「特変」結成編2-4「仲間(2)」
あらすじ
「特変が、必要なくなったら……謙一は、ウチらを繋ぎ止める必要がなくなる」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章4節その2。合唱祭が終わり、再び各々バラバラな日常へ戻っていく……それを予感していた美甘ちゃんと謙一くんの放課後対話の回。
↓物語開始↓

【謙一】
……特変に、入る……ねえ
Kenichi
ソレは当事者側からすればもう、自殺行為にすら思えてしまうわけだが。
アイツの考えてることは今イチ見えてこない。そりゃそうだ、俺は小松のことを何も知らないのだから。
そして現状知る必要も無いこと。

【奏】
ねえねケンパーイ!! 打ち上げ行こうよー!!
Kenichi
俺は目の前のコイツらで手一杯なんだ。

【謙一】
打ち上げ? まぁ奏らしい提案だが、この面子で行くの?

【奏】
パーッと何かやろーよ祝勝会! 何だかんだいっても今回楽しかったし! もっと思い出作ろうよー!

【謙一】
とのことだが諸君、どうだろうか

【凪】
行くなら貴方だけで騒げばいいじゃない

【沙綾】
かーくん一切関係とこで何でこれ以上働かなきゃいけないのって話

【情】
興味ねえ

【美甘】
志穂もいないし、少なくとも皆で何かやるんだったら、別の日にした方がいいんじゃないか?

【謙一】
俺は早く帰りたい。てことで過半数反対で却下となりそうだ

【奏】
ンガーーーー!!! 何となくそうじゃないかと思ってたけど、すぐにいつものコレだーー!!!

【奏】
美玲さーーーん!! 何とか云ってやってよこいつらにーーー!!

【美玲】
よしよし、特変に入っても奏ちゃんはいつもの奏ちゃんだね~

【譜已】
(微妙にフォローになってない……)

【雪南】
俺たちもタイミングを見つけて打ち上げするべきかな

【柚子癒】
朧荼くんが来ること以外は諸手を挙げて賛成ー。今週のスケジュール確認しとく

【シア】
情……いい……?

【情】
連絡さえ取れば勝手に動いて構わない。いつも通りだ

【謙一】
……ん?
Kenichi
あのシアって女の子、情と普通に会話したぞ今……

【秋都】
私は、基本的にいつも暇だなぁ……
Akitsu
でもそういう時はいっつも謙一くんとバッタリするかなぁ、って思いながら流離ってるから、打ち上げなんて充実したイベントはもしかしたら人生初かも。
私にしては珍しく、青春してるのかも……。

【秋都】
似合わないなぁ……あはは

【謙一】
何が似合わないんだ、徳川?

【秋都】
あははははひ!? 何でもなひよ!?!?

【雪南】
秋都ちゃんを追い込むのホント止めなよ君。いつか刺されるよ

【謙一】
刺されるって何だよ……

【奏】
そんなことより、打ーちー上ーげー!! ぱーあーてぃーいー!!

【謙一】
志穂居ないし、今日は無理だー。それに金かかるんだろ、そういうの。俺ヤダよ絶対
Kenichi
ただでさえ最近カラオケで出費が目立ってる状態。特変制度のお陰で財政難からは寧ろ離れていってるが、十年磨き上げてきた倹約精神がギンギラレッドを叫んでいるのだ。

【奏】
そうだった、ケンパイはお金にストイックだった……

【奏】
でも、こういう息抜きぐらいは人生必要だと思うんですー。楽しくないですよー財布の紐締めすぎると

【謙一】
未来に楽しく過ごすからいいの。その為の準備期間なんだよ

【乃乃】
……はっ!
Nono
思いつきました。デヴィルなウィスパーです。
普段教室に誰も居ない状態というのは、なかなかありません。早めに登校する以外には……。
つまり今、凄く珍しいのです。空が赤く染まり始めてる今この時に、教室に誰も居ない。そして全員、教室に向かっている。
皆さんお疲れです。開放感も持っているでしょう。これらは普段とは異なるリアクションを発掘できるのではないでしょうか……! 特に彼女の!!
Nono
つまり、皆さんと一緒に歩いてる場合じゃない!!

【乃乃】
私は先に行きます――!!

【謙一】
は――?
乃乃が駆けだした。

【謙一】
…………怪しい
Kenichi
乃乃のことだから、早く教室に戻るのには理由がある。
そしてあの狂おしいレベルの歓喜のダッシュ。教室にそれほどの楽しみが待っているとでもいうのか……?
Kenichi
だとしたら、アイツの性格からして――

【謙一】
凪、危ないぞ

【凪】
何がかしら?

【謙一】
お前の机が狙われている

【沙綾】
あーなるほどねー……
Kenichi
基本いっつも朝一番乗りで教室に入り、特定の机に常駐する凪にトラップを仕掛けるのは容易なことじゃない。
しかし今、凪は此処にいて……教室には誰も居ない!! トラップ仕掛け放題!!
当然俺たちにも無差別空爆かまされるんだろうけど、何より一番のターゲットは間違いなく凪だ!

【凪】
ッ……あの核弾頭……本当に画鋲で誤爆させてやろうかしら

【譜已】
だ、ダメですって……

【奏】
うげぇ……今からノノパイのパーティが待ってるの……? それは全然望んでないパーティだよー……

【凪】
謙一、貴方止めに行きなさいよ。管理職でしょう?

【沙綾】
そうよそうよー。管理職でしょー

【謙一】
管理職を何だと思ってんだお前ら……だが、良いだろう。俺も今から核弾頭パーティなんて御免だ

【謙一】
貸し一つだぜ凪、沙綾。沙綾の場合は借りを一つチャラだな

【美甘】
あ――
謙一は乃乃を追って駆けていった。
それを見て、美甘も走り出した。

【雪南】
おや、美甘ちゃんまで行っちゃった。折角お話するチャンスかと思ったのに

【柚子癒】
また誰とも話せなくなったらどうすんのよ!

【雪南】
人を何だと思ってるんだろうね。俺、基本女性には優しく接する性格なんだけど

【雪南】
ああ、アレか。優しさは時に人を傷つけるってやつかな。いやぁ俺も、なかなかに罪だな☆

【柚子癒】
10,000円ぐらいで朧荼くんを暗殺してくれる人を募集します

【奏】
私もそれなら10,000円出す!

【凪】
レゾンの求人に出してみたらどうかしら? 特変の権力を使えば多分通るわよ

【雪南】
ホントにやりかねない流れだな、どうしようコレ美玲さん

【美玲】
それでもあんまり焦ってないのが朧荼くんらしいよねー……
Stage: 特変教室

【謙一】
はぁ……はぁ……
Kenichi
ま、間に合った……!
烏丸凪の席の直前で佐伯乃乃は、管理職に押し倒されて縄で縛り上げられていた。

【乃乃】
ぅぅぅぅぅ~……あと、少しだったのに、酷いです謙一さん~……
観念したのか、手から離された電動歯ブラシ。取りあえずソレを回収して佐伯乃乃の野望を食い止めたと光雨から特変へ連絡をつける謙一。

【謙一】
もしこんなこと実現してたら、明日の朝に特変は壊滅してただろうよ……オラ、全部出せ
それから乃乃のポケットを全部まさぐり、わさびチューブを発見してしまった謙一は、デヴィルなウィスパーで歯ブラシにそれを塗りたぐる。
そして……

【美甘】
着いた……謙一、どうなった――

【乃乃】
ふぇ~~~~~~ん泣泣泣

【謙一】
ん……美甘? 何だ、追いかけてきたのか
美甘が見たのは、お腹に跨がった謙一が乃乃をわさびで歯磨きパーティしてる異様な光景だった。

【美甘】
……………………
チューブの中身が空になってるのを見て、美甘はゾッとした。
取りあえず触れないことにした。

【謙一】
何か悪いな、何かしらで気遣わせたみたいで

【美甘】
いや、別に……ウチが勝手に附いてきただけだし
Kenichi
……何か、云いたげだな。

【謙一】
話してみな

【美甘】
え?

【謙一】
何かあるんだろ? 話か、意見か、苦情か

【美甘】
……ホント、鋭いよな。さっきまで疲れて腰曲げて歩いてたのに
Mikan
本当に、助かる。
フッと笑って、それから美甘は話し出す。

【美甘】
さっき、打ち上げの話、出てたよな

【謙一】
ああ。魅力的ではあるが、面子が面子だからなぁ……

【美甘】
あの流れだと、多分、打ち上げはやらないと思う。やるとしても、奏が譜已を誘うぐらいで

【謙一】
……だろうな

【美甘】
……合唱祭本番で、あんなに団結……してたのかな? 何て云うべきか分からないけど……

【美甘】
でも、皆で頑張って、ソレで勝った。間違いなく今までの特変破りで、一番大きい勝利だ

【謙一】
……どうだった? 嬉しかったか?

【美甘】
……正直、パッとしない

【美甘】
でも、何か湧き上がってくるもの、というか……そういうのも、一番大きかった。ウチらは、ウチらで勝った

【美甘】
そう思ってたんだけど……終わってみたら、また皆いつも通りに戻ってく

【美甘】
また、バラバラになっていく。それは、謙一からしてみたら、どうなんだ――?

【謙一】
……………………
Kenichi
相変わらず、常識的で良識的。
美甘はちゃんと、特変のことを考えてくれている。俺たちを特変という枠の中で捉えて、状況を判断しようとしている。特変としての勝利も、考えてくれて……それは俺としても嬉しい限りなのだが。

【謙一】
美甘自身は、どうだ?

【美甘】
……え?

【謙一】
特変という枠をこれからも、皆に意識してもらうとしたら……それはより距離感を詰めていくことに繋がる

【謙一】
美甘は、ソレに対して敏感な筈だ。だから俺はソレも心配してる

【美甘】
……………………

【美甘】
だからこそ……ウチは訊かなきゃ、いけないんだ

【美甘】
謙一は、あいつらを、信じてるの――?

【謙一】
……なるほど
Kenichi
そうだな。美甘のことをよく考えてみれば、こうして俺に問いを投げかけてくるのも、自然だと思える。
Kenichi
……だけど。

【謙一】
悪いな、俺もお前同様、分からないことだらけなんだよ

【謙一】
特変の在り方だってそうだし、面子一人ひとりのことだって……

【謙一】
そんな状態で信じる信じないを決めるには、俺たちはまだ重ねた時が浅いように思えるんだ

【謙一】
だから、その問いに答えることはできない。……っていう時点で、信じてるとは云えないんだろうなぁ

【美甘】
そう、なのか……

【謙一】
お互い、自分のことしか考えてない。俺も、お金の為にやってるようなところあるからな

【謙一】
お互いそんなだから、分かり合う日も来ないだろうし、俺たちが仲良くなることもない

【美甘】
…………

【謙一】
……それでも、俺たちは特変。一つの枠。俺はそれを、望むしかない

【謙一】
もし分散しそうだったら、その時にまた手を打てばいいかなって
Kenichi
きっと、コレは美甘が望む回答じゃないだろう。
それでも美甘に、嘘はつきたくなかった。俺はあるがままで、美甘に接したい。

【美甘】
……………………

【美甘】
特変が、必要なくなったら……謙一は、ウチらを繋ぎ止める必要がなくなる

【謙一】
え? あー……そう、だな

【美甘】
そうなったら……ウチは、謙一や志穂とも、分散するんだな

【謙一】
……………………

【謙一】
それも、その時考えることさ。少なくとも俺にとっては、な

【謙一】
それを今から考えるべき人物は、他でもなく美甘だよ

【美甘】
ウチ――?
Kenichi
美甘は、何かを恐れている。何かを求めている。
そうさせたのは実質俺と志穂だし、そこから責任を考えるのも不自然ではなかろう。
……だが、敢えてこうした方がいいと思った。恐らく、志穂だって。

【謙一】
お前も、決めて、試せばいい

【謙一】
ここは学園だし……俺も志穂もいる。あの時云った通りだ

【美甘】
謙一……
これ以上の言葉は不要と、謙一は口を閉じ、待つ。
多少の静寂。ただただ乃乃のわさび歯磨きパーティの音だけが教室に響く。

【美甘】
……………………
Mikan
ウチは、何かを恐れている。何かを求めている。
……求めることも、恐れて……
つまり、二者択一の状況で……ウチじゃそんなの、選べない。選べるわけがない。どちらも、軽く捨てていいとは思えない……けど。
Mikan
二人が、まだ居るというなら。
それだけが――

【美甘】
……じゃあ、謙一

【謙一】
ああ

【美甘】
ちょっと、手伝ってほしいことが、あるんだ――