「特変」結成編2-7「青春とは放課後である(1)」
あらすじ
「ではこの不肖三重栞々菜が、優海町ガイドを承りましょう!!」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章7節その1。諸事情で放課後に外をうろついてた謙一くんと美甘ちゃんと志穂ちゃんは、更に諸々の流れで優海町を散歩することになりましたとさ。
↓物語開始↓

【謙一】
……………………

【美甘】
……………………
二人は疲れていた。
どういう疲れ方かというと、息が切れてるわけではないが、寧ろ吸うのも億劫でちょっと思考放棄もしたくなる放心状態であった。

【謙一】
俺は、今飛んでたあの鳥になりたい

【美甘】
お風呂、入れないじゃん

【謙一】
やっぱり畜生は無しだ、人間じゃなきゃ。だけど人間はお風呂でも落とせない汚れを溜めちゃう生き物なんだよな

【美甘】
世知辛い世の中だな

【志穂】
中途半端な悟り開いてないでさっさと解散しろー

【謙一】
誰の所為だと思って……
Stage: 優海町

【謙一】
しっかし、優海町は空気が美味しいなぁ。ここだけは素直にプラスポイントだわ

【美甘】
登校の時にソレは分かってるんじゃないの?

【謙一】
んー堪能してる余裕は無いかな。通学中だし、俺バイク通学だし

【美甘】
何で学園生が自動二輪扱ってんだ……
Kenichi
こうやって暇な時に優海町の外に出たのは、初めてなのかもしれない。大体何かしら用事があると、それの意識をしてしまう……俺はこういうとこ不器用だからな。
Kenichi
そもそも、どうして放課後にコイツらと一緒に優海町に出てるのかというと、奇襲に遭ったからだ。それ自体は奏に任せとけばどうにでもなる筈なのだが、運悪くその時志穂がグッスリ熟眠してたのだ……。それを無理矢理起こしてしまったらどんな悲惨な展開に飛ぶかは真理合宿の際に体験済みだ……。
Kenichi
ってことで覚醒した志穂を取り押さえるのに美甘と奔走してたら、いつの間にかこんな所に立っていた、という次第。命を救った分あの奇襲してきた同級生の彼らには寧ろ感謝してもらいたいもんだ……。

【志穂】
何でお前ワイシャツ真っ二つになってんの? B地区見えてんぞ、気持ち悪ぃ

【謙一】
ぶっ飛ばすぞ主因。ま、この町サーフィンとかで名所なんでしょ? 上半身裸でたむろってる人なんて幾らでもいるんだし、そう目立たないでしょ。なあ美甘?

【美甘】
う、うん……そう、だな……(チラチラ)
Kenichi
視線を感じる、流石に恥ずかしい地味に拷問だ……。

【???】
【???】「あれー、美甘先輩じゃないですかー!」

【謙一】
おや、この声は

【美甘】
んぎ……こ、この、オーラは……!?

【志穂】
オーラて
GACが建っている近くを歩いていたら、見知った声。
ついこの前に対峙したばかりの後輩であった。

【栞々菜】
えへへー先輩~♪

【美甘】
こ、栞々菜……
疲弊していた堀田美甘に追い打ちのハグが炸裂する。

【謙一】
ちょっと周りを見ましょうよ後輩よ
Kenichi
俺らと一緒に仲良くしてるとこ見られるのは、結構危険なんだからな……。まあどうやら誰にも見られてないっぽいけどさ。

【謙一】
って、徳川も一緒だったんだな

【秋都】
あ、う、うん。こんにちは、井澤くん

【志穂】
私らには挨拶無しかごらぁ??

【謙一】
何で徳川にガン飛ばしてんだよ(←チョップ)

【志穂】
痛ーなゴラ(←チョップチョップ)

【謙一】
徳川って三重の知り合いだったの?(←チョップチョップチョップ)

【秋都】
し、知り合いってほどじゃないよ。ちょっとお仕事でヘルプに回ったってだけで――
Akitsu
って謙一くんのB地区が外気に晒されてるぅぅぅぅぅうううう――!!!(←ガン見)
Kenichi
うっわ気付かれた、いや気付かれるだろうけど、超見られてるんだけど恥ずかしい死にたい!!

【栞々菜】
栞々菜、体育委員で今日301会場の清掃チェック担当だったんです。だけど一緒にやる予定だった人たちが運悪く体調崩しちゃって栞々菜一人でやりそうになって……

【秋都】
それで、雑務委員向けに緊急ヘルプの依頼が来て、暇だったし、私が応募して……そしたら私一人だけだったことが発覚して……

【栞々菜】
結局二人でやる羽目になりましたー……

【謙一】
この前の204会場と大体同じ広さの体育館を二人で清掃ですか……
Kenichi
超大変ですな体育委員……

【栞々菜】
でも正直、こんなに早く終わると思いませんでした!! まだ5時手前ですもん!!

【謙一】
ん……? 放課後って15時半以降だったよな。つまり、1時間半もかからず終わらせちゃったってこと? どうやって? 2人なのに

【栞々菜】
栞々菜は一人水拭きレースに洒落込む覚悟でいたんですけど、徳川先輩がソレ時間掛かりすぎるってことで、体育委員の栞々菜も存在知らなかった機械を沢山引っ張り出してきて、ソレで一気にババッとシュバババーンと! 栞々菜の出番無かったですよ体育委員なのに

【謙一】
……………………
Akitsu
謙一くんに引かれたあぁあああああああああああああ……!?!?

【秋都】
あ……あはは……あはははは……

【謙一】
いきなりどうした徳川!? そんな、俺たちよりも疲れた顔を……いや確かに俺たちよりも疲れる事をやったんだろうけども、その、お疲れ……

【栞々菜】
そういえば先輩たちは何をやってたんですか? もしかして、特変破り!?

【志穂】
まーそんなトコだ

【美甘】
特変破り自体は5分も経たずに終わってたけどな……
お互いの事情説明終了。
さあコレでお互い本当に放課後なわけだが、青春主義の後輩がここで解散させるわけがないのである。

【栞々菜】
一緒に散歩しましょう!!

【美甘】
グハァッ!!
Kenichi
美甘の人附き合い環境が合宿から確変止まらないな。
自分で選んだこととはいえ、ちょっと気の毒にも思えてきた。この後輩無知無考でホント厄介だからな……。

【謙一】
えっと……散歩っていうのは一体?

【栞々菜】
栞々菜は美甘先輩とゆっくり歩いてみたいです! バスケの方もだいぶ青春度が満ちてきたので、今度は別のことにもちゃんと目を向けようと思うので!

【栞々菜】
スポ根マンガだって、スポーツだけやってるわけじゃないんですよ? おでかけして友達や恋人と遊んだりしてます! あと謎の科学者に拉致されて何だかんだでパラメーターが上がったり!

【謙一】
一番最後のはやり込み勢以外要らないけど、まぁ確かに息抜きも必要だろうな。今日は部活休みなのか

【栞々菜】
だーから誘ってるんですよー! 先輩がたもどうですか、一緒に!!

【謙一】
つっても俺も、多分志穂も、優海町はそんな分かんないぞ?

【栞々菜】
ではこの不肖三重栞々菜が、優海町ガイドを承りましょう!!

【謙一】
意地でも帰すつもり無い感じですな
Kenichi
ていうか、ソレよりも……

【美甘】
――――――(←ガン見)
Kenichi
懇願の眼差しがヤベえ……帰れねえ……

【志穂】
……………………

【謙一】
……………………
Kenichi
俺らは穏やかな帰宅を諦めた。
ということで優海町を歩いてみることにした一行。
しかし現在時刻約17時。ゆっくりする時間はあまりないと云って良いだろう。

【謙一】
っていうか、アレ、徳川も居る感じ? 別に良いんだぞ、こんな唐突理不尽なイベントに付き合わなくても……

【秋都】
ええ!? (←ここで仲間外れにされちゃうんですか私……でも気遣ってくれる謙一くんステキ!!)

【秋都】
な、何となく、私も附いていこうかなって……えへへ……(←折角の、その、チャンスだから。帰りたくないです。)

【謙一】
そ、そう……?
Kenichi
何だろう、徳川の言葉の背後に何らかの多勢を感じなくもなかったが……これまた真意の読みにくいお隣さんだなぁ……
しっかし結局凄い面子で歩く羽目になった……まぁいいや、噂になったら「特変じゃなくて美甘がモテてるんです」みたいなこと噂に流そう。聴けばこの1日2日でバスケ部での事件が広まって美甘の株が上がったらしいし。

【栞々菜】
優海町をご案内っていっても、ぶっちゃけ栞々菜もまだ優海町民歴短いですし、バスケばっかやってたのであんまり知らないですねー

【謙一】
おいガイドさん!?

【栞々菜】
でも必要になって外に出ることもあります! 抑も優海町は都会ではなくて、見所も決まってきます。自然豊かさと海……これ以外で、栞々菜みたいに日常で必要になるかもしれない場所があるとしたら、商店街です

【栞々菜】
ってことで商店街に行きましょう!
ということでバスに乗る羽目に。
一律料金前払い。
井澤謙一、泣く泣く160円とサヨナラを告げる。

【謙一】
ぅぅぅ……こんな、決して必要ではなかったイベントの為に160円を……

【志穂】
お前露骨に貧乏癖あるよな

【栞々菜】
ていうか、井澤先輩、現金払いなんですね?

【謙一】
え? って何ぃいいいい!!?
Kenichi
な……何故……
他の人は小銭を出してないんだ!!?

【謙一】
もしかして、無賃!?

【志穂】
失礼なこと叫ぶなやゴラ

【美甘】
どんだけお前アナログなんだよ……いやまぁ、アルスもスマホも疎い奴に云っても今更だけどさ

【謙一】
――! そ、そうか、電子カード。レヴォとか使ったのか?

【美甘】
惜しい! その方向性だけど、多分コレは解説が必要なパタンだ……

【志穂】
めんどい

【謙一】
…………徳川は、何か分かってるのか……

【秋都】
う、うん、何かごめんね……(可愛い、落ち込んでる謙一くん一転して可愛い、コレ母性本能? 単なる嗜虐心?)
Kenichi
まぁ徳川だって小銭出してなかったんだから、俺と違ってもう優海町には慣れてるんだろうな。相変わらずリアル充実してそうで何よりだ羨ましい。

【秋都】
私たちは、RPをお支払いに使ったんだ。優海町ではかなり一般的な方法

【謙一】
あーるぴー??

【志穂】
アホみたいだなコイツ

【栞々菜】
明石監督を前に詐欺かましてた人とは思えないですねー……

【謙一】
詐欺云うな

【秋都】
そもそも優海町には、優海町民専用のアプリが配布されてるんだ。それが、「レゾン」

【謙一】
ああ、それは聴いたことがある……
Kenichi
確か合唱祭の選曲で悩んでるときに美甘が使ったアプリだ。学園の情報にアクセスしてたなあの時は……。

【秋都】
優海町で過ごす人には欠かせないアプリで、優海町民に向けた便利な情報とかサービスを提供してるの

【秋都】
このレゾンの設営には、「町会サイド」、「役所サイド」、「学園サイド」があって……取りあえず井澤くんは学園サイドだけを知っていれば大丈夫だと思うな

【謙一】
これまた大規模なアプリだな

【栞々菜】
そりゃこの銘乃政権が支配する町の公式アプリですから!!
Kenichi
超納得だけどヤダ怖いその発想。

【秋都】
学園サイドのレゾンでやれることはざっくり並べて……

【秋都】
「学園のお知らせ」「町のお知らせ」「役所のお知らせ」「レゾンアドレスによるメール」「時間割、単位、点数・成績・出席の確認」「学園掲示板」「交通情報」「求人」「レゾンポイント照会」などなど

【謙一】
思った以上に色々便利ですね!!

【栞々菜】
どれも重要ですけど、特に「求人」は真理学園生にとっては超! 重要ですよインポータント!! お小遣い稼ぎです、所属してる委員会に合わせた優海町内の「困り事」を解決するんですよ、これで「RP(レゾンポイント)」が支払われて、各レゾンアカウントに貯蓄されて、それが優海町内の大半のサービスで電子マネーとして使えるってわけです!

【美甘】
優海町の交通機関……まぁバスとかタクシーとか。コレは特に「求人」において学外で活躍してる個人のアカウントには交通費の免除が付与されたりするんだ。そういう人は本当に無賃で乗車してるんだ

【栞々菜】
無賃じゃなくても無賃でも、アカウントコードをバスに送信して読み込ませたら勝手にRPで支払いが完了するので、超スムーズですよ! 井澤先輩もぜひ利用すべきです

【謙一】
お、おう……頑張る……

【志穂】
お前汗掻きすぎだろどんだけ耐性ねーんだよ

【謙一】
名前だけ知ってたQRコードの時代すら、もう終わってるんだなって……

【栞々菜】
井澤先輩でも苦手なものってあるんですねー。いや、先輩のこと全然知らないですけど

【秋都】
…………(癒やされるーぅ)
意図せず井澤謙一を精神攻撃して暇を潰しながら、バスに揺られること10分弱。
目的地に到着し、バスを降りる……。