「特変」結成編0-1「初めての入試(3)」
あらすじ
「この巨大な学園を最も特徴付けるもの……それは、「森」。」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」0章1節その3。ようやっと辿り着いた受験校――真理学園の姿に驚きつつも、謙一くんは対策不可といわれる入学試験に挑むのでした。
↓物語開始↓

【謙一】
……!!
――真理学園。
優海町にただ一つ存在する、学園。
私立で、児育園からA等部まで、ついでに寮まで備えた、この巨大な学校を最も特徴付けるもの……
それは「森」。
Stage: 真理学園 学園大道路

【裸マフラー】
……入り口、どこだっけ

【謙一】
ちょ、一回願書出しに来てるんでしょ!?

【裸マフラー】
一回で覚えきれる地理じゃねーし……てかテメーはどうなんだって話だろ

【謙一】
俺はイレギュラーなんだよ……一応画像で雰囲気掴んだかな、とは思ってたんだが……

【裸マフラー】
下手すりゃ雪山だな
「森」とはどういうことか。この学校を初見したライターは「学校の中に森がある」とは記述しない。正しくは――
「森の中に学園が散りばめられている」。

【奏】
はいはーい、受験生の人ーー!

【謙一】
ん……?
その圧倒的な冬の姿に立ち尽くしてた真理学園初心者、というか入門者の二人に、遠くから女子二人が走り近付いてきた――

【奏】
ギャブシッ――!?
途中、一人滑り顔面から道路にダイブ。

【譜已】
そ、奏ちゃん!? 大丈夫?

【奏】
う、う~ん雪大好き~! 痛くないから好き~!

【譜已】
よ、良かったね……?
という茶番も挟みながらも二人が到着した。

【奏】
入り口、探してるんですよね!

【謙一】
その通りだ。あと君、顔面真っ白なままだけど

【奏】
いやぁ、もう2分に1回こうなっちゃうからもう放置しようかなって

【裸マフラー】
転けすぎだろ

【譜已】
か、風邪引いちゃうよ奏ちゃん……

【奏】
その時は譜已ちゃんに看病してもらうんだ!

【謙一】
友達にバカが感染ったらどうすんだ

【奏】
初見でバカって云われたのは多分今のが最速でした。そんなパイセンならこの学校は大丈夫ですね、受かります!

【奏】
それじゃ、会場案内しまーす!

【謙一】
お、悪いな
女の子二人に案内される形で、二人も雪道を歩く。
正門を越える。
森を歩く……

【謙一】
って、本当に森なのか……

【裸マフラー】
ホラ見ろ、コレ一発で覚えられるワケねえだろー

【奏】
なので、私たちみたいなボランティアが必須なわけです――ギャブシッ

【謙一】
君らはもう覚えてるわけか

【奏】
まぁ一年歩いてればある程度は。何故か何年通おうが絶対に迷うエリアも存在するけど……

【譜已】
こ、こっちの門は、そういう所は無いので大丈夫です……
それから数分……
突然、建物が現れる。

【謙一】
ホームページの航空写真的なので分かってはいたが、建物もでっかいな……
Kenichi
流石マンモス校といったところか。

【奏】
折角だから教室まで案内しますよ。受験票、持ってます?

【謙一】
持ってなきゃ来ても意味ないな。でもいいのか、他にも迷う奴普通に居ると思うけど

【譜已】
えと……先輩たちが、最後だと思うので……

【謙一】
え

【奏】
ぶっちゃけると今年度の編入試験受験者数って17人なんですよ。それ以外は皆昇級です
Kenichi
少なっ!!!
謙一は案内されるがままに建物を巡る。
Stage: 真理学園 一般棟

【謙一】
それで、この規模……?

【奏】
毎年こんな感じー。でも何故か、秘密の花園にはならないんですよ

【奏】
譜已ちゃんのお母さん曰く、法的にもセウトなラインで掻き集めてるとか何とか……だから多様性は充満してますよー

【謙一】
ま、まあそれで、俺達が最後とカウントすることができたわけか……

【奏】
そして私たちのミッションもフィニッシュです! はい、ここでーす!

【謙一】
あれ、誰も居ないんだけど……
Kenichi
15人集まってるんだろうなーとか思ってたんだけど。

【奏】
こんなにいっぱい教室あるんだからってことで一人ひとり教室違うんですよー

【謙一】
え!?
Kenichi
てことは俺、いや俺だけじゃなく今日の受験者全員、教室でたった一人で試験受けるの!?

【譜已】
せ、先輩は、こっちです……

【裸マフラー】
あんがと

【れぼ】
ではハゲも、奨学生になれるよう頑張ってくださいね~

【謙一】
奨学生になってからお前をぶっ飛ばしてやる

【譜已】
(え……な、何この妖精さん……!?)
隣の教室にマフラー女子が入っていったところを見届け、

【奏】
んじゃ、頑張ってください! ベストウィッシュ!! ……ズベシッ!?

【謙一】
そこに雪は無いぞ

【譜已】
し、失礼します……
また転けながらも駆けていった女子、それを追っていった女子。
二人の少女らの姿が消えるのを見届け……

【謙一】
…………
誰も居ない、どこまでも「自分との戦い」の場に、入っていった――
……。
…………。
……………………。

【謙一】
……ふう
それから約3時間。
その教室で井澤謙一は息を吐いていた。
呼吸は常にしているが、この時の吐息には意味があった。
スイッチを切り替えたのだ。

【謙一】
あーダルかった……
Kenichi
難しいことは問われていなかった。傾向が読めないなら、出てくる問題全部叩き潰す……あの女子が云っていた通りだ。まさにそれに限る、そんな感じの問題だった。
Kenichi
しかし頭を使った感覚は無いが、新鮮であることは確かだ……なんせ――

【謙一】
俺しか、居ないんだからな……
Kenichi
この教室には、実質不動設備以外は、殆ど物が置かれていない。恐らく、今日の為に準備されたのだろうが……
Kenichi
試験官も、試験開始と終了以外はこの教室を離れている……
カメラの気配も感じないから、恐らくカンニングしようと思えばできたんだろうな。
Kenichi
けど、それ込みで感じることのない恐怖が、四方八方から受験者を囲む。

【謙一】
誰だこの入試制度作った人は……
Kenichi
間違いなく、性格が歪んでる!
Kenichi
そしてそれを楽しんでしまった俺もきっと歪んでる!

【謙一】
さて、今は休憩時間なわけだが……
Kenichi
ぶっちゃけ、教室出る気にはならないんだよな。
校舎広くてまた迷子になったらイヤだし。

【謙一】
……2次の練習しとくか
Kenichi
2次試験――つまり、面接。
細かいルールは明かされてないが、2次試験の点数も確実に奨学生になれるかどうかを左右する。
Kenichi
その練習といっても、やれることはあんまり無い。せいぜい抜け毛が目立ってないか、とかそういうのを確認するくらいか。
方針立てられないんじゃ、何かパターンを作っても逆効果だし。

【謙一】
てか会場どこなんだろ
Kenichi
その辺の説明もあるとは思うんだけど……もしかして此処? このまま誰か試験官来て、俺座ったままで、それで始まるとか?
Kenichi
折角スタイリッシュ入室とか練習したのに、あのが光を浴びる日が来ない……?

【謙一】
マジかよ、それだと俺、一体どこでアピールすりゃいいんだよ……
Kenichi
傾向立てられなくても確実に存在するであろうポイントを用意してきたのに、それすら無駄になるとか、流石真理学園というべきか。とことん性格が歪んでる。

【謙一】
はぁ~ぁ……まあいいや、お昼だし、ご飯食べよ
Kenichi
今日の献立は男らしく日の丸弁当だ。
どうだワイルドだろう? 決して寝坊したわけじゃない。

【謙一】
よっしゃエネルギー補給だ!
Kenichi
主に此処に来るまでに消費した分だけど!
と、その時――
がらがらがら!!!!!
休憩中の一人の戦士の教室の扉が勢いよく開かれた――


【ヤバい人】
失礼しまーす☆!!!
そして裸エプロンの女の子がポージング!!

【謙一】
!?!?!?!?
そのスタイリッシュ入室を残念ながら視界に収めた謙一は梅干しを噛み締めてる途中で停止した。

【ヤバい人】
あら~? 無反応だわ~……おかしいわ~、こうやれば何かしら反応が見れると思ったのに

【ヤバい人】
やっぱり啓史さんのアドバイスに従った方が良かったのかしら~?

【謙一】
……………………………………(←梅干しを種ごと呑み込む)

【ヤバい人】
でもコレはコレで一つの受験者のリアクション、ということで記録しておくべきね~

【謙一】
……………………………………(←白米を全て掻き込む)

【ヤバい人】
あら~? そんな一気に口に入れちゃダメよ~噛みにくいわ~

【謙一】
……………………………………(←しっかり噛んで呑み込む)

【ヤバい人】
と思ったけどそうでもなかったみたい~やっぱり男の子ね☆逞しいわ~☆

【謙一】
……………………………………(←弁当箱をしまう)

【ヤバい人】
……あら~?
停止から無言だったら謙一は諸々の行為をしてから、ゆっくりと立ち上がった。
そして、依然として扉で立っている謎の裸エプロン少女に向かって……

【謙一】
すー……はー……すーーーーーーー……

【ヤバい人】
????
――渾身の一撃を放ち出す!!!!

【謙一】
俺の長座体前屈を返せえぇえええええ――!!?!?
……。
…………。
……………………。
Stage: 謙一の家

【謙一】
――という受験だった

【この世の天使】
えぇええええええ……
Kenichi
以上のことを妹に報告する。
Kenichi
今世紀最大な俺の受験は最初から最後まで波乱だった……

【謙一】
どうしよう、俺下手すれば落ちてるかもしれない……奨学生どころの騒ぎじゃねえぞ……

【この世の天使】
に、兄さん、大丈夫ですよ、きっと兄さんの主張、面接官さんに伝わってますから……!

【謙一】
長座体前屈としか云ってないんだけどな……
Kenichi
ただその直後に何故かあの裸エプロンは――

【ヤバい人】
合格ッッッ!!!!!
Kenichi
とかリアクション返してたから、まぁ多分あの子が面接官だったんだろう。

【謙一】
見た目、亜弥よりも年下だったんだけどなぁ……

【亜弥】
面接官って、一般的には教師の方が担当されるんですよね?

【亜弥】
兄さんを案内されたお二人みたいに、ボランティアだったのでしょうか?

【謙一】
幾ら何でもそれはあり得ないと思うが……否定しきれねぇ……
Kenichi
確定なのは、あれで俺の受験は終わったということ。
裸エプロンが帰ってから5分後に普通のスーツの人が合格通知書とかの説明してたから、そこは間違いないだろう。
Kenichi
そういや終了予定時刻とか受験票に明記されてなかったんだよな……つまり、最初からあの“抜き打ち”が今年のやり方として決まっていた。
何なんだろう、あそこは何処を目指してるんだろう。

【亜弥】
でも……本当に、お疲れ様でした、兄さん

【亜弥】
結果がどのようであるのかは分かりませんが、受験をやり遂げたんですから

【謙一】
実際合格は獲ってると思うんだがな……
Kenichi
1次試験はほぼほぼ満点叩き出した筈だ。

【謙一】
問題は、奨学金だ……

【亜弥】
別に、そこまで気にしなくても……何度も云ってますけど、私は兄さんが居てくれるだけで……
Kenichi
……ギシギシ鳴る、畳の音。
Kenichi
卓袱台を中心に、対坐していた俺のところに、膝で歩いて亜弥が、身を寄せてくる。

【謙一】
……寒いだろ

【亜弥】
兄さんが、私にとって必要十分のカイロです

【謙一】
もっと美味しいもの食べたいだろ

【亜弥】
兄さんが、私にとって最上至高の調味料です

【謙一】
もっと色んなこと、知りたいだろ

【亜弥】
兄さんが、私にとって最大関心の最終定理です

【謙一】
軽くヤンデレ入ってきてるな……
Kenichi
……金が、要る。
Kenichi
親父からの仕送りは計画的に消費している。
このペースを続ければ、この生活を維持すれば、あと十年はいけるだろう。
Kenichi
だけど、それだけこの建物が持つかどうかは生活していて不安に思うし……
Kenichi
何より、現代的じゃない。
Kenichi
現代はもっと彩り豊かで、沢山の光が交差している。
色んな問題が同時に陰を持つが、それは光に溺れた人間たちの問題でしかない。
Kenichi
この子は逆に、光に飢えているのだから……
これ以上、この飢えを強いたくはない。

【謙一】
……もし、今回の結果が、俺の賭けが失敗していたとしても

【亜弥】
兄さん……

【謙一】
それを補う何かを、すぐに見つけてみせる
Kenichi
A等学生になれば、南湘のルール的にも、バイトが可能になる。
何もやらないよりはずっとマシだ、俺の野望的にはちっぽけだが……
Kenichi
必ず、今より良い生活を、亜弥に与えられる。少しでも、光を――

【亜弥】
……学生の本業は、学業。兄さんはそう仰いました

【謙一】
……

【亜弥】
私にとっても、兄さんにとっても、一番求めるべきは、兄さんの学業です……

【亜弥】
それだけは、外れないでくださいね。兄さんよく、脱線しちゃいますから

【謙一】
……ああ
Kenichi
俺は、亜弥を餓死させない最大の光。
Kenichi
俺は輝き続けてやる。
Kenichi
亜弥が、俺を必要としなくなる、その時まで。
Kenichi
あと、もう少しだ――

【ヤバい人】
ふふ~、啓史さんはどうだった~? 逸材、見つかった~?

【啓史】
アンタが全員視たんだから分かるわけないでしょうに、翠さん

【啓史】
てかいい加減服着ろ三児の親

【翠】
うふふ~、それもそうだったわね~

【啓史】
……で、俺がそれを問うべきでしょうね。どうでした?

【啓史】
血眼で探してたアンタの求める最後の人間像、あの17人の中に居たんですかい?

【翠】
うふふ~……うふふ~

【啓史】
……その、近年稀に見るほどに上機嫌で、邪悪な笑み

【翠】
うふ……うふふうふふふ、あはははは――!!

【啓史】
遂に、見つかったんすね……あーあ、この学園の終わりが、すぐそこに見えてきたか。転職サイト登録しとこ

【翠】
逃がさないわよ啓史さん~! 一緒に地獄の果てまで突き進むって決めた仲でしょ~!

【啓史】
勝手にありもしない約束過去に捏造せんといてください

【翠】
さあ、さあさあさあ……全部を、ひっくり返しましょう……私たちと、一緒に――
Midori
「井澤謙一」くん――!!!!