「特変」結成編2-9「青春とは思いやりである(3)」

あらすじ

「壊れて、ほしくない、です……お母さんは望んでても、私はそんなの、嫌だから……」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章9節その3。凶暴なパンダさんと戯れる対決、春日山淑久に対するは学園長の愛娘・銘乃譜已! 果たして彼女の秘策、そして特変破りにかける想いとは――

↓物語開始↓

Stage: 小グラウンド


PM4 00


Face_toshihisa

【春日山】

――対戦者はお互い一人なのに、勢揃い、なんだね


 時間がやってきた。


 一般棟エリアの、少し開けた森林地帯――小グラウンドにて、静かに特変破りの場が展開された。


Face_noname

【noname】

【パンダ】「「ぶおぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


 2つの檻に、それぞれ1体のボルカニックパンダを入れて、彼は立っていた。


Face_saya

【沙綾】

ふぅん……コレ、貴方が用意したのね


Face_toshihisa

【春日山】

勿論。ボルカニックパンダは、突然出くわすことはある一方で、こちらから見つけるのは困難だ。今から探すんじゃ、時間が足りない


Saya

 昼のうちに探して、捕らえたと……


Saya

 どうやら、自殺行為ではないらしいわねー……完全に私たちを殺しにかかる、本気の特変破り。


Face_saya

【沙綾】

ちょっとだけ見直したわ。貴方、相当タチの悪い悪役の才能あるかも


Face_toshihisa

【春日山】

…………


春日山

 動揺する姿が見られない。ただの虚勢なのか、それとも……
 やっぱり、特変という存在は強大なんだと、今まで他の人たちほどは意識してこなかった僕でも理解させられる。


春日山

 特に――


Face_joe

【情】

…………


春日山

 あの時、こちらに見向きもしなかった彼が、今は僕を……間違いなく真っ直ぐ、見ている。
 刺し殺される――そう心が錯覚するほどの、恐怖……足が震えてるかも、しれない……。


Face_toshihisa

【春日山】

(だけど……僕にだって、受けてきた傷と、学びがある)


春日山

 ヒトは、知性と人口数が特徴的だ。そのうち前者はヒトがヒトたる理由でもあり、否定すべきじゃない……問題は、ソレがこの世の生物らしからぬ、必要無い競争を正当としてしまうかどうか、だ。


春日山

 ヒトはあまりにも、種族間で争いすぎる。種ではなく、個の利益を追求してしまう……そんな社会が、今や正当になっている。誰もが生まれた途端、目が眩み、優しさを忘れ、弱者を無意味に虐げる社会だ……。


Face_toshihisa

【春日山】

――必ず、打ち倒す


Face_kenichi

【謙一】

…………


春日山

 僕は、動物たちに救われた。
 自然と、優しさを、教えてもらった。僕はこの町が、大好きだ。


春日山

 だがその町の、中心――真理学園において、頂点に立つ存在。あの人は……そしてこの人たちは、見過ごしてはダメなのだ。
 衒火情を、その座に座らせては……。
 そもそも座なんてものが、そう易々とあってはいけない――!!


春日山

 教えよう、君たちにも……僕が救われたように、君たちに救いの可能性を、せめて僕が導けるように……
 より自然に還れ、と――


Face_toshihisa

【春日山】

……さあ! 誰が、僕と勝負をしてくれるんだ!


Face_joe

【情】

…………


Face_kenichi

【謙一】

…………


Kenichi

 ……何か、人数は少ないけど、ある意味今までで一番緊張するなぁ……
 何でこんなことに、なっちゃったのかなぁ……


Face_toshihisa

【春日山】

……え――?


 一人、特変の集団の中から、一歩前へ……
 二歩、三歩。そして謙一よりも前に、淑久の最も眼前に、彼女は立った。


譜已破壊1


Face_fui

【譜已】

…………


Face_kenichi

【謙一】

譜已ちゃんにあんなごり押しされちゃ、なぁ……どうなっても知らねえわもう


Face_kenichi

【謙一】

譜已ちゃん。刃を持て――


Face_fui

【譜已】

ぶ……


Face_fui

【譜已】

ぶっ、こわ、します……


Face_mikan

【美甘】

(可愛い)


Face_saya

【沙綾】

(可愛いニヤリ)


Face_nono

【乃乃】

(可愛いです♂)


Face_toshihisa

【春日山】

な――


春日山

 莫迦な――よりにもよって、銘乃学園長の娘さんを、ここで出す!?


Face_toshihisa

【春日山】

自殺行為に近い内容ってことは、分かってるんだろう――?


Face_kenichi

【謙一】

まあな……


Kenichi

 多分、春日山が考えてるのと俺のとは心配の内容が異なっている。
 が、齎す結果は同じ……特変が敗北する未来。


Kenichi

 ソレを数十分ぐらい説明したのにも関わらず、譜已ちゃんは「私がやります」の一点張り。


Kenichi

 「あっ、コレ学園長譲りだわ」と悟ってから、俺はもう説得を諦めた。


Face_kenichi

【謙一】

だが、譜已ちゃんも学園長が認める特変の一人なんだ。衒火情と身分が同等のね


Face_kenichi

【謙一】

……立場的には、問題無い筈だ。ソッチも誰が相手とか指定はしてないからな


Face_toshihisa

【春日山】

……分かった。だけど、一つ、云っておくよ


Face_toshihisa

【春日山】

危険を感じたら、勝負とか関係なしに、僕も助けるからね。死人が出てはいけない


Face_fui

【譜已】

は、はい……有り難うございます……


Face_nagi

【凪】

……貴方ごときが、助けられるような存在でもないけれど


Face_so

【奏】

寧ろ、春日山パイセンが死なないように私たちが助けるパターンだね


Kenichi

 アホの奏でも、流石に親友のこととなると明察だ。
 つまり、俺が心配してるのはソコだ――


Face_toshihisa

【春日山】

そして……審査員が――


Face_kurousu

【クロウス】

俺が派遣された。檻を開けた瞬間をスタートと見なし、ストップウォッチで時間を測り始める。その後沈黙を俺と春日山、井澤の判断で認め、測定終了。このタイムの早さで一本勝負


Face_toshihisa

【春日山】

宜しくおねがいします、山田先生。手本となるかは分からないが、先制は僕から


 淑久が、一つの檻の前に立つ。


Face_noname

【noname】

【パンダ】「…………」


 獰猛なパンダが、男子を見詰める……命が外に晒される、緊張の沈黙。


Face_kurousu

【クロウス】

特変破り――開始!


toppa


 山田クロウスが、リモコンを操作し……
 檻の入り口が、上方へスライドした――


Face_noname

【noname】

【パンダ】「――ヴオォオオオオオオオオ!!」


 途端、沈黙を破り、ボルカニックパンダが淑久に両手と牙で襲いかかる――!!


Face_toshihisa

【春日山】

……おいで。大丈夫、敵じゃ、ないよ


 その両の巨大な手を――淑久もまた両の手で以て、防ぎこらえる!


Face_kenichi

【謙一】

――!?


Kenichi

 あ、あの中の下で若干貧弱そうなビジュアルのどこに、パンダと相撲を取る力が!?
 しかもルール通り、不可抗力も使わずパンダを傷付ける様子が無い。寧ろ――
 加減をする程度には、まだ力が――


Face_toshihisa

【春日山】

ごめんね、狭い檻に閉じ込めちゃって……


春日山

 元々ボルカニックパンダは、縄張り意識が強い性格はあるものの、積極的に人を襲うような種ではなかったらしい。
 しかし、考え無しなハンターが勝手に縄張りに入って、パンダを襲った……結果、このパンダが逆に人間を喰らい殺すことになって……そこで人の味を覚えてしまった。


春日山

 一旦人の味を覚えてしまったボルカニックパンダは、縄張りを出て、人里を襲うようになった……それを受けてWKBが非常事態と見なして、被害地域に生息する彼らの殲滅に乗り出した。自分の身を護るため……ソレは結果として仕方無かったとは思うけど、元はといえば人間が悪い。


春日山

 一気にボルカニックパンダは希少種となった……が、種のネットワークとでも云うべきか、彼らの中に人の味を知る者も、少なくないだろう。現れたなら即刻射殺――そう全國に標語が配られた。


春日山

 可哀想だ……彼らは、何も、悪くないのにね。


Face_toshihisa

【春日山】

優海町のボルカニックパンダは、人を襲う……殺人種だ。それでも町に降りてこない辺り、銘乃学園長の細かやな管理がなされてると思う


Face_toshihisa

【春日山】

……けど、傷は深いね


 ――ボルカニックパンダの動きを封じる、停止した相撲状態が数分続いたが――
やがて、獰猛なパンダのテンションが低くなってきていた。


Face_kenichi

【謙一】

おお……?


Face_toshihisa

【春日山】

この子は、以前銃撃を受けた時に僕が手当をしたパンダだったようだ。ほら、井澤くん見てみて、左腰あたりを


Kenichi

 ……春日山に云われ、恐る恐る近付いてみる……。


Face_kenichi

【謙一】

――! ホントだ、何か、跡がある……


Kenichi

 もう何なのかは分からなくなってるが、不自然な跡だ……。


Face_saya

【沙綾】

ちょっとー、貴方そういうの卑怯じゃなーい?


Face_toshihisa

【春日山】

僕だってこうなってやっと気付いたんだよ。ソレに、そういう過去に関わらず、この子は僕を襲った。ハンデとはならない


Face_toshihisa

【春日山】

……ただ、やっと僕に気付いたみたいだけどね。或いは自分を害する相手でないと認識したか……


Face_toshihisa

【春日山】

ごめんね、僕が理不尽なことをやっただけなんだ、僕が悪い。君たちは、悪くないよ……


Kenichi

 生半可な優しさでない、彼が本気で懸けてきている、意味のある優しさ……
 まさかとは思うが、ソレが、パンダに伝わって――?


Face_noname

【noname】

【パンダ】「…………」


Face_kurousu

【クロウス】

ほう……大したもんだ


Face_kurousu

【クロウス】

殺さず痛めず、態度で言葉通じぬ相手を屈服させるとは


Face_toshihisa

【春日山】

屈服じゃないです


Face_toshihisa

【春日山】

乱れを――一時的にですが、戻しただけですよ


 異議を挟む余地もなし。クロウスはストップウォッチを止めた。


Face_kurousu

【クロウス】

8分48秒。これなら動画に撮っておけばよかったなぁ


Face_toshihisa

【春日山】

……コレで、少しは……


Face_toshihisa

【春日山】

僕を、評価する気にはなったかな


Face_joe

【情】

……ああ。少なくとも、テメエが人生を懸けて「優しさ」とやらを肯定していることは理解した。そして――


Face_joe

【情】

視界に入り込んでは極めて俺を不快にする、最悪の人種ってこともな


Face_toshihisa

【春日山】

ッ――貴方は……どうしてそこまで――


Face_joe

【情】

何かに人生を懸けているのはテメエだけじゃねえ。そして俺とテメエは絶対に交わらねえ。それだけの話だ


Face_toshihisa

【春日山】

……どうして、こうもヒトっていうのは……


Face_fui

【譜已】

――じゃあ、次は私、ですね……


 二人の、意味の無い会話は彼女の言葉によって切り上げられた。
 淑久は、二重の意味で彼女に意識を引き寄せられる。


Face_toshihisa

【春日山】

銘乃さん……君は、今のを見ても……


Face_fui

【譜已】

……多分、一瞬で終わります


Face_kenichi

【謙一】

譜已ちゃん――? それは、どういう意味――


Face_fui

【譜已】

先生、お願いします


 今日の銘乃譜已はやたらと人の話を聴かなかった。
 そこには、より濃く母親の面影が映るようだった。


Face_kurousu

【クロウス】

ん、ああ……じゃあ、何つーか……死ぬなよ? お前ら


Face_so

【奏】

も、もう始まるの……!? ナギパイ――!


Face_nagi

【凪】

……貴方は、パンダを撃ち殺す覚悟だけしていなさい。譜已は私が止める。謙一


Face_kenichi

【謙一】

分かってる――


Kenichi

 譜已ちゃんの“機能”が発動したら……春日山を避難させる。
 本人が云った通り、死人が出てはいけないからだ。たとえ俺たちが敗北するとしても――


Kenichi

 ソレがせめてもの、春日山が本気で見せに来た生き方への、示すべき礼儀――!!



 山田クロウスが、二つ目のリモコンを操作し――


Face_kurousu

【クロウス】

測定――開始!!


 檻が、開く!


Face_noname

【noname】

【パンダ】「ヴオォオオオオオオオオ!」


 そして勢いよくパンダが、小柄な少女へと、最早押しつぶすように覆い被さり――


Face_fui

【譜已】

…………


 ――勝負は、一瞬にして、決着した。




生態班譜已


Face_fui

【譜已】

あはは、あは――ダメだよ、くすぐったいよ~……! お手! はい、お手、この前教えたでしょ、やってみて……! お・て!


Face_noname

【noname】

【パンダ】「きゅ~~~~~ん」(ごろごろごろごろ)


Face_fui

【譜已】

あっ、うんちしたでしょ~……! メッだよ、ここは森じゃないんだよ……? 勝手に連れてきちゃった私たちが云えることじゃないけどね……


Face_fui

【譜已】

ごめんね、フェイラン。それじゃ――おすわりっ


Face_noname

【noname】

【パンダ】「ワンッ」(←おすわり)


Face_tokuhen

【特変】

「「「!?!?!?」」」


 測定終了である。


Face_kurousu

【クロウス】

……13秒。審判の立場を忘れなかった自分を褒めてやりたい


Face_toshihisa

【春日山】

……………………


Face_joe

【情】

……………………


Face_fui

【譜已】

ミクシオも、コッチおいで


Face_noname

【noname】

【パンダ】「がうがう」(←さっきのパンダ)


Face_fui

【譜已】

傷、だいぶ回復したんだね。よかったよかった、春日山先輩のこと、ちゃんと覚えてなきゃ、メッ、ですよ? ちゃんとお礼云った? 私も一緒に云ってあげるから、はい、せーの――


Face_fui

【譜已】

ありがとうございました……!


Face_noname

【noname】

【パンダ】「アリガトウゴザイマシタ」


Face_kenichi

【謙一】

今明らかに喋ったよね!?!? ワンコどころの話じゃないよね!?


Face_nagi

【凪】

…………譜已……?


Face_so

【奏】

えっと、何、コレ……親友、ちょっと今、言葉が出ない


 何かあっという間に勝敗は付いたのだが、誰もがそんなこと忘れてただただ混乱していた。
 情と沙綾ですら言葉を失って、2体のボルカニックパンダと戯れている少女を見詰めていた。


Face_saya

【沙綾】

……………………(←取りあえず写メる)


Face_nono

【乃乃】

……銘乃譜已最強説がまた強化されそうですね


Face_mikan

【美甘】

し、志穂、マジ来ればよかったのに……凄えぞ、こんな空気、滅多に無いぞ……


Face_kenichi

【謙一】

だ、だが、そろそろその空気も終わらせるか……そういうのも、アレだ、管理職の役目だからな……


Face_kenichi

【謙一】

譜已ちゃん? おーい譜已ちゃん……?


Face_fui

【譜已】

――は!? す、すすすすみません、お恥ずかしいところをお見せに……あぁあああやっちゃった、謙一先輩たちには、見られたくなかったのにぃ……


Face_fui

【譜已】

何とか堤防は護ろうと思ったのに……フェイランに見詰められたら、あっという間に決壊してしまって


Face_kenichi

【謙一】

やべえ、全然分かんねえ。辛うじてフェイランがあのパンダの名前だってことぐらいしか分かんねえ……


Face_fui

【譜已】

あの……その、実は、私。誰にも云ってないこと、あって……


Face_fui

【譜已】

委員会、入ってるんです……生態班っていうんですけど……


Face_kenichi

【謙一】

え、委員会? 生態班……?


Kenichi

 ソレって、確か――


Face_toshihisa

【春日山】

――真理学園委員会において、最も生まれ持った才能が不可欠とされる特殊委員……


Face_toshihisa

【春日山】

自然豊かで色んな生物が森に住んでいる優海町の、生態調査を一任されている、入属が最難関の組織だ……僕の聴いた話じゃ、AB学生合わせても10人も居ないとすら


Face_so

【奏】

譜已ちゃん!? 親友の私全然ッ、そんな事情知らなかったんですけど!!?


Face_nagi

【凪】

私ですら知らなかった、そんなドデカい事実があったなんて正直平穏がぶっ壊れそう、どうしてくれるのよホント


Face_fui

【譜已】

ご、ごごごごめんなさい――!!(←平謝り)


Face_noname

【noname】

【パンダ】「「ヴオォオオオオオオオオ!!」」(←お怒り)


Face_fui

【譜已】

どーどー。凪先輩は、いい人ですよー(なでなで)


Face_nagi

【凪】

…………頭痛くなってきた。ちょっと貴方の気持ち分かったわ


Face_kenichi

【謙一】

こんなところで同情されましても……でも俺も頭痛いわ……えっと、取りあえず譜已ちゃんが生態班だってことが発覚したわけだが、ソレが今回の事件にどう関わってくるんだ……?


Face_toshihisa

【春日山】

……聴いたことが、ある。生態班の中で特に、優海町危険生物の調査を任されている、唯一の学生がいるって……


Face_kurousu

【クロウス】

危険過ぎるからな、そういうのはグリーンシャドウ隊とか民間の調査団体とか、大人が渋々頑張るんだが……その大人の誰よりも、楽しく仕事をこなしちゃってる学生がいるってのは確かに都市伝説になってる。ここ田舎だけど


Face_kenichi

【謙一】

……まさか……ソレって――


Face_fui

【譜已】

えっと、生態調査の中には直接動物さんと触れ合う機会も必須で……そこで、私結構、頑張ってます……


Face_fui

【譜已】

何か、異様に懐かれちゃうというか……私自身、ソレも結構悪くないなーって思ってて――


Face_noname

【noname】

【パンダ】「「キャンキャンっ」」(←舐め舐め)


Face_fui

【譜已】

あはっ、くすぐったいったら~ネタかぶりは、メッ! あはは――!


Face_kenichi

【謙一】

超楽しそうですやん


Kenichi

 とんでもねえスペック隠し持ってたよこの良心担当!!



Face_toshihisa

【春日山】

……やられたな……


Face_toshihisa

【春日山】

最初から、勝てる相手じゃ、なかったということか……僕では――


Face_fui

【譜已】

……あ、あの。春日山先輩


 パンダ2匹とじゃれていた譜已は立ち上がり、敗北した淑久に再び対面した。


Face_toshihisa

【春日山】

……銘乃、さん……?


Face_fui

【譜已】

その……勝負は、私たちの、勝ちです……


Face_fui

【譜已】

でも、だからって、何かを変える必要は、無いと思います……情先輩も、云ってました……認めてました、春日山先輩は、本当に優しく生きようってしてるのを……


Face_joe

【情】

…………


Face_fui

【譜已】

私は、その生き方……きっと色んな事があったんだと思います、けど……その、大切に、してほしい、です……


Face_toshihisa

【春日山】

――!!


Face_kenichi

【謙一】

譜已ちゃん……


Face_fui

【譜已】

壊れて、ほしくない、です……お母さんは望んでても、私はそんなの、嫌だから……春日山先輩は、とってもステキです! その理想もステキです……私は、それを、続けてほしいです……


Face_fui

【譜已】

だけど、この特変も……潰さないで、ほしいです……問題だらけなのは、何というか……もう否定のしようも、ないんですけど……


Face_fui

【譜已】

けど、ステキな人が、集まってると思います……皆同じじゃなくて、それぞれにキラキラしてて……特変を、ただ悪者って云われるのは、嫌なんです……良いところも、一応あるんです……


Face_fui

【譜已】

情先輩や沙綾先輩は春日山先輩のこと、きっと好きになってくれないですけど……春日山先輩の考えの方が好きっていう人も、居るんです


Face_so

【奏】

いいと思いまーす素直に


Face_mikan

【美甘】

その、同じく。身勝手な同意なのは、認める……


Face_fui

【譜已】

……特変を、お願いします、居させてください……真理学園に――!


Kenichi

 譜已ちゃんは、春日山に精一杯と云わんばかりに、頭を下げた。


Kenichi

 ……そうか。何となくだが、どうして譜已ちゃんが、今回俺らの反対を押し切って特変破りに出たのかが、分かったかもしれない……まだ、言葉にはできないけど。


Face_kenichi

【謙一】

……特変は、確かに悪しき存在かもしれない


Face_toshihisa

【春日山】

井澤くん……


Face_kenichi

【謙一】

だが、悪をしたいわけでもない。結果として悪と見なされているだけ……実際のところ俺らはバラバラなんだよ春日山。お前が間近で見てしまったのは、その中でも特級に悪がさらけ出てる最低野郎


Face_kenichi

【謙一】

そして今お前が闘った相手は、俺たちの中でも特級に善が滲み出てる女の子だ。分かるだろ? 動物は思考ではなく本能で人を見分ける。譜已ちゃんは、何というかさ、お前寄りだと思うよ


Face_kenichi

【謙一】

ついでに云うと、俺は春日山の理想については半分肯定するし、半分肯定できない


Kenichi

 人間は、言葉を使う。
 その限り、必ずそこには穏やかじゃない影が潜む。
 俺たちは常に、誰かに屠られるような現実に生きている――それは知性と最も密接に関わる事象であり、恐らく脱ぐことのできない、ヒトがヒトである理由なのだ――


Kenichi

 だから、ソレはあり得ない。つまり、俺の理想には、絶対なり得ない。
 ――それでも。


Face_kenichi

【謙一】

意思を強く持って、自分の道を信じ突き進もうと、俺たちにまで刃を向けた春日山を、俺は尊敬するよ


Face_toshihisa

【春日山】

……………………


春日山

 ……不思議、だな。
 全部を懸けるぐらいの気持ちは、あったつもりだ。ソレで勝負して、負けて……なのに――


春日山

 よく分からない、清々しさというか……


春日山

 やってよかった、と思ってるのか、僕は――


Face_toshihisa

【春日山】

僕は、敗者だ。何か不満を云う権利も……勝者に頭を下げられる権利も、無い


Face_fui

【譜已】

……春日山、先輩


Face_toshihisa

【春日山】

……ありがとう。銘乃さん。僕と闘ってくれて


Face_toshihisa

【春日山】

何か……少し、救われた気分だよ


Face_fui

【譜已】

……!


Face_fui

【譜已】

はい――


Face_saya

【沙綾】

ヴえぇ……ちょ、この清純な終わり方、やめて――


Face_nono

【乃乃】

空気読んで耐えてください


 譜已が、満面で笑んで――


 意外にも和やかな形で、この特変破りは幕を閉じたのだった――


timeskip

Stage: 銘乃家


PM9 00


Face_midori

【翠】

譜已ちゃん~お風呂あがったから、髪乾かして~


Face_fui

【譜已】

その前に、お母さん、服着て――っていうかちゃんと身体拭いてよ、風邪引いちゃうよ……


Fui

 ……お母さんのお風呂上がりの服着せは、何故か私の日課になっていた。
 忙しかった今日も、その日課は変わらず……私は続いてお母さんの髪を、ドライヤーでゆっくり乾かしながら、年季入りの櫛で梳く。


銘乃親子の夜


Face_midori

【翠】

……満足のいく結果になった?


Face_fui

【譜已】

…………


Fui

 ……特変破りのことを、訊いてるんだ。
 どうせお母さんのことだから……何がどうなって、どう落ち着いたかも……朝の時点で予想できてたんだ。つまり、この会話に、意味は無い……


Fui

 だけど、私はお母さんと、会話する。


Face_fui

【譜已】

分からない……私、何がやりたかったのか、自分でも分かってないから……


Face_midori

【翠】

でも、最後までやり遂げたのね。そういうドン引きする行動力、流石銘乃家長女ねぇ


Face_fui

【譜已】

……誰かさんの、娘ですからー


Fui

 何一つ、意味なんて無い。
 けれど、それでも、続けるのは……


Face_fui

【譜已】

……お母さん


Face_midori

【翠】

ん~?


Face_fui

【譜已】

――大好き


Face_midori

【翠】

……………………


Fui

 これ以上、泣いてほしく、ないから。


Face_midori

【翠】

……困ったわね~、そんなこと、云われても――


Face_midori

【翠】

女の子同士且つ親子で結婚できる地域なんて世界の何処かにあったかしら~?


Face_fui

【譜已】

色々云いたいことあるけど、お母さん……今年でいくつ?


Face_midori

【翠】

ソレは訊かないでください……


Face_fui

【譜已】

もう……ちょっと、油断したらいつもそういうこと、云うんだから――


Midori

…………。


Face_midori

【翠】

(仕方無いじゃない)


Midori

 こうやって、テキトウな会話にしないと……
 譜已ちゃんに真剣な言葉を云われちゃったら……また、私、泣いちゃいそうになるんだもん。


Face_fui

【譜已】

はい、髪、乾かしたよ


Face_midori

【翠】

お腹空いたわ~


Midori

 また……今年も、6月がやってきた。


Face_fui

【譜已】

今準備しまーす。えへへ……


Midori

 ――娘を護れない母親に、母親を名乗る資格は無い。



Midori

 私に、この子を護り――救う力は、無い。
 だから、お願いね。超過勤務手当ぐらいは幾らでも出すから――


Face_midori

【翠】

……? どうしたの、譜已ちゃん~? もしかして、今日の晩ご飯は特別豪華なのかしらー!


Face_fui

【譜已】

うん……! 今日の晩ご飯、とろろ昆布丼、だからね


Face_midori

【翠】

えぇ!? 酷いわ譜已ちゃん、最悪なメニューじゃない~! 譜已ちゃんの勝利記念にもうちょっと良い物食べましょーよー!!


Face_fui

【譜已】

今日の私、ちょっと気分がいいから、流れで謙一先輩を困らせてばっかりのお母さんを困らせてみることにしました!


Face_midori

【翠】

ドSだわ~そんな譜已ちゃんも可愛くて仕方無いわ~うわーーん……!!


Midori

 謙一くん、まだ無理だろうけど、いつか。いつかね。


Face_fui

【譜已】

えへへ……! 日頃の、お返しでーす……!


Midori

 この譜已ちゃんを――壊して。


PAGE TOP