「特変」結成編2-8「青春とは修羅場である(2)」
あらすじ
「その、沙綾ちゃんのこと……よろしく、お願いします」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章8節その2。沙綾ちゃんの彼氏(候補)・伊吹夏裟花くんと恋のライバル・五空音々ちゃんが出現! 恋喧嘩からの特変破り開催でございます。
↓物語開始↓

【沙綾】
喧しいわ雌牛、必要無い言葉を削いで、コレで決着付けてやりましょう

【沙綾】
――特変破りよ!!
場が騒然としだす。
突然、学園を悪者・特変から奪還する正式の一手が、休日に発動されたからである。

【謙一】
――って何でお前が宣言してんだよ!!?

【沙綾】
愛の前には些細な問題でしょー?

【謙一】
少なくとも俺にとって鋭敏にならざるをえない深刻なワードだからね!? 認められるわけねえだろうが、誰得なんだよお前以外で!!

【夏裟花】
そ、そうだそうだ、よりにもよってお前と音々で学園の命運分かつだなんて――

【沙綾】
私には意義あるのだから、別にいーじゃない。それに特変の私が云ってるんだから承諾も何も必要無いわ
Kenichi
ド畜生、聞く耳持たねえいつも通り!!

【沙綾】
さあ、勝負よ音々! 勝った方が正式に、かーくんの彼女!!

【音々】
なっ……!

【夏裟花】
正式にもクソも、元々彼女じゃねーだろドッチも!!

【謙一】
しかも特変解体とか一切関係無いじゃんそんなの!?

【学生】
いつものだなぁ……結局

【学生】
特変制度と関係無いんじゃ、シリアスになる必要もないか……
Kenichi
周りの奴らも一瞬で熱が冷めたみたいだ、興味を失って――ていうかいつもってことはコイツらいつもこんな騒ぎ起こしてるの?

【noname】
【???】「何の騒ぎ? 夏裟花がまた関わってるの?」

【謙一】
お……?
Kenichi
何かまた、新しいキャラが入ってきたぞ……

【ゆかり】
あー……またいつも通りの感じかー……

【男子】
寮母さん、ちわーっす

【ゆかり】
こんにちは、でも寮母さんじゃないから、次云ったらほっぺた引っ張るよ

【女子】
寮母さん、何かお風呂の浴槽に罅入ってるっぽいの

【ゆかり】
分かった、後で確認しておきます。あと寮母さんじゃないから、次云ったら太ももにガムテープ貼っちゃうよ

【謙一】
何かエラく若い寮母さんが現れたな

【ゆかり】
…………
寮母さんは躊躇無く権力者の太ももにガムテープを貼ってほっぺたを引っ張った。

【謙一】
痛いたいたい!? 何、どうして!? もうワケが分からないよ!!

【ゆかり】
寮母さんじゃないですー!!

【夏裟花】
お、おいおいおいおい!? ゆかり、その人はヤバい、下手に逆らったら消されるって!!

【ゆかり】
あれ……? よく見たら寮では見かけない人だ……

【謙一】
よく見るよりも先に攻撃を仕掛けられたのか俺は……別に消すつもりもないが、誰なんだこの人は?

【夏裟花】
土方ゆかり……この栗田寮の、管理人の一人というか……まぁ実質寮母みたいな――
夏裟花はガムテで巻かれた。

【夏裟花】
んーーーー!! んーーーー!!?

【ゆかり】
管寮班と云ったら理解してくれますか。えっと……井澤謙一さん、でよかったでしょうか……?

【謙一】
どうも……
Kenichi
管寮班っていうと……確か、昨日のプチお茶会で美玲さんがシュークリーム頬張りながら教えてくれたっけな……通常の委員会とは少し違った、特殊委員会の一つだった気がする。一言で云えば、寮や寮生の面倒を見る……寮住まいで効率良く、人付き合いが上手で……そういった様々な基準を満たしていると審査で合格した者だけがなれる、ハイスペックな委員会。
Kenichi
つまり、俺たちと同じ学生……だが、寮母と云われている。それは信頼されている証拠でもある。

【ゆかり】
ごめんなさい、ここの寮の人たち皆、ぼくのこと寮母なんて呼んで虐めるから……いつものノリで仕返ししてやろうって思ったら、全然そうじゃない人でした……

【謙一】
まぁ、ガムテは剥がすの辛いけど別に良いよそんぐらい、沙綾に陥れられるのに比べたら……

【ゆかり】
……そっか、沙綾ちゃんも特変、ですものね……

【謙一】
その様子だと、あの3人とは割と親密な方なのか

【ゆかり】
え――?
Kenichi
……やべっ、またやっちまった……

【謙一】
……えっと、勘だ。土方の言葉が、他の寮生たちに向けるのと、あの近付きたくない沙綾らに関するのとでは多少色が違うように思った、って感じか。そんなつもりはなかったが勝手に探るような真似、悪かった

【ゆかり】
いえ……ははっ、流石に沙綾ちゃんの上に立つ特変のリーダーさんとなると、下手に喋れないな……別に、こんなこと隠すことでもないけど

【ゆかり】
幼馴染み、でいいのかな。3人ほどじゃないんですけど……偶然が色々重なって、また3人が見れる場所でぼくも過ごすことになりして……

【ゆかり】
一種の呪い、ですね……

【謙一】
……呪い?
Kenichi
これまた変な表現をする。まぁ、真理学園は行きたくて行くような学園ではないと思うから、4人一緒にこの学園を選ぶっていうのは……なかなか自然とは思えないな。その意味では、クリアとは云えない事情があったのかもしれないが……当然、ソレを覗く意味があるとは思わない。俺だって空気は読む方なんだ。

【沙綾】
あら、丁度良い。ゆかりくん、ちょっと見てて。この私が完全にかーくんを手に入れる、歴史的瞬間の証人となりなさい!

【ゆかり】
いつもの喧嘩でしょ?

【沙綾】
特変破りよ!

【ゆかり】
え? 特変破り……え?

【沙綾】
要は、先にかーくんを落とした方が勝ち! ってことで――
沙綾がガムテープまみれで動けない夏裟花にダイブした。

【夏裟花】
んーーー!?

【音々】
あーーーー不意打ちーー!!

【沙綾】
不意打ちは、私の専売特許☆ ねーかーくん~♪

【夏裟花】
んーーーー……!?

【沙綾】
ちょっと何云ってるか分かんないわーかーくーーん♪
沙綾、ロビーの真ん中で押し倒した夏裟花の身体の彼方此方を摩りはじめる。

【音々】
!?!?!?!?

【夏裟花】
んーーー!? んーーーー!!!

【沙綾】
あーら反応しちゃってぇ……全身、堅くなってるぅ💕

【謙一】
そりゃガムテで縛られた上にいきなりタックルかまされちゃ硬直もするだろうなあ
井澤謙一、空気を読めてない冷静なツッコミ。

【音々】
あ、あわわ、あわわわわ……!!?

【ゆかり】
……特変要素が関わると、またパワーアップしちゃうなあ修羅場トリオが……

【謙一】
……何それ?

【ゆかり】
この3人、見ての通りです。音々ちゃんと沙綾ちゃんが、夏裟花を取り合ってる……でも夏裟花はどっちを取るつもりもなくて……2人も諦めない――沙綾ちゃんが諦めず独占しようとするから音々ちゃんもソレを阻止してる

【ゆかり】
毎日毎日、修羅場ってるんですよ何処でも構わず

【謙一】
これが、奏たちが云っていた「学園の日常」ってやつか……しかし少なくとも俺は初めて見たんだが、この光景
Kenichi
こんな楽しそうな沙綾とか。

【ゆかり】
それは……沙綾ちゃんなりに、色々考えたから、かもしれない

【謙一】
沙綾が……何を?

【ゆかり】
夏裟花も音々ちゃんも、B等部だから。元々沙綾ちゃんは部が悪かったんです。一方で音々ちゃんはいっつも彼と同じクラスで

【ゆかり】
だから、沙綾ちゃんは交渉した。音々ちゃんに……あまりかーくんとイチャイチャしないで、他の学友を作って遊んでろ、って。その代わりに自分も彼に意図的に近付くことはしない、って

【謙一】
何だそれ……
Kenichi
そんなの、交渉にならないだろう。沙綾同様にあの伊吹を手に入れたいと思ってるらしい五空が、見た感じ戦略的に優位に立ってそうな沙綾を出し抜いて彼氏候補とイチャイチャできるチャンスを、わざわざ捨てろって勧めてるのだから。それを五空が聞き入れる道理は――

【ゆかり】
それを、夏裟花は支持した

【謙一】
……伊吹が、同意したなら話は変わる、のか。アイツ自身は二人のアピールは、端的に云って迷惑なもの。五空も伊吹に同意を取られてしまえば、ソレを聞き入れないのが我が儘と見なされてしまう……
Kenichi
矢張り、沙綾が一手先を行っている、ということか――

【沙綾】
かーくんは、何も、心配しなくていいし、考えなくていーの……

【沙綾】
私が、ぜーんぶ……奪っちゃうだけだから――

【音々】
――こらーーーーー!!!
何かキスでもしそうな流れだったのを五空音々がヒップドロップで夏裟花ごと踏み潰した。

【沙綾】
ぐぼば

【夏裟花】
ばっは――!?

【音々】
沙綾ぁ、エッチなのダメェ!! そんなのダメなんだからぁああ!!

【音々】
かーくんも、しっかりして! 沙綾なんかに理性、奪われちゃダメなの! って、かーくん? もしかして意識まで奪われちゃってたの!? しっかりーーー!!

【男子】
間違いなく伊吹の意識奪ったの五空ちゃんだろ……

【男子】
あのムチムチのヒップドロップを毎日喰らってるんだから、アイツのラッキースケベっぷりはホント滅べばいいと思うんだ俺

【男子】
俺も、あのヒップ欲しい

【音々】
かぁああくうぅううんしっかりしてーーー!!(←無自覚に身体押しつける)

【夏裟花】
――!?!?

【沙綾】
ッ――!? こ、この雌牛、またかーくんに!!

【夏裟花】
んーーー!!?(ギャーー!!?)

【男子】
俺は寧ろB等部学生にあるまじきあのバケツ双砲に撃ち抜かれたい。できることなら何らかの事故で挟まれたい

【女子】
私は双砲そのものが欲しい

【女子】
撃ち抜く相手居ないのにあんなの持ってても意味無いでしょアンタ……

【女子】
いや今は居ないけど、そういうの関係なしに欲しいでしょあんな凶器ぃいい!!

【女子】
気持ちはいっったいほど分かるけどアンタがアレ持ってたらホントに凶器になりそう、主にアンタの存在そのものが
戦況は多分だが五分五分だった。

【ゆかり】
……沙綾ちゃん自身の為だけじゃなくてね。あれはきっと、音々ちゃんの為でもあったんだと、思うんです

【謙一】
五空の? どうして、そうなる

【ゆかり】
沙綾ちゃんは平気でも、音々ちゃんには必要だと思ったんだ……3人の輪の外の存在が

【ゆかり】
友達が必要だと2人は思ってた。だから、沙綾ちゃんは身を引くことで音々ちゃんもまた身を引かせる判断へ持ち込んだ

【ゆかり】
……何とか音々ちゃんも、夏裟花だけじゃない学園生活を手に入れることができた。その生活を、無理矢理でもいいから過ごさせる、その為に沙綾ちゃんは特変という権力的存在になっても、交渉を自ら反故にするような真似はしてこない

【謙一】
…………
Kenichi
何だ……?
ごく僅かに見せる、違和感というか……隙間というか……
Kenichi
そう、隙間――いや、罅。亀裂。
Kenichi
見てて茶番で平和な修羅場の光景に一瞬見えるソレは、覗こうと思えば……やっぱりソレは止めておこうと思わされる、黒い亀裂で。
Kenichi
矢張り、俺は空気を読んでその先を覗く真似は、控えるのだった。

【沙綾】
健全にやろうとか云いながらソッチが不健全に攻めてるじゃないいっつも! そりゃそうよねーそのビジュアル自体不健全だものー!

【音々】
沙綾が何云ってるのかネネ全然分かんない! でもどうせまたイヤらしい発言してるから無視してやる! 兎に角、かーくんは沙綾のモノじゃないもん!!

【沙綾】
そんな貴方の感情ばかりの主張がどうして他人に通用するのよ、ピュアなのはまぁ別に個性ってことで否定はしないでおいてあげるけど、ソレをかーくんを陥れる手段で使うなら、その既に薄汚れたピュアごと握りつぶしてあげるわよ今日こそ

【音々】
沙綾、ほんっっっと難しいことばっか云ってて意味分かんないし!! でもかーくん陥れてるの断然沙綾だし!! ネネ、それだけは絶対許せないもん、かーくんはネネが守るんだもん!! 沙綾なんて……べーーーだ!!!

【沙綾】
…………💢

【音々】
…………💢

【noname】
【沙綾vs音々】「「うだーーー!!!」」
二人、夏裟花を忘れて取っ組み合いに。

【夏裟花】
――! よ、よし、全部取れたぞガムテープ!!

【謙一】
あ

【ゆかり】
あ

【noname】
【2人】「「――!!」」
審査員(攻略対象)、逃走!
無論二人が追いかける!!

【noname】
【音々】「待ってーーー!!」
【沙綾】「待ちなさーい!!」

【夏裟花】
か……勘弁してくれよぉおおおおおう((泣))!!
……そのまま3人仲良く寮を出て行った。

【ゆかり】
……えっと、勝負は?

【謙一】
いやもう無効でいいだろ、審査員消えたし引き分けっていうかさ。抑も特変破り自体成立してないし

【ゆかり】
ですよねー……
Kenichi
結局、無意義な時間だったな……帰るか。

【ゆかり】
……あの、井澤さん

【謙一】
ん――
…………。
…………。
…………。

【謙一】
…………

【noname】
【3人】「「「ぴゃーーー!!!」」」
寮を出て帰ろうと歩いている中、どこか遠くから3人の雄叫びにも断末魔にも聞こえる何かが謙一の耳に入った。

【謙一】
……何してんだか
Kenichi
苦笑も湧いて、俺は今度こそ、我が家へ……。
Kenichi
その最中――
俺の頭に、最後に土方が云った言葉が、どうしてか反響していた。

【ゆかり】
その、沙綾ちゃんのこと……よろしく、お願いします

【ゆかり】
思ったことは曲げない女の子で、ちょっと難しい相手かもしれないけど……

【ゆかり】
悪い子じゃ、ないから
Kenichi
その言葉を信じるには、俺は、沙綾に対し一面的な理解しかしていない……そんな俺では、到底不可能だった。
Kenichi
どこまでも自己中で、善に鳥肌を覚え、奪うことを躊躇しないアイツに。
Kenichi
俺は、この先どこまで関与し続けていられるのだろうか。
云い換えれば――

【謙一】
いつ、俺と沙綾は、対立するだろうか――