「特変」結成編2-6「青春とは友情努力勝利である(5)」
あらすじ
「特変の「仲間」を司るお前は、三重に、どんな答えを出す――?」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章6節その5。バスケ対決後半戦、特攻する栞々菜ちゃんを相手に、れっきとした特変・堀田美甘ちゃんが逆襲開始します!
↓物語開始↓

【栞々菜】
――え?
呆気を表す声が漏れた。

【noname】
【女子】「「「…………」」」

【noname】
【男子】「「「…………」」」
誰一人として、喜ぶ者が居ない。

【noname】
【奏&譜已】「「…………」」

【noname】
【志穂&沙綾】「「…………」」
誰一人として、落ち込む者も居ない。

【栞々菜】
な――何、コレ――
場は、停止していた。
あたかもこのゲーム自体も、三重栞々菜の決定的な一撃が無視されたかのように……
停止していたかのように。

【薫】
……あ、ごめん……何か、審判の仕事忘れてた……

【薫】
えっと――

【薫】
ファウル!!!
そう――

【栞々菜】
ッ……!!?
停止していた。
三重栞々菜のシュート以前に、このゲームは一時停止をしていたのである。
Kokona
そんな、どうして!!?
このマンツーマンはよっぽどのことが無い限り、ゲームは止まらないのに!!?
Kokona
い、一体、一体何が起きて――

【栞々菜】
――!?
栞々菜は――理解した。
どうして、ゲームが中断されたかを。
誰が「ファール」を起こしたかも。

【謙一】
……………………
ただ観戦しに来ただけの筈の井澤謙一の顔が何だか大変なことになっていた。
取りあえずめり込んでいた。

【譜已】
け、謙一……先輩……?

【謙一】
……………………

【志穂】
あー……うん、まぁ……

【志穂】
ファインプレーなんじゃね? うん

【沙綾】
…………(←パシャリ)

【奏】
サヤパイ!? そんなの撮ったら絶対後で殺されるって!! この無言絶対怒ってるって下手に近付いたら巻き込まれるって!!

【栞々菜】
ま……まさか……
栞々菜は、振り向いた。
途中から、自身を追うことを止めていた人物を。

【美甘】
ふぅ……
堀田美甘の、左脚のスポーツシューズが無くなっていた。

【栞々菜】
まさか、先輩……

【栞々菜】
わざと井澤先輩に靴を命中させて、ペナルティを!!?

【栞々菜】
真理学園バスケ部名物「マンツーマン」。今日は204会場を貸し切ってますので、コートは2つ、バスケットは計4つ。これらのバスケットのいずれかにシュートしてポイントを獲得した方の勝利です。会場をどう使っても構いませんし、一部例外事項もあるけどファールもし放題です、ゲームは止まりません。相手を押し倒してもいい、怪我させてもいい、意地でもボールを獲って、シュートを決める……時間制限は無しで、どちらかがシュートを決めるまでエンドレス。因みにバスケ部では敗者に罰ゲームを科すのが普通ですけど、どうします?

【美甘】
後で決めればいいんじゃないか? そうだ、ファールの話なんだけど、例えば対戦者以外を倒しちゃったりするのは?

【栞々菜】
流石にダメです、ペナルティで相手にボール所有権が移ります。ただ、この中央に戻ってやり直しになるぐらいですね

【美甘】
聴いておいて、正解だった、かな……
Kokona
このマンツーマンにおいて、対戦相手を怪我させることは実質違反とはならない……けど、何でもやっていいわけじゃない。
相手以外の、例えば観客に危険が及んだ時には、ゲームを一時中止して混乱を解除してから再開する……堀田先輩は、私に追いつけないと見極めて、私にポイントが入る前にゲームを一時中止して状況をリセットしたんだ……!!
Kokona
そんな……こんな、こと――

【栞々菜】
卑怯、過ぎる……

【美甘】
……ルールに従ったやり方だろ。といっても……ルールをこうやって使う奴はきっと悪者で――事実ウチらは特変という悪者だ

【美甘】
ウチは、特変として来ている。勝たなきゃいけないんだ。マンツーマンの達人相手に、初心者がなりふり構っていられない

【美甘】
三重栞々菜、特変は……勝てない試合はやらないんだよ

【栞々菜】
――!

【美甘】
勝てると思うから、この試合をやってる。もしお前と同じ目線でやっていたら、お前でいうA等部男子バスケ部を相手にするかのような……そんな感覚かな。それは無謀だ。だったら、謀ればいい

【美甘】
勝てない試合をやらなきゃいけないなら、勝てる試合に変換してしまえばいい。だから、ウチは負けないよ

【美甘】
行き先を矯正してくれる「仲間」を持たずに、独りで闘いを挑んでしまった時点で、お前の負けは……確定してる

【美甘】
特変破りだけじゃない。この先、そんなお前に、お前が望んだ勝利は降りてこない

【栞々菜】
う……うる、さい……

【栞々菜】
うるさいうるさいうるさい、ゲーム再開ですッ!! 無駄口は、全部足に回して、走る!! ソレだけです!!

【栞々菜】
勝利は降りてくるもんじゃないです!! 獲得するもの!! 自分から、勝ちに行くから勝つんです!!

【栞々菜】
ここで勝って、皆と一緒に、栞々菜が欲しかった青春を、今度こそ取り戻すんです!!

【栞々菜】
幸せに、なるんです――!!

【薫】
ッ――ゲーム再開!!
三重栞々菜が、疾走する。
相変わらずの真っ直ぐなドリブル、一気にボールがバスケット直下へ――

【栞々菜】
え――
――が、いざダンクの為の跳躍へ入ろうという時、栞々菜は自分の手にボールが無いことに気付く。
同時、振り返り、地を蹴る!!

【美甘】
ッ……!! 流石、フットワークが軽くて、強い!!

【栞々菜】
まさか、奪われるなんて――!!
Kokona
全然、気付かなかった……取りに来る、気配が!
どうして、分からなかったの……獲られたの――いや、こんなの考えてる暇は無い!!
一刻も早く、取り返さないと!!

【謙一】
――何でその青春を取り返す戦いに仲間が入ってないんだろうな

【女子】
ッ……!!

【謙一】
皆と勝ちに行くから、楽しいんだろ? 要は三重の欲しいモノってソレなんだろ? だったら……

【謙一】
アイツ独りでやってちゃ、意味無いんじゃねえのか?

【沙綾】
そういう思想的なお話には興味無いけど、実際今の美甘の奪取だって、仮に三重さんが気付かなかったとしても周りに彼女の走りを支えるディフェンスが立ってれば、多少は防げたでしょうにね

【noname】
【女子】「「「…………」」」

【男子】
走れ三重えぇええええ!!!

【男子】
いける、追いつけるぞ!! 負けんな特変ぶっ飛ばせーーー!!

【奏】
いけーーーミカパイ!!! ダンク!! スラムダンク!! 譜已ちゃんスラムダンクって何だっけ!?

【譜已】
え、ええ!!? えっと……ごめん、私、詳しくない……

【志穂】
……美甘、良識人面してる割には、結構エグい真似すんじゃん

【謙一】
何か、思うことがあったのかもしれないな
Kenichi
三重栞々菜に、希望が無い――
Kenichi
アイツの目が変わったのは、それを理解してからだ。俺に、特変破りは自分が出る、とか提案してきた時からだ。
特変の「仲間」を司るお前は、三重に、どんな答えを出す――?

【栞々菜】
ッ――負けない……負けない……!!
Kokona
走れ、もっと走れ……!!
ここで諦めたら、中途半端で止まったら、パパとママの願いは叶わない!!

【栞々菜】
あと……もう、少しいぃいいい――!!!
Kokona
幸せになれなかった二人の分まで、栞々菜は、幸せになるんだ……!!

【栞々菜】
うおおぉおおあぁああああああああああ――!!!!
第一コートのバスケット直下――跳躍は、同時だった。

【女子】
――!! 間に合った!!

【女子】
……栞々菜あぁあああああ!! 護れえぇええええ……!!

【男子】
【女子】「「「いっけえぇええええええ!!!」」」
三重栞々菜は、堀田美甘に追い付いた。
身長差があっても、堀田美甘のシュートがバスケットのリングを通るよりも先に、その進路に手を入れるのが間に合う可能性は充分にあった。
…………。
事実、間に合った。

【栞々菜】
――――
が――三重栞々菜は、絶句した。

【美甘】
…………
同時に、このバスケットへ向かい跳躍した筈の堀田美甘の身体が――
反対側を向いていたからである。
Kokona
ま――
まさか――

【noname】
【観客】「「「ロングシュート!!?」」」

【美甘】
――トラァアッ!!
…………。
…………。
…………。
静寂。
誰もが、呼吸すら忘れ、ただ目が遙か上をゆっくりと動くボールを追う。

【栞々菜】
――――
着地した三重栞々菜もまた、追うことを忘れ……目を遣った。
静かに、綺麗に落下していくボールを……。
その時が来る、数秒前。
彼女は不思議と、理解してしまった。
Kokona
――負けた――
すぽっ。
――ドンッ――