「特変」結成編3-4「革命と革命(3)」

あらすじ

「私は私を、見失ってはいないだろうか。私は小松目羅という……君の知る私の姿を、しているんだろうか」☆「「特変」結成編」3章4節その3。何でか自信満々に嘉祥くんたちを追い返した謙一くんですが、それと同時刻……ひっそりと特B教室で展開される2人の女の子の会話の回です。

↓物語開始↓

otherside

Stage: 特B教室


Face_mera

……九条くん? まだ帰ってなかったのか


Mera

 もうとっくに、放課後になっている。今頃他の学生たちはテスト勉強……してなさそうだけど、まぁ何かしら見つけて時間を潰しているのだろう。どうせ何をやっていたとしても、集中はできないだろうが。


Mera

 しかし九条くんは、朝から人の欠けたこの教室で、筆ペンを持って何かを書いて――


Face_mera

ッ――!?


 「辞表届」。


Face_mera

……医療班を……辞めるつもり、なのかい?


Face_yuzuyu

ちょっと、勝手に見ないでよ……まあ、そういうことだけど……


Face_yuzuyu

どうせ明日、テスト無いだろうし……勉強やる気にもならないから。作ってるの


Face_mera

どうして……! いや……理由は、何となく分かるが……


Face_yuzuyu

……大丈夫よ……私は首席だったけど、実際ここには美結や春日山くんといった優秀な医療班学生がまだ残ってる


Face_yuzuyu

特変が居なくなったら、平日の怪我率も一気に下がるだろうし、痛手にはならないわよ……


Face_mera

君は……本当に、それでいいのか……?


Face_mera

それが、君の答え、なのか……


Face_yuzuyu

見てたでしょ……? 小松さんと井澤くんだけじゃない、あのセントラルホールに居た、大半の人はもう勘付いてる。九条柚子癒はね……


Face_yuzuyu

傷付いた人よりも、まだ傷付いてない自分の身を案じて、医療のできなかった人間


Face_yuzuyu

私が首席じゃ、医療班の名が汚れる……美結たちにまで、迷惑をかける……


Mera

 朝から、ずっと考えていたのだろう。
 だがそれらの言葉よりも、その無気力な瞳が、彼女を呑み込んだ絶望の深さをより明瞭に理解させる。


Mera

 それに対して……私は……私たちは、矢張り救い止める言葉を持たない。


Face_mera

自分の身を優先するのは、そうおかしいことではないだろうに……それを云うなら――


Face_mera

私だって、君のように道を失う義務を負わねばならないじゃないか……


Mera

 ……私は、特Bの小松目羅。
 この教室で唯一、本当に特Bの意思を以て、特変に挑んだ者。


Mera

 故に、特変と敵対することは自然であり……


Face_mera

…………なあ、九条くん……


Face_yuzuyu

何……? 私は、この筆を止めるつもりは、ないけど


Face_mera

私は、変人か?


Face_yuzuyu

……………………


Mera

 いきなり、そんな脈絡もなく投げられた問いに、流石の九条くんも顔を上げた。
 そして……


Face_yuzuyu

何を今更……


Mera

 素で答えてくれた。
 その一瞬だけ、いつもの彼女の顔に戻ってくれた気がした。


Face_mera

いやなに、私の二つ名は知っての通り、薄本伝道師なわけであって……


Face_mera

優等生としての姿よりも、皆私の事をソッチの方面で知っていたわけだろう?


Face_yuzuyu

そうね。新学期の自己紹介で薄本を紹介してきたバカ


Face_mera

そんな私の薄本紹介におもっきし釘付けになっていたのはどこの首席だったかな


Face_yuzuyu

……別にいいじゃない。普通に造詣があるから意識はするでしょ普通


Face_mera

私は、何で新学期になるたびに、それをやるのかというとね九条くん……


Face_mera

改めて、そんな自分で居ようと、強く意識を持ちたいからなんだ


Face_yuzuyu

……どういうこと?


Face_mera

伝道師というのは、まず迫害を受けるものだろう? 太古の、我らの救い主然り


Face_yuzuyu

敬虔な信者に殴られるわよ……


Face_mera

かもしれないな。だけど、ソレを甘んじて受け入れ、変わらず毅然とした態度で語り続ける……


Face_mera

ありのままの自分を晒していくことを、私は望んだんだ


Face_yuzuyu

……………………


Face_mera

……九条くん……私は今、そんな私を保っているのだろうか


Face_mera

私は私を、見失ってはいないだろうか。私は小松目羅という……君の知る私の姿を、しているんだろうか


Face_mera

今ね……私は、君を見ていてふと、そんなことを思ったんだ


Face_yuzuyu

ねえ……アンタ、ちょっとよからぬこと、考え出してない……?


Face_yuzuyu

無駄なことを、考えてるんじゃ――


Face_mera

私は……特変を潰した先に、なおも存在しているのだろうか――


Face_yuzuyu

小松さん……!!


Mera

 九条くんが筆を置いた……というか投げ捨てた。
 立ち上がり、私の両肩を強く掴む。


Face_yuzuyu

今から何を変えようとしてるの……!? その身勝手で、アンタ一人が身を滅ぼすっていうなら、それでいいかもしれない!! でもね!!


Face_yuzuyu

それをやられて、傷付くアンタを見て何も思わない奴しか居ないわけじゃないのよこの学園は!! シアは!? 美玲さんは!? 朧荼くんは!? 徳川さんは!?


Face_yuzuyu

私は――何か変なことして、自業自得で壊れてくアンタを、見なきゃいけないのよ!?


Face_mera

……耳が痛いね……こんなに痛いと思ったのは、いつ以来だろう


Face_mera

私はこの痛みを、待っていた筈なんだけどね


Mera

 私は恐らく、ある意味井澤氏の上を行くほどに、愚かな存在へとなりかけている。
 その果てにあるのは、九条くんが云うように、自業自得の最期……なのだろう。


Mera

 私に限らず、この学園の全員が、革命の裏にチラつく可能性に、気付いている。
 しかしそれを忘れなければ、特変に巻き添えられる滅びが待っている。


Mera

 故に、これはどう考えても、有り得ない道。


Mera

 ……………………だが。


Face_mera

ソレが――何だというんだ……?


Face_mera

私は、とっくの昔に、死んでもいいって決めてたじゃないか……


Mera

 いっそ、殺してくれと――


Face_mera

なのに、それを懼れた自分が居たとしたら……私は……


Face_mera

何のために、生きてきたんだと、思わざるをえないんだ九条くん――


Face_yuzuyu

――小松、さん――


Face_mera

私は、何がしたいんだ……? 確かに、特変を戦う意思を私は持っているが……それはこの形で成しても、私は満足するというのか?


彫刻刀


Mera

 寧ろ、私はまた、あの時のような思いをするんじゃないのか?
 それだから、私はこんなに、勉強してきたんじゃないのか?


Face_yuzuyu

…………


Face_mera

え……?


Mera

 九条くんが、気付けば私の頬に、優しく触れていた。
 指の感触はなく……布が、水分を吸っている――


Mera

 そのとき、私は初めて自分が、涙なんてものを流していることを知った。


Face_yuzuyu

…………もう……


Face_yuzuyu

知らない……


Face_mera

……九条くん……私は……


Face_yuzuyu

アンタみたいな大バカ、どこにでも、行っちゃえばいいのよ……


Mera

 多分、それよりちょっと先に、目の前のクラスメイトも、静かに涙しているのに、気付いていた。
 殆ど同時だったのかもしれない。


Face_mera

……何だろうな……今の私たちを、客観的に見たら……


Face_mera

別れる瞬間のカップル、なのかな


Face_yuzuyu

百合には興味無いのだわ……


Mera

 どういうわけなのだろうか。分からないが。
 お互い、ちょっとだけ、先よりも元気になった気がした。


Face_mera

さて……どうしようか



Mera

 考えろ。


Mera

 私が、何をしたいのかを正確に汲み取れ。


Mera

 勝手に井澤氏に情報を提供した時点で、まず私は平賀殿を純粋に崇拝している、という線は無い。
 そして同じ理由で、平賀殿への反抗心をどこかで持っている、と考えられる。
 私は……どうして、特変を倒そうと思っていたか。否――彼らと関わることに、興味を持っていたか。
 いつだったか、私はこう彼らに、答えた気がする。


Face_mera

特変に……入りたかった……か


Mera

 ……そうではない。
 だが、矢張りそこに……私の求めるモノは、あったんだろう。


Mera

 ……ならば……


Face_mera

信じなければ、ね――


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