「特変」結成編0-4「花と嵐と七転八起」
あらすじ
「特変なんて、欲しいものじゃない」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」0章4節。堀田美甘ちゃんを最初として、始まった特変面子との事前接触。続く面子――烏丸凪ちゃんはハッキリと自分が特変反対派であることを表明してくるのでした。そんなことを云われても困る謙一くんは、更に二人の後輩とも再び出会うのでした。
↓物語開始↓

【謙一】
よく覚えたよ、堀田美甘ね……
Kenichi
あと、7人……
Kenichi
こんな疲れることを、あと7回繰り返すの――?

【???】
――なら、辞めればいいのに

【謙一】
……!
Kenichi
……容赦、無い。
Kenichi
本当に容赦無い言葉。

【怖い人】
大人の勝手に、附き合う必要もないでしょうに
Kenichi
俺のことを心配するようで、その意思は全く存在しない。
Kenichi
ただ、本音。
Kenichi
自身の意思をそのまま表す、平行線の音が、

【怖い人】
胃を痛めるだけ
Kenichi
夕陽に赤く染められる教室に、
Kenichi
俺の頭に静かに響く……

【謙一】
……さながら、悪魔の誘惑、てか

【怖い人】
貴方にとっては天使の手であるように思ったのだけれど

【謙一】
いんや、悪魔さ
Kenichi
真理学園、入試でも入った校舎。その教室の一つ――B3A。
Kenichi
その最も廊下側、前から2番目の席に予定通り座り、何かの本に目を落としたまま、後ろから教室に入ってきた俺との会話は続いていた。

【謙一】
この学園長の野望に協力することに、ホントに私的なメリットが伴う。俺はソレを捨てたくない

【謙一】
それを捨てろっていきなり勝手に云ってるその声をどうして天使と解釈できるよ

【怖い人】
……正直なところ、貴方のメリットなんて、私にはどうでもいいの

【謙一】
うん、分かってた

【怖い人】
大事なのは、私にとってはメリットなど存在しないこと

【怖い人】
そんな計画を現実化しようとしてる学園長側、つまり貴方は悪魔に他ならないこと

【謙一】
…………

【怖い人】
特変なんて、欲しいものじゃない
Kenichi
……先日に比べれば、まぁ声が聞けてるわけで嬉しい。
Kenichi
でも堀田美甘並み、下手すればそれ以上に厄介な感じがする、このコミュニケーション。
Kenichi
本気だ。やっぱり本気で云ってる。
この烏丸凪という女子は、見知らぬとはいえ、俺に心情を寄せる気配を一切見せない。自分のことしか考えていないんだ。
ある意味堀田とは、比べものにならない絶壁の拒絶。

【凪】
……波を、立てないで

【謙一】
波?

【凪】
それさえ心掛けてくれるなら、多少の我慢はしてあげる
Kenichi
これ以上の話の延長は不必要と判断したのか。
烏丸凪は結論を持ってきて、立ち上がる。

【謙一】
ちょ――
Kenichi
そしてバックを右手に持って、前の扉から出て行った。

【凪】
私が欲しいのは簡単に云えば――
Stage: ユストビ チェリブラ

【謙一】
――平穏、なんだってさ

【奏】
うわぁ……
……回想が終わって、時はその翌日の日曜日に戻る。
場所は教室でなく、優海駅。
その直結した商業ビル――「」の3Fのカフェ「」で週末の精神的疲れを癒やそうとしていた。
しかしそれは単なる休日とはなってなかった。

【奏】
何というか、初見の人にもそういう態度取っちゃうところ流石というか……

【譜已】
う、うん……
謙一は女子中学生二人とホールケーキを囲んでいた。
チョコレートでコーティングされまくっている、3人で全て平らげるには少し気力を要する大きさである。

【謙一】
二人は烏丸のこと知ってるの?

【奏】
有名だしねー

【譜已】
というか、そもそも知り合い、です……

【謙一】
え、マジで
Kenichi
どう見ても反り合わなそう。

【奏】
私的には知り合いって事実を抹消したいぐらいなんですけどねーあーホント、萎えるわ~……

【奏】
譜已ちゃんと一緒のクラスならまぁいいかなとか思ってたのに、アレまで居るとかさぁ~~……

【譜已】
あ、アレとか云っちゃダメだよ奏ちゃん……

【謙一】
…………
Kenichi
……そう。
烏丸の悲劇(個人的な感想)から翌日。
Kenichi
俺はまたしても特変のクラスメイトと会っていた。この二人だ。
Kenichi
一人はもう既に母親から紹介されていたというか、一緒にショッピングを経験済な銘乃譜已ちゃん。
Kenichi
そしてもう一人が、受験の時にもお世話になった女子……
自称譜已ちゃんの親友・二邑牙奏だ。

【謙一】
何というか、普通にコミュできる奴も居て心底安心してるよ俺は……

【奏】
そりゃそうですよ、譜已ちゃんは兎も角この私は問題児じゃないですから!

【譜已】
(えっ、私は問題児なの……?)

【奏】
そんなに迷惑かけませんよ! えっへん!

【謙一】
何だろうな、それ全部フラグにしか聞こえない気もしなくもないが、まぁ期待はしておくよ
Kenichi
でもそう付き合いも築けてない中でいきなり、
Kenichi
「バレンタインのプレゼントとかしてくださいよ!チョコとかケーキとか!」
Kenichi
と一週間前のイベントを引っ張って要求してくる女子だからなぁ。
Kenichi
譜已ちゃんが居なかったらチョコではなく肘チョップを喰らわせてたところだ。

【奏】
でも翠さんも、ホント何考えてるんだろうねー……

【譜已】
うん……

【謙一】
ん? 譜已ちゃんの母親のこと知ってるんだ

【奏】
そりゃ大親友ですから!
Kenichi
大親友だと母親のことも知らなきゃいかんのか。
でも、まぁあの母親なら嫌でも知り合ってしまいそうだなぁ。

【奏】
割と機密情報もペラペラ話しちゃう人なのに、特変なんて企画は全然聞いたことなかったね

【奏】
譜已ちゃんが知らないレベルだもん、ビックリだよ

【謙一】
あの人が引き続き学園長をやれてることに俺は甚だビックリだよ

【奏】
それも、譜已ちゃんを巻き込んでの制度だから……何か嫌な予感しかしないんだよねー……

【奏】
翠さんはきっと楽しいんだろうけど、当事者からすればどんな新学期が待ってるのか、ネガティブなドキドキが止まらないよ……

【謙一】
その辺、多分俺は立場上知ることできそうだけど、まだ話してくれてないんだよな……
Kenichi
その前に半強制的にこのメンバー紹介、みたいな期間入っちゃってるわけで。

【謙一】
クラス構成は俺を含めて9人。今分かってるのは堀田と烏丸、んで目の前の二邑牙と譜已ちゃん。あと4人も居るのか……

【奏】
井澤パイセン、何で譜已ちゃんのこと譜已ちゃんって呼んでるの? これは関係を疑っておくべきかな譜已ちゃん……

【譜已】
何で本人に訊いちゃうの……べ、別に奏ちゃんが怪しむような関係なんて無いよ……?

【謙一】
俺の場合学園長と親密な付き合いしてかなきゃいけない気がしてな、それ考えたら名字の方で呼んでるとややこしくなりそうじゃん
Kenichi
それに譜已ちゃんは譜已ちゃんって呼びたい謎の引力があるというか。

【奏】
まぁいいですけどー……でもあのマンモス校で9人って、半端ない少人数ですよ

【謙一】
……確かに。9人が世界的にも少人数なのはイメージしてたけど、抑もあの学校の在籍人数考えたらあり得ないよな

【奏】
私が知ってるクラス構成数はざっくり云って35人~50人です。それぐらいに分けていかないと余りが出ちゃいますから

【謙一】
何でそんなに入学してんの皆……
Kenichi
学費とか優先で俺はあんまり調べられてなかったから、学校のこと知らないんだよな。今のところ良いイメージが殆ど無いんだけど真理学園。

【奏】
詳しいことは実際に入学してから肌で感じてくれればいいけど、あそこってとんでもない制度持ってるからねー……

【謙一】
制度? 特変以外に何か特異なものがあるのか?

【譜已】
えっと……一言でいっちゃうと、寮制度、です
Kenichi
…………。
Kenichi
寮制度?

【謙一】
それが変なのか?

【奏】
ホントに一言で終わらしちゃったよ譜已ちゃん。でも、そういうことでーす

【奏】
真理学園が世間やMSBから嫌われてる理由が、この寮制度を作っちゃったってことと、学園長が翠さんってこと

【謙一】
…………
Kenichi
適度にまとめられてしまった。
Kenichi
どういう、意味なんだろうな……。
Stage: ユストビ チェリブラ
ケーキを満喫した三人は、館内を適当に歩いていた。
4Fは服飾や雑貨を扱うお店が立ち並んでいた。

【奏】
パイセン、あのコート~

【謙一】
却下だ
Kenichi
これ以上無駄遣いできるかっての!!

【奏】
まったく、この一般人側の二邑牙奏が特変に入ってあげるというのに、貢ぎが足らないと思うんです!

【謙一】
ぶっちゃけると俺はお前を普通の人間とは見てない

【奏】
え、何で、私全然烏丸凪とは違うでしょ――

【奏】
アフェアアアッ!!?
奏は全く何も置かれてない平地で顔面から転けた。

【謙一】
……まぁそこだな
Kenichi
既に5回は顔面ダイブを隣で繰り広げてるこの女の子。
Kenichi
何ていうか、ドジっ子の類いなんだろうけど、一緒に歩いてると何か恥ずかしい思いに駆られるってところがポイントだ。

【謙一】
譜已ちゃんも大変だな、こんな奴を友達に持って

【譜已】
あ、あはは……
苦笑でさりげなく肯定する親友である。
そんな騒がしい三人。

【???】
……お~ぅ

【謙一】
ん……?
本日日曜日、すなわち休日に羽目を外して駅ビルを歩いていた男性らの目にも、好奇に映ったようだった。

【酔ってる】
大丈夫か嬢ちゃ~ん? どう、顔見せてみ~?

【酔ってる】
へへっ、中々に可愛い奴二人と、要らねえイケメンが一人か……丁度いいな☆

【謙一】
おぅ……
Kenichi
何て雛形な酔っ払い。
Kenichi
てか要らねえイケメンて云うな。

【酔ってる】
なぁ今からそこのお二人、俺らとお茶でもして合コンしない?

【奏】
え~、さっきホールケーキで洒落たばっかりだからぁ~……

【酔ってる】
んだよ先越されてんのかよ! じゃあ何でもいいから、俺らと遊ぼうぜ~?

【奏】
じゃああそこのコートで洒落ようよ~☆

【謙一】
コイツも酔ってるんじゃねえか?
Kenichi
取りあえず物欲に眩みまくってる後輩女子に肘チョップをかましておく。

【奏】
いった~~~い……!?

【酔ってる】
おいおいDVっていうんじゃねえのかそういうの! 俺らそういうの許せないんだよね~!

【酔ってる】
イケメンだからって調子こいてるんじゃねえぞゴラァ!

【謙一】
基本的にこの一ヶ月は一方的に調子狂わされてばっかりなんだよなぁ
イケメンは否定しない謙一である。

【譜已】
い、井澤先輩……

【謙一】
下がってて譜已ちゃん
Kenichi
ま、折角ぼっち属性な俺が後輩の盾になれてるわけだし……
Kenichi
可愛い女の子を護るっていうこれ以上無い美味しい展開、見逃すのは思春期男子としてあり得ないわな。

【奏】
よっしゃ、譜已ちゃんは私が護っときますからパイセン頑張ってー!

【謙一】
お前は別に遊ばれてもいいんだけどな

【奏】
パイセン後で泣かしますー!
突然の戦闘にシフトである。

【酔ってる】
オイオイ……2対1、かっこつけんなよイケメンがぁ!!

【謙一】
あんたらはもうちょっと格好を気にした方が良いと思うんだけどな
Kenichi
ナンパは悪くない文化とも思うが、残念ながらこの時代この地域ではそう良くは映らない。
Kenichi
異質な光景ってのは早々に摘むに限るのだ。

【酔ってる】
……“機能表示――


【酔ってる】
――『五臓不全の提灯』”!!

【酔ってる】
『千罪一遇』”!!

【謙一】
……いきなり“機能”使ってきやがった
Kenichi
――“機能”。
Kenichi
俺達人間が各々持つ、拡張能力。
Kenichi
その全貌は脳同様にまっだまだ謎に包まれてるが、一般民衆にとって大事なのは、使用できるってこと。
つまりその力を使って、自分の願いを叶えようとする人たちが居て、彼らによって被害を受けんとするからその力で身を護ろうとする人たちも居て。
Kenichi
犯罪社会と化したこの世界で、“機能”を含めた自身の力は、いつしか「護真術」とさえ呼ばれるようになった。

【謙一】
それを、こんなタイミングで使いますかね……
Kenichi
確かに、2対1は不利。
それも“機能”なんて使われちゃうと、病院が見えてくるレベルで危険。

【noname】
【奏&譜已】「「…………」」
Kenichi
……後ろの後輩たちの、見守る眼差しがよく分かる。
Kenichi
そんなに、心配するなって。

【酔ってる】
おら、早くそこ退けよー! じゃねーと……

【酔ってる】
もっと情けない目に、遭うぜ……!
Kenichi
4月から一緒のクラスではあるが……
Kenichi
伊達に1年先輩はやってねえよ――!
Kenichi
見せてやる、格の違いってやつを!!!

【謙一】
――おまわりさあぁあああああああああああああああああああん――!!!!!
謙一は圧巻の行動に躊躇いなく着手した。

【酔ってる】
!?!?!?

【酔ってる】
!?!?!?

【譜已】
えぇええッ!!?!?

【奏】
ちょ、パイセン!? 井澤パイセン!? 何やってるんですか!?
驚いた奏が思わず謙一にダイブ。

【謙一】
えっ、何って、大人に助けを請うてるんだが……

【奏】
この流れで!? ここはパイセンが自力で障害撥ね除ける流れだよね!?

【謙一】
俺は使えるものは惜しみなく使う主義だ

【奏】
かっこつけんなかっこ悪いから!!
Kenichi
でも無闇に暴れてお店に迷惑かけて、損害賠償請求とかされたら痛手過ぎる。
後々俺らが無意味な損害を受けない為には、コレが一番なのだ。

【???】
……オイ

【酔ってる】
ん……――!?
Kenichi
そう、コレは最初から2対1なんかじゃない。
最初から不利なのはアンタらの方だったんだ。

【おまわりさん】
そんなに遊びてえなら、暇なおじさん達が遊んでやるよ……?

【酔ってる】
ちょ――
見た目的には2対7。
しかし実際は周りにお店があるわけで、女の子が絡まれて困ってるという構図を見てどちらに味方につく者が多いかは瞭然であり、
そんなわけでもっと多数の力が酔っ払い二人に圧力をかけていることは、二人自身が一番よく理解できる事実だった。

【おまわりさん】
何して遊ぼうか? そうだなぁ、全裸麻雀とか久々にやろうか? お前ら二人でな!

【酔ってる】
いや、ちょっと――

【おまわりさん】
つーことで、地下一階の俺らのバックヤードにご案内だぁ。もてなしてやるよー!

【おまわりさん】
「「「ひゃっはー!!」」」
すんなりとおまわりさん達にすっかり酔い醒めた二人が連行されていった。
奏の想像していた戦闘は全く以て起こらなかった。

【奏】
……………………

【譜已】
……………………

【謙一】
ふぅ……良い仕事したぜ✨

【奏】
いやぁ、まぁ、女の子二人は確かに無傷ではありますがぁ……

【譜已】
あ、あはは……
Kenichi
凄いジト目を喰らってしまった。
Kenichi
つってもこれが最善策だったからなぁ……
Kenichi
俺、あんまり……護真術引き出したくないし。