「特変」結成編2-6「青春とは友情努力勝利である(7)」
あらすじ
「栞々菜が求めてきた青春は、この先にあるんです!!」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章5節その7。退部を宣告された栞々菜ちゃんに手を差し伸べたのは、他でもなく美甘ちゃん。真理学園において絶望的状況を破壊するのは、やはり特変破りということが分かってくる気がするバスケの話最終回。
↓物語開始↓

【謙一】
走りたくても、道を塞がれたってんなら、ぶっ壊しちまえばいいんだ――

【謙一】
――今から、そのやり方を、教えてやる
Kenichi
背後の女子たちへ、報われない三重へ、テキトウな言葉を投げる。
そして……特に準備もしてなかった本腰を入れて、新たな“壁”と向かい合う。

【監督】
……何の話だ! それはバスケ部と何ら関係が無い! そこの、部外者が勝手にマンツーマンをやり勝手に負け、勝手に負った罰ゲームだった! そんな瑣末な話は余所でやれ、これ以上練習の邪魔をするな!!」

【監督】
特変破りはもう終わっている!! その無関係な状態で我々の生活に支障を来すなら、権力者といえども訴えるには充分な内容だ。いっそ、ここで特変という銘乃翠待望の歴史に幕を下ろすか!!」
Kenichi
……朧荼が云っていたことを思い出す。
銘乃翠という人は、自由主義を掲げているようで、結局は徹底的な利己主義。こんな程度のいざこざなど、簡単に名目を置き去りにして白紙処理してしまうだろう。
Kenichi
だが、そんな俺にも説教来そうな展開に持って行く必要など微塵も無い。
そもそもコレは俺たちの闘いでもないしな。……てことは結局余計なアクシデントを引っ張ってきてて、俺後で呼び出されるんじゃ――

【沙綾】
リーダー脳内脱線しないでー

【謙一】
おっと危ねえ……えっと……取りあえず、無関係じゃないですよってことは云っときます

【謙一】
付け加えると、無関係でないことはついさっき貴方が貴方の言葉で証明してる筈なんですけどね、明石監督

【監督】
これ以上、貴様らと会話をする無価値な時間はバスケ部には必要無い!!!」

【謙一】
うわーぃ理不尽~
Kenichi
ま、どんなに権力者だろうと相手はガキ、コレくらい堂々と壁を張れる人の方がある意味信頼はできるのかもな。哲学を曲げず、現実に実践してきた、だからこそ実績を手に入れてきた……真理学園バスケ部は素晴らしい、そこに口を出すつもりはない。
Kenichi
が、責任は取ってもらう。その理由が、確かにあるのだから。

【謙一】
まず、三重栞々菜がどれだけのリスクを掛けたのかをまとめよう

【謙一】
彼女は、結局一人で俺たちに挑む羽目にはなったが、さっき叫んでたみたいに「声を掛けた」んだよ。この真理学園バスケ部の部員に、一緒にやろうと!

【美甘】
そうだよな?

【栞々菜】
は、はい――結局、皆、全然ヤル気になってくれなかったけど……

【女子】
いやだって、絶対勝てる気しなかったんだもん……!! 終わった今もやっぱ勝てねえだろって思ってるし!!

【謙一】
三重栞々菜は種目にバスケを選んだ。コレは彼女にとって、青春の土俵だからだ。すなわち、この真理学園バスケ部という場所そのもので闘ったに等しい。つまり監督のお怒りはご尤もなんですよ。もし俺が監督の立場でも全力で怒ったでしょう――何勝手にバスケで闘ってんだ、って

【栞々菜】
栞々菜、そんな、凄いヤバいことやったんですか……?

【沙綾】
組織っていうのは基本連帯責任なのよ。貴方はホント、もうちょっと考えて行動しなさい。あと周りの部員さんはちゃんとこのバカの手綱握っておきなさいよね

【謙一】
彼女の責任をまとめるとこんな感じですが、ここで更に監督の主張をまとめておきましょう。貴方はさっきこう云った――

【監督】
貴様は、このバスケ部の公式の許しを得ることなく、しかも我々の時間を無断で割いて、挙げ句の果てにバスケットボールという種目で敗北した」

【監督】
B等部女子の身分でこのバスケ部の調和を乱す烏滸がましさ、更にバスケ部の誉れ高さに泥を塗った行い、もはや見過ごすにも苦しい」

【監督】
故に、二度とこのバスケ部に足を踏み入れるな弱小者!! 貴様はこの最強のバスケ部に、全く不要だ!!」

【謙一】
――この意見に、訂正は無いですね? 監督は自信を持ってこの言葉を、抱けますね

【監督】
誰の許可を取って貴様らはそこに立ち続けている――!! 私が訂正することなど一切何も無い!! 無駄口を摘みさっさと消えろ!!」

【謙一】
――ですって、学園長?

【監督】
ッ――!? 何!?」

【翠】
こんにちは~明石先生~相変わらずコワモテね~☀
監督が、入り口へ振り向いた。
そこには呆然としていた男子陣に紛れていた裸エプロンが。

【奏】
あっれ翠さんいつの間に!? てかどうして!?

【翠】
何かヤバいことになってるって譜已ちゃんからメール来てね~

【譜已】
思わずメールしちゃったけど、よくよく考えたら結末思いっきり左右させちゃう人呼んじゃったごめんなさい……

【謙一】
寧ろファインプレーだぜ譜已ちゃん、後でご褒美あげる👍

【翠】
因みに謙一くん、後で学園長室ね~床に穴開けてくれた分のご褒美あげる👎
謙一は膝を着き項垂れた。
沙綾と志穂が叩いて蹴って無理矢理立たせる。

【謙一】
明石監督が話を聴いてくれなさげなので、学園長に話そうと思います。軽く状況を説明しますね

【謙一】
三重栞々菜は意図せずバスケ部の看板背負った形で特変破りしてきました。負けたら罰ゲームが発生するマンツーマンで闘いました。三重は負けました。監督がバスケ部の面汚しってことで彼女を強制退部に処しました。罰ゲームまだ終わってません

【謙一】
で、これから特変側がどれだけのリスクを掛けて三重栞々菜に附き合ってあげたかを説明します。端的に云っちゃえば手加減ってことになるんでしょうけど

【謙一】
今回のマンツーマン、こっちは5人参加すれば99%勝てたんですよ。4人がバスケットのリングに乗って穴塞いじゃえば三重はシュートを絶対決められない。その間にあと1人が三重をボコボコに殴って縛ってでもすれば、あとは優雅にボール拾って、1人バスケットから退いてもらってシュート決めればOKです

【奏】
汚え!!?

【謙一】
ぶっちゃけ衒火情を出せば、これこそもっと早く確実に終わってたでしょう。アイツなら多分三重の両脚を折ってからボール拾いますから。因みにコレは奏でも、美甘でもとれた戦術です

【謙一】
だが現実にはそうせず、たった一人……美甘が、“機能”を使うこともせずに、殆ど正々堂々、三重栞々菜と闘いました。まぁそれでも諸々の要素で美甘の方が有利だったんでしょうが……2回ぐらいこっちは負けかけましたからね。つまりは、勝手ながらこっちも相当なリスクをかけたわけですよ。特変側は勝っても何も手に入らないというのに

【謙一】
ってことで俺たちは、元々三重栞々菜が背負っていたリスクに、俺たちが背負ったリスクを相乗したものを、敗北者側に科すつもりでいるわけです

【翠】
うん、至極真っ当な論理だと思うわ~
Kenichi
自分で云っといてなんだけど、果たしてそうだろうか?
この人に肯定されると逆に疑わしく思えてくる……が、同時にこの人に肯定されるということは、それが真理学園における真実と化してしまう。
Kenichi
ソレは、たとえ実績ある真理学園バスケ部であっても、逃げられやしない。

【謙一】
さあ、罰ゲームは一体どうしてくれましょうかね……んーそうだなー……

【奏】
超わざとらしいケンパイ……何かどうせ思いついてるんでしょーその顔

【謙一】
多分だけど志穂も思いついてるよなその顔

【志穂】
どうせおめーと考えてること同じなんだろうけど、どう見ても美甘がシックリきてないから云うの躊躇われる

【美甘】
えっと、ノリに合わせるからお願い二人とも……

【志穂】
じゃあシャキッと云っちゃうけど、お前ら負けたからバスケ部解体なー
……………………。
……………………。
……………………。

【noname】
【バスケ部】「「「!?!?!?」」」

【翠】
ま~それくらいは常識よね~☀

【監督】
巫山戯るなあぁああああ!!! 何の因果があって我ら強豪のバスケ部が、そこの弱小者の為だけに、解体されねばならない!! 銘乃学園長という後ろ盾に関わらず、コレは極めて許されざる横暴であり侮辱だ!!」

【監督】
銘乃学園長!! 貴方の言動も、この愚学生たちのソレと共に撤回していただきたい!! 他の弱小の部ならばまだしも、我々には実績がある!! それは、貴方からも確かに評価いただいているモノであり、すなわち真理学園の誉れであろう!! それを、その場の感情のままに愚弄する言動は、この明石や籠球男子たちに慎み謝罪すべきだ!!」

【翠】
あら、確かに頑張ってるわね~って云ったことはあるかもだけど、私的にはぶっちゃけどうでもいいのよね~

【監督】
!?!?」

【翠】
そんなことよりも、特変の方がよっぽど大事。寧ろ、貴方が特変の言葉に対して耳を傾けないという事態の方が大事

【翠】
謙一くんは年功序列を無駄に気にしてるところあるから、ソレが無くならないうちは……この私が、責任をもって先生がたを取り締まらないとね~……(←先生に視線おくる)

【薫】
…………(←視線受け取る)

【薫】
って何で私が受け取ってんの!? 私結構貴方に服従してますよね!? こき使われてますよね!!?

【謙一】
ていうか、因果関係ならありますよ、これ云うの2回目ですけど、貴方がソレを云っている

【謙一】
「バスケ部の誉れ高さに泥を塗った行い」でしたっけ。つまり貴方は三重栞々菜がバスケ部部員であり、この特変破りが構造的には特変vsバスケ部になってると、理解していた筈だ。俺たち特変もそう解釈していたのだから、コレはもう解釈ではなく事実だ。コレは、三重栞々菜を代表としたバスケ部と堀田美甘を代表とした特変の闘い!!

【謙一】
わざわざ権力者の俺たちと銘乃翠学園長がその権力とこれからの学園ライフを全部失うリスクを懸けて闘って、ソレで勝ったんだ。ぶっちゃけさ、俺たちの心境的には自然と、こう思うわけだ。バスケ部には俺たちが懸けた分の支払いを負う義務があるだろ――って

【謙一】
公式の特変破りにそんなルールは載ってない……奇襲型ならまだしもな。しかし、バスケ部の土俵――マンツーマンでさっき述べた相乗のリスクをプラスして勝負したことにより、俺たちが貴方がたに酬われるべき「罰ゲーム」は、相応の威力を持つことになるだろ……?

【謙一】
銘乃学園長がどういう人間かは貴方の方が知っているんじゃないですか、明石監督。この人は絶対、支払われないことを良しとする人じゃないことを

【監督】
貴様らと闘ったのは部外者だ!! 幾らこのバスケ部の練習場所、練習時間の合間に行われた、バスケというルールで開かれた特変破りであったとしても、部外者の勝手な行為の為に無関係の我々が責任を負うのは、筋から外れているだろう!!」

【沙綾】
この人、部外者部外者云い過ぎじゃない? 部外者じゃないのにね。少なくとも――

【沙綾】
貴方が「三重栞々菜は退部だ」と発言した時点までは、三重栞々菜というこの弱小者さんはこのバスケ部の部員でしょー? コレ部外者って云うんだったらそこで不細工顔かましてる籠球男子たちって何なのよって感じになるわよねー

【沙綾】
それとも、特変破りが始まる前に既に書類を処理片付けしちゃったのかしら? それはそれで大問題よね~部を管理する顧問として、銘乃翠学園長から戴いている仕事を全うしてないってことになるんだから。ねー

【翠】
ね~☀
Kenichi
さっき「バスケ部どうでもいい」発言してたくせに……

【謙一】
ま、そういうわけで明石監督の言葉によって三重栞々菜がバスケ部と連関した形で特変破りに挑戦してしまい、敗れた為に受ける罰ゲームは、連関しているバスケ部に及んでも仕方無かろうという結論へと至る

【謙一】
云っておきますが、発言の撤回は止めていただきたい。何故なら俺は一度、確認したからだ。貴方の意見に訂正があるかどうかを。貴方の意思表示の確定は既に済んでいる

【謙一】
このバスケ部に、志穂が云ったような罰ゲーム――いやこれ最早ゲームじゃねえな、ただの罰だ、明石監督の誉れを徹底的に潰しにかかる罰を強いる準備が、いま完成したわけだ

【男子】
「「「えぇえええええ!?!?」」」

【栞々菜】
な……ななな……

【奏】
や、やべえぇえええええ何か893っぽいよこの人たち……!!!

【美甘】
うおい!!? コレでいいの!? 何かウチの願ってた方向性とちょっと変わってきたような!?

【志穂】
おめーの意思はそんな考慮に入れてねーな。その辺はハゲの仕事だ

【謙一】
分かってるよ。あとハゲてねえ
Kenichi
取りあえず、爆弾の準備は完了……っと。
じゃあ、後は好き放題暴れてもらいましょうかね――

【謙一】
さて、ここで俺は一つ、提案をしましょう。明石監督、貴方の意思でも、貴方のご自慢の籠球男子の意思でもいい。これを受けるかどうか、決めていただきたい

【謙一】
チャンスをあげます。誰よりも部員の……少なくとも男子部員の実力を客観的に理解されている明石監督に一つ仮定に附き合っていただきたいのですが……もし、今回の三重栞々菜の特変破り、堀田美甘と相手していたのが彼女でなく、A等部男子男子バスケ部員であったなら、どうでしたか? 人数については問いません。

【監督】
なに? ……ふん。負けているわけがないだろう。確かに堀田美甘の実力はそこらの女子とは群違いだろう。しかし身長・脚力からして堀田美甘以上の、そうだな……清水を出しても、まずボールを獲得することは簡単にできる。ボールさえ持っていれば、負けはない」
Saya
この人、女子のことホントに見る気ないのねー。てか特変破りも全然見てなかったんでしょーね。
美甘、アレ全然本気出してなかったのに。三重さんにも監督にも悪いから今度は隠しとこー。
Kenichi
……沙綾が笑った。つまり美甘がフルパワーでやってなかった――三重の有り様を見極める為に合わせていたのに、何となく気付いてるんだろう。
それで隠してるってことは、もう俺が何を云おうとしてるのかも、大体分かっちゃってるのか。コワモテの監督よりよっぽど怖いよあの黒猫。

【謙一】
――じゃあ、ソレでもう1回特変破りをやりましょう

【監督】
なに――!?」

【謙一】
今度はしっかりチーム戦で、ちゃんとバスケやりましょう。そっちは真理学園バスケ部最強のチームで……俺たちは、B等部女子バスケ部で!!

【譜已】
え…………

【奏】
えぇえええええええええええええええええ――!!?

【男子】
と、特変破り!? いきなり!? 俺たちが!?

【男子】
しかも女子たちが、相手……? 何考えてるんだアイツら――!?
衝撃の提案に、監督も、男子たちも大きく動揺を表す。
無論、何も聴かされていない背後のB等部女子たちも盛大に動揺する。

【女子】
う……うそーーーん……

【女子】
私たちが、特変として……闘うってこと……!? 何でこんなことになってるの……!?

【女子】
栞々菜が退部になっちゃったと思ったら、いつの間にこんな、どうして……どうしてグルグル、展開が変わるの……!?

【美甘】
……ま、強いてそれに応えるなら、それが日常なんだよウチらは
美甘は――落ち着いていた。
信頼するクラスメイトが、信頼に応え、展開は堀田美甘が思い描いていた範囲へと落ち着いたから。
ここからは、自分のターンだと理解する。

【美甘】
そうだな、一応コレは特変破りなんだし、特変面子も入っておこう。ウチが女子チームに入る

【美甘】
別に問題はそんな無いと思うし――ウチは清水先輩には勝てないらしいから。男子相手じゃウチが混ざったところで形勢が変わるとは思えない

【謙一】
そうだな。個を極めることを至上とするこのバスケ部で、相手側最強の美甘が、バスケ部最強ではなさそうな清水先輩にパラメータで劣ってるってんだから。負ける確率ってそんな無いと思いますけど、どうします?

【謙一】
双方の合意、さらに学園長が居るとはいえ、コレは書類を通していない突発的なケース……すなわち奇襲制による特変破りと見なすべきです。しかしそれも当然特変破りであり、コレに勝ったなら当然バスケ部の解体を無かったことにもできるし、誉れあるバスケ部を侮辱しまくってる俺たちを黙らすこともできる

【謙一】
ただし、奇襲制の特変破りには「罰ゲーム」が科せられている。その意味は……お分かりでしょう

【謙一】
さて、如何ですか、受けますか?

【監督】
……ふん……何を考えているのかは知らないが――」

【監督】
これほどの侮辱を臆して返さずして、我らバスケ部の栄光は護れない!!」

【男子】
「「「やる感じだあぁああああああ……!!!」」」

【女子】
ちょ、嘘、待って待って何もかも準備が――

【美甘】
……さあ、道を塞いでた壁はぶっ壊れた

【美甘】
こっからは、今までみたいに、走れ……!!

【栞々菜】
――!!

【美甘】
三重が先頭を突っ走れ。あと3人、出て。特に三重の手綱とか握るの得意な人がいいんだけど

【栞々菜】
久々利先輩!!

【女子】
真っ先に呼ばれたぁぁぁ……確定だ、私今から男子選抜と真正面からぶつかるんだぁ……

【美甘】
一応先輩ならしっかりしてくれ……大丈夫、そんな心配しなくても、三重が何とかするから

【美甘】
ウチは、後方支援に回る。正直ディフェンスの経験は薄いから、あんまり攻められないで

【女子】
……あの、結構敗戦色、濃い気がするんですけど……何でそれでもヤル気に満ち溢れてるんですか、堀田先輩……?

【美甘】
逆に、何で負けを考えながら試合やらなきゃいけないんだ、ウチらは勝つために試合やるのに

【女子】
……!

【美甘】
三重は、折れかけてた三重はもう既に、ウチよりもヤル気になってるよ。何で三重はそんなに気合い充分なの?

【栞々菜】
……決まって、るじゃないですか……

【栞々菜】
コレ、ずっと求めてきたモノなんです!! 一世一代みたいな、そんな熱い状況で、皆と力を合わせて、強敵と闘う!! それで……勝つんです!!

【栞々菜】
きっと、凄いです!! 栞々菜が求めてきた青春は、この先にあるんです!!

【女子】
「「「…………」」」
――三重栞々菜を囲む、弱小と見なされた者たちの空気が確かに切り替わった。

【謙一】
うお……

【女子】
――栞々菜ちゃん、私も、やる!

【栞々菜】
……!! 度会ちゃん……!!

【女子】
久々利先輩ほどじゃないけど、栞々菜ちゃんには一所懸命に附いてきたもん……私も強いバスケ部の一員になりたくて、頑張ってきたもん……!!

【女子】
今、やらなきゃ、その夢は叶わないよね――!

【栞々菜】
……うん! 久々利先輩はちょっとコミュニケーションが合わない時もあるけど――度会ちゃんとは、ナイスコンビネーションな親友だから! 信じてる、一緒に最後まで走りきれるって!

【女子】
(微妙に重い……!!)

【女子】
(ていうか私の扱い!! 一応先輩やぞ!!)

【沙綾】
ちょっと私の大嫌いなスポ根展開になってきて限界が来たから、がっつり退室するわねー……結果だけ教えてー……

【奏】
ここにきてそんな理由で帰るとか、今日のサヤパイのクズっぷり後光差すレベルだよ……

【譜已】
ど、どうなるんだろ……!

【志穂】
……ま、ここまで空気を塗り固められちゃ、ドッチが勝つかは見るまでもねーんだけどな。だから沙綾も帰ったんだろうし。私も帰ろうかな

【謙一】
いやいや美甘の勇姿見ましょうよ最後まで……

【美甘】
……確かにウチらの個々の能力では、アイツらには及ばないかもしれない

【美甘】
だったら、勝利に食らい付くっていうなら、何でもやれ。具体的には――友情とやらを見せつけてやれ

【美甘】
アイツらは必ず、「個」を優先して攻めてくる。だったらウチらは、「個」で攻めるな

【美甘】
「2」の相手には1+1+1で上回れ、それだけを考えて全力で走れ、三重に繋げ! 相手と監督に考える暇を一切与えさせるな、もし迷ったらすぐに、ウチにボールを投げろ。何とかする

【美甘】
ポイントを獲るのは、三重だけだ。できないことを切り捨てて、確実に信頼できることだけに最速を追求しろ!

【女子】
「「「はい!!」」」

【監督】
ゲームは一般的なルールに従う! 10分間のピリオドを4回、インターバル及びハーフタイムも一般と同様とする!」

【男子】
……何だろ、この緊張感……

【監督】
清水!! 無駄口は――!?」

【男子】
足に回す!! サー!!

【監督】
叩き潰せ、誉れあるお前達……あの弱小どもを、完膚なきまでに!!」

【男子】
「「「…………」」」

【翠】
士気の差が雲泥よね~

【譜已】
……………………

【譜已】
……ねえ、お母さん

【翠】
試合、始まるわよ。譜已ちゃん

【譜已】
あ――うん、分かった……

【美甘】
刃を持て――!!

【noname】
【女子バスケ部】「「「ぶっ壊す――!!」」」

【謙一】
ちょ、ソレ俺らの決め台詞――ってか初めて客観的に見たけどカッコ悪!?

【翠】
謙一くん~、ホントに後で学園長室ね~
……。
…………。
……………………。
Stage: 一般棟 6F廊下

【謙一】
――ってことで勝ちました

【美玲】
すんんんんんんごい長かったぁ~話ぃぃ~……(泣)
週明け、謙一は週末めちゃ心配しながらマシュマロと戯れていたらしい鑓多美玲に、カフェスペースで週末の報告を済ませる。

【謙一】
朧荼と会話するの嫌なんで、美玲さんの方で説明しといてください

【美玲】
え!? いや、今の正直長い上に複雑すぎて全然覚えきれてないよ~~~(マジ泣)
Kenichi
朝からちっちゃいお姉さんをいじめて楽しんでる俺マジ歪んだリア充ですわ(思考放棄)。
因みに謙一の週末の疲労感は日曜を消費しても消し尽くせなかった。

【美玲】
でも……よく勝ったね~、後輩女子ちゃんたち。堀田さんが居たとはいっても、相手はあの全國的にも有名になってるチームなのに

【謙一】
コレ因みにですが、美甘が入れたポイントは僅か3ポイントです。どこからでも入るぞーってのを相手に見せつけて警戒させて、ディフェンス率を誘引する為のポイントです

【美玲】
ってことは……実質、ポイントを入れてたのは……

【謙一】
仲間に道を切り開いてもらって、前へ走り続けた三重です。美甘のポイントは総得点の1割にも満たないです

【謙一】
ま、流石に相手も強かったんで、辛勝でしたね。いざという時には美甘がパパッと投げてポイント荒稼ぎして調整してたでしょうから勝敗は全然心配してませんでしたが、まぁ一番それっぽい結果に落ち着いたんじゃないでしょうか

【美玲】
……それで、バスケ部って、結局どうなっちゃったの?

【美玲】
特変破りに完璧に負けたバスケ部は……井澤くんたちが掲示してた罰……バスケ部解体を、受け入れざるを得なくなったって流れなんだよね……?

【謙一】
いや、俺そんなこと掲示してないけど

【美玲】
……………………え?

【謙一】
俺や志穂が掲示したのは、三重と美甘の一騎打ちで発生した、バスケ部に対するマンツーマンの罰ゲーム内容だけ。その後で発生した奇襲型の特変破りの罰ゲームの内容については、一言も定めてませんよ

【美玲】
う、うわあぁああ……策士だぁああ詐欺師だあぁああ……(怯)
Kenichi
バスケ部として頑張ってきたのに、勝ってソレ壊しちゃ意味無いからな。
壊すべきものは別にある。それを壊せばいいだけのこと。
……ま、幾度もなく未経験者といわゆる弱小しかいない俺たちが態々不利に立つようなことをしてやった分に相応するようなものは一体何であろうか、それは誰に科してやろうか、そういう超楽しそうなことは……学園長に一任することにした。多分コレが一番楽しい結末だろうなと思ったから。
Kenichi
何となく学園長がやりそうな方向性は見えてるので、実績を築き上げてきた男子たちにはちょっと申し訳ない思いもあるが……負けた彼らは、不思議なことに三重たちの勝利を祝っていた。上層に居た筈の彼らにとっても、その世界は必ずしも満足のいくものじゃなかったらしい。
Kenichi
何だか、今回の特変破りもなかなかに不思議だったなぁ。何が一番不思議かって――
Stage: GAC 入り口前

【美甘】
おかしいな……何でウチはこんな所で朝を過ごしてるんだ……

【栞々菜】
なーに云ってるんですかー♪ 同じバスケ部じゃないですかー!

【美甘】
いや間違いなくウチはバスケ部じゃないんだけど……

【女子】
一緒にやりましょーよー! 私たち、チーム組んだら最強、ですよ! 敵無しです!

【男子】
……ま、確かに俺たちを正式なルールで倒したんだから、女子の中じゃ最強だわな……

【男子】
マジメに堀田先輩が居ると、助かる気がするんだよな……

【男子】
いや、それでも特変だぞ堀田は……絶対俺たちが面倒事に巻き込まれる率の方が高い……

【栞々菜】
そんなの、ぜーんぶぶっ潰しちゃえばいーんですよ清水先輩! えへへ、美甘先輩がー♪ 教えてくれたからー♪
Mikan
教えたのは謙一な気がするんだけどなぁ……
いや、そんなことはいいからまずはこの謎の結末を何とかしないと――何でウチがこんな、囲まれてるの!? 主に女子に!?


【女子】
即部長の座を持ってかれそうで困るし特変だし、でも居たら何でもできる気がするし……何この究極の二択

【女子】
バスケ部じゃなくてもいいから、一緒にいてください! 私も栞々菜ちゃんも、うれしい、ですから……!

【栞々菜】
栞々菜、美甘先輩みたいに、強くて勇ましくて、カッコいい女子になりたいですー! また新しい目標、できちゃいました♪

【美甘】
いや、ウチそんな強くないし、勇気もっとないし、男子でもないのにカッコいいつもりも――

【女子】
「「「美甘せんぱーい💕!!」」」

【美甘】
…………

【美甘】
何、この、逃げられない率の高さ……(泣)

【男子】
ってオイ、結構時間ヤベえぞ! 遅刻になっちまう!

【男子】
堀田ァ、権力あるんだから何とかしてくれよぉ!!

【栞々菜】
いや、ここは青春っぽく走りましょう!! 校門が閉まる前にッ!! GO――!!

【美甘】
チョッ――栞々菜、ウチの手持ったまま走らないで!?

【栞々菜】
一緒に、走ってくださーーい!!

【美甘】
……ダメだ……折れそうだ……
Mikan
た、助けて……助けて……

【美甘】
助けて謙一いぃいいいいいいい……――!?!?