「特変」結成編0-3「境界」
あらすじ
「たいそう立派な大樹の枝の上で……女の子が上体起こしを繰り返していた。」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』その「「特変」結成編」0章3節。真理学園長銘乃翠さんからの新たな通知。未だ謎だらけな「特変」、その最初のクラスメイト――孤高の筋トレ少女堀田美甘ちゃんとの接触に、謙一くんは挑みます。
↓物語開始↓
Stage: 謙一の母校

【秋都】
あ、あの……井澤、くん――?

【謙一】
ん……?
怒濤の日曜日が過ぎて……平和な平日を過ごしていた時のこと。
具体的には次の金曜日。
便所飯の達人井澤謙一に何故か、女子が話しかけていた。

【秋都】
あ、えと、こんにちは……いきなりごめんね? トイレでご飯、食べるんだよね? すぐ終わるからちょっと時間、貰えるかな……?

【謙一】
確かにその通りなんだが、どうして俺がその道の住民なのを知ってるんだ……?

【秋都】
は――!? そ、そそそれはちょっと、色々あってね……!? あ、ああははあはは――!?

【謙一】
お、おう……
Kenichi
……突いたところでメリットがあるようには思えないからソッとしておこう。

【謙一】
んで、どうしたんだ徳川?

【秋都】
……――ハウッ!?

【謙一】
いや本当どうした
Kenichi
名前呼んだだけなのにそっちから話しかけてきたのに徳川はビクンとちょっと跳んだ。

【秋都】
わ、私の名前……覚えて、くれてたの……?

【謙一】
え、何で?

【秋都】
B等の間で、5回しか、会話したことないのに……

【謙一】
5回ぐらい会話してるなら普通に名前覚えると思うんだけどなぁ
Kenichi
徳川秋都って、名前かっこいいし。

【秋都】
ふ、ふわぁ――

【謙一】
……顔赤いぞ、保健室でも行くか? 基本学校の中ならいつでも話聞くし

【秋都】
いつでも――お話――
Kenichi
どんどん赤くなっていく同級生。
Kenichi
……確かC等の頃から一緒だった筈だ、徳川とは。ついでに云えば、クラスも一緒。
Kenichi
その頃の、特に初期の記憶がゴッソリ抜けてるから記録がどうなってるのかは分からないが、多分徳川とのクラスメイト率は他の追随を許さない。
……それ考えたら5回しか話してないってのが微妙な印象になっちゃうな。まぁそういうもんなんだろうな。

【秋都】
――は!? だ、ダメ、私は私こそいつでもウェルカムでも井澤くんはそういうわけじゃないから! 今渡さないとっ!

【謙一】
渡す?

【秋都】
あ、あの、コレ……
Kenichi
徳川が手渡してきたのは、封筒だった。
Kenichi
……受け取る。

【秋都】
(い、今、ちょっとだけ、1m㎡程度触っちゃった謙一くんの手に触れちゃったどうしようどうしよう!?!?)

【謙一】
……ッ! これは――
Kenichi
真理学園……
銘乃翠学園長からの直筆手紙……!
「土曜日の15時に学園正門に来てね☆
堀田美甘ちゃんをグラウンドに待機させます。
筋トレ大好きな女の子だけど、筋金入ったぼっち主義だから頑張ってコミュニケーションしてみてね💕」

【謙一】
相っ変わらず話し言葉がそのまんま文面化してんな……もっとしっかり情報入れてほしいもんだ
Kenichi
しかも明日かよ。念のためにスケジュールは空けまくってるから大丈夫だけどもさ……。

【秋都】
えっと、何か、困ったことになってるの……?

【謙一】
いや別に。悪いな、媒介担わせて
Kenichi
……ん?
Kenichi
待てよ、つまりは徳川は真理学園と繋がってるわけで――

【謙一】
徳川って、真理学園受験したんだな

【秋都】
あ……う、うん……えへへ、井澤くんとは縁が無い学校だけどね……

【謙一】
ん、そんなことないぞ。縁無いどころか、俺の進学先ここだし

【秋都】
………………………………。
………………………………。
………………………………。

【秋都】
えぇえええええええええええええええええ――!?!?

【謙一】
そんな驚くことか……?
Kenichi
立ち木のポーズみたいなリアクションしちゃって……
Kenichi
徳川も割と見てて面白い性格してるのかもしれない。

【秋都】
そ、そんな、驚天動地な展開、あるの――!? だだだって、けん――井澤くんは中京大学附属で固めたんじゃ――

【謙一】
え、何でそんな懐かしい進路選択知ってるの?

【秋都】
うっへぇぁッ――!?
Kenichi
何だろうそのリアクション。何でそのリアクション。

【秋都】
ひ、ひひひ……!?

【謙一】
笑えてない、笑えてないぞ徳川
Kenichi
……兎も角、明日か。
まだまだ謎に包まれた特変。
コレを見通していく為の第一歩が、一度クラスメイトを個別に見てみること。
遠回りなようで、やっぱり遠回りで、しかし最も展望が広い道。

【謙一】
んじゃ、サンキューな。あんまり無理すんなよー

【秋都】
う、うん……!? まま、またね――!?
Kenichi
……一歩目は。
堀田美甘――
Stage: 真理学園 学園大道路

【謙一】
…………
Kenichi
……で、書かれた通りに正門に来たわけだが。

【謙一】
どうしろってんだ
Kenichi
無理だ、これ以上は先に進めない。進んではいけないと俺の勘が告げている。
“アレ”は降りてきてないが、一般人の8割は同じことを思うだろう。
Kenichi
この森を歩けば、確実に迷うと……

【謙一】
つまり、グラウンドへは誰かが案内してくれる……
Kenichi
と、考えるのが妥当。
実際どうなのかは分からないが……ったく、その辺もしっかり書いておいてほしい。

【???】
――あぁ、居た居た、良かった

【謙一】
ん……?
Kenichi
と、待つことわずか一分、森から姿を現した男子は自分の方向に迷わず歩いてくる。

【ウザ眼鏡】
ごめん待った~?

【謙一】
慣れ慣れしいなんてレベルじゃない絡みのウザさよ
Kenichi
こんなに殴り割りたい眼鏡もそうそう無いもんだ。
Kenichi
俺と同じくらいの身長、ビジュアルは結構な好青年枠か。イケメンなのかもしれないが、絶対そう呼びたくないこの不思議な位置。
兎に角そのヘアピンやめろって気持ちでいっぱいだ。

【ウザ眼鏡】
井澤謙一くん、で良いんだよね

【謙一】
まず一番最初に聴くことだよなソレ。合ってるけども

【ウザ眼鏡】
いやぁ会ってみたかったよ謙一くん、何てったって学園長の興味を引いてるってどんな屑なんだろうと

【謙一】
初見だけどぶっ飛ばすぞ。……それで、グラウンドまで連れてってくれるんだろ?

【ウザ眼鏡】
察し済みとな。話早くて助かるけど、その前に俺のこととか訊いてくれればいいのに

【謙一】
興味無いんだ

【ウザ眼鏡】
実に率直で漢らしいね、なおさら気に入った。朧荼雪南、よろしく
雪南は無理矢理右手で握手を交わした。
即座に謙一は制服のズボンで右手を拭きまくった。

【雪南】
じゃ、行こうか。堀田美甘ちゃんのところへ

【謙一】
……ああ
笑みを張ったままの雪南に導かれ、謙一は学園の森を歩き始めた――

【謙一】
……なあ、堀田美甘のこと、何か知ってる?
森の中で、謙一はそれを訊いた。

【雪南】
ん? ……まぁ、多少はね。それなりに有名だし

【謙一】
へぇ、有名なのか
Kenichi
まぁ確かに、学園長の口振りからして、まず無作為に抽出してクラス作ったってことはないから、俺同様にそれなりに気に入られてると解釈するのが普通だ。
コイツもさっき云ってたが、あの学園長に気に入られるような人種はきっと目立つ。いや俺自身は別に目立つ存在だとは全く思ってないけども。
Kenichi
手紙に書かれていた数少ない情報、堀田美甘は――

【謙一】
筋トレ大好きだとか……

【雪南】
うん、そうだね。堀田美甘って聴いたらまず思い浮かべるのは筋トレ姿だと思う

【謙一】
俺の中でその女子のビジュアルがアマゾネス的なものに定着しつつあるんだけど

【雪南】
大丈夫大丈夫、見た目は普通に可愛らしい女子ちゃんだから。でも関わるのは相当骨が折れるんじゃないかなぁ

【謙一】
……筋金入りのぼっち主義、だったか

【雪南】
俺が見る限りだと、あの子が会話してる姿ってまず無いからね

【雪南】
謙一が今から会話してくれるっていうなら正直遠くで双眼鏡観察したいんだけど、いいかな?

【謙一】
いいわけねえだろ
Kenichi
てか既に双眼鏡持ってるし。
コイツ、常習犯だな……

【雪南】
というのは冗談。学園長にも釘打たれてるしね。邪魔は一切しないから、頑張ってね

【謙一】
……!
丁度そのタイミングで、目印無い森の前方姿に光が差す。
その先にあったのは――
Stage: 真理学園 小グラウンド

【謙一】
……グラウンド

【雪南】
ほら、彼処だ……
雪南が真っ直ぐ指差した方向。
それは、自分たちが抜け出た所からグラウンドの対向。
そこに生えている、相対的に目立つ大きな樹。

【謙一】
は? いや、何処だ――って!?
視力が良い謙一は300m以上先にあるその大樹の光景に、若干の変化が継続的に起きているのを認識した。
すなわち、何かが不自然に動いていた。

【雪南】
……面白いだろ?

【謙一】
……………………
…………。
…………。
…………。

【謙一】
…………見間違いじゃなかった
Kenichi
気のせいかな、気のせいだよな、気のせいだろ、と念じながらゆっくり歩く度に、気のせいじゃなかったってのがゆっくり何度も叩きつけられる感覚。
……4、5mはある高さ。
たいそう立派な大樹の枝の上で……

【筋肉】
フンッ……フンッ……フンッ……――
Kenichi
……女の子が、上体起こしを繰り返していた。

【謙一】
いやワケ分かんねえよ!

【筋肉】
……………………――
Kenichi
2秒1往復、それを延々と繰り返している。
少なくとも俺が歩き始めた時から、ずっと……
コレは相当鍛えられてる。お腹はきっとカレールーみたいなことになってる。

【謙一】
予想できなかった、というわけじゃ、決してないけども……

【筋肉】
……………………――
Kenichi
実際マジで現実化されると、ビックリするのは仕方ないだろう。
Kenichi
……それでも、やらなきゃいけないことは変わらなくて。
俺は、この子と話さなきゃいけないわけで。

【謙一】
堀田美甘さん、だよな

【筋肉】
……………………――
Kenichi
……これまでのリアクション含め、聞こえていないわけじゃないだろう。
Kenichi
意図的な拒否。
Kenichi
動きが変わらない。俺の入り込む余地が、無い。

【美甘】
……………………――

【謙一】
おーーーーい

【美甘】
……………………――

【謙一】
堀田さーーーん

【美甘】
……………………――

【謙一】
美甘ちゃーーん

【美甘】
……………………――
Kenichi
……………………。
Kenichi
何て堅い意思だ。
ここまで露骨だといっそ笑えてくるぐらいだ。

【謙一】
……さて、どうしようか
Kenichi
こういう機会ってあんまり無いからな……
話せない人とは話す必要無いわけだし、亜弥が口聞いてくれなくなったことも一度たりとも無い。
親睦の深め方ってやつだよな。やっべえ、縁無いよそんなの。さっきのキザ野郎にもうちょっとアドバイス聴いとけばよかったよ。

【謙一】
ふーーーむ……
謙一は木下で手を組み熟考しだす。

【美甘】
………………
……その様子を、腹筋しながら、チラチラと見ている女子。
その断続的瞬間的な視線に謙一は気付いていた。

【謙一】
…………
Kenichi
……確実に、俺を意識している。気になってる。
Kenichi
それなら……まだ、マシだ。
まだ全然、どうにかできる。
Kenichi
もっと、意識してもらうんだ。
筋トレすらままならないくらいに、俺に意識を持ってかれるように……
Kenichi
世間一般の親睦深めってのは絶対こんなんじゃないよな!

【謙一】
……俺、井澤謙一! よろしくな!

【美甘】
フンッ……フンッ……――!

【謙一】
そしていきなりで悪いんだが――

【美甘】
フンッ……フンッ……――!

【謙一】
一発芸やりまーす!

【美甘】
フンッ……! …………――??
……。
…………。
……………………。

【部活中】
お、おい……

【部活中】
……何だアレ……

【部活中】
ウチの制服じゃないよな……? どこの学校の――ていうか抑も何やってんだ!?

【部活中】
極めつけに木の上に居るの、堀田だぞオイ――!

【部活中】
ヤベえよ……近づけねえよ……早くどっか行こうよ……

【部活中】
俺ら部活できねえよぉ……
かれこれ10分ぐらい経とうとしていた。
元々別の学校の制服を来ている謙一がこの場所で目立つのは不思議なことではない。
しかし見た目よりもずっと目立つ要素は、彼の奇行にあった。

【謙一】
頂へとー、ひとり、見上げ立ち上がるよー♪

【謙一】
――ここで報告しなければならないことがございます。実はとしては甚だ悔しくまた申し訳ないのですが!!!

【謙一】
新曲、まだイントロサビ以外の歌詞と振り付けがワタシ井澤謙一は曖昧です故!!!

【謙一】
サビは勢いで何とかなるとして、それ以外の時間を謝意を込めた井澤式上体起こしで以て補わせていただく次第なことご了承ください!!!

【謙一】
では――

【美甘】
フンッフンッフンッフンッフンッ――!!

【謙一】
フンッフンッフンッフンッッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ

【美甘】
フンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ――!!!

【謙一】
フンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ

【美甘】
フンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ――!!!

【謙一】
フンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ

【美甘】
フンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ――!!!!!

【謙一】
フンッフンッフンッフンッフンッ――いーちめーん花火ー♪、弾けるー……ふふふふーんふふーん♪

【美甘】
フンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ――!!!!
井澤謙一は白宮駆遠が最近発表したばかりの新曲をカラオケしていた。
が、最新過ぎて覚え切れてない分は、堀田美甘にちなんで筋トレタイムで補っていた。
という謎理論を惜しげも無く展開して、グラウンドを使おうと思っていた一般生徒たちを精神面で蹴散らしていた。
勿論そんな彼の目的はたった一つである。

【謙一】
ふーんふふーんふふふふーん♪ ……歩き出すのー! ……――フンッフンッフンッッフンッフンッフンッフンッフ――!!!

【美甘】
フンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ――!!!!!
堀田美甘の意識を全て引き込むこと!!
Kenichi
恥ずかしい。
Kenichi
云っておくぞ、俺はコレ、死ぬほど恥ずかしいんだからな!!!
Kenichi
いや白宮さんの曲を歌うこと自体は光栄だが、リスペクトしてるつもりが逆に貶めてるとも見える構図になってる気がして、それはもう俺自身がすっごく傷付く。
Kenichi
でも仕方ないんだ……コレが、俺の明日を創る大切な仕事なんだから!
だから……いい加減、リアクションしろ――

【美甘】
フンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ――!!!!
Kenichi
腹筋少女おぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!
明らかに美甘は謙一の意図通り、集中力を乱され、拒みたい対象に意識を奪われまくっていた。
そしてソレに自身気付いているから、より拒もうと、筋トレを激化させる。
特に体勢が変わっているわけでもないが、今彼女を支える枝はとっても揺れていた。見ていて思わず声を出したくなるくらいには不自然に、ダイナミックに上下に揺れていた。それが彼女の熾烈な筋トレ、そして拒絶意思を示していた。
だが謙一にとってその激化こそが、美甘の耐久というリアクションを示しており、一つの指標だった。すなわち、飽和量を突破して彼女が何らかの形で腹筋を止めて別の行動に移る、つまり謙一の存在を認めるという行為への残りカウント。
二人の間では熾烈な闘いが展開されているのである。
……しかしそんなこと端から見たら分かんないのであり、かたや木の上でとんでもない速度で腹筋してる女子、かたや木の下でうろ覚えの曲を熱唱してたかと思えば突然筋トレタイムにシフトする男子の図。
もはや恐怖以外の何物でないのである。

【部活中】
「「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい……!!!???」」

【noname】
【謙一vs美甘】「「フンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッフンッ――」
――ボキッ

【noname】
【謙一&美甘】「「……え?」」

【部活中】
「「「え?」」」
……1,2分の死闘。
その終焉を、グラウンドに居た者は全員、呆気取られる声を対価に理解した。
しかし本人たちは一歩、遅れたのだった。
特に美甘は……自分の置かれている状況の理解は、

【美甘】
――うわあぁああああっっ!!??
全て終わった後に全身巡ってきたのだった……。

【謙一】
グギャ――!?
……。
…………。
……………………。

【美甘】
ん……ぅぅ……?
……美甘は、仰向けになって倒れていた。
その体勢のまま、自分がさっき居たはずの枝あたりを眺めている形だった。
しかしその視線の先に枝は無かった。
ちょうど美甘の真横に転がっていた。

【美甘】
落ちた、のか……?

【???】
いっつつ……

【美甘】
……!
少しの時間、身体が状況を理解するまで呆然とし続けていた美甘だったが、真下の地面からの音に脳と身体が正常な反応速度を取り戻した。
そして、普通に考えてその正体を悟り……

【謙一】
取りあえず……早く、どいてくんね?

【美甘】
うわわっ!? ご、ごめん!!?
……軽く飛び上がりつつも、慌ててその下敷きから退いた。
下敷きがゆっくりと起き上がり、身体の異常の有無を軽く確かめる。

【謙一】
ふぅ……あー焦った……
Kenichi
そりゃあんな激しく腹筋してればぶっとい枝も折れますわ。いや、普通ならあり得ないんだけどな……
Kenichi
そして枝が折れて、堀田が何処に落ちてくるかといえば、当然真下で、真下に居た俺が巻き込まれるのもまた考えれば分かること。
Kenichi
盛大にはしゃいだ結果がコレだ。今日ちょっと寝付けないかもしれない。

【謙一】
ったく、無茶すんなよ

【美甘】
…………
Kenichi
まぁ女の子が怪我しないよう身体を張った、とでも解釈しておけばいっか。俺は割とポジティブを心掛けてるからな。
……ネガティブになりがちだから心掛けてるんだけど。
Kenichi
……それよりも大事なことは、

【謙一】
声に出したら負け…か?

【美甘】
……え?
Kenichi
そう、女の子の声を聞けたことだ。
Kenichi
良かった。
Kenichi
そのビジュアルで世紀末レベルでメチャクチャ野太い声だったりしたらってほんの少しだけ心配してた。
いや、普通そんな女子とエンカウントしないよなって分かってはいたんだが、あまりに腹筋しまくってるから……

【謙一】
何つーか、ちょっとお前みたいな奴を知っててな

【美甘】
――?

【謙一】
こう見えても俺結構色んな人間を見てきたから、何となくこういう人間なんだろうなって分類できちゃったりもするんだよ

【謙一】
めっちゃ失礼だから、答え合わせはしないけど

【美甘】
……
Kenichi
敵意。
Kenichi
恥ずかしさ。
Kenichi
申し訳なさ。
Kenichi
戸惑い。
Kenichi
色んなものが、視線に乗っかっているように感じた。
Kenichi
……言葉にしなくたって、人の思いは表に出る。媒介物なんて挙げてたらキリがない。
Kenichi
ただ、表に出すこと自体控えていたら、いつか絶対パンクする。そして何かしらのタイミングで「漏れ出る」。人は発さずにはいられない生き物だ。
Kenichi
この女子だってそう。今、沢山の感情が漏れ出て、目の前の俺はそれを無抵抗に浴びている。
Kenichi
……キツい、もんだなやっぱり。

【謙一】
でも、お前はもう負けてるんだよな
Kenichi
しかしそれらに応えよう、なんて考えることもまた失礼。
Kenichi
すぐ分かった。此奴とは時間をかけて対話を心掛けるべきだと。あの反省の活きる時が来てしまったわけだ。
Kenichi
だから今この場でやることは、もっと限定的だ。

【謙一】
だってお前、さっき退く時俺に謝ったし

【美甘】
…………あ――
Kenichi
きっと、今日の範囲内でこれ以上の収穫はない。

【謙一】
何も意識していない時、人は素をみせる。……アレが、お前の素ってことだ。良い奴じゃん

【美甘】
ち、違っ……!!

【謙一】
何にしても、喋ってしまったお前の負けだ。今日これ以上何か付きまとうってことはしないけど……

【謙一】
クラス一緒らしいから、まぁ、よろしくな👍

【美甘】
………………

【謙一】
よく覚えたよ、堀田美甘ね……
Kenichi
あと、7人……
こんな疲れることを、あと7回繰り返すの――?