「特変」結成編2-11「青春とは学業である(4)」
あらすじ
「俺というラベルが、せめて……有効な手段へとなり得るように――」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章11節その4。模擬試験対決、2勝2敗で繋げられた大将戦。再び立ちはだかる小松目羅ちゃんを前に、特変のトップ井澤謙一くんが空前絶後な結果を叩き出します。
↓物語開始↓

【めのは】
挑戦者側――小松目羅!! 特変側――井澤謙一!!

【めのは】
正真正銘最終決戦!! 大将対決だーー!!!

【観客】
「「「いえぇええええええええい!!!」」」

【目羅】
……私が、最初から特進クラスに居た理由はただ一つ。徳川くんと同じだ――学力があったからだ

【目羅】
真理学園では、異様と呼ばれるほどにね

【謙一】
自分でソレを云うんだな

【目羅】
ま、決して欲しかった力ではないが、現実の話、私が最も有しているのはこの分野なのでね

【目羅】
武器になるなら、使うさ。あの時は特Bという位置の力で君たちを追い詰めたが――

【目羅】
――今度は私個人の力で、君に食らい付くとしよう

【謙一】
石黒先輩みたいなオチで落ち着いてくれたらいいんだが……そうはならなそうだな
Kenichi
美玲さんといい土方といい、1年の学力じゃねえよ……ホント思った以上に敵が強かった。沙綾と凪っていうこれまた俺の云うことを微妙に聞いてくれなさそうな面子がしっかりテスト受けてくれたから、何とか俺にまで回ってきた感じだ……。
Kenichi
アイツらの生き方を、俺は、特変という在り方は、一体何処まで侵害しているのだろうか。
Kenichi
あれだけの得点を叩き出すくらいには学びを会得しているアイツらは、何を思って学んできたのか。

【奏】
けんぱーーい、頑張れーーー!!

【美甘】
頑張ることもう無い気もするけど頑張れーー!!
Kenichi
あの二人だって、得点にはあんまり繋がんなかったってだけで、価値の無い人間なんかじゃ断じて無い。特変だというのに俺に声援を送っている。俺からすれば中々不思議なことをしてくれる。
Kenichi
それは無意味な言葉でなく、確かに俺へと向けた、成立された言葉。

【謙一】
ッ……

【目羅】
――?
Kenichi
ヤベ……
なんかちょっと、頭痛くなってきたかも……抑えろ……

【謙一】
……人の生き方は、それぞれ異なる……異なる道に居ながら、異なる道を見続けることはできない……ただ何もかもが中途半端になり、やがて立ち止まるだけ……

【謙一】
小松……お前は、何で勉強してる……? 自信があるってことは、自分なりに勉強してきたってことだろ? どうしてそこまでやった――?

【目羅】
――唐突に、深い問いだね。しかし、答えてみよう

【目羅】
……強く、なりたかったからだ。私は学ぶことで、過去の私と訣別をしたかった。その思いのままに、やってきた

【目羅】
だから、点稼ぎが楽しいとか、そういうのではないんだ。勉強は……決して楽しいものじゃない

【謙一】
……そうか
Kenichi
感じていた通りだ。小松は本気で生きている人間。
本気で学園生活を全うし、勉学もそのうちに含まれている。
だから、コイツはいちいち、俺の前に立ちはだかる度に強い相手なのだろう。

【目羅】
……私に訊いたんだ、是非とも井澤氏にも訊いてみたいね

【目羅】
井澤氏は、どうして勉学するんだ? 得点のため? 奨学金のため? 大学進学のため?

【目羅】
……私の鋭い感性は、そんな生易しい発想では説明できないと予感しているが

【謙一】
ハッ……残念ながら、その予感は外れてる。突然の模試で感性も疲れたんじゃないか?

【謙一】
そんな大した理由じゃねえよ。今挙げられた中じゃ、奨学金ってのが一番近いかな

【謙一】
金なんだよ。色々知ってると、案外できることもいっぱいだからさ。それに、落ち着いてきてはいるものの学歴社会だ、使えるラベルはとことん使っていこうぜ。インパクトはそのまま自分の個性と認められる。故に――
Kenichi
どうせ自分の総てが理解されることなどないのだから。
Kenichi
理解してほしいことだって、理解してくれない。ずっと隣で過ごしてきた人だって、俺の求めには応じてくれない。
Kenichi
人は必ず、一人で道を之く。そして一人で死んでいくのだろう。
俺が其処に立てないというのなら――亡霊でも、何でもいい。

【謙一】
俺というラベルが、せめて……有効な手段へとなり得るように――

【目羅】
……それは、一体どういう――

【めのは】
さあさあさあ、得点開示だーーーー!!!

【めのは】
……………………
……………………
……………………

【めのは】
!?!?

【観客】
「「「――!!?」」」
1175vs1400

【奏】
4桁!!? 4桁勝負!?

【美甘】
な、凪と沙綾がもし小松さんと当たってたら、ヤバかったじゃん――

【沙綾】
…………1400?

【凪】
1400って――

【情】
……ぶっ飛んでやがる

【乃乃】
ど……どうなってるんですか、謙一さんは……

【志穂】
……………………

【譜已】
え……? えっと、どうしたん、ですか……?

【志穂】
……あのな、譜已。1400ってのは――

【志穂】
――満点だ

【訓舘】
……流石に、私からも一つ証言が必要かもしれませんね
特変と同じサークルの人工芝に控えていた文学教諭が思考放棄しそうな会場を助ける。
が、次の言葉は益々、明確に会場を混乱させるのだった。

【訓舘】
1400という数字は、この特変破りにて獲得できる得点の最大値です。すなわち――

【訓舘】
井澤くんは、本来選択科目である数学ⅠA・ⅡB、理科生物・地学・化学・物理、社会地理・歴史・政治・倫理、その総てを言語及び文学と共に150分以内に解答し、全問正解したということです

【訓舘】
その様子を試験官たる私や他の監視員を引き受けていた先生がたはずっと眺めていました。無論、カンニングをする隙間も無かったでしょう

【訓舘】
148分間、鉛筆を握ったままでしたね
本日最大の響めきが、セントラルホールの震撼を錯覚させる。その所為なのかは知らないが、腰を抜かす者も一割程度居た。
腰は抜かさずとも絶句し身体が停止したかのように硬直する者は数割居た。そのうちに、井澤謙一と対戦してしまった彼女も含まれる。

【目羅】
――――

【謙一】
先生、小松の点数詳細ってどんなだったんですか

【訓舘】
小松目羅さんは言語180点、文学185点、数学ⅠAで100点、数学ⅡBで75点、理科生物で85点、理科地学で75点、理科化学で80点、理科物理で70点、社会地理で70点、社会歴史で90点、社会政治で85点、社会倫理で80点

【訓舘】
井澤くん同様に総ての選択科目に手を出し、7割以上を獲得しています。4月の全國模試で全國10本の指に数えられる成績を叩き出す学生であるのは知っていましたが、よもやここまでとは

【訓舘】
今日最も無作為という暴力に遭ったのは、小松さんだったのかもしれませんね

【謙一】
1175点って、マジヤバかったじゃん……
勝者、腰が抜ける。

【奏】
いやいやいやいや!!? 何でケンパイが腰抜かしてるの!!? 色々おかしいって!!? 主にケンパイの存在自体が一番おかしいって!!?

【謙一】
うるせえやい赤点先鋒め……

【沙綾】
リーダー、ちょっとコレは幾ら何でも小松さん可哀想だってー……だってもう私ですらドン引きするレベルよ、本気出し過ぎでしょ貴方まだ1年よ?

【謙一】
何とか奨学金を勝ち取ろうと出来る努力は何でもやったつもりです

【志穂】
具体的には?

【謙一】
「俺まだB等学生ですけど、センターの問題とかもう解けますよー絶対貴校の進学率に貢献できますよー」って面接で絶対アピールになるだろ?

【美甘】
どんだけ金欲しかったんだよお前……

【譜已】
……………………

【謙一】
ん……ど、どうした譜已ちゃん……?

【譜已】
……せ――

【譜已】
先輩が、眩しい――✨✨

【情】
学園長の娘を推定偏差値90超えで堕としやがった

【乃乃】
謙一さん、これまた兇悪なラベルをお持ちになりましたね……ビジュアルもハゲそうなこと以外イケメンの部類なのに、そんな偏差値持ってたら女の子にモテモテじゃないですか

【謙一】
ハゲそうじゃねえし、そんな甘い世の中じゃねえだろ……それに、そんなので寄ってくる女子は正直お断りしたい気分だ。譜已ちゃんは例外

【凪】
コイツ最低だわ。早く銘乃学園長に報告しないと

【訓舘】
……もうそろそろ場の基調そのものが破綻しそうですね。休み時間も終わりますし、早めに切り上げねば

【めのは】
――は!? あまりの眩しさに、この後輩めも意識を持って行かれてたかもしれません! 超ハイレベルな大将戦、その結末は、井澤謙一の完全勝利!!

【めのは】
すなわち、この特変破りの勝者は――とくへぇえええええええええん!!!
っていう最後のアナウンスも各々無視して騒いでしまって、取り返しの付かない事態。昼休み終了5分前である。
見に来ていた数名の教師陣が取りあえず生徒たちに次の授業の準備をするよう声をかけまくるが、全サークルの観客が収まるには、5分では足りなかったのだった――

【目羅】
……………………
ディスプレイが消灯し、暗幕が解除される。再び直射日光に当てられて通常の光に包まれたセントラルホールだが、喧騒は止むことはなく……
目羅含め、対戦者たちは特変を眺めていた。

【美玲】
……お姉さんキャラ、勉強教える時にアピールしようかなって思ってたのに……

【柚子癒】
もう井澤くんは美玲さんのお兄ちゃんキャラでいいんじゃないの? 私教室帰るー……

【美玲】
ぜ、絶対嫌ですー……! 私がお姉ちゃんなんですー!

【石黒】
俺のアイデンティティ、自爆してしまったな……

【ゆかり】
……もう先輩の誘いには乗りませんから、借りもチャラですからね? まったくもう……

【目羅】
……………………

【訓舘】
――大丈夫ですか?
一人になっても、その場に立っていた目羅に、後片付けに入っていた嬰太が話しかける。

【訓舘】
特進主任ですから、貴方が勉強に相当執着している様子は、私も観察してきた身です。その上で、勝つことができなかった

【訓舘】
いくら貴方が点稼ぎの為の勉学をしてこなかったとはいえ、コレは些細な衝撃では済まないと思いますが

【目羅】
……ご心配無く。悲しいわけでは、ありませんから

【目羅】
特変というのは、それほど高みに存在しており……それ故に挑む価値もあるのでしょうから。ただ――
Mera
少々、癪残りではあるというだけで。

【謙一】
ちょ、待って凪、学園長に誤解を招くような説明しないで!? てかメアド持ってるの!? メル友ってやつなの意外!?

【奏】
譜已ちゃんとはそれなりに長い附き合いだからねー、自然と学園長とも長い附き合いなんだよナギパイ

【翠】
――聞いたわ謙一くん!! 譜已ちゃんを偏差値なんて超つまんないモノでナンパするなんて、お母さん絶対そんなの認めませんからねーーー!!!

【謙一】
来るのはやッ!!? 違う、誤解ですって、偏差値っつっても推定ですしラベルなんて人が各々解釈評価するもんでしょ!? 俺にどうしろっていうんですか!!

【美甘】
……何だろ……この謙一には殺意すら湧いてくるな……

【謙一】
やっべえ味方が居ませんわ……
Mera
――私の感性は、疲れてなんかいなかったし、何も間違っちゃいなかった。
間違っているのは、寧ろ、井澤氏の発言だろう。

【目羅】
金、なんて……生温いモノじゃない……
Mera
もっと純粋で……
Mera
もっと兇悪な――

【目羅】
…………ハハッ――怖っ……
身震いを覚えながら……
小松目羅も、自分の教室へ戻っていった――

【BAKA】
…………
???
――特変破りが終わり、騒がしいまま、解散となった観客たち。
その帰りの波に呑まれないよう、私は未だに4Fから、1Fの庭で騒いでる彼らを見下ろす。

【BAKA】
……おもしろーい
???
ピリピリときた。
???
入学式の時は、何というか冴えなさそうな人だとしか思ってなかったのに――

【謙一】
譜已ちゃん! 譜已ちゃんもこの母親に弁解してくれ!! 俺は君に何もやってないよね!?(←抱える)

【譜已】
眩しい~――✨(←気絶)

【志穂】
コイツほんとクズだな、自覚できないクズハゲだな

【謙一】
ハゲてねえ!! 譜已ちゃん、何で気を失った!? おーいしっかりしろー今から授業だぞー!
???
合宿の時から、何か、変わって……
合唱祭から始まった特変破りの波の中で、更にその異様は大きくなっていって――

【BAKA】
しっびれちゃう……!
???
今では、もう、こんなにピリピリっと。

【譜已】
~~~~~✨✨
???
銘乃譜已。

【奏】
……ま、譜已ちゃんが幸せそうな顔してるし……とりま、良しと見なしますか! めでたしめでたし!

【謙一】
でもお前あとで補習だからな、あの模試であっても本来お前は2倍以上得点できるべきだったからな

【奏】
ホント何でそこだけストイックなの~……!!
???
二邑牙奏。

【情】
それだけの得点が維持できるなら、テメエソレでビジネスすれば儲かるぞ。ネット配信の動画学習とかな

【謙一】
正直そういうのも考えたんだが、不器用ながら俺は個別指導型なんだ

【情】
テメエのスペックは今イチ把握しかねる
???
衒火情。

【沙綾】
特変でも美甘みたいにモテるってことになれば直接ここの学生に指導ビジネスできるんじゃない? 私みたいに多少のリスクすら持たないで地道に稼げて、それはそれでいいんじゃない?

【沙綾】
まぁ、リーダーがモテるなんてそんな獏も爆笑して退散する夢展開そうそう無いと思うけどねー
???
遠嶋沙綾。

【謙一】
何にしても、その前に美甘と奏を個別指導しなきゃな……

【美甘】
うぅ……今日は酷い目に遭った……

【謙一】
でも正直云うほど酷くはなかったぞ? 好きな分野があって、それで得点ができた。正直俺はそういう美甘が羨ましいとすら思うんだから

【美甘】
謙一……正気か――?
???
堀田美甘。

【凪】
何もかも嫌味に聞こえてくるわ。兎に角、譜已を誑かす貴方を生かしてはおけないわ

【謙一】
凪って、譜已ちゃんにだけは優しいよな……

【凪】
保護者だから

【謙一】
すぐ隣にいらっしゃる本物の保護者、何でうんうん頷いてるんだ……?
???
烏丸凪。

【乃乃】
凪さん、お仕置きはお任せください、こんなこともあろうかと本日も3メニューほど取り揃えております

【謙一】
何で勝った上に味方な俺が虐げられなきゃいけないんだ!! ほら、もう教室帰るぞ! 授業始まってるし!!
???
佐伯乃乃。

【志穂】
…………

【謙一】
――? どうした、志穂? 俺の身体に何か付いてるか?

【志穂】
……何でもない

【志穂】
強いて云うなら、背中にゴキが貼り付いてるってことぐらいだ

【謙一】
何でもなくないじゃん!!?
???
秋山志穂。

【BAKA】
皆、ドスがかかって濃いぐらいだけど……
???
私には、分かる。感じる。
一番ヤバいって奴は、間違いなく――

【奏】
ぎゃーーーホントにゴキ付いてるーーー!?

【美甘】
うわーーーー……!!

【謙一】
そろそろ泣いていいかな俺

【沙綾】
泣いたところで世界は変わらないわよー明日は勝手にやってくる

【謙一】
せめてお前らの俺に対する当たり方が変わってくれるならまだ意義もあるんだけどなぁ……

【謙一】
もういい加減マジで帰ろうぜ……アレ、次なんだっけ?

【乃乃】
生活ですね。具体的には調理実習です。謙一さん、ゴキ背中に付けたままだと調理場出禁にされますよ

【謙一】
情、取ってくれ

【情】
自分でやれゴキハゲ

【謙一】
ハゲてねえ
???
――君なんだよね。

【BAKA】
井澤、謙一くん。早く見たいなぁ……

【BAKA】
君の――護真術