「特変」結成編2-1「ダメイド(2)」

あらすじ

「奇跡的に生まれ出た、完全自立型ライテドアンドロイド――光雨、と既に名付けられている」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章1節その3。秋山志穂ちゃんから突然持ち掛けられた、現代最新鋭携帯端末アルス所有のオファー。その後謙一くんの前に現れた、常識と科学界を刹那に転覆せしめる存在は……。

↓物語開始↓


AM9 15


Face_eita

【訓舘】

おや、秋山さんとバルコニーで話すのですか


Face_eita

【訓舘】

少し、文学の香りがしますね


Face_kenichi

【謙一】

どんな嗅覚してるんすかアンタ。別にそんな面白いことではないと思いますよ


Kenichi

 文学とかけ離れてそうな若者文化の中心・アルスのお話なわけだし。


Face_kenichi

【謙一】

すぐ終わる……かどうかは分からないですけど、ちょっとテキトウにやっててください


Face_so

【奏】

あ、それじゃサヤパイさっきの議論の続きやろーよ! アレ絶対許せない!!


Face_fui

【譜已】

え、えぇええええ……


Face_saya

【沙綾】

私議論してるつもりなかったんだけどねぇ


Face_eita

【訓舘】

ふふっ……こちらもまた、文学の香りが――


Kenichi

 相変わらず楽しそうな先生だった。



Stage: 特変教室リーフバルコニー



 そして謙一はガラス扉からバルコニーに出て、草のカーペットに迷わず腰を下ろす。
 相手が既にそうしていたからである。


Face_kenichi

【謙一】

いきなり長い話になりそうな空気だなぁ


Face_shiho

【志穂】

お前の返事次第だ


Face_kenichi

【謙一】

何、お前何か営業でもしてるわけ? 俺に無理矢理買わせようと?


Kenichi

 だとしたら客の前でこの圧倒的な優位を疑わない態度。絶対俺にアルスを持たせようとしている呼気。噂のブラックバイトかこいつがブラックなのか、どっちかだよな。


Face_shiho

【志穂】

まぁ割と間違ってはない


Face_shiho

【志穂】

お前がアルスを持てば、私には利益が見込める。私だけじゃなく、特変そのものに


Face_kenichi

【謙一】

つまり俺が利益あるかどうかってのが問題だな――ん?


Face_kenichi

【謙一】

特変にも利益がある? どういうことだ?


Face_shiho

【志穂】

理由はまぁ複数あるが、まず常識的に考えろ。この社会の常識だ


Face_shiho

【志穂】

あり得ないんだよお前、この社会でアルスを持たないって状態は


Face_shiho

【志穂】

いや、アルスに限らず、スマホでもいい。兎も角お前への通信手段が細すぎる


Face_kenichi

【謙一】

……お前も入学前、俺以上に迷惑かけてたと思うんだけど


Face_shiho

【志穂】

アレは、単純に私の方に事情があっただけだ。現に私はアルスを持っている


Face_kenichi

【謙一】

……そっか


Kenichi

 入学前の3月はちょっと異例だっただけで、今じゃ学園が志穂に連絡するのは全然難しいことじゃないのか。
 一方で、俺は相変わらずアナログな人間。電子機器を使えないわけじゃないが、スマホとかアルスは絶対使ってはいけない。
 つまり今でも学園や特変の皆は、俺に連絡するのに一苦労……迷惑かけちゃってるよな。


Face_kenichi

【謙一】

……それでも、俺は持てないよ


Face_kenichi

【謙一】

この前提は、変わらない。悪いな、営業に支障が来るか?


Face_shiho

【志穂】

支障だらけだ。だから、絶対持ってもらう


Face_kenichi

【謙一】

凄えグイグイ押すな……


Face_shiho

【志穂】

それくらいの意気で今日来てんだー


Kenichi

 ……そうか、だから今朝爆睡してなかったのか。
 ルールに定めるくらいに自分の時間を誰にも渡さない志穂が、今朝を俺に費やすと決めるくらいの事情があるのだと、理解しなきゃいけないな。


Face_shiho

【志穂】

それに……前提はもっと奥深くにあるだろーが


Face_kenichi

【謙一】

は?


Face_shiho

【志穂】

何でお前はアルスを意図的に持たない?


Kenichi

 ……そうだな。
 そこをしっかり云わないと、意思を以て俺に話している志穂に失礼だ。


Face_kenichi

【謙一】

まぁ……ズバリ、電波が飛ぶからだな


Face_shiho

【志穂】

電波……だぁ?


 志穂は少し呆気にとられた。
 それは確かに根本的な理由であり、ちゃんとした理由であるとするならまず見逃すことのできない要素である。


Face_shiho

【志穂】

……訊かねえけどさ


Face_kenichi

【謙一】

ああ。助かる


Face_shiho

【志穂】

じゃあ、その電波っていう問題を解決できるなら、お前がアルスを持たない理由は無くなるんだな


Face_kenichi

【謙一】

ん……まぁそうなるかもしれないが……


Kenichi

 だけど、電波飛んでのアルスだろ……?


Face_shiho

【志穂】

恐らくお前は電波と繋がり、そして逆に電波を通してお前が発見されることを危険視してる


Shiho

 だとしたら……コイツ一体どういう生活してんだろうな。
 それも訊かないし、考えても意味ないことだから忘れるが。


Face_shiho

【志穂】

そこに、一つ偏見が埋め込まれていて、それがお前の前提を作ってると私は予想する。どうだ


Face_kenichi

【謙一】

……その偏見の内容によるな


Face_shiho

【志穂】

電波っていうのを道に例えると……お前は道が一種類だと考えている。違うか


Face_kenichi

【謙一】

…………


Kenichi

 道が、一種類……
 それはつまり、どういうことだ――?


Face_kenichi

【謙一】

えっと、それは……俺も加えて例えを設定するけど……


Face_kenichi

【謙一】

少なくとも電波っていうのが在って、それをA道と名付ける。俺は通信機器を持つのはA道と自分を繋げることと思ってる


Face_kenichi

【謙一】

でも実際には、A道だけじゃなくて、B道、C道と……色々な道があるってことか?


Face_shiho

【志穂】

そうだ。この世の機器間の通信を担うものを全部電波ってことにここではするが――


Face_shiho

【志穂】

電波には色んな種類がある。お前の考えていたA道が大半だ。一般向けのアルスもまた、A道を使ってるさ


Face_shiho

【志穂】

けど、それだけじゃない。現実として沢山の種類の電波みちが開発されている。その理由は様々だ


Face_shiho

【志穂】

あえてその一つを挙げるなら……セキュリティ


Face_kenichi

【謙一】

……!


Face_shiho

【志穂】

同枠外の奴にガチで出くわしたくないって時に、そもそも道から違えばいいだろってな


Face_shiho

【志穂】

そういう意識で道を作る場合、更に「外壁」を作る。トンネルみたいなことになる


Face_kenichi

【謙一】

……そのトンネルに、外壁……つまりセキュリティを突破して侵入することは


Face_shiho

【志穂】

確率としてゼロはあり得ない。だが極めてゼロに近いように、脆弱を埋めるように補強は常に続けられる


Face_shiho

【志穂】

その強度が半端ない道ほど、機密性の高い枠内で使われたりしてるわけだが――


 そこで志穂が、芝生に寝かせていたスーツケースを開けた。
 そして……


Face_kenichi

【謙一】

……は――?


Face_shiho

【志穂】

――お前に渡すつもりのは、そのレベルだ


 謙一は、見た。


ku_power


 妖精を。


Face_ku

【光雨】

――――


Face_kenichi

【謙一】

………………………………
………………………………
………………………………


Kenichi

…………。
……………………。
…………………………………………。


Face_kenichi

【謙一】

……え、えーと


Face_kenichi

【謙一】

志穂さん? 志穂さんや?


Face_shiho

【志穂】

あ?


Face_kenichi

【謙一】

コレ……ナニ?


Face_shiho

【志穂】

何って、おめーがこれから持つアルスだろーが


Face_kenichi

【謙一】

………………………………


Kenichi

 小鳥のさえずりが聞こえる。実にベタなほどに青い空。


Kenichi

 そんなお空に、俺もベタに叫ぶことにした。




Face_kenichi

【謙一】

思ってたのと違う!!!


 叫びは気持ちよく先の見えない青空に吸い込まれた。


Face_shiho

【志穂】

うるせーな


Face_kenichi

【謙一】

じゃあ小さく細かくツッコんでくけどいい!? 俺割と衝撃喰らったからな!?


Face_shiho

【志穂】

まぁ疑問があるなら全部云ってけゴラ


Face_kenichi

【謙一】

取りあえず何、ホログラムっていうのコレ!? 何コレ!?


Face_shiho

【志穂】

アルスだ


Face_kenichi

【謙一】

何かよく見たら光の粒子? か何かが鱗粉りんぷんみたいに飛んで消えてってるんだけど!! 何コレ!?


Face_shiho

【志穂】

アルスだ


Face_kenichi

【謙一】

ていうか小っちゃい女の子じゃん!! こびと的な?! 何コレ!?


Face_shiho

【志穂】

アルスだ


Face_kenichi

【謙一】

極めつけによく見たらメイド服来てるしさ!! 何コレ!?


Face_shiho

【志穂】

アルスだ


Face_kenichi

【謙一】

アルスなの!?!?


 発散しているうちに現実と向き合う気になった謙一だった。




Face_kenichi

【謙一】

知らなかった……アルスって、人型のもあるのか……


Face_shiho

【志穂】

いや、知らないのは無理もないことだ。なんせ、コイツは世界に一体しか存在しない


Face_shiho

【志穂】

最先端、更にその先を足掻いて……奇跡的に生まれ出た、完全自立型ライテドアンドロイド――


Face_shiho

【志穂】

光雨くう、と既に名付けられている


Face_ku

【光雨】

――――


Face_kenichi

【謙一】

アンドロイド……


Kenichi

 確か、本来「アンドロイド」ってのは人間にそっくりなロボットさんを意味していた筈。
 だがコレは……確かに人だ。手のひらサイズではあるけど、人型。人間そっくりと云える。云えるけども……


Kenichi

 「光」だ。
 このアンドロイドは、「光」なんだ――


Face_kenichi

【謙一】

莫迦な……コレは、一体……


Face_shiho

【志穂】

……気付いたか。コイツが一体どんだけ異質か。世の常識をひっくり返す程の技術に


Face_kenichi

【謙一】

光源が、無い……


 そう、スーツケースの中でミニタオルの上に正座しているメイド服のアンドロイドは、「光」で構築されていた。
 しかし、アルスの画面のように構築に使われる光とは全く異質なのは明白だった。


 何処にも光源が無い。スーツケースの中にも、半透明なアンドロイドの内側にも、光源になっていそうな物体は見られなかった。


Kenichi

 だから――
 完全自立型……?


Face_kenichi

【謙一】

そんな、莫迦な――


Face_shiho

【志穂】

コイツは、主体部も対応部も持たないアルス。科学技術の小型化とか、そういうレベルを超えた奇跡だ


Face_shiho

【志穂】

科学は本来奇跡なんて言葉を信じない。が、私たちの見識の一切及ばない領域の科学と出くわしたなら……


Face_shiho

【志穂】

それはもう、私たちは「奇跡」と手を上げるしかないだろ……


 志穂は実際に両手を上げてため息をついた。


Face_shiho

【志穂】

正直コイツはアルスなんて枠に収めていい科学技術じゃない


Face_shiho

【志穂】

けど現状最も私たちの支配する科学技術の先端を担っているのはアルスだ


Face_shiho

【志穂】

だから、ひとまず開発側はアルスのプログラムを組み込んで、様子を見ることにしたんだ


Face_kenichi

【謙一】

……で


Face_kenichi

【謙一】

そんな世界的に貴重な産物を、俺に預けようってお前云ってんの……?


Face_shiho

【志穂】

うん


 叫ぶのはやめて芝生に6,7回頭突きしてリアクションに励む謙一。


Face_kenichi

【謙一】

え、莫迦じゃないのお前も開発側も? 俺の物を失くす才能凄いんだぞ?


Face_kenichi

【謙一】

もう既に真理合宿で配られた学園歴史の冊子、行方不明なんだからな!


Face_shiho

【志穂】

動かねえ物質とコイツを一緒にすんな。云っただろ、完全自立型って


Face_shiho

【志穂】

お前がコイツを見失っても、それはただ単に「迷子」ってだけだ


Face_shiho

【志穂】

コイツが勝手に、お前を探して動き回る


Face_kenichi

【謙一】

やっぱ、動けるのか……


Kenichi

 さっきから微動だにしてないけど……


Face_shiho

【志穂】

んで、私は何だかんだで、コイツを試用するバイトを賜った


Face_shiho

【志穂】

しかし既に、私はアルスを持ちすぎてる。そいつらを管理するのに正直手一杯だ


Face_shiho

【志穂】

何より、コイツは現状の私の手に収まるものとは思えない。だから……私は持てない


Face_shiho

【志穂】

自分の手の小さいうちに、それ以上の科学を握ろうものなら漏れ零れ落ちる――


Face_shiho

【志穂】

ヒューマンエラーなんて御免だ


Face_kenichi

【謙一】

…………



flashback



Face_shiho

【志穂】

人間が扱う限り、科学は道具で、人間が握るものだってのー


Face_shiho

【志穂】

握れないのは、人間の手が小さいだけー


Face_shiho

【志穂】

強者なる科学を扱えるのは強者の人間ってだけ。お、これ優美限定じゃん。れぼー



flashback_return



Kenichi

 ……志穂には、志穂の哲学と順序がある。
 だから、自分が持つことは自分が許せず、誰かに持たせるしかバイトは達成できない。
 ……で、俺に白羽の矢。


Face_kenichi

【謙一】

絶対俺の方が手に余るんだけど……


Face_shiho

【志穂】

私のやり方をそのまま他人に当てめるのは道理じゃないだろ。だから他人に頼んだ


Face_shiho

【志穂】

だが、それだけじゃない……お前だから、頼んだんだ


Face_kenichi

【謙一】

は? 俺?


Face_shiho

【志穂】

お前は、問題を解決する能力にひいでてる。実際のスキルも情熱も、恐らく私以上だ


Face_shiho

【志穂】

美甘の心を動かして……特変を一つのクラスとして枠付けたのが何よりの実績だ、謙一


Face_kenichi

【謙一】

……だから、俺ならこのアルスが何か問題起こしても解決できるだろってこと?


Kenichi

 いや、俺知らないことばっかなんだけどこの世界。人間とのコミュニケーションとはワケが違うと思うんですけど。


Face_shiho

【志穂】

……話を戻すぞ。コイツそのものの話題は、ありすぎるからな。先にお前の前提を崩す


Face_shiho

【志穂】

結論近くから云うが、光雨は一般的なアルスとの通信が、現状できない環境にある


Face_kenichi

【謙一】

は? それじゃアルスとしてちゃんとプログラムできてないんじゃ


Face_shiho

【志穂】

いいやしっかり組み込まれてる。今のコイツはアルス……いや――


Face_shiho

【志穂】

正確にはアルスの機能を一通り搭載してる、主機能不明瞭のアンドロイドってところか


Face_shiho

【志穂】

兎も角コイツはアルスとして成立してる。ただ、問題なのが――


Face_shiho

【志穂】

これまで一つとも存在しなかったこの光雨が発する電波もまた、これまで存在しない道だということだ


Face_kenichi

【謙一】

――!!


Face_kenichi

【謙一】

そうか――だから、安全性が高い……!


Face_shiho

【志穂】

そこに開発側が飛びつけれる最大限の技術で以て外壁セキュリティも備え付けた。はっきり云う


Face_shiho

【志穂】

コレに外敵が侵入するのは、不可能だ


Face_kenichi

【謙一】

…………


Kenichi

 科学は相対化、ゆえに絶対視を避ける志穂が、敢えて絶対の自信で云いきった……
 それだけ、このアルスには世界最高峰と呼ばねばならない安全性が確証できると。


Face_kenichi

【謙一】

だが……仮に俺がこのアルス――光雨を所持したとしてもだ


Face_kenichi

【謙一】

既存のアルスじゃどれも通信できないんだろ? じゃあぶっちゃけ何もできないんじゃないか?


Face_shiho

【志穂】

だから、開発したんだよ


 志穂はもう一つ寝かせていたスーツケースを開けて、その中を謙一に見せた。
 中には、箸程度の長さ・大きさの8つの機器。


Face_shiho

【志穂】

光雨の電波をA道なんかで一時的に適応させて、世界中のホームページや学園のウェブアプリを利用可にする……


Face_shiho

【志穂】

まぁハッキングみたいなことだが、この技術はまだまだ研究中だ


Face_shiho

【志穂】

だから取りあえず、無線みたいに一定の枠だけで通話やメッセージをやり取りする、ぐらいの機能だ


Face_shiho

【志穂】

このアルスなら、光雨とその程度の接続が可能だ。光雨対応ってとこ以外は一般的なものと大差ないが……


Face_shiho

【志穂】

コレを1人1台、特変に支給する。この意味は分かるな


Face_kenichi

【謙一】

……まず、俺は光雨の附き合いを始める上で、絶対安全な電波を共有できる特変おまえらと通信する


Face_kenichi

【謙一】

光雨の安全性を損なわないままウェブサービスを使うには、バイト先の開発を待つ……と


Face_kenichi

【謙一】

その安全性、機密保持力は現状世界一と云うことができて……俺の恐れている事態は、まず起きない


Face_kenichi

【謙一】

よって俺がアルスを持つことは問題無く、それによって特変全体が活動しやすくなる……か


Kenichi

 特変の管理職として、皆と連絡手段を持つことは重要っていうか早急に解決するべき課題だった。たった今そうなのだと気付かされた。
 云い換えれば、この課題を解決せずに保留し続ければ、いつか特変管理職としての活動力に陰差す要素として目立つようになるんだろう。それは俺が真理学園に入った抑もの理由にすら影響及ぼす事態。


Kenichi

 ……参ったな。
 まさか合宿終わった次の登校日にこんな怒濤どとうの展開が待ってただなんて……


Face_shiho

【志穂】

……今、伝えるべきことは全部伝えたつもりだ


Face_shiho

【志穂】

あとは、お前の返答次第でこの時間は延びる


Kenichi

 相変わらず、光雨を俺に渡す意思を揺らさない志穂。
 その変わらぬ立ち振る舞いに、「信じろ」というニュアンスのメッセージを見てしまうのは、俺が騙されやすい人間だからなのだろうか。そもそも貧乏だったから騙される機会なんてのも無かったから、俺がどういう性格なのかは分からないけども……


Kenichi

 一方で明確に分かっている、俺の性格は……
 言葉だ。


Face_kenichi

【謙一】

……志穂


Face_shiho

【志穂】

あ?


Face_kenichi

【謙一】

お前の言葉を、信じる


 この瞬間、井澤謙一は数年閉じていた領域へと視界を開く判断を決めた。
 彼にとってこの時どれだけのリスクを感じたのか。同時に彼に言葉を投げた自身にどれだけの責任しんらいが寄せられたのか。


 志穂は流さず受け止めた。


Face_shiho

【志穂】

ああ


 井澤謙一は、アルスを手に入れた。


Face_kenichi

【謙一】

……ところで……


Kenichi

 ということで、とんでもないモノが俺の所持物になったわけだが……


Kenichi

 ずっと気になってはいたことに、目を向けることにしよう。


Face_ku

【光雨】

――――


Face_kenichi

【謙一】

俺、どうやって光雨を操作したらいいわけ?


Kenichi

 さっきから、ずっと、ずっっっっっと沈黙して動かない完全自立型アンドロイドさんに目をやりながら志穂に訊く。


Face_shiho

【志穂】

ん? 別に難しいことではない。色々やり方はあるだろうが、基本は音声認識する


Face_shiho

【志穂】

呼びかければ応えるし、何にも指示を出してなくても勝手に動き回る


Face_kenichi

【謙一】

いや、でもさっきから全然スーツケースから出ようとしてないんだけど……


Face_shiho

【志穂】

……そういや全然動かねーな


Face_shiho

【志穂】

おーい光雨


Face_ku

【光雨】

――――


Face_shiho

【志穂】

反応しろや光雨。おいゴラ


Kenichi

 おいおいいきなり故障か、ホントに大丈夫か?


Kenichi

 ――なんてリアクションしようと思った、その時だった。


Face_ku

【光雨】

――――――


Face_kenichi

【謙一】

……!


Kenichi

 光雨が、俯き気味だった顔を、ゆっくり、ゆ~~~っっくり上げた。


Kenichi

 その瞳には、多分だけど――涙が、溜まっていて……


Kenichi

 声にもならない驚きに囲まれたと認識した、次の瞬間――
 初めて俺は、彼女の声を聴いた――




ku_cry


Face_ku

【光雨】

――なが~~ぁ~~いぃぃぃ……(泣)


Kenichi

 ――エラく不満の溜まった涙声を。


Face_kenichi

【謙一】

え……


Face_ku

【光雨】

長いの~~~~!! いきなりこんな狭いトコ入れられて~~! ずっと揺さぶられて酔ったの~!


Face_ku

【光雨】

やっと開いたと思ったら「正座してろ」なんて云われてまた閉じられたの~!


Face_ku

【光雨】

でもクーは究極のメイドだから、云われた事はキチンとこなせる優秀なメイドさんなの~……


Face_ku

【光雨】

だからずっとクー正座してたのー! そしたら、開けられてもずっとお話してたのー!


Face_ku

【光雨】

長すぎるのー……長すぎて……――


Face_ku

【光雨】

脚、痺れて動けないの~……(泣)!!


Face_shiho

【志穂】

……………………


Face_kenichi

【謙一】

……………………


Kenichi

 ……うん、まあ、あるよね。
 正座って慣れてない人が慣れないやり方で続けると脚痺れてさ、別に痛くはないんだけど、何かもう声も出せなくなるほど形容しがたい生き地獄に遭うことあるよな。うん、あるある、俺もよくある。


Kenichi

 ただ……ちょっと、いやものっそい疑問に思ったのが……


Face_kenichi

【謙一】

アンドロイドって、脚痺れるの……?


Face_shiho

【志穂】

あー……まぁ、何だ、コイツはホント色々分からないこと多すぎてな


Face_shiho

【志穂】

スペックが異次元なのは間違いないが……何だ、その、すっごい癖強い奴だって附き合ってれば分かると思う


Face_ku

【光雨】

動けないの~~~~(大泣)! 慰謝料請求するの~~~(超泣)!!


Face_shiho

【志穂】

オラいつまで泣いてんだダメイド、お前のマスターだぞ、仲良くやれ。慰謝料いしゃりょうもコイツに請求しろ


Face_shiho

【志穂】

井澤謙一だ


Face_ku

【光雨】

慰謝料払うの~~~~マスター~~~!!!


Face_kenichi

【謙一】

どの辺がアンドロイド!? どの辺がメイド!? もう何かシャレにならないレベルでキャラ濃すぎだろコイツ!!?


Kenichi

 何か、もしかしたら厄介払いに利用された感じ?
 とか思ってお開きになった朝の出来事だった――


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