「特変」結成編2-10「青春とは存在確立である(2)」
あらすじ
「以上3品を、皆さんには軽く作ってもらいたいと思います」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章10節その2。調理委員との料理対決、本番に出場する3人を選出するブリーフィング回です。特変の料理スキルは如何なものか?
↓物語開始↓
Stage: 1F 調理場

【謙一】
――さて、ミーティングを始めよう
Kenichi
その日の放課後、俺たちは食堂に隣接している――間違いなく普通の学校の調理室よりも広い――調理場に集まっていた。案の定というか、ヤル気無しの情と志穂は欠席である。沙綾が残ってるのが意外ですわ。
Kenichi
因みにこの場所、使い方とか多少は慣れておけ、という鮭沢の平等を考慮しての貸し切りとなっている。同じヌシでも間違いなく美玲さんよりも実績と権力があるな。

【謙一】
流石に調理委員たちの管理してる食材を自由に使うのは、明日パニックの素になるので、泣く泣くで食材を買いまくってきました
Kenichi
勿論俺の実費である。ハロー、ハイパー倹約生活!!

【謙一】
無駄遣いはできない。皆にはこれから3品ほど作ってもらって、それ一発で判定させてもらう

【謙一】
まず、天ぷら。用意したのはサツマイモとエビ、そしてかき揚げもやってもらおうかなって感じです

【謙一】
次に、オムライス。コレはご飯の炊き出しからそれぞれやってもらう。それから肉やらピーマンも、具材として盛り込んでもらおうと思ってるが、何を使うかどう使うかは自由とする

【謙一】
そしてナポリタン。一応トマトケチャップあるけど、一から作るのに必要かなってものも買ってきてはいる。挑戦したい奴は是非どうぞって感じ。具材は自由とする

【謙一】
以上3品を、皆さんには軽く作ってもらいたいと思います。因みにですが今からこんだけ作ると早すぎる晩飯になってしまうので、試食してくれる人をちょい呼びました
試食するだけの人、いわば残飯処理の方々の入室である。

【栞々菜】
呼ばれちゃいましたー! 体育をやった後なので、栞々菜結構お腹ペコペコでーす!

【黒田】
何か食えるって三重から聞いたから来てやったぜー! 5限も6限も寝てただけだが腹減ったぜー!

【四谷】
流れで来ました

【廿栗木】
流れに流されました……

【夏裟花】
沙綾に「愛妻料理ってのを見せてあげる」と脅されました……

【音々】
かーくんが心配なので附いてきましたー! っていうか、沙綾って料理できたっけ……

【雪南】
奏ちゃんの愛情たっぷりのオムライスが食べられると聞いて

【美玲】
凪ちゃんがあろうことか料理をすると聞いて

【秋都】
…………(謙一くんのあの絶品料理が正当的に食べられると聞いて!!!)

【謙一】
以上の面子で打倒・調理委員!! まずは本番戦う3人を選出する!

【奏】
うー……朧荼くんに食べられると思うと、すっごいヤル気出ないんだけどー……

【凪】
どうして私までこんなことをしなければいけないのかしら

【沙綾】
胃袋で掴むっていうのもベタながら効果的な一手よね。珍しく頑張っちゃう

【譜已】
うう、緊張する……

【美甘】
料理なんて、いつぶりだ……えっと、この調理器具ってどう使うんだっけ譜已――

【乃乃】
謙一さん、巫山戯てよろしいでしょうか(生クリームを指に塗りたぐりながら)

【謙一】
ダメだ
そんなこんなで、まず各々の実力を測ることになった。調理開始である!
……………………。
そんなこんなで調理完了の模様。
お待ちかね、試食タイムである!

【奏】
よっしゃ、コレでどうだ……!!
斬り込み隊長、二邑牙奏、出陣。

【謙一】
……………………

【譜已】
……………………
Kenichi
……うん。取りあえず……

【謙一】
朧荼、食えよ

【雪南】
……………………奏ちゃんの折角、俺のために作ってくれた愛情料理だ。ここで食べなければ男じゃない

【奏】
断じて朧荼くんの為に作ってない上にどことなく失礼な物云いなんだけど!

【雪南】
いただきます!!
朧荼雪南、死亡。

【奏】
朧荼くん暗殺できたのは良いけど何か嬉しくない……!! 嬉しくなーーい~~~!! 一生懸命に作ったのに~~~!!
Kenichi
んー……まぁ何度も転んで調理場を荒らしながら頑張ってたのは認めるが……
Kenichi
天ぷら→衣が衣というか油の塊、謎のべちゃべちゃ食感
オムライス→どっちかというとスクランブルエッグおかゆ
ナポリタン→何故か凄まじく増量しちゃった麺。ケチャップが何故かどんなに入れても絡まってくれない
Kenichi
コレを学食で出されたら文句なしにテロ行為認定である。
続いて、烏丸凪のターンである。

【謙一】
凪は、奏みたいな失敗はやらかさないだろうな……

【凪】
誰と比べているのかしら、失礼にも程があるわ

【凪】
さっさと食べればいいわ。私、本番になんか絶対出たくないけれど

【謙一】
……………………

【譜已】
……………………
ダーク・マターが降りてきた。

【謙一】
大丈夫、恐らくきっと多分絶対本番には出さないと思うから……

【凪】
……何よ。それなりに出来てるでしょう? 折角作ったのだから、食べなさいよ誰か。その為の残飯処理班でしょ

【凪】
…………(←ロックオン)

【美玲】
え、えぇえええ~~……(←標的)
鑓多美玲、奇跡を信じて試食。
死亡。

【謙一】
美玲さーーーーーん……!!!!

【美玲】
ぁぁぅぁ……す、すみだく……すみだク、コワイ……アアイエ……スミダク、ナンデ……

【謙一】
意識をしっかり、一体何を云ってるんだ、スミダクって何だ、何者なんだ美玲さん!!?

【凪】
何よ、そこまで口と合わなかったのかしら。シュークリームばかり食べてるから、舌がおかしくなってるんじゃないかしら。確かに少し苦みがあるかもしれないけど

【四谷】
どう見ても舌おかしくなってるのは烏丸さ――

【凪】
召し上がれ(←ねじ込む)
四谷侑代、死亡。

【黒田】
ゆぅうううだあぁああああああああい――!?!?

【黒田】
う、嘘だろ、全然焼いてない生肉食ったってこんな即死じゃねえぞ!? どんな毒開発してんだよ!?

【凪】
……私がおかしいというの……? そんな、莫迦な……奏よりも私は料理ができない……?
凪は体調が悪くなってきた。

【譜已】
…………

【謙一】
二人と仲良い感じの譜已ちゃんは、何となくこうなるのは予測できてたか……?

【譜已】
えっと、正直、実力は知ってました……ただ、最近は見てなかったので、もしかしたら変わってるかも、と希望を……

【謙一】
優しいなぁ……
親友たちの尻拭いに銘乃譜已が駆り出された。
ビジュアルは極めて普通な3品。
しかし先の2人のお披露目の後には文句の付けがたいご馳走に見えること。

【廿栗木】
あー美味え、普通に美味え、マジで良かったわ……

【音々】
ていうか銘乃さん、ひさしぶりー! 元気だった?

【譜已】
あ、は、はい……五空さん……

【謙一】
あれ、2人は知り合いなのか? ……ってそうか。本来であれば譜已ちゃんは今年度でB等部の3年だったのか

【譜已】
同じ、クラスだったんです。私のこと、お母さんとか関係なしに明るく接してくれて……

【音々】
学園長はあんまり好きじゃないけど銘乃さんは可愛くて好きー
五空音々が譜已に抱きついた。

【夏裟花】
!? うおい!?

【沙綾】
あ
これを目撃者の受けたインパクトを考慮して云い換えると、ムチムチダブルプリンに色々小柄な女の子が呑み込まれた。

【譜已】
!?!?!?!?
銘乃譜已、衰弱死。

【音々】
アレ、どうしたの銘乃さん……? 急にしゃがんで、お、落ち込んだ……? オムライス全然美味しかったのに

【沙綾】
男子だけじゃなくて女子の心も取り込んでバキッと折るのよねーあの無自覚淫乱最終兵器

【夏裟花】
またやりやがった……何回銘乃さんに謝んなきゃいけないんだ俺は……

【謙一】
あの兇悪なハグは常習なのか……譜已ちゃんも可哀想に……
Kenichi
でも譜已ちゃんの、小動物体型? 良い表現が思いつかないけど、絶対需要あると思うんだよな。逆に五空のはちょっと怖いもん。云い得て妙だな、最終兵器。
Kenichi
という失礼な脱線はここで終了して……譜已ちゃんは料理慣れしてると判断していいだろう。ご飯や卵の扱い、麺の茹で具合を感覚で上手に調整していたからな。天ぷらやナポリタン――特に味付け部分ではもうちょいアドバイスできるかもだから、本番に入ることが決まったら後で練習に誘おう。

【謙一】
じゃあ、次は――
遠嶋沙綾。そして堀田美甘の出陣である。
いきなりだが結論。

【夏裟花&音々&栞々菜】
「「「微妙……」」」

【沙綾】
クッ……流石にいきなり上手くやるってのはダメだったか……

【美甘】
だけど奏たちよりは何とかなったみたいで、取りあえず負傷者出さなかったのは安堵だ……
Kenichi
うむ……食えなくもない。寧ろ2人とも料理経験が薄い割には、上手にできていた、と評価できる。

【夏裟花】
沙綾はマニュアル見れば何でも簡単にこなせるようになるからな……1週間ぐらい続けて感覚を養えば、きっとそれなりに闘えるようにはなると思うんだ……けど……

【音々】
続けないんだよねー面倒臭いから……人間辞めちまえってレベルの怠け者めー

【沙綾】
黙って雌牛。私は全部かーくんに任せるから何もしなくていーのー

【謙一】
ホントお前、残念だよ……

【栞々菜】
栞々菜は好きですけど、多分この味付け、女子からすれば可成り濃いですよー……先輩に苦言を呈するなんて無礼も承知なんですけどー……

【美甘】
いや、正直な意見ありがと栞々菜。そうなんだよなぁ、ウチは、というか堀田家は基本的に漢料理というか、味付けはすればするほど美味しいって脳が解釈してるから……

【謙一】
コレは、濃いわ……高血圧な夢見るわ……

【美甘】
むー……そう云うお前の料理は、どうなんだよ……! お手本見せてみろよー!
井澤謙一、お手本を見せる。

【美甘】
美ッッ味えぇええ……!!!

【音々】
お、美味しーーーい……!!!

【美玲】
ああ……来て、よかった……(パクパク)

【謙一】
無理すんなって美玲さん……保健室行きましょう? 春日山居るから……

【黒田】
マジかよ、特変のリーダー料理上手かよ……! こりゃ評価を変えないとな、侑代!!

【四谷】
(ぶくぶくぶくぶく)

【謙一】
四谷も連れてかないとな……

【乃乃】
ふむ……謙一さんがいつも自炊でお弁当持ってきていることは知っていましたが……
Nono
恐らく、あのお弁当を作っているのは彼ではなく、家族の誰かでしょう……そして彼は、その人よりも料理の実力を持っている……。
Nono
天ぷらは……粗雑でなく、一方で削がれずボリュームを保ったままの衣はサクサクで、具も柔らかい……まさに天ぷらと聞いて人々が期待する歯応え全てが忠実に現実化されている。かき揚げも見事にまとまっており、ベタベタしていない――レストランで出されるクオリティ、もしかすればそれ以上です。
Nono
オムライスも文句の云いようがないです……炒飯は殆ど全く水分を感じさせぬほどパラパラと出来上がっていて具材の細かいお肉は噛むと肉汁が口内に幸せを氾濫させる……徹底的に完成させてきたライスを、ギリギリふわっふわな半熟卵が優しく包み込まれています。ビジュアルからして、食欲をそそらせる恐ろしい兵器と化しているでしょう。
Nono
そして、ナポリタン……彼は一からトマトケチャップソースを作っていましたね。工程は見ていませんでしたが、どうやらトマトの酸味は抑えてきた模様です。その代わりに、何かハーブを使い香りを引き立て、そこに別で仕込んでいた牛肉を使い味に大きなメリハリをつけた……この色からして、麺はもしかして野菜で作ってるんでしょうか。トマトケチャップの濃い味付けが苦手な人でもこのパスタは食べやすくて、何か濃い味を求めている人でもこの料理はとても絶品――何故ならこのナポリタンは、牛丼のようなインパクトのバランスを保っているから。
Nono
更に糖類カット工夫で女子にも喜ばれる……これを私は純正なナポリタンと云っていいのか分かりませんが、こんなアイデア料理を作ってのける謙一さんは、相当のシェフに違いありません。

【奏】
何だろ、この惨敗した気持ち……

【凪】
ナンデアナタソンナニジョシリョクタカイノヨ

【謙一】
怖い怖い怖い俺は日頃からやってるからってだけ!

【奏】
まさかケンパイが、こんなぶっ飛んだ女子力持ってるとか……ハゲの癖に絶対モテるよこんなの……

【謙一】
ハゲてねえよ……っと、そうだ徳川は味どうだ――

【秋都】
――――――――👼👼👼

【謙一】
徳川!? 口に合わなかった!?
秋都をダウン(もしくはアップ?)させたところで最後の一人である。

【奏】
ノノパイ、かぁ……できればケンパイで終わっておきたかった……

【全員】
「「「……………………」」」
みんな食べる前から盛大に陰鬱な気分になっていた。

【乃乃】
確かに、謙一さんが凄すぎるので、私は霞んじゃいますねぇ。オマケにちゃんと食える料理を、と制限までされてしまったので

【謙一】
お前が本気出すと凪と良いトコ勝負するのかもな……

【凪】
不名誉過ぎるから引き合いに出さないでほしいのだけど

【乃乃】
本来、料理に手加減するなんてイベントは必要ありませんからね。上手にできているかは分かりませんが――

【乃乃】
お口に合えば、と願います