川先輩を無視して今一度会場を見渡した時、奇妙なモノが映った気がした。
Kenichi
光。
会場中を、走りまくる光が、人を避けるように面を伝い、軈て俺の近くまで来て、そして最終的には……目の前の並川先輩にぶつかって……
Kenichi
直感――いや、“天感”だった。
つまりだ、ここから遂に……本当の革命が、顔を出すのだと。

【謙一】
……!
並川が、手に持った……押し潰れた棍棒を振りかぶる。
たった一人のお邪魔虫を、潰す1秒前のポーズ。

【男子】
よっしゃ並川先輩だ、やっちまえーー!

【女子】
な、何て迫力……! これが3年のトップクラス層――!!
沸き立つ参加者たち。巻き込まれないようにそこそこ距離を取ろうとして、ゆっくり彼女から後退していく様を謙一は安穏と眺めていた。
――憐れと思った。