「特変」結成編2-4「仲間(3)」

あらすじ

「私たち、どうして、がっつり夜中の森の中を歩いてるのー……」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章4節その3。学校行事の定番といえば、打ち上げですよね。特変は一体どんな打ち上げで盛り上がるのでしょうか?

↓物語開始↓

290528



 ――5月の終わりの夜風を、一同は浴びていた。


 夜風が運ぶ木草の香りにも包まれていた。


PM10 00


そして彼らも草や枝を踏み、音を鳴らしていた。鳴らし続けていた。
彼らは歩いていた。



Stage: 優海の森



 夜の森を、歩いていた。


Face_so

【奏】

……ね~ぇ、ケンパイ~ぃ……


Face_kenichi

【謙一】

どうした


Face_so

【奏】

私たち、どうして、がっつり夜中の森の中を歩いてるのー……


Face_kenichi

【謙一】

いや、だってお前が云ったんだろ。打ち上げやりたいって


Face_so

【奏】

私の思ってた打ち上げとだいぶイメージ違う!!


 奏の心からの叫びは実によく森へ響いた。


Face_nagi

【凪】

あまり大声を出さないでくれる。人にも動物にも気付かれるでしょ


Face_saya

【沙綾】

奥へ進めば進むほど動物と出くわして、下に降りれば補導に出くわすと


Face_nono

【乃乃】

軽く詰んでますね


Face_so

【奏】

何で、何でこんなことに……ッ! 私はただ合唱祭勝利のテンションでカラオケでも行きたかっただけなのに……!


Face_kenichi

【謙一】

カラオケは練習の時に何回も行っただろ


Face_so

【奏】

てか何なのケンパイ! ケンパイは打ち上げ行く気無かったじゃないですかぁ! 何でいきなり乗り気!?


Face_kenichi

【謙一】

俺は金がかかるのが嫌だっただけだからな。ただ山登りってだけならノーコストだろ


Face_so

【奏】

その代わりリスクが半端ないよね! 命を懸けた打ち上げ!!


Face_nagi

【凪】

だから五月蠅いわ


Face_joe

【情】

……近くに何か居るな。黙ってろゆでだこ


Face_nono

【乃乃】

何が居るんですか?


Face_joe

【情】

……この気配は、熊だな


Face_so

【奏】

クマ来たあぁあああああああ!!! 終わったーーーー!!!


Face_kenichi

【謙一】

うるせえって。いざという時はお前“機能”使えばいいだろ、遠距離攻撃のプロだろ


Face_so

【奏】

ケンパイは優海町のクマの恐ろしさを知らないんだよ……!! 鎧がデフォルトなんだよ!


Face_kenichi

【謙一】

鎧?


Face_fui

【譜已】

えっと……優海町のクマ科だとヨロイグマって種が多くて……凄く頑丈な体付きで、体当たりでビルも壊しちゃいます


Face_so

【奏】

翠さんの森は怖いんだよ~……ちょっと彩解大陸を感じるもん……!


Face_kenichi

【謙一】

俺らホントにヤバいところ来ちゃったんだな


Kenichi

 皆を誘った立場的に弱音は吐きたくないが、すごく帰りたい。


Face_saya

【沙綾】

というか、コレちゃんとルートはっきりしてるわけ? 遭難とか絶対嫌よ? 貴方たちじゃあるまいし


Face_mikan

【美甘】

この森は、見慣れてるから。それに、ホラ


 美甘が指差した方向には、一同の明かりで何とか認識できる、さびれた杭のようなもの。
 それはほぼ等距離感覚で二本ずつ突き刺されており、凄く原始的な道を形成しているようだった。


Face_nono

【乃乃】

なるほど。これを目印として、登っていたのですか


Face_mikan

【美甘】

最初の森の入り方さえ間違わなければ、この間を見失わないように進むだけさ


Face_shiho

【志穂】

もし杭がクマに喰われてたり誰かがイタズラで別の場所に刺し変えてたらどうすんの?


Face_mikan

【美甘】

……………………


Face_so

【奏】

お願いだから何か返答を!!?


Kenichi

 ほぼ行き当たりばったりだった。


Kenichi

 ……因みに、どうして俺たちは真夜中に深い森をピクニックしてるのかというと……
 美甘のお願いが、コレだったからだ。


Kenichi

 美甘が何を考え、コレを思いついたのかは知らないし訊いてない……が、それでも俺は手伝うと約束してしまった手前、全力を尽くしてコイツらを納得(?)させた。
 志穂や乃乃、譜已ちゃんは簡単だった。奏も元々打ち上げ希望だったから断られる心配はまずしてなかった。
 で、問題は沙綾と凪と情なわけだが、凪には乃乃わさび歯磨きパーティ事件の時に貸しを作ったので、そっから籠絡。沙綾は、今度寮部屋に仕入れる予定の電化製品を運ぶ手伝いを受け入れることで何とか来てもらう。情が最難関なことは分かっていたので、乃乃が日常的に開催してきやがるミニゲームで、全員で奴を陥れた。そして罰ゲームという形で今回の打ち上げ参加を強制させた。


Kenichi

 さあ、メンバーの準備はできた……あとは美甘の好きなように。
 ということで美甘は土曜日の夜9時半に、優海駅前に全員集合と決めた。


Kenichi

 んで全員特別授業終わって12時解散、各々時間を潰してから再度、夜に集まった。
 因みに朝方帰りになるのは前もって云われてたので、そのことを亜弥に伝えたところ、ちょっとしたこの世の終わりみたいな顔をしていた。合宿の時に俺が家に帰ってこなかったのがよほど堪えたのだろう。


Face_kenichi

【謙一】

それにしても、山登りとはなぁ……優海町だから、譜已ちゃんの方が詳しいのかな


Face_fui

【譜已】

その、学園の森ならまだしも、この森の山は慣れてないです……


Face_kenichi

【謙一】

そっか。じゃあ美甘からはぐれないようにしないとな。譜已ちゃん、俺のことだけ見てるといいよ


Face_fui

【譜已】

は、はい、分かりまし――


Face_fui

【譜已】

え……!?


Face_noname

【noname】

【女性陣】「「「……!?!?」」」


Face_kenichi

【謙一】

俺は美甘を確実に見失わない様に附いてってるからな。まぁ一応全員に注意は向けてるつもりだけど……


Face_kenichi

【謙一】

そういうわけだから、俺に附いてくることだけ考えてれば、はぐれることはないって作戦さ


Face_fui

【譜已】

な、なるほど……そういう意味だったんだ……


Fui

 どど、ドキドキしちゃった……!


Face_kenichi

【謙一】

ん? 意味って?


Face_so

【奏】

この変態があぁああああああああああああああ!!!!


Face_kenichi

【謙一】

グハァ!!?


 譜已が見ている目の前で謙一は女性陣にフルボッコにされた。


Face_so

【奏】

譜已ちゃんは、渡さないんだからあぁあああああああ!!!


Face_nagi

【凪】

折角だから貴方を打ち上げてから帰ろうかしら、謙一


Face_shiho

【志穂】

ハゲー。このハゲー。えっと……ハゲー!!


Face_saya

【沙綾】

人を蹴って見下すのってなかなか悦楽よねー


Face_nono

【乃乃】

情さんを陥れる時にも感じましたが、共同作業ってなかなか悦楽ですよね


 過半数は文脈に便乗しただけだった。
 そしてサバイバルな打ち上げに対する不満を管理職で解消したところで、一行は更に奥へと登り進む。


……。


…………。


……………………。



timeskip



AM11 00


Kenichi

 ……やがて、俺たちは木々の間を潜り登っていく過程から解放された。
 そういうエリアを出たのだ。


Kenichi

 そして同時に入った新たなエリアというのが――


Face_kenichi

【謙一】

ここは――


Kenichi

 草原――といっても、少し広いところに出ただけ。


Kenichi

 回りには相変わらず木々が生い茂っているわけだが、その一側面は拓けて、その先に見えるのは……


Face_kenichi

【謙一】

夜景、だな……


Kenichi

 アイレベルは暗闇。
 俯角側には点々とした光――つまりは夜の、町……


Face_so

【奏】

あそこに見えるのって……?


Face_mikan

【美甘】

冨士美町がちょっと見えるんだ。優海町同じく、田舎町だからポツポツって程度だけど


Face_saya

【沙綾】

すっごい登ったみたいねぇ。まさしく、自然の塔といった感じ


Face_saya

【沙綾】

……でもちょっと、暗すぎるわねー。これだと夜景というより暗い景色ってだけよ美甘?


Face_mikan

【美甘】

まだまだ、驚くのは早いよ


Face_mikan

【美甘】

具体的にはあと5時間くらい早い


Face_saya

【沙綾】

結構あるじゃない!


Face_mikan

【美甘】

まぁね。でも補導時間から町を出発するのもアレだろ? だから早く来て時間潰す方が良いかなって


Face_shiho

【志穂】

時間潰すってこんなトコで何してればいーんだよ


Face_joe

【情】

……小屋があるぞ


Face_kenichi

【謙一】

え? あ、本当だ


Kenichi

 情に云われて、確かにこの小さな草原地帯に小屋が建っていることに気付く。
 それなりに大きいな……俺と亜弥の家よりも大きいかもしれん。


Face_mikan

【美甘】

9人だと流石に窮屈かもしれないけど、皆で入ろう


Face_kenichi

【謙一】

え、ちょ……


Kenichi

 美甘は躊躇いなくその丸太小屋のドアを開けて、俺たちも多少抵抗を持ちながらその後に続く。


 室内構造を熟知していた美甘。
 サッとスイッチを押して電気を付ける。




Face_kenichi

【謙一】

うぉ――


Kenichi

 急な明るさに目が慣れてから、ようやくその中の様子を確認する……。


Kenichi

 テーブルに椅子にソファ……確かに5時間の間を過ごすには、外面上問題無い設備となっていた。


Face_kenichi

【謙一】

こんな所に、一体誰が……


Face_mikan

【美甘】

……お父さんだよ


Face_shiho

【志穂】

お父さん? 美甘の?


Face_mikan

【美甘】

うん。厳密には、堀田家でこの小屋を作ったんだ


Face_mikan

【美甘】

今みたいに、アレを見るのに長い時間待つ必要が在るときに、便利だろ


Kenichi

 ……あるモノを見るために、こんな建物まで作ってしまうとは……凄え家族だな。


Kenichi

 そして、そこまでして見たくなるアレとは、一体どれほどの価値あるものなのだろうか。


Face_so

【奏】

でも、5時間か……いつの間にかぐっすりしちゃってたらどーしよー……


Face_nono

【乃乃】

その時は☆すかさず☆私が起こしますよ。安心してください


Face_so

【奏】

安心できないや! 絶対寝ない!!


Kenichi

 ……それは、何も奏だけの決意じゃない。
 佐伯乃乃という核弾頭は誰に対しても等しくその手を向ける。


Kenichi

 ――寝たら乃乃に襲われる。


Kenichi

 その可能性に気付いたモノは、仮眠を取ろうという発想を棄てざるをえないのだ……!


Face_kenichi

【謙一】

ッ……誰か、暇潰しになるもん持ってないのか!!


Face_mikan

【美甘】

トランプなら一応持ってきてるけど


Face_fui

【譜已】

トランプを、5時間……


 これからの死闘に絶望して意識を持ってかれそうになる譜已を奏が励ます。


Face_saya

【沙綾】

9人でトランプとか無理でしょ。チームに分けて、交互にやりましょー


Face_saya

【沙綾】

あ、負けても罰ゲーム無しだからね。分かってるわね乃乃


Face_nono

【乃乃】

分かってますよ、ええ、分かってますとも


 どう見ても一番燃えてるのは乃乃であった。


Face_shiho

【志穂】

ま、私ぁ昼に寝まくったから大丈夫だな。スッキリしたまま過ごしてやるぜ


Face_joe

【情】

夜は俺のホームだ……隙なんて、あると思うなよ


Face_nagi

【凪】

No, Problem――乱れなければ、何事も怖くない


Face_kenichi

【謙一】

お前らそのやる気、ちゃんと持続するんだろうな……?


 意味不明な打ち上げババ抜き不眠サバイバルが始まった。
 そして結果発表、5時間後の9人の姿へ参る。



timeskip


290529



AM4 00


Face_kenichi

【謙一】

………………


Face_fui

【譜已】

………………


Face_so

【奏】

………………


Face_nagi

【凪】

………………


Face_saya

【沙綾】

………………


Face_joe

【情】

………………


Face_shiho

【志穂】

………………


Face_mikan

【美甘】

………………


Face_nono

【乃乃】

ツヤツヤツヤツヤ


 凄くドンヨリしてテンション低かった。
 ただ一人乃乃は満喫したようで、肌がツヤツヤしていた。


Face_mikan

【美甘】

そろそろ、だな……


Face_kenichi

【謙一】

終わったか、やっと終わったか打ち上げ……


Face_mikan

【美甘】

いや、まだババ抜きしかしてないじゃん……


Face_saya

【沙綾】

もうババ抜きだけでいーからさ、帰らない……? 私もう帰りたいんだけど……


Face_saya

【沙綾】

帰りたい……できればこの顔を誰にも見られないうちに下山して寮に帰りたい……


Face_mikan

【美甘】

ここで帰ったら今までの努力の意味が無くなるし……


Kenichi

 何となく予感はしてたけど、惨憺たる結果となった。


Kenichi

 人間、他人の不幸は大好きなんだなー、って悲しい解釈を余儀なくされるくらいには、俺たちは裏切り合った。別にクラスメイツを貶めたいわけじゃなくて、ちゃんと理由があった。


Kenichi

 寝落ちした者に対し乃乃は、それはもう思い出したくない――ていうか思い出すことを脳が拒む罰ゲームの数々を披露した。それを見てると、「絶対寝ちゃダメだっ!」とやる気が出てくるのだ。


Kenichi

 自分が生き残る為に……手札をユラユラと揺らしてみたり、欠伸をしてみたり……今思えば大人げないことをしたなぁと反省するようなしないような。


Kenichi

 戦績は、意気込んでた凪が無傷で勝ち抜いた。しかし戦いを終えた今、風前の灯火みたいに体勢が覚束ないことになっている。その努力に俺は拍手を送りたい。


Kenichi

 昼に寝てきたという志穂と情は、終盤に酷い目に遭った。前半戦は余裕の振る舞いをしてたんだが、業を煮やしたのか、乃乃が5円玉を糸で吊して揺らし始めたのだ。2人に限らず、そっからが本当の地獄だった。てかお前は積極的に寝させようとすんなよって話だわ。


Kenichi

 沙綾と譜已ちゃんも頑張ったが、5円玉からは惨敗していた。因みに智将タイプの沙綾はババ抜き全勝である。個人的に俺はコレにも拍手を送りたい。


Kenichi

 そして俺と奏、美甘は……うん(←悟り)。


Face_kenichi

【謙一】

で、美甘。今からどうするんだ?


Face_mikan

【美甘】

皆、取りあえず外に出よう。予報的に、この時間は見事に晴れてるみたいだから、きっといいものが見れる


Face_saya

【沙綾】

元取ってよねーほんとー……


Face_so

【奏】

あ……やばい……立ち方を忘れた……


Face_fui

【譜已】

か、肩貸すよ……?


Face_nono

【乃乃】

やり過ぎましたかね


Face_joe

【情】

真面目に殺すぞテメエ


 15%の達成感と25%の絶望感と60%の眠気を背負って、一同は外に出る……。


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