「特変」結成編2-12「物の価値(3)」

あらすじ

「けど、震えてなんか……いられない。俺には、絶対に、守り抜きたいものが――」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章12節その3。GACの巨大な会場にて、違和感だらけの一騎打ちのフリクションが始まる。かなり久々に戦闘回です。実はこれバトルものだったんですよ、覚えてました?

↓物語開始↓

timeskip

Stage: GAC 101会場


Face_shiho

…………


Shiho

来る道で大体この光景は予想してたけどよ……


Face_shiho

何だよ、こりゃ……


ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがや。


Face_saya

……ねえ、情くん。コレ、どう思う?


Face_joe

有り得ねえ


Face_saya

よねー


Saya

 藤間昴くんの、独断による特変破りだったなら――


Saya

 この観客の数は、有り得ない。


Saya

 まるでこのGACで最も広大な会場の予約は、観客の数を見越してだったかのような非現実な光景。
 しかも藤間くんは予想ではB等部。個人差はあれど、B等部がA等部にフリクションを挑むと聞いて、ここまでの騒ぎを作れるほどの期待値インパクトはまず有り得ない。


Saya

 つまり――


Face_shiho

コレは、藤間の独断じゃねえってことか?


Face_saya

そう考えた方が自然よねー。そうなると……


Face_saya

ここまで私たち……ていうかリーダーに不利な状況に立たせたあの申請も、彼が思いついたことでない可能性も出てくるわよね


Face_saya

……面白くなってきたじゃない


Saya

 何が面白いって、そりゃもう……空気が。


Saya

 この前の石黒先輩の特変破りの時よりも、ずっと遥かに観客の数が多い。
 なーんで、そんな……サーカスでも心待ちにしてるような顔してるのかしら。


Face_saya

藤間くんは一体何のパフォーマンスを心待ちにされてるのかしらねー


Saya

 こんなの浴びたら……うちのリーダーは何を思うのでしょうねー。
 ま、こっちに仕事が来ても、別にいいけど……こういうのは例外的に面白いし。兎も角、


Face_saya

やっと見れるのねー。リーダーの、護真術


……………………。


Face_kenichi

……頭おかしいんじゃねえか?


Kenichi

 拝田の言葉を浴びてから、何か嫌な予感がしてたんだが……見事に当たったな。多分アイツよりも俺の方がフィーリングの精度は高いなぁ。


Face_subaru

…………


Kenichi

 おかしい。これはおかしい。
 「今日のリセットステージ間に明らかになった」、「B等部男子による」、「特変とフリクション一騎打ち」という特変破り。
 101会場という選択がまるで全く間違っていなかったと云わんばかりの、確実に1000人は来てるであろう、この観客の数。
 コイツらは一体何の理由で藤間の勇姿を見に来た? 沙綾も知らなかった――つまり全く有名でない男子を応援しに来た?


Kenichi

 絶対おかしい空気……それを俺と一緒に360度どこからも浴びているというのに、藤間はただただ試合相手である俺から目線を外すこともしない。幾ら何でも気が座っているにも程がある。


Kenichi

 この二つの絶大な違和感は……簡単な結論を照らし出す。


Face_menoha

はぁあーーい、指定時刻になりましたので、進行しまーす!


Face_menoha

司会進行は、こういうドデカい特変破りの時には馳せ参ずる、お陰で昼食抜きの不肖後輩がお届けしまーす!


Kenichi

 コレは、間違いなくただの特変破りではない。
 しかし、本番は藤間の思惑通り、今来てしまった。もう俺には……殆どどうこうすることもできない。


Face_kenichi

……なら――


Face_menoha

ルール確認……といっても護真術戦闘フリクションに今更説明は要らないと思います! 特記事項もありません、此度はひたすらに、藤間昴先輩と井澤謙一先輩の、一騎打ちとなります!


Face_saya

はいダウト~


Face_shiho

……ん?


Shiho

 アルスが震えた。


Face_shiho

……!


Face_menoha

それでは、一応午後の授業は消失確定ではありますが、昼休みは有意義に過ごすべきという不肖後輩の考えにのっとり、もう開始しちゃいます!!


Face_subaru

ッ――!


Face_menoha

レディー、ゴー!!


 簡潔なゴングが口で鳴った。
 それと同時、藤間昴は井澤謙一へと駆ける!!


Face_kenichi

――!!


Kenichi

 直感が、刹那に俺に伝わる。


Kenichi

 コイツは――慣れてる・・・・……!!


 数mあった2人の距離は開幕直後に0となり、
 早くも観客が大いに賑わう打撃戦が始まった。


Face_subaru

てぁあぁあああああああ!!!


 両手を強く握り、挑戦者藤間昴は果敢に殴り込む。
それは未熟な者の無知な連打では断じてなかった。そのことは相対している謙一が誰よりも理解していた。


Face_kenichi

おまっ、この動き――


Kenichi

 機敏。一撃に全てを懸ける道を端から捨てている、出数主義の洗練された武器が、藤間に見えた。
 「」を形成し、手足を完璧に連動させて、相手に付け入る隙も作らず拳を打ち続ける。



Kenichi

 こんなの、半端な数の経験じゃ作れない。慣れてなきゃやれっこない。


Face_kenichi

わざわざフリクションを種目に選ぶだけのことはあるってことか……!


Face_subaru

――そこぉぉ!


 打撃戦といっても藤間昴の一方的な攻撃。
 それに対し回避一択であった謙一の腰に一撃が入り、1m僅かに宙を舞い後退を余儀なくされる。


Face_kenichi

へっ……志穂の回し蹴りぐらい痛いじゃねえか……


 藤間昴は既に謙一に距離を詰めていた。
 出鱈目ではなく、どう腕を出し足を動かすか、次にどう動くかが常に考えられている。


 つまり藤間昴の護真術のエッセンスは「距離を詰める」ことであり、云い換えれば彼に距離を詰められるということは彼のペースに流されることのに等しいのである。


 井澤謙一、早速ピンチなのである。


Face_subaru

ッ……絶対にッ!!


Face_subaru

負けるものかあぁああああああ!!


Face_kenichi

ッグ……!!


 謙一は矢張り回避に専念している傾向があった。
 時に防御……だがそれは防御体勢であっても藤間昴の攻撃を受けるということを意味していた。
 それは無視しがたい意味があった、少なくとも今の謙一の状態では重大なのだった。それに、観客席で彼同様に違和感の波に刺激を受けまくってるクラスメイツは気付いていた。


Face_saya

……ねえ。もしかして、情くん


Face_joe

ああ


Face_saya

あの人、万気相すらも使ってないけど……もしかして、そもそも……


Face_saya

万気相が使えないってこと、ないわよね?


Face_joe

ハゲの事情なんざ知らん。しかし万気相を使っていないのは確かだ。粒子マナの気配がしない


Saya

 そんな人間を見たことがない……ってわけでは、決してない。凡庸的な云い方すれば、これもまた個人差。“機能”を筆頭に「護真術」というモノが人それぞれなのと同じように、護真術をどこまで持てるかというのも人それぞれだったりする。酷い場合だと、遺伝や体質なのか、何も習得できない人間も存在する。音々とか。


Saya

 しっかし、冨士登山の時に美甘の為に態々自分から森に落ちる気概はあるのに、護真術の基本……マナを柔軟に操作するってこともできないだなんて。実質的に彼は本当に非戦闘民なのかしらね。


Face_saya

……そうは、思えないのだけれど


Face_shiho

おい、おめーらアルスを起動しろ。てゆーかワックス耳に填めてティーボを起動しろ。ハゲと美甘と奏が入室してる


Face_joe

あ?


Face_saya

え、あれもう使ってるの? いきなり本番やっちゃってるじゃないのよ結局


 各々ワックスを左耳に詰め込み、クラスインを唱える。
 各々仕舞ってあるアルスが自動で活動し、光が形作られるまでもなく「ティーボ」が展開される。


Face_saya

片耳だけってのも何か気持ち悪いのよねー。もう一つ欲しいんだけど志穂


Face_kenichi

お、通じたか……どうやら抑もな故障はないみたいで何よりだ……!


Face_shiho

私の発明なめてんのかゴラ。蹴るぞ


Face_kenichi

今既にお前じゃないヤツに殴られまくってるから勘弁してくんない……?


Face_saya

リーダーあなた本当に戦闘ダメなのね、笑っていい? ちょっと今日楽しくて仕方ないんだけど


Face_kenichi

お前が楽しそうな理由、俺何となく分かるかも……! ていうか本題はそれなんだけどさッ


Face_kenichi

テンション上がってるついでに、お前らもちょっと調べてくれないッ……!?


Face_shiho

美甘と奏は何処行ってんだよ


Face_mikan

今、献上品が集められてるところ、調べてる! 場所はいくつかあるみたいだけど、学年別っぽい……藤間昴はB等部3年だからその場所で漁ってる!


Face_so

でも思った以上に楽し――大変なんだよねーこれが。ちょっと時間かかりそう!


Face_shiho

今コイツ楽しいって云い掛けたぞハゲ。多分余分な時間使って駄弁ってるぞ


Face_kenichi

ハゲてねえ! どうやら奏と美甘だけじゃ不安なの確定っぽいからお前らもちょっと何か助けてくれると俺嬉しい!


Face_kenichi

……ハゲてねえ! うっせーハゲてねえっつってんだろ!! よく見ろよ、フッサフサだろうが!!


Face_kenichi

ハゲてねええぇええええええ!!!


Face_shiho

うっせーよハゲ。私まだ1回しかハゲ云ってねえだろーが


Face_joe

……お前じゃねえ。観客だ


 初めての無線体験から意識を外すと、ドームはヤジに包まれていた。
 8割方井澤謙一への悪口(うち5割がハゲ関連)だった。


 つまり4割くらいハゲと聞こえてくるが、その度に律儀にもフッサフサ井澤謙一は注意を返すため、その度藤間昴の攻撃が命中していた。
 見事に味を占めた観客達である。


Face_shiho

アイツら賢いな


Face_joe

…………


 取りあえず彼への手向けに苦笑しとくクラスメイツだったが、情はある一方向を注目していた。


 ほぼ最前列の、何かを叫んでいる男子の団体。


 井澤謙一が反応していない、すなわち彼の髪に対する言葉でなく……
 抑も謙一ではなく、昴に向けて、勢いの良い両腕のジェスチャーを交えて、何かを伝えようと――


Face_danshi

時間を与えるなー! 一気に叩け藤間ぁー!! 迷うな、お前の“機能”で――


Face_danshi

お前の……俺たちの大切なモノを取り返せぇえええ!!!


Face_joe

ッ――!!


 ――それは、端的にいえば「指示」だった。


 気付いた衒火情の行動は早かった。


Face_shiho

あ――?


 基本的に何十にも重なった立ち席である後ろ数列の観客エリアは、当然ながらその事故防止柵手すり壁は肘くらいの高さまである。


 情はその柵に肘ではなく足を着き、そして――


Face_saya

え?


 ――蹴った。


Face_noname

【観客】「「「!?!?!?」」」


 コロッセウム形式の手前十数列の観客席の頭上を、衒火情が飛ぶ。
 彼は真っ直ぐ、対面方向――最前列付近の彼らのもとへ……


Face_danshi

はぁ――!!? ちょ……ぎゃあぁあああああ!?!?


 200m近くの前傾飛翔ロングジャンプ、その果てに情は彼らのもとへ着地した。
 着地したというより突っ込んだ。
 そして叫んでいた一人の男子の胸ぐらを掴み、逃げ道を物理的になくした。


Face_joe

…………


 ついでに覇気を撒き散らすことで周りの連中の精神的な逃走力も破壊した。椅子から立ち上がることすらもできない連中には目もくれず、ただ一人決定的な事を発言した者を、真っ直ぐ見下す。


Face_danshi

じ……じ、場外、乱闘は――


Face_joe

ルール違反って云うか? お前は藤間昴の特変破りの参加者か? 違うだろ? 申請用紙にはアイツと井澤謙一以外の名前は書かれていない


Face_joe

つまり、俺とテメエの接触はアイツらの特変破りと何ら関係ねえ。反則でも何でもねえ


Face_danshi

な、何だよ、そんな屁理屈……!! やって、いいことと、悪いことが――


Face_joe

仮に俺の行為が何かに抵触するってんなら……


Face_joe

テメエの「指示」も、そうじゃねえのか?


Face_danshi

――!?


Face_joe

……まあいい。今回は見逃してやる。学生手帳を出せ。テメエら全員だ


 ここで初めて、周りに居た男子たちを一瞥する。
 その一瞬の視線が、抵抗の意思を悉く突き刺し殺したようだった。
 ……そこに、念のため。トドメの言葉を据える。


Face_joe

――次は、ねえぞ?


 ……だが、放たれた指示は、しっかりと藤間昴に届いていた。


Face_subaru

松井――


Subaru

 ……そうだ。
 迷ってなんか、いられないんだ。


Subaru

 どうして攻撃をしてこないのか……万気相すらも、纏っている様子がない。
 松井が指摘した「穴」は、真実なのか。いっそ不気味さと……不安感が、心を囲む。


Subaru

 けど、震えてなんか……いられない。
 俺には、絶対に、守り抜きたいものが――


unknownkino


Face_subaru

あるんだあぁあああああああああああああ!!!


Face_kenichi

……!?


Kenichi

 一気にマナが、集まってる……空気の変わる気配。間違いない。
 “機能表示”するのか……!


 大気中から、これまでの万気相とは比較にならないほどの大量のマナが藤間昴の両腕に集中する!
 やがて、輝きがはっきりとした物質へと変化していき――


 井澤謙一を見据え、再び覚悟する昴は“武装”した。


藤間兄戦闘


Face_subaru

――『清濁併呑之毒篭手ブルートゥスガントレット』”


 地面を蹴り再度井澤謙一の懐へ!!


Face_subaru

はあぁああああああ!!


Face_kenichi

ッ――クソ!


Kenichi

 今までとは違う! 辛うじての防御とかも、コレを受けたならアウトだ……!


 回避しかない。
 そう直感した謙一は、ギリギリのところで回避――後退する!


 だが――


Face_subaru

…………


 全力の右拳を外した藤間昴の足は、コレまで通り、既に「次」に動いていた。


Face_kenichi

ッ――!?


Kenichi

 マズい!!


 直感したが、それは回避の瞬間において、手遅れと云わざるをえなかった。
 回避行動の開始と終了の間、この瞬間だけは、井澤謙一に限らず大半の人間は滑稽なほどに無防備なのである。
 それを、昴は知っていた。


 ごく僅かに、右拳の一撃は曲線的だった。それはよくよく観察すれば不自然なほどに。
 この時既に昴の「次」は、発動していたのである。


Subaru

これで――


 地を蹴り――


Face_subaru

終わりだあぁああああああ!!!


 謙一の、これまでで最も無防備に晒された懐へと――


Face_kenichi

ッ――ガ…ハッ……!!


 狂いもなく準備されていた、左拳ほんめいが炸裂する!!


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