「特変」結成編2-6「青春とは友情努力勝利である(4)」
あらすじ
「つまり、マンツーマンのやり方を体得してるという意味では……三重栞々菜はこのバスケ部の中で、強敵に値する……!」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章6節その4。栞々菜ちゃんと美甘ちゃんの一騎打ち・バスケ特変破りがスタート! 超特攻型の栞々菜ちゃんからボールを奪うことができるのか!?
↓物語開始↓

【謙一】
どうも、B等部の女子バスケ部の皆さん
特変面子は観客席代わりの端っこへ寄った。
謙一は角の隅っこで静かに集まっていた女子チームにナチュラルに紛れた。

【女子】
ひっ……!?

【謙一】
別に何かするつもりもないさ、俺は朧荼みたいなロリコン盗撮眼鏡じゃない
Kenichi
いや、アイツは確かワールドワイドとか云ってたっけ……甚だどうでもいいな。

【謙一】
特変破りに関わっていないというなら、何か攻撃を仕掛ける理由も無いし、権利も無いだろう

【謙一】
ただ……今回の特変破り、必ずしも三重独りで勝手に決めた、と片付けるのは正しい気がしなくてね。もしかして……君らも誘われてはいたんじゃないか?

【女子】
ど……どうして……!?

【謙一】
三重は話によれば「友情・努力・勝利」をモットーとしてるんだろ? おまけに種目はバスケだ。どうせやるなら皆で力を合わせて闘いたいって思考するんじゃないかとな

【謙一】
今来て初めて知ったことだけど、部活中の部活に使ってた会場で特変破りをやる……つまり他のバスケ部の面子、そして監督の目にも入る場所で女子バスケ部の力をアピールする。このことからも、三重がヒエラルキーの破壊を望んでいるのは明らかだ

【謙一】
……その不満は、君らにもあったんじゃないのか? 数の力が勝率に直結するとは云わないが、どうして三重に力を貸さない?

【女子】
それ、は……

【女子】
何よ、知ったような口を――私たちが今まで、どれだけ頑張ってきたかも知らないで……!

【謙一】
えっと、君は確か……久々利だったっけ。B等部女子バスケ部長の

【女子】
頑張ってきたわ。思い返しても、よく耐えてきたなっていう……恐ろしい訓練を、沢山……だけど……

【女子】
どれだけやっても、敵わない……男子には、勝てないのよ……! 先輩たちに勝てなきゃ、私たちは大会にも出れない……何にも、成果は生まれない……!

【謙一】
大会に出れない……?

【沙綾】
確か、バスケ部の中で大会に出してもらってるのはA等部男子だけよね、監督が自信を持って送り出せる彼らだけ。それ以外のチームを出して予選負けとかしてバスケ部のラベルを汚されるの嫌なんでしょ

【謙一】
それはまた、随分と誇りに従順な人だな……
Kenichi
つまり、どれだけ友情を磨き、努力を重ねたとしても、勝利する抑もの舞台が降りてこない。与えるべき人が与えない。

【監督】
…………」

【謙一】
少なくとも現代社会では身体的な男女差を考慮して、バスケ含め大半のスポーツ競技は男女で分けてるだろ。なのにこの学園では、あの人は男女差を無視してるのか

【奏】
この学園ではそう珍しくもないけどねー。強い奴は強いし、弱い奴は弱い、それでも皆何だかんだでよく育つ、それが真理学園だからねー

【譜已】
校風として、M教の平等主義も含まれてるかも……

【沙綾】
M教の平等主張はなんちゃって過ぎるでしょ、MESSIAHさん云ってること滅茶苦茶よ?
Kenichi
……まぁ、俺たちはこの特変破りに参加しない以上、喋ることくらいしかできない。
後は、お前に任せたぜ。何を考えているのかは聴いてないけど――

【謙一】
好きにやってみな、美甘
…………。

【美甘】
三重栞々菜、一つ、分からないことがあったんだ

【栞々菜】
……何で、しょうか。堀田先輩

【美甘】
どうして、今回特変破りに踏み切ったんだ。流石に不利だってことは、分かってたよな?

【美甘】
それでも、今このタイミングでやらなければいけない、そういうような理由があったんじゃないのか?

【栞々菜】
そんなこと、訊いて何になるんですか。堀田先輩には……特変には、何も関係無い筈です

【美甘】
……そうかもしれない。いや、特変にとっては全くその通りなんだと思う。だからコレは、単純にウチの興味関心なんだ

【美甘】
お前はここで勝って……どうなるつもりだ?

【栞々菜】
――無駄口は全て、足に回せ

【美甘】
……!
深呼吸。
三重栞々菜の周りを漂う空気が変色した感覚を、美甘は受けた。

【栞々菜】
それが、監督の教えです
気付けば審判――皆崎薫が二人の間に立つようにして、ホイッスルを手に持つ。

【薫】
何で私がこんなことを――えっと、では、これから公式の特変破りを開幕します。挑戦者は、三重栞々菜。それに相対するのは、堀田美甘……お互い一人だけってことでいいのね?

【薫】
勝負方法は、バスケットボール……だけど、正直申請用紙の内容見ただけじゃ分からないんだけど。バスケって集団スポーツでしょ? 三重さん、再確認の意味も込めて解説お願い

【栞々菜】
真理学園バスケ部名物「マンツーマン」。今日は204会場を貸し切ってますので、コートは2つ分、バスケットは計4つ。これらのバスケットのいずれかにシュートしてポイントを獲得した方の勝利です。会場をどう使っても構いませんし、一部例外事項もあるけどファールもし放題です、ゲームは止まりません。相手を押し倒してもいい、怪我させてもいい、意地でもボールを獲って、シュートを決める……時間制限は無しで、どちらかがシュートを決めるまでエンドレス。因みにバスケ部では敗者に罰ゲームを科すのが普通ですけど、どうします?

【美甘】
後で決めればいいんじゃないか? そうだ、ファールの話なんだけど、例えば対戦者以外を倒しちゃったりするのは?

【栞々菜】
流石にダメです、ペナルティで相手にボール所有権が移ります。ただ、この中央に戻ってやり直しになるぐらいですね

【薫】
ていうか噂には聞いてた「マンツーマン」、ホントにあったんか……明石監督、絶対一緒に仕事したくないわー少なくともバスケ部担当したくねえわー……

【謙一】
君らも、その名物は体験済みなわけ?

【女子】
「「「…………」」」

【謙一】
どうした。ホントどうした

【沙綾】
かーくんに聴いた話じゃ、負けると罰ゲーム……っていうか拷問が待ってるわけで、それを毎日やってるんだから、B等部女子ちゃんたちは毎日受けてるようなもんよね

【謙一】
拷問て。これもう教育委員会呼ぼうぜホントに

【譜已】
これまで何度も、呼ぼうとした先生がいますけど……そういう行為は真理学園の職員室では「謀反」って呼ばれてます……
Kenichi
もうヤダこの学園怖い渦巻きすぎ!!

【栞々菜】
……先輩たちの何倍も、栞々菜は、栞々菜たちは、苦しみを耐えてきたんです。諦めず、頑張ってきたんです

【栞々菜】
その反動は……全部この場で結果にしてみせる!!

【美甘】
…………
Mikan
栞々菜たち……か。

【薫】
んじゃ、さっさと特変負けちまえー……始めッ!!
ぴーーーーーーー。
特変破り、開幕!!

【栞々菜】
はあぁああああああああ!!!
審判皆崎薫によって真上に上げられたボールに、三重栞々菜が「食らい付く」!!

【謙一】
何今のジャンプの仕方!! 虎みたいだったんだけど!

【男子】
流石三重だぜ……相手が特変だろうと構わず、俺たちとやってるみたいに何でもかぶりつく!

【男子】
マンツーマンで一番激しい動きしてんのは、アイツだからなぁ……
Kenichi
つまり、マンツーマンのやり方を体得してるという意味では……
三重栞々菜はこのバスケ部の中で、強敵に値する……!
空中でボールを獲得した、三重栞々菜が着地と同時に近くのバスケットへと駆ける!
跳躍の気合いを一切削がない「勢い」あるボール運び。ブレの無いドリブルで、バスケットの目前へ……

【美甘】
チッ……
堀田美甘が後を追うが……
栞々菜のシュートを阻止する時間が無いことは、誰の目から見ても明らかだった。

【奏】
ちょ――!?
So
いきなりゲーム終了!? いきなりゲームオーバー!?

【譜已】
あわわわ……
Fui
美甘先輩――!!
は、早く何とかしないと……!?
三重栞々菜が、跳ぶ。

【栞々菜】
とらあぁああああああああ!!!
見事なまでのランニングシュート――否、

【男子】
アイツは、監督は認めてないけど……男子の中でも騒然させるスキルを持ってる

【男子】
アレができることだ――!!

【謙一】
まさか、届くのか……!?
Kenichi
ダンクが!?
圧倒的な勢いで、決着――

【美甘】
跳ぶじゃんか、後輩……!!
――させるほど、特変は甘くない相手。
ダンクが炸裂するその一歩手前の刻。
三重栞々菜の真横に、腕が出現した。

【栞々菜】
ッ!?
バスケットへ叩きつけられる筈だったボールは、堀田美甘の肘によって三重栞々菜の手を離れ弾き返っていった。

【女子】
ッ――惜しい……!!

【謙一】
…………
第二コートから、第一コートへボールが転がっていく……
これくらいの残念は、三重栞々菜にとって最早些細であり無価値。

【栞々菜】
……!!
意識する必要も無く、向けるべきはただ一つ、ボールを獲得することである。
バスケットから離れ着地し、地を蹴り上げ前のめりになりながらも真っ直ぐボールへ全力疾走!!

【奏】
ミカパイ!!

【美甘】
分かってるよ……!
リングに全体重をかけたかと思えば、身体を持ち上げ手をリングから離し、宙を回転し、バックボードに足を着けて蹴り飛ばす。
いや、飛ばしたのは寧ろ自らの身体であり、空中から三重栞々菜を追う!!

【沙綾】
何よあの動き、同じ人類?

【志穂】
アイツも大概バケモノだな

【謙一】
お前が云うな

【男子】
だけど、断然三重の方が有利だ! マンツーマンの慣れは小さくない差だ!!

【女子】
も……もしかしたら……久々利先輩……

【女子】
……栞々菜

【謙一】
――美甘
Kenichi
……もしかして、アイツ。
バスケ部の分析は正しい。
堀田美甘の動きも、マンツーマン初心者にしては極めて優秀であり、一般人ならビビってボールを追うことも止めるだろう。
が、相手は三重栞々菜であり、堀田美甘以上の勢いを纏って、一心不乱にボールへ向かう。そこに相手への恐怖心など一縷とて存在しない! それこそがマンツーマンにおいて必須にして最重要事項!
ボールを獲得し、自らの最も得意とする力によって、試合は確実に進み、堀田美甘を追い詰めていた!

【美甘】
…………
Mikan
流石に……
コレは部が悪いか。
故に――
堀田美甘は、追うのを止めた。

【奏】
え……?

【栞々菜】
友ッ情――

【譜已】
美甘、先輩……?

【栞々菜】
努力ぅぅ!!!

【薫】
ちょ――!?

【栞々菜】
しょおぉおおりいぉおおおおお!!!!
2つめの、ダンクが、第一コートのバスケットに炸裂した。
今度こそ炸裂した。
リングが、ボールを通したのである。

【栞々菜】
はぁ……はぁ……はぁ……
Kokona
か……
Kokona
勝った――
栞々菜が、勝ったんだ……!!
間違いなく、ポイントが入った。
当然である、三重栞々菜のシュートが、リングを通ったのだから、ポイントが入るのである。
栞々菜は、酸素を思いっきり補給しながら、フラフラしながら、観客たちの方へ――目を遣った。

【栞々菜】
――え?