「特変」結成編2-4「仲間(1)」
あらすじ
「私は、特変に入りたかったんだよ」スタジオメッセイのメイン作品『Δ』、「「特変」結成編」2章4節その1。激闘の合唱祭が終わって学園へ続く帰路、特Bと特変が交わります。
↓物語開始↓

【キャロ】
1年の部、最優秀賞は~……

【キャロ】
特進選抜Aクラス、特変で~す!
……合唱祭の全てのプログラムが終了し。
文化会館を出て謙一らは真理学園への帰路を歩いていた。
クラス単位での帰宅とはなっているが、厳密な規制を教師陣は強いてこない。ばらけたとしてもぶっちゃけ問題無かった。
ということで彼女は特変に接触した。

【目羅】
やあ、お疲れ様

【謙一】
ん……?
Kenichi
後ろから小松が話しかけてきた。
というか特Bの皆さんに後ろをマークされていた。

【沙綾】
あらあら、これはこれは。敗者の皆さん揃ってどうしたのかしらー?

【美甘】
無意味に煽るなよ……その、特Bだって凄かったんだから

【美甘】
正直勝てなかったとしても、不思議じゃなかったわけだし……はぁ……

【目羅】
…………
謙一の隣を歩いていた堀田美甘を、少しの間、目羅は見詰めた。

【美甘】
ん……? えっと……どうした、のかな

【目羅】
え……あ、いや、何でもない。何でも、ないんだ

【美甘】
……???
Kenichi
……きっと何でもないわけじゃないんだろうが。
それを衝くのは意味ある行為とは思えない。ただただ悪趣味ってだけだ。
それよりも……

【謙一】
歩道の渋滞を緩和するために、クラス間にはある程度距離を置いていた筈だ

【謙一】
なのに何で追い付いてくるわけ? それとも俺らが単純にペース遅かった?

【目羅】
前者だね。私たちが追ってきた。渋滞といっても2クラス合わせて20人行かないし、大丈夫だろう?

【雪南】
やっほー謙一、お疲れ様☆

【謙一】
ウゼえからコイツだけ距離置いてくれれば構わない

【雪南】
相変わらず容赦無いお言葉に涙が出そうだよ奏ちゃん

【奏】
近付くな変態盗撮盗聴メガネ!!!(←跳び膝蹴り)

【雪南】
おっと奏ちゃんのパンツが見え――る直前で鳩尾にヒットォォォォ……(←倒)

【柚子癒】
今日ちょっと倒れる人多すぎ……

【謙一】
まぁ特変破りなんだからソレは仕方無いんじゃないかな

【柚子癒】
いやほぼ全員自業自得で自滅してるだけでしょ。どうでもいいからってテキトウな返答して……

【謙一】
だってどうでもいいんだもん……はぁ~疲れた、何で明日普通に授業あるわけ? 休み入れてくれよ

【美甘】
代休措置みたいのは基本考えないんだ。その代わり、行事が多い

【雪南】
加えて、特変破りで授業が潰れるってケースもこれから出てくるかもだし(←復活)

【奏】
本気で潰した筈なのに……相変わらず復活早くてウザい……!!

【雪南】
学校法人としては細かな隙間にも惜しみなく詰め込んで授業数を確保しなきゃいけないんだよ

【謙一】
行事がいっぱいなのは嬉しいことなのかな

【雪南】
学園長のことだから、その行事それぞれに特変を結びつけてくるんじゃない?

【謙一】
嬉しくないや
へたり込む謙一を、隣の美甘が肩を貸して支える。

【美甘】
歩きづらいよ、謙一……

【乃乃】
だったら捨て置くのも手かと

【美甘】
それは、酷いだろ……常識的に考えて……

【雪南】
(常識!!)

【柚子癒】
(常識!!)

【美玲】
(常識!!)
特変から縁遠そうな概念が飛び出て少なからず特Bは動揺した。
しかし目羅は気にする様子もなく、依然後方から話しかける。

【目羅】
……見事に私たちは大敗したわけだが……色々謎が残っていてね。それを解消したい

【謙一】
タネ明かしってわけか。偵察させてくれたことだし、いいぜ。云える事なら何でも

【雪南】
云えない事もあるとな
Kenichi
光雨のこととかな……。
因みに志穂は現在優海総合病院で寝込んでいる。ホントよく頑張ってくれたなと思うな、今日は流石に……。

【目羅】
まず、アレは一から作曲した、とのことだけれど……アレほどのモノを作れる面子が居たんだね?

【謙一】
いや? 全員音楽に関しては素人さ
Kenichi
中には乃乃や譜已ちゃんみたいなセンス持ちも居るが、基本楽器を扱える奴は居ない。それではとてもじゃないが、作曲なんてできやしないだろう。

【目羅】
では、どうやって……?

【謙一】
アルスって本当、便利だよな。優秀なアプリもたくさん開発されてるし

【雪南】
まさか……作曲のアプリ!?

【謙一】
そそ。細かい事は省くけど、俺らが知識ゼロでも、色々リクエストを試して自動制作してもらってな
Kenichi
微妙に嘘をついてるというか、隠している情報……
本当は光雨に作曲アプリをインストールして、俺らの要望を聞いた光雨があれこれ頑張ってくれた。しかし俺らより遙かに技術は優れてるとはいえ、矢張りダメイド。数ヶ月分の試行錯誤を光雨との二人三脚で1週間に詰め込んだ感じだ。お家で亜弥にも色々サポートしてもらったものの、連続徹夜で正直生き心地を失っていた。

【目羅】
なるほど……井澤氏は文明に遅れていたから考えてなかったが、その観点で攻めてくるとは……ある種死角だったかもしれない

【雪南】
そうそう、君ら一体どこで練習してたワケ? 一度も教室でやってなかったよね

【謙一】
お前らが隣に居るのに、あんな五月蠅い曲やるわけねえだろ

【謙一】
もし俺たちの方針――印象重視ってのがバレたら、更に対策を打たれるかもしれない。そんな厄介事は予防に限る
Kenichi
ということで各々空いてる時間で自主練ってことにした。俺含め、カラオケ行って練習が基本だったろう。ていうか初めて行ったわカラオケ、凄えわあの施設。白宮さんのライブ映像完備だったわ。

【謙一】
皆で合わせるっていうのは、俺たち嫌いだから。実際に全員で練習したのって一昨日が初めてなんだよな

【美玲】
ホントに直前だぁ……

【謙一】
しっかし一昨日は絶望したぞホントに。思った以上にコイツら練習してなかったんだもん

【沙綾】
やる気あんまり無かったし~

【奏】
その割にはサヤパイ、今日かなりノリノリだったよね……何で?

【謙一】
「かーくんへのアピールになるんじゃない、上手なシンガーってたいていモテるし」って囁いた
Kenichi
かーくんのこと全然知らないけど、取りあえず俺的には切り札を切った感覚で云いましたわ。

【沙綾】
確かにあの雌牛との差別化もできるし、目から鱗だったわよー

【奏】
ホントサヤパイ、ブレないなー……凪ちゃんみたい

【凪】
私とこの女を同一視しないでほしいのだけど

【美玲】
凪ちゃんは、どうやってやる気にさせたの? 特変反対派だったのに

【謙一】
こちらのゆでだこと競わせました

【美玲】
あー……なるほどぉ……
Kenichi
「凪よりも奏の方が歌美味いよな~。しっかりしてるよな~」と露骨に騒いで凪の黒い炎を点けた。クールなのは変わらないが、いつも莫迦にしてる奏よりも低評価を押されるのは凪も許容できなかったのだろう。
正直発言者の俺は睨まれまくって怖くて仕方なかったが、何とか二人を競わせて練習してもらった……。

【美玲】
凪ちゃんすら手のひらで転がすのか~……やっぱり井澤くんは素敵だなぁ~。シューくれるし

【秋都】
はい~~~

【謙一】
徳川も凄かったぜ。今回はハーモニー重視だったけどもし本気出してたら、情に匹敵するくらいかっこ良かったんじゃないかな
秋都はオーバーヒートした。

【柚子癒】
はい搬送~……

【シア】
大丈夫……? 秋都、謙一の近くだと、いっつも熱出してる……

【謙一】
え、俺が悪いの? 俺なんか悪いことした?

【雪南】
そんなことは置いといて、もう一つ疑問があるんだ唐変木

【謙一】
誰が唐変木か

【雪南】
ぶっちゃけ俺、君ら盗聴しようとあれこれ手を尽くしたんだけどさ。何故か全部遮断されたんだよ

【謙一】
何ぶっちゃけてくれちゃってんだ犯罪者

【奏】
へんたーーーい!! へんたーーーーーーい!!!
Kenichi
特Bに何も情報を与えないようにしたい……そう方針を発表した時に、朧荼に附き纏われてるらしい可哀想な奏が盗聴される危険性を意見した。確かに情報通だというし、それくらいのことはやってくるかもしれない……そう考えて、俺は志穂に対策を求めた。
Kenichi
……で、結論を云うと、これも光雨で解決した。志穂と情曰く盗聴は電波から、らしいので……特変のアルスが光雨という機密性に溢れた電波に対応してることを利用した。志穂に全員のアルスを一回預けて、一般的な電波を飛ばさないように高度な設定をしてもらった。
コレにより、最強の機密性を誇るらしい光雨の電波しか飛ばせない特変のアルスに、朧荼の魔の手侵入の余地が無くなった。それに加えて特殊なプログラムを志穂に入れてもらい、「周辺の電波を掻き乱す」バックグラウンドアプリをずっと起動した。お陰で教室の扉が開かなかったり近くを歩く一般人のアルスを故障させたり色々面倒なことはあったが、しっかり盗聴防止はできたみたいだな……。
光雨の話題は避ける方針の謙一は、取りあえず最後の質問を濁しまくった。

【雪南】
よく分かんないけど……ま、取りあえず納得したってことにしておいてあげるよ

【謙一】
そうだな。そうしてくれないと俺はすぐに通報するけど

【雪南】
はいはい。後でこっそり回収しておきまーす

【雪南】
残念だったね目羅ちゃん。どうやら今の俺たちの全力じゃ、特変には勝てないみたいだ

【目羅】
そうだね。ここまで優位に立って準備を積んで、本番もベストを結果に残したというのに……

【目羅】
それでも圧倒された。どうしたものかなコレは……
Kenichi
……………………。

【謙一】
小松。何で特変破りを仕掛けたんだ?

【目羅】
え?

【美甘】
――?
唐突に、今度は謙一が後方の目羅に疑問を投げかけた。
目羅は、一瞬呆気を取られたが、すぐに笑った。

【目羅】
別に、君たちを恨んでのことじゃないよ。私にとって特変は好都合な存在なんだ

【目羅】
仮に私たちが勝っていたとしても、特変の解体は考えていなかったさ。ただ――

【目羅】
私は、特変に入りたかったんだよ。寧ろね

【美甘】
特変に……

【謙一】
入りたい、だぁ?

【目羅】
しかし、それはまだ全然叶いそうにないことが判明した。私なりに、努力するさ
Mera
私には欲しい力がある。
きっと、特変はそれに繋がっている。
Mera
だから私は手に入れ、本当の「私」を見つけ出すんだ。
そして――

【目羅】
……私は先に行くとしよう。学校に、やるべきことを残しててね

【美甘】
あ……
目羅は先へと駆けていった。

【目羅】
…………そして――

【目羅】
君に、殺されよう――