「特変」結成編2-5「束の間なお茶会(5)」

あらすじ

「そういうわけで、一番充実して図書館に居座ってるから、「図書館のヌシ」。図書委員の中では有名な、私の二つ名なのです」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章5節その5。セントラルホール第7サークルより連絡通路を渡って辿り着いた場所、そして美玲さんのもう一つの顔に謙一くん戸惑いを隠せない回です。※次回からバスケ編!合唱祭並みに長いです。

↓物語開始↓


PM1 30


Face_kenichi

ッ――!!


Kenichi

 コレは……いや、どういう所なのかは一発で分かるけども……
 いやしかし、この学園だぞ……?


Face_kenichi

真理学園の、図書室、ですか……?


Face_mirei

はい、その通りです♪


Kenichi

 図書室独特の空気。静けさ。香り。
 そう、この場所はすぐに図書館なのだと分かる。しっかりした空間だ。
 いや、ていうか――


Stage: 図書館棟3F


Kenichi

 ――しっかりしすぎじゃね!?


Face_kenichi

だ、大学研究施設の図書館の規模じゃないすかコレ……


Face_mirei

真理学園のこの図書館って、実は世界でも有数の蔵書数らしいよ


Face_mirei

いっぱい保管しなきゃだから、自然とこの大きさになったって。ついでにモダンでユーザビリティも考慮して、皆大好きなスケルトンエレベーターまで備わってます♪


Face_kenichi

高所恐怖症の人に対しては嫌がらせ以外の何物でもないですが――ってエレベーターあるのかよ……


Kenichi

 まぁこの広さなら納得だが……ますます大学の図書館じゃん入ったことないけど……。
 因みに此処は3F。2F以上はさっきのセントラルホールみたいに中央部が開けていて、透明なフェンスから顔を覗かせて最下層の空間が見られる。つっても全体の構造はセントラルホールとは比べものにならないほど複雑で、どこに何があるか、トイレはどこにあるか、出入口などは一日二日で覚えられるものじゃないと美玲さんは云う。


Kenichi

 そしてその美玲さんは――


Face_joshi

あ、来てたんですねヌシ先輩。でも今日は当番じゃ――


Face_joshi

井澤謙一!?


Face_kenichi

やっべ……


Face_mirei

あー、ちょっと色々あってねー、お姉さんは井澤くんにお茶をご馳走しようとねー


Face_joshi

……何で特変なんかにご馳走するんですか……


Face_joshi

ていうか私のハサミ返してくださいよ!! アレがないと、ここ最近の私、一日の元気が今イチ出ないんですから……!!


Face_kenichi

ハサミ……? あ、そうか、もしかして献上制度で……


Kenichi

 ていうかかれこれ特変制度が施行されてから8週間は経ってるわけであり、少なくとも献上制度において1クラス8人は「大切なモノ」を没収けんじょうされてるんだな……俺らの全く知らないところで。


Face_mirei

こらこら、特変でも先輩なんだから、それにこの人はいい人だからちゃんと敬ってね


Face_kenichi

いや、俺は別に構わないんだけど……


Face_joshi

うーー……ヌシ先輩はそうやって誰でも甘やかすーー……お姉さんキャラ似合ってないくせに……


Kenichi

 不機嫌な女子(おそらく後輩)は足早に去って行った。
 ……ていうか、


Face_kenichi

ヌシ先輩って……?


Face_mirei

えへへ、その理由は、ただ今ご覧にいれまーす♪


 ただ今と云っておきながら10分程度の準備を済ませて――


timeskip


Face_kenichi

…………


Face_mirei

それじゃ、毎度恒例、だけどちょっぴり特別な――


Face_mirei

プチお茶会を開会しまーす♪


 その準備というのは、図書館棟5F西にちっちゃく広がる読書席スペース。4つの椅子に囲まれた一辺約60cmのテーブルにクロスを敷いて、お菓子やティーカップを置き、テキトウな椅子に座る。


 お茶会会場の完成である。


Face_kenichi

いやいやいやいや!!


Kenichi

 そういう場所じゃないでしょ此処!!


Face_mirei

井澤くん、何飲むー? コーヒーしかないけど、お砂糖入れる?


Face_kenichi

いやその前に説明してくださいって、本一切手を触れずにコーヒー飲むって! でもノンシュガーブラックでお願いします


 苦いコーヒーを口に入れて、やっぱりコーヒーは夏でもホット一択だよな、とか思いながら鑓多美玲の解説に耳を傾ける。


Face_mirei

あらためまして、井澤謙一くん、私は鑓多美玲っていいます


Face_kenichi

そこからですか。知ってますよ美玲さん


Face_mirei

同学年ではあるけど、年齢的には私の方がお姉さんだから、甘えてくれちゃって良いからね♪


Kenichi

 なんて典型的な背伸びロリお姉さん系な性格してるんだこの人。もはや様式美と云わねばならないレベルだ。


Face_mirei

さっきヌシ先輩って呼ばれてたのは、私がこの図書館棟でいっぱい働いてる図書委員で――


 クッキーを一つ取って拍を取る(←取れてない)。


Face_mirei

美味しい~……図書委員で――


Face_mirei

仕事が無くても、暇な時は此処に来て、お茶会を開いてゆったりしてまーす。そういうわけで、一番充実して図書館に居座ってるから、「図書館のヌシ」。図書委員の中では有名な、私の二つ名なのです(←自慢げ)


Face_kenichi

な、なるほど……そういうことですか


Kenichi

 果たしてその二つ名、自慢できるものなのだろうか。


 美玲は厚紙の小箱を空けた。
 シュークリームが4個並んでいた。


Kenichi

 どんどんお菓子出てくるぞオイ、コレ図書館でやってて委員さんとかに怒られないか……?
 基本飲食禁止だよな図書館って……虫発生させても良いこと無いし……でもさっきの女子とか普通にヌシを肯定してた感じだから、もうスルーしていい疑問なのかな……


Face_mirei

2個ずつ分けよー。お先に選んじゃって~


Face_kenichi

ど、どうも。あ、このシュークリーム……もしかしてこの前俺が差し入れたところの


Face_mirei

当たりでーす♪ 図書館のヌシが自信を持って☆5つをあげちゃう聖地・ライジングサンのお手軽セットでーす


Face_kenichi

この前も思いっきり食い付いてましたし、美玲さんシュークリーム好きなんですね本当に。えっと、じゃあ俺はコレとコレを――


Face_mirei

……………………(←泣)


Face_kenichi

……………………


Kenichi

 そんな顔するんだったら選ばせないでほしいわお姉さん。


Face_kenichi

やっぱり、コレと……コレにしとこうかなと


Face_mirei

えへへへーどうぞー☀


mireilibrary


 優雅なお茶会が進む。
 謙一が選んだシュークリームは、チョコバナナシューときなこ餅シューだった。
 一方で美玲に残った(残らせた)のは、DX幕の内シューとデッドリーボルテージシューだった。


 取りあえずあの二つを選ばなくて心底良かったと胸をなで下ろす謙一だった。


Face_mirei

えへへ~図書委員の人以外で、お茶会にご招待したのはこれで2人目かなー


Face_mirei

非定期だけど割と頻繁に開いてるから、いつでもまた来てくれていいからね。お茶のストックは万全だから


Face_kenichi

それは、どうも……だけど、俺が一緒に居たら美玲さんちょっと危険なんじゃないですか?


Face_mirei

ふぇ……?


Kenichi

 目が点になってコッチを向く美玲さん。
 どんだけベタを貫くハイクオリティななんちゃってお姉さんキャラなんだろうと思ったのと同時、変わらず食べ進めてるデッドリーボルテージの断面図を視界に入れてしまい何かを後悔した俺。


Kenichi

 まあ、それはいいとして……問題はやっぱりそこだ。
 何だかヤケに気合いを入れて誘ってきたので、断るのもあんまりかなと考え附いてきたが、本来これはあまりよろしくない時間だ。


Face_kenichi

さっきの女子ちゃんも云ってたでしょ。特変に何でおもてなしをしてるんだって


Face_kenichi

特変に優しくする行為は、この真理学園という社会において爪弾きに遭いかねないことなんですよ。今はまだいいかもしれない、だが献上制度がある限りコンスタントに俺たちはヘイトを集めていく


Face_kenichi

そうなると、美玲さんの方に目が及ぶことも、無いとは全然云いきれないでしょう?


Face_mirei

……………………


Face_kenichi

……ん?


Kenichi

 と、俺は結構マジメな話をしていたつもりなのだが、多少沈黙したかと思うと、美玲さんはその手に持ったシューとは対照的と云わざるを得ない、細く緩やかな笑みを浮かべていた。


Face_mirei

……井澤くん、こういうとこでも……私とか、他の人のこと、考えてくれるんだね……


Face_kenichi

え? んー……まあ、何となく


Face_mirei

…………


Kenichi

 ……何だよ。


Kenichi

 さっきまで子どもみたいにウッキウキでシュークリーム頬張ってた癖に、いきなりそんな、静かに笑いやがって。
 何だか、こそばゆい。


Face_mirei

……でも、だからって……井澤くんたちが孤立していい理由には、きっとならないんだよ


Face_mirei

井澤くんは、ちょっぴり、ううん、だいぶ不思議な男の子だよね


Face_kenichi

…………まあ、自覚はしてる方です


Face_mirei

優しいんだなって思うこともあれば……正直怖いなって思ったり……合宿とか合唱の時みたいに凄い力を発揮するし、色んな顔を持ってて……そのどれもが見えにくくて


Face_mirei

ただ、分かるのは……悪者さん、って一概に決めつけて、見放していい男の子では、ないんじゃないかなって


Face_kenichi

美玲、さん……


Face_mirei

これ、マジメな話ね……私も、徳川さんも、シアさんも、朧荼くんも、それに小松さんも


Face_mirei

九条さんとリーダーくんはちょっと分かんないけど、案外特Bはそこまで君たちを敵視してないんだよ。きっと、合宿とかで井澤くんが見せつけたからかな。全力を出しても勝てない相手で、だからこそ尊敬にも値するクラスなのかもしれないって。隣の教室で、毎日賑やかで疲れてる井澤くんを知っているから、それでも特変が一つのクラスとしてスタートできたことを、私たちは知っているから


Face_mirei

だけど、他のクラスには、分からないと思う……教室配置や日々の煽りから見ても、翠さんがそう仕向けてるから。特変はただ悪で、考慮無く倒すべき相手だって。だから、井澤くんの方が百倍分かってるだろうけど……特変に、味方は居ないんだよ。先生たちも、殆ど翠さんを嫌ってるから


Face_mirei

……だから、せめてお隣の、美玲お姉さんには頼って、ね? 肉体労働は、ちょっと一身上の都合みたいので難しいけど、話ぐらいは全然聞いてあげるし、助け合わなきゃね? 井澤くんがナチュラルに私を助けたみたいに……それが、本来のこの学園の目指してる姿でもあるんだし


Face_mirei

その……だから、えっと、どうかな……?


Face_kenichi

……………………


Kenichi

 どうして、この人は……そこまで、俺たちを……いや。
 俺を、助けようとしてくれるのか。協力しようというのか。


Kenichi

 どうにも本心が、見えてこない……その言葉が殆ど全て、歪なようにしか見えない。
 だけど、俺を気遣い、その姿勢を変えるつもりがない……そういう、見た目に反する強い意志は何となく感じる。


Kenichi

 ――俺も人のこと云えないぐらいに、歪んでるんだろうな。
 そんな姿、亜弥には見せたくないな……。


Face_kenichi

……そう云ってくれる人が居るのは、正直、かなり助かります


Face_mirei

……! そ、そうかな、えへへ……!


Face_kenichi

まあ実際にこれからの生活が楽になるかといえば十中八九そんなことはないでしょうけど


Face_mirei

いきなり戦力外通告!?


Face_kenichi

いやいや別にそこまで云ってないですって! ただ、超マジメな話、俺たちの不幸中の幸いって、嫌われまくってることでもあるんです皮肉なことに


Face_mirei

?? どういうこと……?


Face_kenichi

具体的には、人質候補とか少ないですもん。強いて挙げるとすれば沙綾の彼氏……? まぁでもそいつに手を出したら沙綾がガチでキレるでしょうし、そうなったら相手の方が可哀想ですし


Face_kenichi

そういう例外もありはしますが、俺らが本気を出すのを躊躇わなくて済むんですよ、味方が居なくても俺たちが学園で最強であれば問題がない。逆に俺たちの足枷となり得る味方が居ると、考えることが多くなる


Face_kenichi

だから俺はご近所附き合いも他クラス交流も我慢して自分のクラスの管理に集中してきたってとこもありますし


Face_mirei

最初っからそこまで考えてたんだ……恐ろしすぎるよこの年下くん……


Face_mirei

えっ、てことは、お姉さんのお言葉、全部無駄……?


Face_kenichi

……いや、そんなことは断じてありませんよ。さっきも云ったように、かなり助かるのは確かです


Face_kenichi

他のクラスは兎も角として、最も特変に対抗する力を持つであろう特Bの事情が筒抜けということですから。それに、そういう戦況分析無しにしても……


Face_kenichi

友人は学園生活で一番大事でしょ(←ナチュラルなスマイル)


Face_mirei

…………


Face_kenichi

……って、美玲さんどうしたんですか、微妙に顔紅いような……やっぱりさっきのシュークリーム健康に良くなかったんじゃ


Face_mirei

ら、ライジングサンは別に関係無くて……! その……井澤くん……合唱祭で思ったけど、やっぱり、言葉がしっかりしてるというか、何かいちいち人の心にドストレートに砲撃してくるというか……


Face_kenichi

いやいやいやいや……


Kenichi

 ウダウダしまくってる俺の悪癖が弄られることがあっても、褒められるようなことはあり得ないだろ。


Face_mirei

……大衆全員に向けての言葉ですら強いのに、マンツーマンで浴びせられたら……うう……恐ろしい年下くんだよぉ……


Face_kenichi

…………


Kenichi

 何かよく分かんないけど、取りあえず俺の中でこの人も変人認定しとこうと思った。


Face_mirei

と、兎に角! 私の思ってた以上に助けられることは少なそうだけど、何かあったら何でも相談してね……?


Face_mirei

これまたマジメな話なんだけど……動き始めてるって朧荼くんが云ってたの


Face_kenichi

動き始めてる……? 何が?


Face_mirei

小松さん主導で、私たち特Bは合唱祭というイベントを最大限活用した特変破りを、特変に仕掛けた。それで敗北したのだけど……それだけじゃなかった


Face_mirei

「ああいう闘い方があるんだ」って、学生の多くが感心をしたらしくて……それで、私たちみたいに、勝ち目の薄い奇襲制ではなく、より勝率を引き込めるような正式な特変破りが今、沢山計画されてるの!


Face_kenichi

……マジか……


Kenichi

 しかし、正直なところその動きは予測していた。それだけ特Bの仕掛けた、これまでとは全く性質の違った特変破りのクオリティは高かったのだ。それを相手だった俺たちだけでなく、すぐ近くの観客席で目の当たりにしていた連中も、理解していたのだ。


Kenichi

 奇襲ではなく、それぞれの得意分野を活かした特変破り……
 恐らくソレが流行する時期が今後出てくるとは思っていたが、可成り早かったな。


Face_mirei

……特変が存続することが正しいのかどうかは、よく分からない。沢山の学生が被害を受けてるのも事実で、特変に私の大切な学友が居るのも事実で……


Face_mirei

だけど確定なのは、私は井澤くんの味方でありたいなってこと、だから。それとなく、情報くらいは集めてあげるからね。だから、頑張りすぎないで、ちょっとはお姉さんに甘えてね?


Face_mirei

また、一緒にお茶会しようね?


Face_kenichi

……美玲さん


Kenichi

 合唱祭から静かだった数日が終わり、きっと次に始まるのは、より熾烈化する特変破りの毎日……。敵に囲まれ、恨まれ叩かれる日々がエスカレートするのだろう。


Kenichi

 俺たちは負けない。
 つまりアイツらは負け続け……何も、変わらない。


Kenichi

 ……変わらない、のか?
 そんなあやふやな疑問が浮かぶからこそ――


Face_kenichi

俺初めて美玲さんのことお姉さんっぽいって思いました一瞬


Face_mirei

初めて!? しかも一瞬だけ!?


Kenichi

 俺たちも……何かを変えていかなければいけない、のかもしれない――
そんなことを考えながら、ごく普通の生クリームをブラックコーヒーで流し飲むのだった。


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