「特変」結成編2-6「青春とは友情努力勝利である(1)」
あらすじ
「……栞々菜で、全部、終わらせます……特変を倒して、栞々菜の青春を取り戻す」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章6節その1。始まりました、特変破り章の後半! 続々新キャラ出てきますが、まずは元気いっぱいな部活少女・三重栞々菜ちゃんのお話です。
↓物語開始↓
Kokona
青春とは?
Kokona
――青春とは、友情と努力と勝利です。
栞々菜が見聞きし、確信してきたその姿は、この少しばかりユニークな学園でも、ちゃんと見られます。例えば、この合唱祭だって、見た目は地味かもしれないけど、チーム一丸となって一位を競う……バスケと同じです、これもまた試合であり、熱を持った勝負。
Kokona
栞々菜は芸術のことは分からないけど、何となく、ここで勝ち取る勝利にだって、敗北にだって芸術が宿っているよう思います。当然負けたくなんかないけど……兎も角、栞々菜はこの合唱祭も、文化祭も体育祭も球技大会も、この行事豊かな学園のことが大好きだと思います。
Kokona
そんな学園が――

【謙一】
えっと、マイクは……入ってますね。じゃあ軽く説明を。まず俺たち特変についてを……

【謙一】
一応レゾン、だっけ、優海町のアプリで学園部から情報公開はされてるんで、知ってる人もいるとは思いますが――

【謙一】
――俺たちが、特変。システム上、真理学園において学園長と同等の権力を持つとされるクラスです

【謙一】
他と何が違うのか……それを説明しだすと長くなっていけないので割愛するとして、今必要とすべき情報は……

【謙一】
「特変破り」という概念です
Kokona
――ここ最近、変容してきました。
たった9人の、先輩たちによって。

【謙一】
道場破りをイメージしていただければ分かり易いかと思いますが、兎も角俺たちはこの合唱祭でも勝つ気でいます

【謙一】
皆さんに投票して貰うには、どうしたらいいか。どうやって1年の部で受賞するか……考えました

【謙一】
合唱祭を意識し始めてから、ずっと考えてきました。ライバル達とどう差別化を図るか……

【謙一】
そう、差別化。俺たちはコレを重要視しました
Kokona
あの人たちが合唱祭でやったことは、勝つための徹底的な戦略の実施。
合唱祭で勝つための歌ではなく、彼らを勝たせる為の雰囲気を作ることを徹底した……
Kokona
それは、およそ栞々菜が気に入っていたモノでは、無かった……。

【謙一】
皆さんが投票をする時、特に真剣に吟味する意思をお持ちの方は、たいてい比較検討をするでしょう

【謙一】
その為に必要なことは……そのクラスの発表が、しっかりと印象付いていること。光景が記憶されていることです

【謙一】
コレ無しに票を手に入れることは叶わない。たとえ合唱自体のクオリティが高くても、印象が無ければ得票は安定しない
Kokona
何を、喋ってるの……!
早く、歌ってくださいよ……! 此処はそういう舞台なんです、決して、喋る場所じゃないんです!!

【謙一】
云い換えれば、クオリティがたとえ他クラスに劣っていたとしても、印象が濃ければ、得票率を上げられる
Kokona
そんなのは、負けることへの言い訳みたいなものじゃないですか! 聞き苦しいですよ、負けるにしても清々しく負ければいいじゃないですか、特Bの先輩たちの、凄い合唱に、全力で食らい付くことが、先輩たちのやることで――!!

【謙一】
勿論クオリティも妥協はしたくないですし、ベストは尽くしましたが、それ以前の問題として――

【謙一】
俺たちの発表は、他とは違います
Kokona
そんなのは、合唱じゃ、ない!!

【謙一】
――刃を持て
Kokona
――ないのに。

【特変】
「「「ぶっ壊す!!」」」
Kokona
合唱祭が、ぶっ壊れた。

【キャロ】
1年の部、最優秀賞は~……

【キャロ】
特進選抜Aクラス、特変でーす!!
Kokona
皆、諦めた。
特変を前にして、諦めた。合唱祭を捨てた。
特変に合唱祭を奪われた。
Kokona
どんどん、奪われていく。
週一に一人なんてペースじゃない、栞々菜はもう、幾つも奪われた。
全て、奪われる。学園が……栞々菜が好いた青春の光景が、壊され、奪われていく――

【栞々菜】
そんなことは……させない
Kokona
たとえ、あの先輩たちがどれだけ強かったとしても。
栞々菜だって真っ直ぐ頑張ってきたモノがある。それで挑めば、勝機がある筈。特Bはそのことを教えてくれたんです。
Kokona
だから、皆がすべきは諦めることじゃない……特Bの意思を受け継いで、今度は栞々菜たちが闘うこと!
協力し、頑張って、彼らから学園を奪還すること!!
Kokona
青春を、勝ち取ることなんだから!!
…………。
…………。
…………。

【女子】
栞々菜……無茶だって、やめとけって

【女子】
あのバケモノ先輩たちに、B等部の私たちが敵う筈ないわよ……痛い目見るだけ

【女子】
第一、B等部の奴が挑戦するにしても……私たちなんかじゃ
Kokona
なんで……
Kokona
なんで、そんなこと云うの? 皆、頑張ってきたじゃん。そりゃ、確かに今苦しいかもしれないけど、皆で団結して一緒に頑張ってきたんだから、いつか絶対、栞々菜たちは勝てるんだよ?
Kokona
そんな最高の勝利まであと少しかもしれないのに……何で、そんなに……今まで見せたことないくらいに、諦めてるの――?

【栞々菜】
諦めたって……

【noname】
【女子】「「「…………」」」

【栞々菜】
諦めたって、一つもポイントは入らないんだよ!? 皆で、勝つって、先輩たちに勝ってみせるって約束し合ったじゃん……!!

【栞々菜】
勝たなきゃ!! その為に、勝負しなきゃ!!

【栞々菜】
大丈夫だよ、栞々菜たちにだって――

【女子】
――できるわけないじゃない!!
Kokona
……もう、ダメだ。

【女子】
私たちが、勝てるわけ、ないんだよ栞々菜……全部、夢物語……甘くて……辛いだけなんだよ……!

【女子】
……栞々菜は……楽観的で、いいわよね……

【女子】
…………
Kokona
時間が、無い。早く何とかしなきゃ。
栞々菜の。栞々菜たちの全てが奪われる前に――

【栞々菜】
…………
Kokona
たとえ栞々菜独りで、やることになってでも――
恐れちゃ、いけない。立ち向かっていかなきゃ。

【栞々菜】
臆病者……見せて、あげるよ栞々菜が……勝利の前にあるもの、友情と努力の前にあるもの……

【栞々菜】
勇気の力、見せてあげる――!!
Stage: 特変教室

【栞々菜】
――ということで特変破りを申請しました!!

【謙一】
何が、ということで、なんだ
Kenichi
今まで充分過ぎるくらいにフラグ立ってたけど……
三者面談期間最終日、いきなり波が来た。

【謙一】
……で、その用紙は、案の定――

【沙綾】
申請完了用紙、ねえ

【謙一】
またかよ、学園長……

【栞々菜】
……栞々菜で、全部、終わらせます……特変を倒して、栞々菜の青春を取り戻す

【栞々菜】
三重栞々菜です。明日の特別授業の後……丁度今くらいの時間ですが、12時半にGACの204会場でお待ちしています

【栞々菜】
……では
Kenichi
真っ直ぐ下げられた頭。
2秒後再び真っ直ぐ頭が戻り、三重は6Fを去って行った。

【謙一】
……見た感じ、B等部か
Kenichi
受け取ってしまった紙を眺める。
Kenichi
小松の時と同じだ。あと本日既に2度発生したやつとも。
正式な形による特変破りが成立することとなった場合、申請完了用紙なるものが双方に送られる。何で三重が持ってきたのかは知らないが、兎に角特変破りは成立したということだ。
Kenichi
……それは、本来あり得ないことなのだが。何故なら――

【謙一】
はい、このこと知ってた人ー
挙手ゼロ。

【乃乃】
学園長は嫌がらせのセンスが微妙ですね。こう同じ手ばかりを連続で使っていてはすぐ観客も飽きるというもの

【謙一】
はぁ~~~……
Kenichi
頭を抱えながら、何となく教室の側方掲示板にマグネットで貼っておいた用紙へと目を遣る。
特変制度(一部抜粋)
④特変破り
〇A等部およびB等部に所属する総ての学生は次に定める「特変破り」を行う権利を有する。 これは特変に対し勝負を挑むことであり、これに勝利すれば後述する権利を与えられる。
⑤特変破り手続き
〇特変破りは、基本的に実行側と特変側の双方の合意と、学園への手続きが原則必要である。 後者については学園の教員に申請するなどして受け取った「特変破り実行申請用紙」に必要事項を記入し学園に提出する。申請用紙に記入すべき項目は、参加者数、全参加者氏名、希望日時、希望場所、双方合意のルールである。参加者数に上限は設けない。日時や場所については希望の通りとなるよう学園が働きかける。
〇(以下追加項目)ちなみに特変破りは上記の手続きを介さずとも、つまり合意を作らずとも可能である。但しその「奇襲」に失敗した場合、特変が自由に決定する「罰ゲーム」を参加者全員が受ける。
⑥特変破り成功者の権利
〇特変破りに勝利した場合、参加者が参加者数を上限として学園側に「願いの実現」を申請することができる。願いの内容によっては申請者との合議や代案もあり得るが、申請された総ての願いの実現に学園は全力を尽くすこととする。

【謙一】
早速、制度が形骸化しつつあるぞ学園長……
Kenichi
奇襲制と違い、正式な形による特変破りには「双方合意」が必要となる。参加者数やその氏名、日時や場所、そして特変破りの内容を共有した上で俺たちがOKをして初めて、挑戦者は希望分野で俺たちに挑むことができる。これが本来の特変破り成立のルールなのだ。
Kenichi
だが、三重含めて、本日3度の特変破りにおいて、そもそも特変破りが申請されたこと自体を俺たちは誰も知らなかった。例外的に合意を取らずとも成立させられる特Bならまだしも、一般クラスの連中までもが殆ど奇襲制と同じメリットを引き継ぎながら俺たちと闘うことができる。コレは、正直可成り冷や汗モノだ。

【謙一】
今更だけど、虐げられてんのは俺たちも同じなんじゃねって

【凪】
それは甚だ云えてるわね

【譜已】
あはは……はぁ……
Kenichi
譜已ちゃんの苦笑が重すぎる。だけどそんなこと、他クラスが知るよしもない。美玲さんが云っていた通りだ、俺たちに味方は居ない。
Kenichi
……俺たちには、勝つしかない。少なくとも今現在の特変の状況では、そうやって返り討ちにして凌ぐしか、生活は守れない。

【奏】
ぶっちゃけいつ負けるか、ヒヤヒヤだよねー……

【凪】
あなた合宿で一人で全部片付けるとか云ってたじゃない

【奏】
それは、あの時までは奇襲制で武力行使ばっかだったから……それなら負けることもないけど、この前の合唱祭みたいなのはぶっつけ本番で逆転したじゃん。そんなのいちいち続けてたら、疲れちゃうよ……

【沙綾】
それは同意。申請の過程が今どうなってるのかはまだ分からないけど、学園長あたりが勝手にOK出してるんだとすれば、どのクラスの連中も実質的に特Bと同じよ。小松さんがやってきたみたいに、申請時点では特変に対して圧倒的な優勢を持つことができる

【沙綾】
いつ負けてもおかしくない状況、ってわけ。さあどうするのーリーダー(←音ゲーやりながら)

【謙一】
相変わらずの冷静な分析と危機感の無さだな。全くその通りなんだが……どうにかする手段もねえ。取りあえず目先に控えた、三重との特変破りを片付けるのに集中しよう

【美甘】
今度の内容は、何なんだ? 参加人数は?

【謙一】
…………

【謙一】
正直、これはどういう意味なんだろうと俺も理解不能なんだが、書いてることをそのまま読むぞ

【謙一】
種目は――バスケットボール、だ。そんでもって対戦相手は――

【謙一】
三重栞々菜……ただ一人だ