「特変」結成編2-4「仲間(4)」

あらすじ

「ああ。ウチが定めるのは……」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章4節その4。夜の森を歩いて、特変は闇夜に囲まれた状態のまま朝を迎えます。美甘ちゃんのこの打ち上げの真意、そして一つの決心が特変に打たれます。※特変破り章・序はここまでです。こっからが本番です。

↓物語開始↓


 一同は外に出る。


Face_kenichi

【謙一】

んー……朝の風っていうべきかね、一層気持ちよく感じるよなー


Face_shiho

【志穂】

まだ真っ暗だけどな


Kenichi

 何よりあの小屋(での惨劇)から解放されたってのが大きいんだろう。兎も角、それが大事なのだ。俺たちは生き残ったのだ!!


Kenichi

 ま、それはいいとして……


Face_kenichi

【謙一】

そろそろ、だな


Face_mikan

【美甘】

うん


Kenichi

 流石に、もう察しがつくよな……


Kenichi

 5時間経って、朝4時ぐらいだ。夏直前のこの時間帯にこそ拝める景色ってのは、だいたい予想が絞られてくる。
 そして高度且つ見通し良い所から眺めるのだから、これはほぼ確定だろう。


Kenichi

 俺たちは、今、朝の到来を見ようとしているのだ。太陽気団が訪れ、夜を終わらせ朝の光が優海町や冨士美町に届く、その瞬間を……


Kenichi

 どうせ俺以外にも、これから視界に入る光景に予想がついている輩はいるだろうが、しらけたくないからか、小屋での努力を棒に振りたくないからか、誰も口に出さない。


Kenichi

 ここまで来たら、その瞬間に有りっ丈溜め込みたいのだ。きっと訪れる感動を、より中身に溢れるものに……


Kenichi

 だから、俺たちは静かにその時を眺め続ける。


Kenichi

 町が見下ろせる、拓けた場所を――


Face_kenichi

【謙一】

(そういえば……真っ直ぐの方向はどんなんだろうな)


Kenichi

 電気が冨士美町を、夜でも俺たちに確認できるようにしていた。
 だが真っ直ぐの方向は相変わらず暗闇で……


Face_nagi

【凪】

……………………


Face_kenichi

【謙一】

って、おい凪、大丈夫か。生きてるか? 意識は?


Face_nagi

【凪】

生きては、いるんでしょう……? 意識は知らないけど……


Kenichi

 何となくクールさは残ってるけど、もう色々とアウトな顔をしてると思う。
 プライドって凄いけど怖いな……


 という風に、視界と思考が横に逸れた瞬間。


Face_mikan

【美甘】

――来た


 美甘はそう呟いた。


 凪に気を取られた謙一が、それが仇となって決定的な瞬間を見逃したことに、数秒後気付いた。


Kenichi

 ……何故ならば――


lightblack


Face_kenichi

【謙一】

な――


Face_tokuhen

【特変】

「「「――!?」」」


Kenichi

 ――もうさっき見ていた光景とは、別物になっていたから。


Kenichi

 俺が目を離しているその刹那の間に、空から光が差し込まれた。
 それにより前方の状態が、ようやく俺たちに姿を見せたのだ……


Kenichi

 そこにあったのは――




Face_tokuhen

【特変】

「「「冨士――!?!?」」」


 そう、この大陸最大の公認山帯にして世界でも高く評価されている美山――Mt:Fuji。俗称冨士。


 それが、目の前にあった。
 確かに優海町から森に入り、ほぼ真っ直ぐ登って、その先にあったこの小さな草原から冨士美町が見えたなら、その方向に冨士があるのは不思議なことではない。
 が、そういう問題ではない。


Face_kenichi

【謙一】

何て云うか……驚いた……


Face_kenichi

【謙一】

まさか、目の前にこんな山があったってのに、気付かなかったなんて……


Face_nagi

【凪】

……凄い


Kenichi

 さっきまで生気の無かった凪ですらも一瞬にして意識を復活させてしまった。
 山には不思議な力がある。原理は知らんが、こうして目をとめた人間のあらゆるHPを回復させてしまったり、な……
 だから危険を承知で山登りする人が毎年絶えないのかもしれない。


Face_joe

【情】

…………


Kenichi

 情が言葉を失くし固まる程のインパクトは、ただそこに山があったからだけじゃない。
 もしそれだけだったならば、わざわざ美甘はこんな時間帯に俺たちを呼びやしなかっただろう。云い換えれば、この時間帯に此処にいるからこそ、意味がある。


 季節的に、今は早朝の中の早朝、さっきまで夜であった。
 冨士が立つその高度からすれば、その夜は随分と冷え込むのだ。その根拠に、阿山には無数の氷が発生している。場所によっては氷柱とも云える。「氷のベールを纏う山」として有名な冨士は、夜にその本領を発揮している。そういう時間帯なのだ。


 そんな氷の山が、朝陽に当たられたら、どうなるだろうか。特に山頂付近まで覗くことのできる草原の場所からはどのように見えるだろうか。


 氷のベールが太陽の光で反射して――


huzimi


 ――光のベールとなるのだ。
 更に光は氷によって屈折し、上手い具合に山の隅々を回るようだ。
 あたかも、光が冨士に染みこんでいくように――


Kenichi

 そう、俺たちは今……光り輝く山を見ているのだ。
 それは例えば、クリスマスツリーのような色とりどりなライトアップではない。ただ単調に、だがそれ故に圧巻させる問答無用の輝き。


Kenichi

 これが……本当の、冨士――!!


Face_kenichi

【謙一】

凄え……!!


Kenichi

 もう、凄えとしか云えない。言葉が出てこねえ!!
 それは、俺だけじゃない。その場の誰もが息を呑んで、光り輝く山に目を奪われているのだと、確信できた。


Face_so

【奏】

は……初めて、見たよ……こんなの、朝に冨士を見る、なんて、冨士美町に住んでる私じゃ珍しくないのに……


Face_mikan

【美甘】

冨士美町なんか目じゃない……この、冨士美草原こそが、世界一冨士を美しく見れるところなんだよ


Face_joe

【情】

冨士美草原――? 初めて聞くぞ


Face_mikan

【美甘】

堀田家で名付けた、堀田家しか知らない場所。だから知らなくて当然さ……


Face_mikan

【美甘】

むしろ、あんまり知られたくないくらいだ


Face_so

【奏】

そうなの……?


Face_mikan

【美甘】

こんな最高の景色を独占してるんだ。悪い気は、しないだろ?


Kenichi

 ……確かに、こんな最高のスポットを知ってるのは自分たちだけ……
 凄い優越感があってもおかしくない。


Kenichi

 だが、それならば――


Face_shiho

【志穂】

だったら、どうして此処を私たちに?


Kenichi

 そう、俺もそれが気になっていた。
 どうして、そんな秘密の最高のスポットを、俺たちに明かしたのか。


Kenichi

 つまり、美甘の考え、試したこと。
 それを訊く時が訪れた……。


Face_mikan

【美甘】

……合宿から、1ヶ月が経つ


Face_so

【奏】

ん……そうだね


Face_saya

【沙綾】

美甘が喋るようになってから、もうそんなに経ったのねー。ん、まだって云うべきか


Face_mikan

【美甘】

……ウチは、人と関わるのが、怖いんだ


Mikan

 また、あんな恐ろしいことが起きたら……そう思うと、怖くて、辛くて、不幸になるから。
 だから境界を、作った。
 けど、謙一と志穂は……そんなウチの領域にズカズカ入り込んできて、境界を……壊して。


Face_mikan

【美甘】

戸惑いは、まだある。寧ろこのまま、これからも関係を持っていいのか……分かんない


Face_mikan

【美甘】

凄く怖い……ウチは、どっちが幸せなのか……もう、全然見えてこないんだ……


Face_kenichi

【謙一】

…………


Kenichi

 訊くことは、しないが……
 一体何があったんだろう。
 何が美甘をそこまで、追い込んだのだろう。


Face_mikan

【美甘】

……でも、志穂は云ったから


Face_mikan

【美甘】

それを、学園生活で探せばいいって。色々試せばいいって


Face_shiho

【志穂】

……うん。云った


Face_mikan

【美甘】

志穂が、謙一が、近くに居て、ウチを見てくれるなら……少なくとも、その間は、ウチも……


Face_mikan

【美甘】

頑張る、気になれる気がしなくもない気がするようなしないような……


Face_saya

【沙綾】

超曖昧ね


Face_joe

【情】

ハッキリ結論を云え。話が見えん


Face_mikan

【美甘】

……だから、試すことにしたんだよ。今度こそ、ハッキリさせなきゃ……ウチ自身の為に……


Face_mikan

【美甘】

仲間は居るべきなのか、居ないべきなのか。ハッキリさせる為に、本気でお前らと関わるって


Face_fui

【譜已】

美甘先輩……


Face_mikan

【美甘】

まだ、決めてなかったよな。特変一人ひとりが、一つずつ定めていい、絶対のルール……ウチだけは


Face_kenichi

【謙一】

……ああ。お前だけだよ


Kenichi

 正直文面化もしてなかったから忘れてたが……確かに、合宿で美甘だけ考慮してお預けしてたんだった。
 それを管理職な俺ではなく、美甘本人から切り出してくるとは。


Face_kenichi

【謙一】

決めたんだな。お前の、不可侵のルールを


Face_mikan

【美甘】

ああ。ウチが定めるのは……


 ハッキリとした意思で。決意を示すように、美甘は息を大きく吸い――


mikan_kugi


Face_mikan

【美甘】

仲間だ!!


 ルールを、云い放った。


Face_saya

【沙綾】

……はい?


Face_mikan

【美甘】

特変は……ただの枠じゃない。形式的なクラスじゃない


Face_mikan

【美甘】

お互いを助け合う、仲間だ!!!


Face_so

【奏】

…………


Face_fui

【譜已】

…………


Face_nagi

【凪】

…………


Face_mikan

【美甘】

合唱祭の時みたいに、これから来る特変破りだって……ウチらは負けない。負けちゃダメだ


Face_mikan

【美甘】

皆で、勝ちに行く。利害とか理屈を壊してでも、力を合わせて突破する……


Face_mikan

【美甘】

ウチらは、特変っていう仲間だから


Face_joe

【情】

…………


Face_nono

【乃乃】

…………


Face_saya

【沙綾】

え、えぇえええ……


Face_mikan

【美甘】

それぐらい、密接にやっていかなきゃ、ウチは本気で、ハッキリさせることなんか、できない……


Face_mikan

【美甘】

だから、お前らと「仲間」として学園を過ごす。コレが、ウチが、ウチ自身の為に定めるルールだ!!


Face_shiho

【志穂】

お、おぅ……


Face_kenichi

【謙一】

何か……すっごく、真っ直ぐっていうか……


Kenichi

 ベタな上に、特変に一番似合いそうにない概念が……


Face_mikan

【美甘】

文句は、云わせないからな……沙綾も情も乃乃もあんなに好き勝手やってるんだから……


Face_saya

【沙綾】

あ……うん……フリーダムに振る舞ってる手前、凄く反論できない……


Kenichi

 どう見ても大半の面子、ノット好印象。


Face_kenichi

【謙一】

……だけど、まぁ


Face_kenichi

【謙一】

団結してくれるなら、それはそれで俺が楽できていいのかもな


Face_mikan

【美甘】

だろ? 別に、そこまで日常を縛るデメリットは無いと思う


Face_mikan

【美甘】

皆、本気で仲間として附き合ってほしい……それだけだから


Face_joe

【情】

かなり胃にもたれるんだが


Face_kenichi

【謙一】

そん時は胃薬でも分けてやる。お前ら対策で俺が飲んでるお墨付きのやつだ


Face_kenichi

【謙一】

つまり、今までと変わらない。何かぶつかり合う事があるなら、場合によっては俺が管理する


Face_kenichi

【謙一】

そのいつもの日々に、一つ要素が加わったってだけだ


Face_mikan

【美甘】

謙一……


Face_shiho

【志穂】

試せって云ったのは私だ。それを全力でやろうとしてる美甘を、私は応援する


Face_shiho

【志穂】

この冨士美草原を私たちにバラしたのは、要はその覚悟の支払いだろ? ぶっちゃけ惚れたわ美甘


Face_mikan

【美甘】

……あり、がとう……


 最も信じていた二人が肯定の意を示したことで、緊張していた美甘の肩の荷が下りたようだった。


Face_so

【奏】

仲間ってなると……何が、変わるの?


Face_fui

【譜已】

分からない……


Face_kenichi

【謙一】

それはおいおい探せばいいんじゃないか? 探さなくても、見つからなくてもいいこと


Face_kenichi

【謙一】

兎に角大事で不変とすべきは、俺たちは「仲間」。いいな、後輩コンビ?


Face_fui

【譜已】

あ……はい……!


Face_so

【奏】

ま、そーゆーのもベタで燃えてくるよねー!


Face_nagi

【凪】

……私を掻き乱さないでよ。お願いだから


Face_joe

【情】

俺の生き様は何も変わらん


Face_nono

【乃乃】

美甘さん、お尻出してくださいよ、仲間ですよね?


Face_mikan

【美甘】

ひぃぃぃ!!?


Face_shiho

【志穂】

こんなゲスまで仲間内とは


 ……かくして、打ち上げが終わった。
 そして同時に、「特変」の新たな一歩が始まった。


Face_kenichi

【謙一】

……特変、か


Kenichi

 そうならなくてもいい……俺は美甘に云ったように、本気でそう思っていたというのに。


Kenichi

 仲間に、なってしまったか。
 なかなか信用できない、自分勝手で常時暴走な奴らばっかのこの一枠が。
 学園長が太鼓判を押す、皆から盛大に嫌われる「悪」が。


Kenichi

 ホント、先が見えてこねえわ……
 なのに――



Face_kenichi

【謙一】

ははは……


Kenichi

 どうして、俺は愉快ながらに笑ってるんだろうな――


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