「特変」結成編0-1「初めての入試(2)」
あらすじ
「それまでは意地でも隣を歩く。」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」0章1節その2。入試当日迷子で取りあえずコンビニ入った謙一くんがそこで出会ったのは、吹雪く外を防寒具マフラーオンリーで歩く少女でした。
↓物語開始↓
Stage: 人気の無いコンビニ

【ロボ】
イラッシャイマセ!

【謙一】
ッ――!?
Kenichi
こ、これは……まさか最近ニュースでもやってた、!?
Kenichi
確かにコレは便利さを追及した究極形の一つかもしれないが、今の俺は温かな人間性が欲しかったんだ……!

【謙一】
ド畜生――これだから資本主義社会は……ッ!!
Kenichi
でも取りあえずティッシュ買っとこう!
現実逃避がてら謙一はでピピッと16番のを買った。
ガタッ。
ジュース缶の自販機の如く、箱ティッシュが容赦なく取り出し口へと叩き落とされた。

【謙一】
ちょっ、何今の勢い!? おま、箱潰れてんじゃん! てか一箱かよ!
Kenichi
確かに値段的にそうだわな……でもこの凹み方はないわ。
Kenichi
まだまだ機械に全てを管理される社会の訪れは遠いな……

【謙一】
まぁ科学なんてのは文字通り手頃が丁度いいのかもな――

【???】
何云ってんだ

【謙一】
――え?
落ち込みながら何とか箱の凹みを開封せずに直そうと四苦八苦していた謙一の真横から声が刺さってきた。
その声の方向へと彼が顔を向けた時には――

【裸マフラー】
人間が扱う限り、科学は道具で、人間が握るものだってのー
声の方向は真後ろとなり、謙一が後ろを振り向くと、

【裸マフラー】
握れないのは、人間の手が小さいだけー

【謙一】
……?
氷点下な本日にあり得ない外出装備のロン毛の女子の姿。
具体的には、コートなどの上着を着ていない、ミニスカからは普通に生足がくるぶしソックスまで丸見えの、要は見た目マフラー以外の寒さ対策を一切身につけていない後ろ姿。
そんな狂気のビジュアルを輝かした女子が、ナチュラルに歩いて、ティッシュ売り場から右3つ隣の自販機で立ち止まった。

【謙一】
――!?

【裸マフラー】
強者なる科学を扱えるのは強者の人間ってだけ。お、これ優美限定じゃん。れぼー

【???】
は~い
そして少女のスカートの左ポケットが謙一の目の前で勝手にゴソゴソ動き始め……

【れぼ】
寒いです~れぼにもください~

【裸マフラー】
おめーにゃカイロで充分だろーが

【れぼ】
ちぇっ……ぴぴっと~
現れた手のひらサイズの、蝶のような羽を生やした見た目女の子な物体は……
電子マネー認証領域に女子の手を全く借りずに移動し……身体をくっつけた。
ピピッ。
缶ジュースが叩きつけられた。

【謙一】
!?!?!?!?

【裸マフラー】
え、おま、これ!? ジュース飛び出てるじゃねーか! 絶対位置エネルギーだけの問題じゃねーよ、誰かの悪意を感じる! 店員ごらーーー!!

【ロボ】
イラッシャイマセ!

【裸マフラー】
おめーじゃねーよ! 人間出せぇ! 手のひら見せろ、ちっちぇえだろゴラー!

【れぼ】
ちょ、待って~! ポケットの中入れてよ、寒いよ~~……!!
文句を云いながらマフラーの女子は去って行った。

【謙一】
………………
Kenichi
……………………。
Kenichi
……え、何アレ、何なのアレ、朝から色々フレッシュなもの見過ぎていっそ眠気も感じてきたよ俺?
Kenichi
――ていうか、人間じゃん! 店員居なかったけどあの子は人間じゃん! マフラーと妖精だけど人間じゃん!
Kenichi
何かもう意味分かんねえけど、アレが今俺に必要なものっていうのは確かだ!

【謙一】
待ってーーーーー!!!
梅コットン片手に、リュックを揺らしながら謙一もコンビニを後にした。
……。
…………。
……………………。

【裸マフラー】
ん……?

【謙一】
はぁ……はぁ……間に、合った……
5分間走り回って、奇跡的に謙一はマフラーの女子と再会した。

【謙一】
もうダメかと思った……

【裸マフラー】
誰?

【謙一】
いや、君、さっき俺に話しかけてきたじゃん……

【裸マフラー】
…………?

【れぼ】
ほら、さっきコンビニで科学について独り言してた哲学変人さんですよぉ~

【裸マフラー】
……ああ! さっきの!

【謙一】
別にそんな哲学めいたことを考えてたわけじゃないが……
Kenichi
もう俺忘れられてたのかよ。
Kenichi
てか、さっきの妖精さんは無事ポケットに入れたらしいな。今度は右ポケットが揺れてる。
Kenichi
そして変わらずマフラーオンリーか。狂気の沙汰なんだけど。

【裸マフラー】
で、何か用?

【謙一】
君、真理学園の学生だよね? 或いは今から真理学園向かうよね?

【裸マフラー】
後者が正解。それが?

【謙一】
ほんと悪いんだけど、お供させてくれない? 俺いま道迷ってて自殺しようか迷ってたんだよね

【れぼ】
行き着くところまで迷いに迷ってたんですねぇ~。どうするの~?

【裸マフラー】
別にネズミみたいに朽ちようが私には関係無いっつーの
少女は迷い無く、歩き出した。
その様子を見て謙一は一回拝んでから横を歩き出した。

【裸マフラー】
で、附いてくると

【謙一】
だって俺が君の横を歩くのも君には関係無いことなんだろうなと

【裸マフラー】
何故そうなるし

【謙一】
現にコンビニでは見事に会話成立させてた一方で俺スルーされてるし

【裸マフラー】
根に持ってんのかよ、女々しい男子ー

【謙一】
要はアレだ、旅は道連れ世は情け

【裸マフラー】
それテメーが使っていいやつじゃねーから。は~……ったく、優海町何なんだよ、コンビニ腹立つし、変なやつ附いてくるし

【謙一】
そうそう、そういやまだ名乗ってなかったわ。俺井澤謙一。君は?

【裸マフラー】
しかもストーカー気質ときたもんだ。誰が名乗るかー

【謙一】
せめて外交的と云ってくれ
Kenichi
外交的なつもりもないがな。
Kenichi
今はとにかくこの女子を確保していなければいけない。何が何でも食いつかないと。
Kenichi
でも走り出さないところを見ると、俺を振り切ろうなんて無情な反応は来なさそうだ。よかった……マジでよかった……神は見捨ててなかった……
Kenichi
だからそんな神の遣いの名を聞いておきたかったんだが、まぁしつこいのは確かだし、これ以上の強要はいけないか。

【謙一】
はぁ……にしても、ホントよかったわぁ……

【れぼ】
本当に安堵されてます。そこまで困っていたんですか?
Kenichi
スカートが、というかポケットが揺れてる。
Kenichi
どうやら寒くて外に顔も出したくないらしい。

【謙一】
まあね。時間内に辿り着けなかったら人生終わってたかもしれない

【れぼ】
絶体絶命の危機だったのですねぇ~

【謙一】
優海町って特徴的な建物とかあんまり無くてさ、それに加えてこのパない積雪だから、地図と照らし合わせようなくてさ
Kenichi
下見とかやってればこういう事態も防げたかもしれないが、それもやる暇無かったからな俺……

【れぼ】
謙一様は、アナログ嗜好の方なのですね。今時の若者であればナビシステム搭載のデジタル地図アプリケーションを使うでしょうに

【謙一】
俺のこと敬ってくれるの妖精ちゃん。別にいいのにそんな畏まらなくても

【れぼ】
ではハゲと

【謙一】
わざわざ蔑まなくてもいいんだぞ?
Kenichi
二進法的というか、まさにデジタル思考というか。
Kenichi
てかハゲてねえ。

【れぼ】
私は科学の内であり、人に使われる為の存在です。私の上位に人が在ることは自明です

【れぼ】
それと、私のことは「れぼ」とお呼びやがれください

【謙一】
いきなり発言が矛盾してきてるが、まぁ分かった。れぼって何者?

【れぼ】
ハゲも持っているではありませんか

【謙一】
ハゲてねえ
Kenichi
俺も持っている……
Kenichi
ということは――

【謙一】
まさか、コレか?
謙一はズボンポケットからパスケースを取り出した。
その中にはレヴォも入っている。

【れぼ】
しかりです。私は現在ではとてもレアなレヴォカード……説明をし出すと入試が始まりますので、危ないくらいに要約すると、AIです

【謙一】
確かに要約っていうか最早省略のレベルだが、まぁそういうものなんだって受け止めとくわ。マジかよ科学凄え

【れぼ】
そう何もかも受け止められるとそれはそれで複雑な科学の心情です

【裸マフラー】
てか勝手に喋りまくりやがってテメー
Kenichi
にしても……

【謙一】
君も受験に来てたんだな

【れぼ】
あれ、なにゆえそれを?

【謙一】
れぼがたった今云ったんだろ。入試って

【れぼ】
科学の失態です……

【裸マフラー】
テメーの失態だっての

【謙一】
さっき云ったけど、俺も受験なんだよね。はぁ……マジで獲りに行かねえと

【裸マフラー】
偏差値30切ってるトコにんな殺気立てんなし

【謙一】
ん? いや、そりゃ受かるだろうけども

【裸マフラー】
は?
Kenichi
そりゃ、当日何が起こるか分からない前提は覆らないものの……
Kenichi
模試からしてA判定、というか一回りしてG叩き出されるぐらいだからな。一回りって何だろう。

【謙一】
奨学金、獲りに来てんだ

【裸マフラー】
あー、そのタイプ

【れぼ】
同じですね

【裸マフラー】
あほ

【れぼ】
あふんっ
女子はポケットを叩いた。

【謙一】
同じってことは……君もか。ライバルだつまりは

【裸マフラー】
相対評価ならなー。でも実質ここの入試は絶対評価だ

【謙一】
まあな……
Kenichi
受けに来る奴に、そこまで強敵がいるとは思えない。
となれば、問題はどこまで点数を稼ぐことができるか、という自分との戦い。

【れぼ】
折角の縁ですから、お互い点数勝負でもしてみればどうですか~?

【裸マフラー】
ヤダよめんどい

【謙一】
会えるかどうかは分からないからな……
Kenichi
なんせ真理学園、ちょっと調べた程度の情報だが……
Kenichi
在籍数4桁を誇る、マンモス校。おまけに俺自身たいして周りに興味というか、視線がいかない性格みたいだし、
おまけにおまけにこの子もそんな感じだろうし、3年間会わない確率わりとあると思う。

【謙一】
あ、でも入試のポイントとかあれば教えて

【裸マフラー】
ホントに奨学生なるつもりで来てんのかコイツ

【謙一】
いや、やることはやったつもりなんだが、多少不安でな……

【れぼ】
学園長がユッッッニーーーーーク! なことぐらいしか分からないですけどねー。あれほど傾向が掴めない過去問も無いですねー

【裸マフラー】
筆記は要するに出てくる問題全部叩き潰せばいーだけだろ。それよりも奨学生なるつもりの受験生の壁は面接っしょ

【謙一】
だろうな……
Kenichi
気に入られるかどうか、だもんな……
Kenichi
俺けっこう同級生から嫌われてるというか、そもそも関わりがあんま無いというか、ぼっちというか……

【謙一】
俺、社会的にどうなんだろう、好かれるタイプなのかな

【れぼ】
取りあえずハゲ成分拡散してそうで、まず物理的に距離置きたいタイプなのは確かです~

【裸マフラー】
もっと離れろハゲ

【謙一】
学園着いてからぶっ飛ばすぞ
Kenichi
それまでは意地でも隣を歩く。