「特変」結成編2-1「ダメイド(3)」
あらすじ
「最新鋭最強だ。ついでに云えば、リサーチが進んで更に最新鋭のが出来上がったら交換してやる。勿論無料だ」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章1節その4。完全自立型ライテドアンドロイド、光雨。それが現代文明音痴な謙一くんが所有することになった人生初の携帯(アルス)でした。そして未知なる光雨のリサーチの一環として、志穂ちゃんが特変面子にアルスを配布する回です。
↓物語開始↓
しかしながら騒がしい午前はまだ終わらないのである。

【志穂】
そんなこんなでタダでアルスを譲ってやった

【光雨】
損害賠償請求なの~~!!!(←不機嫌)

【謙一】
もっとタチの悪いお金が発生しそうなんだが……
当然、教室で暇潰しに喧嘩していたクラスメイツたちは一発で意識をちっちゃなメイドに引き込まれる。
そのメイドさんは幼稚さを全開にして泣き喚きつつ、謙一の頭上をフワフワと浮いていた。

【情】
……は?

【沙綾】
え、何……何ソレ!? 何万!?

【謙一】
まずソコから入るあたりトコトン汚れてるよな沙綾は……

【光雨】
脚がピリピリしてるの~! 辛いの~……! (←泣きべそ)

【譜已】
だ、大丈夫……? えっと……

【譜已】
よ、よしよ~し(←脚を優しくさする)

【謙一】
おお……! エンジェル譜已ちゃんの平等な優しさがアンドロイドを癒やしていく……!
Kenichi
痺れた脚をさする行為が結果的に優しいのかどうかは知らないけども!
因みに譜已の手は2割方半透明な少女にちゃんと接触していた。

【奏】
って譜已ちゃん!? 危ないって未知なものにいきなり手を差し伸べちゃ!!

【譜已】
え……? いや、でも……困ってた、みたいだし……

【奏】
譜已ちゃん、この世は犯罪社会なんだよ……

【奏】
譜已ちゃんのその優しさにつけ込んでお金を求めてくる輩は沢山いる社会なんだよ!

【凪】
お金ならまだマシな方

【凪】
譜已自身を求めてくる輩も少なくないでしょうね。様々な理由から

【奏】
そうだよ! 損害賠償を払うのはケンパイだけでいいんだよ譜已ちゃん!

【謙一】
あれ、ケンパイってもしかして俺のこと? だとしたらぶっ飛ばすぞ後輩
Kenichi
そしてどうしてアンドロイドに対して賠償責任を負わなきゃいけないんだ、という抑ものツッコミを誰もしてこないのは、きっと更に抑もな「コレ何?」って疑問が教室を支配しているからだろう。
通常ニッコニコしてる訓舘先生ですら驚きで表情を変えている。

【訓舘】
事実は小説よりも奇なり、とはよく承知しているつもりでしたが……

【訓舘】
こうして実際に、特級な奇と対峙しますと矢張り身体も嘘付けなくなりますね

【志穂】
次の時間は数学だし、リセットステージまでに説明済ませれば大丈夫か

【謙一】
どんどん授業が潰れてくな……まぁ、コレばっかりは仕方ないかなと思うけど……
Kenichi
まずは、このアンドロイドに落ち着いてもらおう。
さっきまで騒ぎっぱなしだった光雨も、エンジェルの手でだいぶ癒やされてきているようだった。

【譜已】
えへへ……可愛い……

【光雨】
フイ、優しぃの~……(←撫でられながら)

【譜已】
あれ、どうして、私の名前……

【光雨】
ブックマークに載ってるの~……だから、もう全員知ってるの~……(←撫でられながら)

【譜已】
ブックマーク……?

【志穂】
放置してると話が空回りしそうだな。私の本日最後の仕事だぁ。説明してやる

【謙一】
つまり3限以降は爆睡決め込むつもりだな……
Kenichi
情と違ってコイツはたまに寝相が悪いので、寝てても中々有害な奴なのだが……
こんな非売品をタダで貰ってしまった手前、しばらく文句が云いにくいなぁ……はぁ……。

【志穂】
――ってなところだな
あらかた志穂は必要十分な話を終えた。
話を終える頃には光雨対応の、ピッカピカのアルスを渡された遠嶋沙綾は床に正座していた。

【沙綾】
あぁ……今日は、何て日……☆ミ

【奏】
凄い、サヤパイが似合わないレベルでキラキラしてる……

【乃乃】
燦然と真っ黒に輝いてますね

【奏】
あれ、そういう見方だと寧ろこの上なくサヤパイらしい煌めきとも――

【奏】
――ってアルス貰えるんですか!?
話を整理し終えた奏が全力で正座を決めた。
最早落下な衝撃で膝を打った痛みも忘れて、兎に角自分にとって重要なことを確認する。

【志穂】
ああ。いわば協力者みたいなもんだからなー仕事の対価だ

【志穂】
云ったように、光雨のリサーチに附き合え。それ自体はコッチでやるし、アルスの使い方も限定しない

【志穂】
おめーら遊び盛りにはデメリットは無いと思うぜー?

【奏】
は……ははー!!!

【沙綾】
ははー!!!
さっきまで喧嘩してた二人は仲良く志穂に跪いた。

【凪】
……WKBが手厚く護りそうなレベルで機密なモノを、一般学生の私たちが共有すると

【凪】
正直、相当胡散臭いと思ってしまうのは私の疑心暗鬼が過ぎているだけかしら

【志穂】
そう思われるのは仕方無い。確かにコイツの情報が拡散されるのはよろしくない事態だ

【志穂】
だが、そういう見るからに貴重なモノを隠してそうな所よりは、一般学生の教室に置いてた方が安全なんだよ

【志穂】
地味にこの学校、セキュリティしっかりしてるしな
研究場所には様々な人間が集まる。それも、世界中に太いコネクトを持つような者たちである。
だからその場所でアクティブなケースを実践していくことは情報流出の危険がどうしても附いて回る――志穂はそう説明し、一同を納得させる。
光雨が実際にどのような主機能を持ち、どのような可能性を孕んでいるのか。そんな光雨の情報をどうやって効率良くシャットしていくか。
それらを日常の中で研究していくのが、各々の新たな最新鋭アルスを報酬に、特変が請け負ったミッションである。

【譜已】
光雨ちゃん、凄いんだ……

【光雨】
そうなの、すごいのー。崇めてくれていーのー☆ミ

【謙一】
お前メイドなんじゃなかったのか……

【光雨】
どうせメイドなら、フイのメイドになりたかったのー……(←ほっぺすりすり)

【譜已】
かわいい~……(←すりすり)

【謙一】
癒やされる光景だなぁ
Kenichi
しかしマスターである筈の俺が今のとこ譜已ちゃん相手みたいに傅かれるような気配を見せない事に少なからず不安を覚えてるのだった。
やっぱ俺向いてないんじゃないの志穂さん……?

【情】
ふん……端末に困ってはいなかったが

【情】
俺の使ってるモノよりも高機能だって云うなら、持って損はねえな

【志穂】
最新鋭最強だ。ついでに云えば、リサーチが進んで更に最新鋭のが出来上がったら交換してやる。勿論無料だ

【沙綾】
凄い……太っ腹過ぎる……!! 高級なアルスって高いとかそういうレベルじゃないのよ!?

【沙綾】
ひゃっはーーーーー!! かーくんに報告しないと! いやっふーーーぅ!!

【美甘】
誰だコレ

【乃乃】
謙一さん程でないにしろ、私もアルスは苦手なところがありますね……できればご教授をしてくれると

【志穂】
抑も一般のアルスと一線を画すモノだからな。紙媒体でマニュアル用意してやる。辞書並みの厚さだが

【謙一】
そんな説明書読みたくねえよ……
その都度志穂が説明しますってことで午前のライテドアンドロイド騒動は終わった……
……が、真理合宿明けのこの日の井澤謙一の気苦労はまだまだこれからであり。
本番は午後の学園終わりであった――