「特変」結成編2-2「お隣さん(2)」

あらすじ

「票の勝ち取り方は、それだけじゃねえよな?」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章2節その2。対特変性を持つお隣さん「特B」による、合唱祭の得票率対決! 既にしっかり準備を固めてきている彼女らに対し、準備どころかヤル気も皆無な特変はどう挑む――?

↓物語開始↓

290504


Stage: 特変教室



AM10 00


Face_kenichi

【謙一】

……さて、昨日の報告でもしますか


 訓舘嬰太の授業になったところで謙一が話題を掲げる。


Face_so

【奏】

あ、やっと


Kenichi

 別にクロウス先生の時でも良かったんだが、念のため。
 元々偵察を勧めてきたのは訓舘先生だしな。


 数学の授業の中で、昨日の放課後の、お隣さん「特B」への挨拶兼偵察の結果を詳細に報告していく謙一。
 それを真面目に聞いたり露骨に聞き流したりアルスで動画見たり爆睡を通したり……反応は八者八様であった。


Face_kenichi

【謙一】

ってか殆ど聞いてねえし!!


Face_joe

【情】

ごがあぁあああああ


Face_shiho

【志穂】

ぐおぉおおおおおお


Face_mikan

【美甘】

何かもう、勝てる気がしないな……ウチらにチームプレイしろって……


Face_saya

【沙綾】

中々に絶妙な攻撃を仕掛けてくるわよねぇ(←動画見ながら)


Face_so

【奏】

つーかケンパイ、偵察とか云いながら真正面から突入し過ぎじゃね?


Face_kenichi

【謙一】

昨日も云ったように、挨拶込みだったんだよ。あ、ライジングサンの件ありがとな。喜ばれた


Face_so

【奏】

それは良かったけど、相手も相手だよねー偵察相手の土産に素直に喜ぶとか


Face_so

【奏】

ホントに、今回の特変破り仕掛けてきたんだよね、お隣?


Face_kenichi

【謙一】

それは間違いないな


申請完了用紙(合唱祭)


 一昨日、小松目羅から渡された申請完了用紙を教卓棚から引き出して上に置く。
 そこの欄には「特B」としっかり書かれていた。
 そして対戦ルール(内容)には、「合唱祭における第一学年の部の得票率」と。


Face_kenichi

【謙一】

恐らく今回の特変破りを企画したのは小松目羅だ


Kenichi

 闘志とでも云うべきか、あの中でそう云うに値する俺たちへの意識を持っていたのはアイツだけだった。
 あのクラスのリーダーさんは勿論のこと、他の面子もぶっちゃけ特変破りを意識しているわけじゃないだろう。徳川が露骨な例だ。かといって小松の意思を拒否る理由もなく、どうせなら合唱祭をしっかり楽しもうという魂胆なのだろうか。とにかくストイックな雰囲気ではなく、ユルユルなわけでもない、絶好なコンディションで練習に励んでいるのが現状。それも小松が狙っていることなのだろう。


Face_kenichi

【謙一】

俺は奇襲型のお陰で、特変破りの方法が何となく物騒な方面だという先入観を抱いてた


Face_kenichi

【謙一】

だが、クラスに提供されたルール用紙を見ると――


特変制度(一部抜粋)

④特変破り
 B等部およびA等部に所属する総ての学生は次に定める「特変破り」を行う権利を有する。 これは特変に対し勝負を挑むことであり、これに勝利すれば後述する権利を与えられる。

⑤特変破り手続き
 特変破りは、基本的に実行側と特変側の双方の合意と、学園への手続きが原則必要である。 後者については学園の教員に申請するなどして受け取った「特変破り実行申請用紙」に必要事項を記入し学園に提出する。申請用紙に記入すべき項目は、参加者数、全参加者氏名、希望日時、希望場所、双方合意のルールである。参加者数に上限は設けない。日時や場所については希望の通りとなるよう学園が働きかける。
 (以下追加項目)ちなみに特変破りは上記の手続きを介さずとも、つまり合意を作らずとも可能である。但しその「奇襲」に失敗した場合、特変が自由に決定する「罰ゲーム」を参加者全員が受ける。


Face_kenichi

【謙一】

勝負内容のジャンルを限定付ける記述はどこにも存在しない


Face_kenichi

【謙一】

つまり、勝負方法は何でもいいんだ。今回のような「合唱」も、平等性が保証されるなら充分認められる


Face_fui

【譜已】

……投票するのは、一般のお客さんだから……まだ全然私たちのことを、知らない


Face_mikan

【美甘】

つまり、特変の悪評とか関わらず、ほぼ確実に本番の完成度で評価される。不公平にはならないってことか


Face_kenichi

【謙一】

ガチで不意を突かれた感覚だよ。だが仮に俺がこの不利な事態に前もって気付いてたとしても……


Face_kenichi

【謙一】

相手は「対特変性」を持つ特B。俺たちの意思に関わらず特変破りを成立させられる


Kenichi

 この合唱祭対決は不可避だったというわけだ。
 なるほど、ルール用紙を見ても明らかなことではあったが……今回改めて、確実に思い知る。
 俺たちを倒しうる最大の危険因子。それはお隣さんだということだ。


Face_kenichi

【謙一】

特Bは現在7人編成。そのうち1人が徹頭徹尾サボりを決め込むつもりらしい


Face_kenichi

【謙一】

朧荼雪南が指揮者で、シアって女の子がピアノ伴奏


Face_joe

【情】

…………


Face_kenichi

【謙一】

2人が擬似的なテノールとバスを担当することで、ほぼ混声四部の4人合唱を展開する


Face_so

【奏】

うっわ、何か高級な感じがするよね譜已ちゃん!?


Face_fui

【譜已】

……人数が多ければ多いほど良いわけじゃない、から


Face_fui

【譜已】

30人で作れるような大迫力、はできないと思うけど、代わりにハモりとか、調和で勝負できる……


Face_fui

【譜已】

だからクオリティが凄く目立ち易いけど……その分、成功したら、かなり票が入ると思う……


Face_kenichi

【謙一】

ああ……そして昨日の練習光景を見る限りだと……


Face_kenichi

【謙一】

かなりの完成度で本番を迎えると、俺は思う


Kenichi

 すなわち、今までの奇襲してきた特変破りとは次元を異にする、圧倒的な危機。
 俺たちが本番、敗北を迎える確率が非常に高い状態だ。
 そんな現状、対して俺らは……


Face_kenichi

【謙一】

まだ何にも決まってないからな……


Face_saya

【沙綾】

早く決めないと負けちゃうわよー(←動画見ながら)


Face_nagi

【凪】

……読み終わってしまった。新刊を買わないと


Face_nono

【乃乃】

材料♂が尽きてしまった。買わないと……


Face_fui

【譜已】

その……私、定期的に用事が……


Face_so

【奏】

私もたった今定期的な用事ができましたーぁ


Kenichi

 この団結力の低さ。


Face_kenichi

【謙一】

いやいやこのままじゃ負けますってガチで


Face_nagi

【凪】

私の立ち位置を忘れたとは云わせないわ


Face_saya

【沙綾】

同じくー。特変が解体されるなら、それはそれで悪くない


Face_joe

【情】

ごがあぁあああああ


Face_kenichi

【謙一】

あー……そうか、そういうのがあるのか……


Kenichi

 そもそも敗北の意味する重さが各自異なるのか。
 益々団結から遠ざかるなぁ……


Face_kenichi

【謙一】

だが合唱なんてものは団結無しに成し得ないもんだろ……


Face_kenichi

【謙一】

知っての通り俺は絶対負けたくないので、何とかお前らに協力してもらう所存だ


Face_saya

【沙綾】

私にそれ相応のメリットがあるならまだしもねぇ……ぶっちゃけリーダーがどうなろうとどうでもいいし


Face_so

【奏】

流石にそこまでは考えないけどね私たちは……


Face_so

【奏】

でもー、何というか、やる気出ないんだよねー合唱って……


Face_kenichi

【謙一】

……分かった。だが俺たちは特変、特変破りに来る者は悉く返り討ちにしなきゃいけない


Face_kenichi

【謙一】

ここで諦めてちゃ、合宿の意味が無い


Face_mikan

【美甘】

…………


Face_kenichi

【謙一】

取りあえず、それぞれ案を考えておいてくれ。選曲含めてな


Face_kenichi

【謙一】

自分の希望で作った案なら、まだやる気にもなるだろ?


Kenichi

 仕方無い、コレが今日の落としどころだろう。
 焦ったって仕方無い、じっくり戦法を練っていかないとな。


Kenichi

 ただ、本当に時間が無いのも事実だが……
 ホントどうしたもんかなぁ――



timeskip



PM3 30


Face_kenichi

【謙一】

ふぅ……


Kenichi

 放課後。


Kenichi

 6時限目は自習であり、皆それぞれやりたいように過ごす。何をやっていたのかは知らないが、最高に楽しい時間だったろう。
 一方で俺はいきなり呼び出しを喰らって職員室に。すると何の説明もないまま、クロウス先生や皆崎先生の事務的仕事を手伝う羽目に。
 ……要は、猫の手も借りたいぐらいめんどくさかったので使える奴の手を引っ張り出して楽しようと。


Kenichi

 あの人たちはホントに教員免許持ってるんだろうか。


Face_kenichi

【謙一】

はぁ~~~……


Kenichi

 ……ま、過ぎたことは仕方無い。
 真に頑張るべきはこれからだ。
 気合いを入れたところでどうしようもないけど気合いを入れよう井澤謙一。


Face_kenichi

【謙一】

頑張るぞぉ!!


 ってことで独り言満載で、どうせ誰も残ってないであろう教室に戻ってきた謙一。




Face_mikan

【美甘】

…………


 人間と目が合った。


Face_kenichi

【謙一】

あれ? 何で美甘が教室に残ってるんだ?


Face_kenichi

【謙一】

付け加えると、何でそんなドチャクソ変人を見るような目で俺を見てるんだ?


Face_mikan

【美甘】

変人が居るからだけど……


Face_kenichi

【謙一】

いやいやお前の方が遙かに変人だから


Face_mikan

【美甘】

確かにウチは普通の人じゃないけど、独り言は控えるタイプだから……


Face_kenichi

【謙一】

……………………


Kenichi

 ヤベッ、独り言放出してたか……ハズい。
 亜弥に注意されまくってる事の五本の指に入るんだよなぁコレ。


Face_mikan

【美甘】

まーいいけど……


Face_kenichi

【謙一】

ていうか何で美甘、ここ残ってんの? 何か用事でも?


Kenichi

 コレまでずっとボッチを貫いてた美甘が週明けいきなり用事をゲットしてるとは思えないんだが……


Face_mikan

【美甘】

……まぁ、用事っていうか、待ってたのは確かだけど


Face_mikan

【美甘】

謙一を待ってたんだ


Face_kenichi

【謙一】

え……俺を?


Face_mikan

【美甘】

何となく、放課後に合唱祭の対策を考えるんじゃないかなって……


Mikan

 コイツの、特変――というか奨学金? それに対する執念の強さはこの1ヶ月で何度も感じてる。ウチとのコンタクトを諦めなかったのも、きっとその辺が強く関わってるんだろう。
 そんな謙一が、特変敗北、つまり特変が解体される危機を間近に見て、ルーズに行動するとは思えない。動くんだったら、すぐに動くだろう。


Mikan

 だから、待ってた。


Face_mikan

【美甘】

力にならないかもしれないけど……手伝うよ


Mikan

 ウチのこれからを探すには……謙一が不可欠だから。


Face_kenichi

【謙一】

おお、マジか!


Kenichi

 志穂は相変わらず爆睡を決め込んで帰るだけだし、譜已ちゃんも用事があるとかで……
 ってことでまーた孤独な闘いになるのかなーとか思ってた矢先の希望である。


Face_kenichi

【謙一】

心の友よ!


Face_mikan

【美甘】

ウザい気持ち悪い


Kenichi

 容赦無い言葉には違いないが、この程度の言葉だと逆に嬉しくなってくるな。


Face_mikan

【美甘】

何か、やるつもりだったんだよな


Face_kenichi

【謙一】

ああ。取りあえずどんな曲でいくか、実際聴いてればハッキリしてくるかもしれないってことで。光雨


 謙一が呼びかけて、光の小人が膨れていたシャツの胸ポケットから顔を出す。


Face_ku

【光雨】

キツキツだったの~! 慰謝料請求するの~!!


Face_kenichi

【謙一】

いちいち裁判沙汰に持ってこうとすんなし。準備は?


Face_ku

【光雨】

承った1秒後にはもう終わってたのー。超退屈だったのー


Kenichi

 流石ライテドアンドロイド。何が流石なのかは説明できないけど、兎に角アルスのお仕事は(データ管理以外なら)光速で優秀だ。


Face_kenichi

【謙一】

譜已ちゃんから今日だけアルスを借りてな。それを光雨から操作して……


Face_kenichi

【謙一】

合唱曲とかで使われる曲をネットからテキトウに収集してプレイリスト化してもらってたんだ


Kenichi

 今の光雨だとどこの電波とも互換性がないのでネットサーフィンもできない。それは研究と開発が進むのを待つしかないが、それまでの代替手段として、昨日志穂が渡した特変面子のいずれかのアルスの一般向け電波を利用するっていうテクニックを志穂から教わった。正直あんまりメカニズムは理解できてないが、成功してるなら良い。


Face_kenichi

【謙一】

BGMにでもして、まぁ色々考えようぜ


Face_mikan

【美甘】

長く暗い道のりになりそうだ……


Face_kenichi

【謙一】

だな。けど、何とかなるさ。頑張ればきっとな


Face_mikan

【美甘】

その自信の根拠はどこから来るんだか……


Face_kenichi

【謙一】

ははっ。まあな。でも根拠と云うにはブレブレなのは分かってるけど……


Face_kenichi

【謙一】

あの暗く深い森を抜けたんだ。そんな俺たちが簡単に負けるわけねえだろ


Face_mikan

【美甘】

…………


Mikan

 ……本当に。


Mikan

 コイツは、真っ直ぐ言葉を飛ばしてくるよな……


Face_kenichi

【謙一】

ん、どした? 何か紅くなってるけど


Face_mikan

【美甘】

……な、何でもないし。それより――


Face_mikan

【美甘】

時間無いんだ、さっさと始めよう。光雨、お願い


Face_ku

【光雨】

承知いたしましたのー


Face_kenichi

【謙一】

俺の時より丁寧かつスムーズなリアクションってどういうことだよ……


Kenichi

 という何か腑に落ちないことが気になりつつも、プレイリストが再生されて、教室にピアノの音が流れ始める。「どっから音流れてるの?」とか考え出したら三日は脱線し続けるのだろう。


Kenichi

 よって本来の目的に従って、美甘と合唱祭対策会議を開くのだった。



timeskip



Face_kenichi

【謙一】

……………………


Face_mikan

【美甘】

……………………


Kenichi

 1時間以上、進捗なし。


Face_kenichi

【謙一】

うーん……特Bよりも遙かに方針が決めづらいのは覚悟してたが……


Face_mikan

【美甘】

指揮者と伴奏を含めても9人だからな……人数微妙だよな


Face_mikan

【美甘】

あえてコッチも4人調整、とか?


Face_kenichi

【謙一】

それも考えたけど、かなり危険だと思う


Face_kenichi

【謙一】

アッチはもう既に1週間以上前から選曲して練習に入ってたんだ。不利が続く


Kenichi

 恐らく小松は特変制度が実施された最初から、合唱祭に着目していた。特変にとって不利であろうイベントだと見抜いて、先手を打ち続けていたということになる……
 それに対し特Bと同じ形式で挑んだ場合、俺らが合唱の才能を持ってない限りは努力量で押し返せない。


Face_kenichi

【謙一】

だけど、実際少数による合唱、という大まかな形式はどちらも同じ


Face_kenichi

【謙一】

同じ土台での闘いを、俺たちは強いられてしまった。まさに決定的な先手を既に1週間前から取られてた


Face_kenichi

【謙一】

小松目羅――とんだ策士だぜ


Face_mikan

【美甘】

……小松目羅、か。確か、B等部の時から真理学園屈指の優等生だった気がする


Face_mikan

【美甘】

模試とか、朝礼で表彰されたりしてたかな。コミュニティを持たないウチでも知ってるくらいに有名人だよ


Face_kenichi

【謙一】

そもそも特Bに入ってるって時点でエリートなんだろうな


Kenichi

 特Bの所属基準は、特変制度適用後は「実績ある者」となっている。
 その細かく厳密な審査基準は明かされていないものの、要はエリートであれば学期の始めに加入できるかもしれない、ということ。


Kenichi

 では、特変制度が明らかとなる前から編成された現在の特Bの面子はどう選出されたかといえば、それもまた「エリート」であろう。端的に云って無能な人をわざわざ初期メンバーとして所属させる理由が見当たらないからだ。
 確か徳川は学力高かったし、ここの入試なら普通にA級奨学金を取れるぐらいの実力だろう。しかし何というか、無害そうな性格をしている気がする。それは面接した学園長も察しているだろうが、そんな徳川を特変破りに特化した特Bに所属させた理由は何だろうか?


Kenichi

 思い当たるものが見つからない以上、それは単純に奨学生領域の真理学園エリート生であるから、と理由付けしておくしかないだろう。恐らく学園長が期待するのは、更新によって特Bに入ってきた強者なのだから、意思の持ちようもない初代面子に拘る必要もない。


Face_kenichi

【謙一】

……ていうか、この特変破りだって、学園長も公認してる筈なんだよなぁ……


Face_mikan

【美甘】

? どういうこと?


Face_kenichi

【謙一】

特Bとはいえ、申請内容は一応上で審査される決まりになってるだろ。特変制度見る限り


Face_kenichi

【謙一】

つまり学園長も気付いてる。この対戦内容が俺たちに相当不利だってことは


Face_kenichi

【謙一】

その上で、変更を加えずに公認しちゃったんだよ


Face_mikan

【美甘】

それはやっぱり、特変破りを平等にしたかったからじゃないのか?


Face_mikan

【美甘】

……………………


Face_mikan

【美甘】

何か、自分で云ってて平等って何なのか分かんなくなってきた……


Face_kenichi

【謙一】

気持ちは分かる


Kenichi

 あの人の考えることはホントよく分からないなぁ……


 美甘が知恵熱を昇らせてる間にも、BGMは優雅に続く。
ふと、謙一がかかっていた曲に意識を持っていかれる。


Kenichi

 ん……?
 この曲、どっかで聴いたことが……


Face_kenichi

【謙一】

ていうか合唱曲じゃないじゃん。シングルボイスじゃん


Face_mikan

【美甘】

ああ、これマシュマロ・バクテリアの『誰がために腹は鳴る』だ。定番の卒業ソング


Face_kenichi

【謙一】

凄えな、タイトルからはとても卒業ソングと思えねえな


Kenichi

 でも確かに内容を聴いてると、そんな雰囲気ではある。
 それでもコレはジャンルとしては合唱曲じゃない。


Face_kenichi

【謙一】

光雨、何でプレイリストに合唱曲じゃないのが?


Face_ku

【光雨】

クーはよくわからないのー。ただ、よーつべに卒業ソングばっかりのプレイリストがあったのー


Face_mikan

【美甘】

そうか、音源は多声合唱じゃなくても、実際に卒業ソングとして使われてる曲も入ってるんだな


Face_kenichi

【謙一】

なるほど……アレか、吹奏楽が今流行のポップ曲をアレンジするノリか


Face_mikan

【美甘】

そういえば真理学園でも、結構そういうノリで合唱曲選んでるクラスは多いな


Face_kenichi

【謙一】

てことは白宮さんの曲とかも!!?


Face_mikan

【美甘】

いやソレはない


Face_kenichi

【謙一】

なんだよ……


 一気にテンション下がったクオニアン謙一。


Face_mikan

【美甘】

お前、アイドルオタクだったのか……貧乏なんじゃなかったのか……


Face_kenichi

【謙一】

貧乏だしコレクションそんなに無いし、何よりアイドルオタクと呼ぶのは不適切だと思う


Face_kenichi

【謙一】

俺はただクオニアンなだけだし


Face_mikan

【美甘】

……………………


 森で貰った言葉並みに真っ直ぐな想いに美甘は悲しいほど複雑な感情を抱きながらこの話題をスルーした。


Face_mikan

【美甘】

……あ! そうだ!


Face_mikan

【美甘】

合唱祭の過去のビデオとか、観る?


Face_kenichi

【謙一】

え、何、そんなのあるの!? 早く云えよ!


Face_mikan

【美甘】

レゾンの学園情報部で公式アップしてるんだよ。そうだな……譜已のアルスを弄り過ぎるのも気が引ける……


Face_mikan

【美甘】

光雨、ウチのアルスからレゾンで学園情報部にアクセスして


Face_ku

【光雨】

承知いたしましたのー!


Kenichi

 えっと……レゾンって何だろう……。
 まぁいつか、また誰かに教えてもらうってことでいっか……!


 1秒も経たず、光雨はアクセスを完了させる。
 更に黒板前のバーチャルボード機器にもアクセスして起動、映像展開の準備を済ませる。


Face_kenichi

【謙一】

何で俺の時より柔軟に動いてくれるんだよホントに……


 不満を漏らしつつ謙一がカーテンを閉じて夕陽を遮断、美甘が電気を消して鑑賞準備も完了。


Face_mikan

【美甘】

取りあえず……昨年度のをお願い


Face_ku

【光雨】

再生なのー!


 学園情報部のサイトから去年度の合唱祭データを受け取り、再生を始める――




Face_kenichi

【謙一】

ホント凄え世の中だなぁ……俺どんだけ科学文明に置いてけぼりにされてんだろ……


Face_mikan

【美甘】

でも今じゃその科学文明の辿り着いてない領域に居るようなもんだろ


Face_ku

【光雨】

えへへへー♪(←ポテチを貪りながら)


Face_kenichi

【謙一】

だなぁ……おっ、アレ美甘じゃね?


Face_mikan

【美甘】

み、見つけんな! 恥ずいだろ……


Face_kenichi

【謙一】

ははは、全然歌ってないなー案の定。あ、でも頑張って口パクはやってるな


Face_mikan

【美甘】

どーでもいーから! ウチ見てないで曲聴けよー!


……………………。


Face_kenichi

【謙一】

おっ、譜已ちゃんと奏だ


Face_kenichi

【謙一】

……あっ、転けた


Face_mikan

【美甘】

何で合唱で転けるんだ……?


……………………。


Face_kenichi

【謙一】

おっ、コレもポップ曲のアレンジだな。聴いたことある


Face_mikan

【美甘】

ウチはアニソンぐらい、テンポの高い曲の方が好きなんだけどなぁ……


Face_kenichi

【謙一】

俺はやっぱり白宮さんの曲を賛美パーリィだなぁ


Face_mikan

【美甘】

何がやっぱりなんだよ、無論却下だよ……


 特に夢中になっているわけでもないが、年度ごとに保管されている合唱祭記録をどんどん消化していく二人。
 ……そしてある年度のあるクラスに辿り着く。


Face_kenichi

【謙一】

オイ何だコレ


Kenichi

 何かステージがカオスなことになっている。
 一人一人が思い思いの……ていうか滅茶苦茶なアドリブで燥いでいるだけのビデオ。


Face_mikan

【美甘】

合唱曲ではあるけども……どうしてこうなったんだ


Face_kenichi

【謙一】

眠気覚ましには良いのかもしれないが、コレは酷いな……


Kenichi

 確かに、こういう身振りなどの動きで視覚的に客を楽しませるのは一つの有効な手段だろう。ダイナミックな動きがあればあるほど、インパクトも勝ち取れる。
 だがこのクラスは、ぶっちゃけ巫山戯て大失敗している。きっとクラスメイトの一人ひとりが黒歴史として忘れ去ろうとしているだろう。


Kenichi

 そう、そういう失敗が怖い。動き一つひとつに、観客が納得できる意味メッセージが無いと、ソレはただ「?」な調和破壊要素でしかなくなる。落としどころとしては、クラスで統一した小さい動き。拍手したりステップを踏んだり、その程度だろう。


Kenichi

 俺らの場合ソレですらもバラバラになりそうだが――


Face_kenichi

【謙一】

――待てよ?


Face_mikan

【美甘】


Kenichi

 そもそも、今、俺たちは何をしてるんだ?


Face_kenichi

【謙一】

どうして合唱なんて見てるんだ俺は――?


Face_mikan

【美甘】

はぁ……?


Kenichi

 ……………………。


 謙一は美甘を置き去りにしてこれまでの情報を整理しだした。


 特Bに、特変破りとして合唱祭勝負を申し込まれたこと。


 合唱祭。


 特Bの混声四部4人合唱。


 特変の――




Kenichi

 ……………………。


Face_kenichi

【謙一】

光雨。今のカオスなの、もう一回リピート


Face_ku

【光雨】

え~……


 露骨に嫌がりながらも光雨が今のクラスの映像を最初から再生する。


Face_kenichi

【謙一】

……………………


 再び流れ出す、合唱に似つかわしくない不協和音の姿。
 それを、謙一は黙って見詰めていた。


Face_mikan

【美甘】

……?


Face_ku

【光雨】

???


 その様子を一人と一体は?マークを顔に浮かべながらも眺めていた。
 そうしているうちに、二周目が終わった。


Face_kenichi

【謙一】

……もう1リピート


Face_ku

【光雨】

えええええええ!!!!??


 三周目が始まった――



timeskip



Face_kenichi

【謙一】

…………


Face_ku

【光雨】

ぅぇ~~~……


 結局、10周程度リピートを強要されて光雨はへたり込んだ。


Face_kenichi

【謙一】

……光雨


Face_ku

【光雨】

ぃぃぃぃぃ~!!!(←怯)


Face_mikan

【美甘】

も、もうやめてやれって! いくら光雨が主人思いじゃないからって、これ以上は虐待だって!


Face_kenichi

【謙一】

何云ってんだ? 兎に角俺はポップ曲のプレイリストを引っ張ってきてほしいんだけど


Face_mikan

【美甘】

良かったな、光雨! 普通の曲に戻れるぞ!!


Face_ku

【光雨】

ゼッタイ、慰謝料請求してやるの~~……!!!


Face_mikan

【美甘】

……ていうか、ポップ曲? 謙一、一体何を考えて?


Face_kenichi

【謙一】

ああ。取りあえず、だな――



timeskip


290505



PM1 30


Face_kenichi

【謙一】

――っていう方針でいこうと思ってる


Face_nagi

【凪】

……………………


Face_saya

【沙綾】

……………………


Face_joe

【情】

……………………


Face_shiho

【志穂】

……………………


Face_so

【奏】

――えぇええええええ!?!?!?


Face_kenichi

【謙一】

奏のリアクションも納得なほどのギャンブルだよな。俺も正直、考えるだけで脚がガクガクしそうだわ


Face_kenichi

【謙一】

けど……おそらくコレでしか、俺たちには勝ち目がない


Face_kenichi

【謙一】

加えて、コレは随分と俺たちらしいとも思える


Face_nono

【乃乃】

ふむふむ……なるほど、面白そうですね


Face_fui

【譜已】

…………(←座りながら脚がガクガクしてる)


Face_mikan

【美甘】

ははは……マジで提案しやがった……




Face_kenichi

【謙一】

いいか、特Bは確実にクオリティで勝負してくる。だけど――


Face_kenichi

【謙一】

票の勝ち取り方は、それだけじゃねえよな?


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